【推しライナー】   作:チェシャ猫もどき

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前回の話を投稿する際、期間がだいぶ空いたし内容も社長とミヤコさん視点で全然話が進んでいないから評価低いかなとか思っていました。

ですが、多くの人に美しい、芸術だと言っていただけました!

感想欄のザックレー総統に脳を焼かれたので初投稿です


私たちに出来ること

 

産科医をしていた俺は、どうやらお亡くなりになられたらしい。話すと長いので要約すると、好きだったアイドルの妊娠を知って、ショック受けて、俺は死んだ。

 

俺みたいな人間は死んだら地獄に行くと思っていたが……目覚めれば天国にいた。

俺はアイドル星野アイの息子として生きている。

推していたアイドルが!

思い切り甘やかしてくれる!

そんな天国に俺はいる!

 

そう……思っていたんだけどなぁ。

 

「アクアはどう思う?……ライナーのこと」

 

ミヤコさんは泣き疲れて眠っているから赤ちゃんである俺の双子として産まれたルビーが聞いてくる。

いつもは明るいルビーとは思えないくらい落ち込んでいる。

俺だって気持ちは同じだ。

 

ライナー・ブラウン。

 

B小町のマネージャーであり、マネージャーとして仕事をしながら俺たちの面倒も見てくれている人。

仕事についてはあまりわからないが、俺たちの世話は大変だとは思うけど嫌そうには見えなかったし、俺たちのことも可愛がってくれていた。

 

仕事をしている時も俺たちの面倒を見てくれている時も、大変そうだったけど辛そうには見えなかったから、ライナーさんが自分の存在を否定するくらい苦しんでいるなんて思いもしなかったんだ。

 

「やっぱり……ライナーが私たちのパパなのかな?ママを妊娠させちゃったからあんなに自分を責めているのかな?」

 

「だとしても自分の存在を否定するくらい自分を責めるのはおかしいし、もしそうなら俺たちをあんな風に可愛がってくれないだろ」

 

ライナーさんは仕事の合間や休みの日に家まで来てくれる。

家に来て俺たちを可愛がってくれるのはもちろん、ミルクにオムツ、お風呂に入れたりといった育児を全部してくれている。

 

もしライナーさんが自分を責めるくらいアイを妊娠させたことを許せないなら、アイの子供である俺たちをこんなに可愛がることなんて出来ないはずだ。

 

「もしアイを妊娠させたのがライナーさんなら、ちゃんと言ってくれるはずだ。それに……責任から逃げるような人じゃないだろ」

 

俺が転生する前、産科医だった時にアイと一緒にライナーさんは来ていて、そこで言ってくれた。

 

逃げたくないと。

 

守ってあげたいと。

 

その言葉の通りライナーさんは逃げたりしなかったし、俺たちを守ってくれている。

仮に俺がライナーさんの言葉を聞いていなかったとしても、普段のライナーさんを見ていれば責任から逃げるような人じゃないってわかる。

 

「そっか……そうだよね」

 

ルビーもわかっているからさみしそうにしながら納得した。

そのルビーの姿に、違うとわかっているのにさりなちゃんを重ねてしまう。

 

もしあの子の父親がライナーさんだったら。

あの子の家族や近しい人にライナーさんのような人がいたなら。

あの子は1人ぼっちで死ぬことなんて無かったのに。

 

「ねぇ、アクア。私たちに出来ることってないのかな?」

 

ルビーの言葉で意識を戻す。

さりなちゃんは関係ないだろ!

今はライナーさんのことを考えろ!

 

「俺たちは乳児だからな。どうあがいても無理だろ」

 

俺たちは転生しているから立って歩けるし言葉も話せるが、体は乳児だから誰かの手を借りないと生きていけない。

そんな俺たちがライナーさんのためにしてあげられることなんて無いだろう。

 

「いっそおれたちが転生しているってことを言うか?いや……ダメだ。それはそれでライナーさんの負担になるだけだ」

 

転生していることを言ったとしても、きっとライナーさんは俺たちを受け入れてくれる。

だけど、そうしたらライナーさんは俺たちのことを思っていろいろと気を使ってしまうに決まっている。

 

今でさえ、俺が男だからアイのおっぱいを飲んだり一緒にお風呂に入ったりすることに抵抗があることをなんとなく察しているっぽいし、ルビーのオムツやお風呂もなるべくアイやミヤコさんに頼んでいるくらい俺たちに気を使ってくれている。

それにライナーさんはきっと俺のことも知っている。

 

ライナーさんが休みを取って宮崎に行ったことがあった。

アイの出産の時にお世話になった先生、つまり俺に会いに行ったがその先生である俺はこうして転生している。

 

