ホシノが先生のことが好きな短編集   作:猫餅@ホシノ好き

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先生と付き合ってるホシノが先生とイチャつきながら、からかわれて照れ隠しでタイトルを言って欲しかっただけ。

大人嫌いだからこそ、『悪い大人』みたいな単語を冗談として言える関係になれるのは何より尊いと思います。

*前回の話とは別世界なので繋がりはありません。


先生は悪い大人だねぇ

 

「おはよ〜、せんせっ!」

 

 ある日の事、シャーレの休憩室へと入ったホシノは、いつもの様に間延びした声で、部屋の中に居る先生へと声をかける。

 

 先生に会うのを相当楽しみにしていたのか、その声にも表情にも内心がこれでもかと表れており、声色はかなり高く、表情は笑顔だ。

 彼女が大切にする後輩たちでも、ホシノのここまでの笑顔を見るのは極めて稀だろう。

 

「や、ホシノ。今日も早いね」

「うへ、そりゃあねぇ~。おじさんは先生の恋人だし?」

 

 ホシノが挨拶をすると、目的の人物である先生はすぐにホシノの方へと振り向き、返事が返ってくる。

 すぐに自身へと返ってくる恋人の声に気を良くしながら、ホシノはいそいそとソファーに座る先生の傍へと近寄っていく。

 

 先生のそこそこの背丈に多少筋肉質な身体付きは、いかにも大人の男性といったもの。そんな身体つきには連邦生徒会のものと似通った白い大きいジャケットが良く似合っていた。

 

 ホシノからすれば連邦生徒会に対するいい記憶など皆無に等しく、それの象徴である白にもかつてはいい印象は無かった。

 しかし、先生の身につける白は別だ。穢れの無い綺麗な白は、彼の穏和な人柄と生徒思いな面が良く表れているように思え、心地良さすら感じる。

 

「うへへ~……それ、ぎゅ~っと」

「わっと……ホシノ~? 朝からそれだと困るんだけどもー」

 

 上機嫌な態度で、ホシノは先生の膝の上に乗っかると正面からだらしなく抱き着く。先生は一切の躊躇もなく乗ってきたホシノに少し驚き、口では多少の文句を言いつつも抱きついてきたホシノの頭を優しく撫でる。

 

「うへ〜、先生にこうしてもらえると安心するねぇ……」

 

 ホシノは目を瞑って気持ちよさそうに表情を綻ばせながら、先生の胸にぐりぐりと頭を押し付ける。そんな姿はホシノの小柄な体躯もペットの小動物が飼い主に甘える様な姿にも見えた。

 実際、それはホシノが恋人である先生の存在を強く感じる為の甘える行為ではあったが、同時にある種のマーキングにも近い側面もあった。

 

「もう……ホシノ、そろそろ離れて?」

「あと30分、こうさせて〜……」

 既に抱きついてから1分は経っているが、ホシノは冗談っぽくそう言う。しかし、そんな態度に対して離れようとする意思はまるでなく、かなり本気でそうしたがっているのが分かる。

 それを察してか、先生も多少呆れた笑みを浮かべつつも撫でる手は止めず、ホシノの背中にもう片方の手をやって抱き返す。

 

「うへへ〜……幸せ〜……」

 

 そうして抱き返されると、ホシノは心からの幸せそうな声を出す。

 

 少し前から恋人になった2人だったが、2人きりの時間というのは結構少ない。元より多くの生徒に慕われている先生だ、他の生徒が居る時間も多いし、単純に仕事量も多い。その辺の事情もあればそれも自然のことではあった。

 そんな中、今日は久々の2人きり。この日の為に仕事も面倒事もあらかじめ片付けておいたのもあって、1日存分に独占出来る日だ。

 

 となれば、他の生徒とは違う恋人としての距離感で独占したくなってしまう。そして実際に、自分だけの特等席で先生を独占出来ているこの時間は、ホシノにとって至福の時だった。

 

「ホシノ、いつまでそうしてるのさー?」

「先生が嫌になるまでずーっと〜。けど、先生だって嬉しそうだよ〜?」

「そりゃあ、大好きな子に抱きつかれたらいつだって嬉しいよ」

「う、うへっ!?」

 

 不意に躊躇いなく放たれた大好きという言葉に驚いてしまい、思わずとことんまで密着させていた身体を離してしまう。

 思わず顔を赤くしてテンパってしまったホシノに対して、先生は楽しげに言う。

 

「ふふ……ホシノ、もういいの?」

「あぅ……せ、せんせ〜……今のはズルいよ〜……!」

「何がズルいのかな? ずっと本心で話してるだけだけれど」

「わかって言ってるじゃん! もう……酷い大人だ~」

 

 自分は未だ冗談交じりでないと本心を言えないのに、先生は躊躇わずにストレートな好意をぶつけてくる。そして、そんな言葉に照れている自分を楽しそうに眺めるのだ。

 ホシノは自分がからかわれていることを理解して小さく先生を非難するも、先生はそれを意にも返さずに続けて問いかけてくる。

 

