辺りはもう暗い自宅への帰り道。まだ日付があるものの、飾り付けはすっかりクリスマスムードになった町を男が歩いている。
男は冬が好きだ。寂しく渇いた空気の冷たさが、いつもより人の温かみや幸せを深く感じさせてくれる気がするからだと。
特に寒い日に音楽でも聴きながら夜景を楽しむなんて最高だ、と男は言う。
「あ」
「お、まふ……」
ばったり駅構内で出会い、声をかけようとした男は即座に周りを見渡して、まふゆと同じ制服の学生がいないことを確認する。
「……なにしてるの」
「一応、確認を」
「逆に怪しい」
「すんません……。まふゆは今帰り?」
「そっちに向かうところ」
「あれ、もう遅いけど帰り大丈夫?」
「今日はお母さんも帰り遅いし、勉強で少し残るって伝えてるから」
「うーん、ならまあ遅くなりすぎないようにすればいいか」
本格的に冬が深まってきたこともあり、夕方くらいの時間帯でもすっかり夜の帳が落ちている。そこらかしこに街灯はあるため真っ暗では無いものの、1人だと心寂しく感じる暗さだ。
「ご飯食べてくってことでいいんだよな?」
「うん」
「んー、確か鶏レバーがあった気がするからそれでいい?」
「いい」
「おけー。とりあえず今日はちょっと遅いから食べたらすぐ送るからなー」
2人は夜道を歩いて行く。クリスマスシーズンの異性という雰囲気ではないが、確かな信頼を感じる会話と距離感で。
「「ただいま」ー」
帰宅して手洗いうがい一通りして、さっそく男は料理に取りかかる。
まずはタマネギ、レタス、エリンギ、しめじを適当な大きさにカットしてボウルに移す。そのあとに鶏レバーをハツとレバーに分け、レバーは大きい方を二分割にしてサイズを合わせる。分けたハツは余分な油がたくさん付いているのでざっくり指や包丁でこそげ落とす。
その後、レバー立ちをザルに入れ、よく流水でもみ洗いする。中にある血などをもみ洗いで押し出して流すことにより、牛乳などにつけ込んで血抜きする必要がなくなる。
3、4回ほど洗ったらキッチンペーパーなどで余分な水分を拭き取り、小麦粉をつけてパネパネする。
フライパンにオリーブオイル、潰したニンニク、唐辛子を種ごとを入れ、フツフツするまで中火で加熱。そこから弱火にしてタマネギ、キノコ類を入れる。ここで軽く塩。
多少、それぞれ色づいてきたらレバーたちも投入。
ここで甘口醤油、料理酒、みりん、水、ローリエを軽く加えて一煮立ち。適度に転がしながら火が入ってきたかなーというところからレタス入れて追加で火入れして完成。
「レバーときのこ、レタスの甘辛炒め完成でっす」
「……レタスは一緒にする必要あった?」
「いやほら、サラダにすると1つ洗い物増えるし……はい、面倒でまとめました」
「別に良いけど」
「そいじゃ」
「ん」
いただきます
予め炊いて冷凍しておいたご飯が茶碗に盛り付けられている。元々はラップにくるんで冷凍してそのままレンジで温めてそのまま食べていたが、一度まふゆに微妙な顔されてからは耐熱容器で冷凍するようにしている。
「辛さとかは大丈夫か?」
「うん」
「そりゃよかった。自分で料理作ってると結構エスカレートしてくからさじ加減がわからなくなるんだよな」
「もう少し辛くても大丈夫」
「りょーかい」
甘口醤油とみりん、飴色タマネギの甘さに唐辛子の辛みがピリッと効いたタレ。レバー特有の匂いは油の除去ともみ洗いの血抜きにより減らされ、残ったものもニンニクと醤油の香りで完全に消えている。キノコも美味しいタレも吸っていてかむと旨味が染み出てくる。キャベツは後入れしたのでしゃきしゃきと食感は残りつつ少し柔らかく味が付いている。
「ごちそうさま」
「ほいおそまつさん。さて、お腹いっぱいのところ悪いけど、もうそろ良い時間だし、そろそろ行こうか」
「ん」
「あ、まふゆ。上着ある?今日寒いし、無いなら帰りなんか貸すけど――」
そう、まふゆのほうを向いて男が言うと、まふゆは"鞄から取り出そうとしていた何か"をそのまましまいなおして言う。
「……ない、借りる」
「あのまふゆさん。今、なにか取り出そうとしてませんでした??」
「してない、早く貸して」
「いやでも明らかに服――」
「なに?」
「ナンデモナイデス、ドウゾ」
「ありがと」
「ドウイタシマシテ」
男は、こういうときはまふゆに従順である方が良いことをよく知っていた。