ライナーさんは俺が転勤したと言っていたが、本当は死んでいるんだろう。

会えなかっただけにしては怪我をしていたりかなり様子がおかしかったし、なによりライナーさんは言ってくれた。

 

『大丈夫……お前たちは俺が守るから』

 

アイとルビーには聞こえなかったその言葉は、だっこされていた俺にはちゃんと聞こえた。

もし俺が転勤していただけなら、あんなにも辛そうに言わなかったはずだ。

だからライナーさんは俺が死んだこと、もしかしたら俺が殺されたということまで知ってしまったのかもしれない。

 

B小町にアイに、俺たちに、俺のこと。

 

他にもいろいろなものを背負っているライナーさんに、これ以上何かを背負わせるわけにはいかない。

 

「大人しく成長するのを待つしかないのかもな」

 

言葉を話せず、立って歩くことも出来ない。

食事も入浴も排泄すらも誰かにしてもらわないと生きていけない。

 

だから、せめて立ったりしゃべったりしても怪しまれない程度には大きくならないと、転生したことを明かしたところでライナーさんの力になるどころか負担になるだけだ。

 

「はぁ……早く大きくなりたいなぁ」

 

アイのファンであるルビーはアイにかなり甘えているし、アイやB小町のメンバーにライナーさんも俺たちを可愛がってくれる。

普通なら誰もが羨ましがるはずの立場にいるが、今はその赤ちゃんの立場がもどかしくて仕方がない。

 

きっと、このことを言ったとしてもライナーさんは困ったように笑いながら『気にすんな』なんてことを俺たちに言ってくれるんだろう。

 

だから、お言葉に甘えて気にしないことにする!

 

「どれだけ頑張っても成長速度を早めることなんて出来ないから仕方ない。この際、赤ちゃんとして甘えてライナーさんを癒していくぞ!」

 

「そうだね、ライナーもよく言ってるもんね!私たちに癒されるって!」

 

ライナーさんは俺たちの面倒を見る時に癒されるからとよく言っている。

それは周りを納得させるためでもあるのだろうが、ライナーさんの様子を見るに割と本心で言っていると思う。

芸能界はドロドロしているって言うし、メンタル的にもキツイんだろうな。

 

「私ママの子だからかわいいもん!癒されるのも仕方ないよね!」

 

「どこから来るんだよ、その自信」

 

今はしゃべることが出来ないがしゃべれるようになった時、ルビーの中身がこんなのだと知ったらライナーさんはどう思うんだ?

 

「とにかく、俺たちがやるべきことはなるべく迷惑をかけないようにすることと、ライナーさんに甘えて癒してあげることだ!」

 

「よーし、たくさん甘えるぞー!!」

 

「ん……ちょっと待てよ?」

 

「どしたのアクア?」

 

やるべきことも決まったし、これからライナーさんのためにがんばろうと思ったが、ふと気が付いた。

 

「これって、今までと何も変わってないよな……」

 

オムツもミルクも自分じゃどうしようもないからやってもらわないといけないし、甘えるといったって普段からライナーさんに甘えているし、甘えすぎたらそれはそれで負担になりかねない。

だから、余計なことはせずに今まで通りでいいのでは?

 

「……あ」

 

ごめんライナーさん。

俺たちもうしばらく迷惑かけるよ。

 

 

 

 

お仕事が終わって自宅に帰る、この時間が好きで嫌いだ。

 

アイドルの仕事は楽しいけど、やっぱり楽しいことばかりじゃなくて大変なことや嫌なことだってある。

だけど、大切な人たちが待っていると思えばどれだけ大変でも頑張れる!

 

嬉しいことや楽しいことがあったらこんなことがあったよって教えてあげたいし、つらいことがあったら癒されたい。

笑った顔が見たいし、抱きしめてあげたい。

帰ったら何をしてあげようか、考えるだけでわくわくしてくる。

だから早く会いたいのに、会えないこのもどかしい時間が好きで嫌いだ。

 

「ありがとうございました!」

 

マンションに着いて運転手さんにお礼を言ってタクシーから降りる。

私の部屋は結構上の階にあるからエレベーターを使わないといけないんだけど、このエレベーターの時間がもどかしい。

もっと早く降りて来てよとか、もっと早く上がってよって思っちゃう。

もちろん階段を使って登るより何倍も早くて楽なのはわかっているけど、会いたいって気持ちは抑えられないんだ!