「それじゃあホシノは私のこと、嫌い?」

「そ、そうじゃないけどさぁ~! でもさ……うぅ……」

「それなら、出来ればホシノからも好きって言って欲しいかな」

「もう、いじわるぅ〜……おじさんがまだそういうの恥ずかしくて苦手なのわかってるのにさぁー……」

 

 嫌いだなんて断じて言いたくはないし、先生のことを好きなのも間違いない。むしろとてつもなく好きな自覚があった。ただ、それを真面目に言うのはかなり恥ずかしい。

 けれども、こうなってしまえばホシノが正直に好きと言わない限りは解放してくれないだろう。背中に優しく触れる手と、ほんの少しイタズラっぽい表情がそう思わせる。

 ついさっきまではホシノのペースだったのに、いつの間にやら先生にペースを握られ、ホシノが照れる側になっていた。

 

「私もな~んでこんな悪い大人を好きになっちゃったかなぁ~」

 

 せめてもの照れ隠しに、そう言う。

 言ってから、ホシノはふと気づいた。最近は先生相手の冗談や照れ隠しに、こういう言い方をすることが増えているな、と。

 

 

(……あぁ、そっか)

 

 ホシノは、大人が嫌いだった。

 大人は自分達の様な子供を騙す悪い大人ばかりで信用なんて出来ないと、先生に会うまで……会ってからしばらくもそう思っていた。なのに、先生と共に日々を過ごしている内にいつの間にかそんな考えは変わっていた。

 

 いつの間にか、ホシノの中の大人は先生になっていた。大人と言えば、大人らしい責任感と良識を備えていて、それでいて少し子供っぽいこの先生になっていた。

 過去の本当の意味で悪い大人の存在は頭から殆ど消え、それを冗談として扱える程に霞んでいた。

 

(私、やっぱり先生のことが大好きなんだ)

 

 そんな自分の変化を理解して、ホシノは改めて、自分の先生への好意が大きなものであると自覚した。それと同時に、先生との色々なことが脳裏に浮かぶ。

 倉庫で2人したちょっとしたお宝探し。一緒に行ったアクアリウム。他にも幾つもの任務や業務、日常での交流。当たり前に先生の居る日常を過ごしている内に膨れ上がった恋心。

 次第にそれを抑えられなくなって、玉砕覚悟で告白したのにそれを受け入れられて、恋人として扱われるようになって──

 

「……先生。1回しか言わないからよく聞いてね?」

 

 そんな今をどうしようも無い程幸せに感じていると、改めて理解した。

 真面目な態度なんて普段から随分としていないからそれだけでも気恥しさがあって、それが恋人に好意を伝える為ともなれば更に恥ずかしい。おかげで告白の時以来は恥ずかしくて冗談交じりにしか好意を伝えられていなかった。

 

(でも、うん。たまにはちゃんと、ハッキリと気持ちを伝えないとね)

 

 本当の気持ちは言わなければ伝わらない。

 やっぱりまだまだ恥ずかしかったが、自分の好きという気持ちの大きさを改めて自覚した分、先程までよりは恥ずかしくなかった。

 膝の上から、先生の両の肩へとそれぞれ手を触れ、ハッキリとその顔を見る。

 先生は想像よりもだいぶホシノが真剣さを帯びていたことに少し驚きつつも、嬉しそうにホシノの言葉を待つ。

 

「……先生、好きだよ」

「───」

「優しいところが好き。責任感あるところが好き。いつも気遣ってくれるところが好き。私みたいなのにいつも好きって言ってくれるのが好き」

「ちょ、ほ、ホシノ? い、一旦ストップ!!」

「それに……って、えぇ? 先生がやれって言ったのに?」

 

 途中で遮られたことでホシノは少し不服に思いつつも、1度口にしかけてた言葉を止める。

 改めて先生の顔を見れば、その顔はだいぶ赤くなっていた。先程までに比べれば一目瞭然で、かなり照れていて、それでいて随分と嬉しそうなのが伺えた。

 ホシノが好意を伝えたら時折照れた表情を浮かべることはあったが、その時もここまでではない。今の表情はホシノにとっても初めて見る姿だった。

 

 

「うへへ〜、先生もそんなに照れるんだね? 先生のそんな姿、初めて見たよ〜」

「あ〜……いやぁ、うん。自分から要求しておいてなんだけど、されてみると嬉しいし、凄く恥ずかしいね。ここまでするとは思わなかったから驚いたよ」

「いや〜、こんな嬉しそうな先生が見られただけでもした甲斐があるねぇ〜」

 

 先生の姿を見ていれば先程までの気恥しさも霧散し、心を温かいものが埋めていく。互いに別々の照れと気恥しさがあったが、その表情はどちらも笑顔だった。

 特別な相手にのみ向ける笑顔。そんな相手の姿にお互い今の幸せを実感していた。

 

「先生。改めて、これからも末永くよろしくね?」

「……ホシノも大概、ズルい子だよね」

「うへへ、誰かさんのおかげかもね〜? 大好きだよ、先生!」

 




前回との落差酷い……酷くない?
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