 

目的の階に着いて、エレベーターから出て部屋に向かって歩く。

少しでも早く会いたいから走りたいけど、アイドルだし夜も遅いからさすがに我慢する。

 

そうして部屋の前に着いてチャイムを鳴らす。

 

「私だよ、開けて」

 

『わかった、今開けるからちょっと待ってくれ』

 

インターホン越しのやり取りをして、鍵とチェーンが外されて扉が開く。

 

「ただいま、ライナー!」

 

「おかえり、アイ」

 

いつも思うけど、仕事から帰ってこうして誰かが出迎えてくれるって本当に嬉しい。

ほっとするっていうか、アイドルとしての星野アイからただの星野アイに戻れる感じがする。

 

「アクアとルビーは?もう寝ちゃった?」

 

「ああ、ちょっと前にな。どうする?起こそうか?」

 

「もう夜も遅いから寝かせてあげて。寝顔見たいし、おなかへったら起きるからその時でいいよ」

 

2人の笑顔を見たかったけど寝顔だってすごく可愛いから問題なし!

 

「それに寝起きならアクアも寝ぼけて私のおっぱい飲んでくれるかもしれないからね!」

 

「仕事して疲れただろ。ミルクは俺があげるからアイは寝てていいぞ」

 

私の計画を話したらライナーに冷たい目で見られた。

毎回ミルク作るの大変だと思うからおっぱいの方がいいと思うんだけどな。

 

「えー!アクアに私のおっぱいをあげられるかもしれないのに!」

 

「えー!じゃない。本人の意思を尊重しろ」

 

「そうしたらアクア絶対に飲んでくれないじゃん!」

 

どうしてかわからないけど、アクアは私のおっぱいを飲んでくれない。

ライナーはおっぱいを飲むのが苦手だからって言ってくれたけど、それだけなのかな?

 

「もしかして……私のおっぱいっておいしくないのかな?」

 

「いや……おっぱいの味なんて聞かれても俺にはわからないが」

 

おいしくないから飲みたがらないのかな?

でも、ルビーはおっぱい大好きだし。

どうなんだろう?

 

「ライナー、ちょっと飲んで確かめてみてよ」

 

「だからな……何度も言っているが、そういうことを言うなって」

 

「でも、おっぱいがおいしくなればアクアも哺乳瓶じゃなくて私のおっぱいを飲んでくれるかもしれないし」

 

ため息を吐きながら頭を抑えるライナー。

でも、味が分かってアクアの好きな味に出来たら私のおっぱいを飲んでくれるようになるかもしれないんだから結構大事なことだと思うんだけど。

 

「どうしてそこまでおっぱいにこだわるんだ?別に哺乳瓶で飲んでもいいだろう」

 

「だって、なんか負けた気がするんだもん。私アクアのママなのに……」

 

アクアは全然私のおっぱいで飲んでくれない。

それが私より哺乳瓶の方が好きと言われているみたいで、少し寂しい。

 

「育児に勝ち負けなんてないだろう。おっぱいだろうがミルクだろうが、元気でいてくれたらそれでいいじゃないか」

 

「……わかってるけどぉ」

 

ライナーの言う通りアクアが元気でいてくれたらそれでいいのはわかってる。

わかってるけど、親としてアクアとルビーにいろいろなことをしてあげたいって思ってるのに。

 

「お前の言いたいこともわかるが、ここでごちゃごちゃ言うより早く2人に会いに行ってやれ」

 

「うん、わかった!」

 

たしかにライナーの言う通り、ここで言い合うより早く2人に会いに行かなくちゃ!

 

「アクア、ルビー……ただいま」

 

眠っているから起こさないように小声でただいまって言う。

 

「うちの子、きゃわ〜〜〜〜♡」

 

思わず叫びそうになったけど、それをなんとか耐えながら声を上げる。

2人が並んで眠っている。

その姿は控えめに言って天使!

天使が並んで眠っているここはきっと天国だよ!

 

「はぁ〜〜、うちの子可愛すぎ!疲れとか全部ふっとんじゃうよ!」

 

「おいおい、眠っているんだから起こすなよ」

 

「あ、ごめん」

 

遅くまで仕事していたから疲れていたはずなのに、2人を見ただけでその疲れが全部ふっとんだ!

 

ライナーに言われて思わず大きな声を出してたことに気付いたから2人を起こしたかもしれないと思ってドキッとしたけど、アクアもルビーもぐっすり眠っているからよかった。

 

「ま、アイの気持ちも分かるがな」

 

「やっぱり!ライナーもそう思うでしょ!」

 

さすがライナー!

アクアとルビーのかわいさをわかってる!

ライナーも私と一緒で嬉しくなっちゃう。

 

「どれだけ辛くても、どれだけ大変でも。この子たちが笑ってくれるだけで報われるんだ。本当にすごいよ……この子たちは」

 

優しく微笑むライナーを見て、わかった気がする。

 

一生懸命仕事をしながら仕事の合間や休みの日にアクアとルビーのお世話もしてくれて、こうして優しく見守ってくれる。

 

きっと、お父さんってこういう存在なんだってこと。

 

それに比べて私はどうなんだろう?

この子たちを産んだばかりの時は活動を休止していたからいろいろとお世話することが出来たけど、今は仕事をたくさんもらえるようになって前ほどこの子たちと一緒にいられない。

 

私はアイドルだからアクアとルビーが私の子供だってことは隠さないといけない。

だからアクアとルビーには普通のお母さんみたいにいつも一緒にはいてあげられないのに、これからもっと人気になっていけば2人と過ごす時間だってどんどん減っていく。

 

きっとアクアとルビーには寂しい思いも辛い思いもたくさんさせちゃう。

 

こんな私が、アクアとルビーのお母さんだって言っていいの?

 

「ねえ……ライナー」

 

「どうした、アイ?」

 

「私って……本当に母さんなのかな?」

 

「……どういうことだ?」

 

どうしようもなく不安になって、ライナーに聞いてしまう。

私が本当にお母さんなのかって。

 

「私ってアイドルだからさ、いつも一緒にいてあげられないでしょ?」

 

アイドルとしての幸せと母親としての幸せの両方を諦めないと決めた時からこうなることはわかっていたはずだけど、でも実際に2人が産まれて育児とアイドルの両立の難しさがわかった。

 

「今だってアクアとルビーのお世話をあんまり出来なくなってきたし、もっと人気になったらもっとアクアとルビーと一緒にいられなくなっちゃう」

 

ライナーたちが私たちの仕事を調整したり、アクアとルビーをライブとかに連れて来てくれたりするけどそれでも限界はある。

 

「それにさ……私がこの子たちを産んだのだって愛を知りたかったからなんだよ。愛を知らない私でも自分の子供なら愛せるんじゃないかって思ったからこの子たちを産んだの」

 

愛を知りたかった。

愛を知りたくて、『愛している』って嘘を吐いた。

その嘘が本当になればと願いながらファンのみんなに『愛してる』って言ったし、愛したいって思いながら歌ったり踊ったりしてきた。

 

それでも愛しているのかわからなかったから、愛しているって心から思いたかったから、この子たちを産んだ。

自分の子供なら心から『愛している』って言えると思いたかったから。

 

だけど、お世話出来たのは休止中の間くらいで、2人のお世話はアイドルに復帰してからはあまり見れなくなってきた。

きっとこれからもっとあの子たちと一緒の時間は減っていくかもしれない。

そんな私が、あの子たちのお母さんだと言ってもいいのかわからなくなってしまった。

 

「こんな身勝手な私なんかじゃ2人のお母さんになれない。愛してるって言えないよ」

 

愛を知りたいなんて身勝手な理由で産んで、母親らしいことなんて全然してあげられないこんな私なんてお母さんなんかじゃない!

 

「たしかに……アイドルをしているから2人と一緒にいられる時間はどうしても少なくなる。それは事実だ」

 

「……っ!」

 

わかっていたけど、改めて言われて辛くなる。

やっぱり私なんかがお母さんになろうなんて間違っていたんだ。

 

「だからって愛していないなんてことにはならないだろ」

 

「そう……なの?」

 

本当に?

私はあの子たちを愛せているの?

どうしてそう言えるんだろう?

 

「アイがアイドルとして頑張っているのはファンのみんなのためでもあるが、あの子たちのためでもあるだろ?あの子たちに不自由をさせたくないから頑張っているんだろ?」

 

「……うん」

 

ライナーの言う通り2人をいい学校に入れたり、習いごとをさせたり、いろんな選択肢をあげたいから頑張っていた。

 

「なら、何も恥じることなんてない。アイ、お前は立派な母親だよ」

 

「……いつも一緒にいられないのに?」

 

ライナーは立派な母親だって言ってくれたけど、一緒にいられなくて寂しい思いをさせちゃう私は本当に母親なのかな?

 

「芸能人だから仕方ないところはある。だけど普通の人だって仕事が忙しいせいで子供と一緒にいられない人だっているさ。それに生活のために働かないといけない人や、職業柄のせいで子供と一緒にいられない人だって少なからずいるはずだ。そんな人たちは親じゃないのか?」

 

「ううん……そんなことない」

 

「だろ?」

 

たしかにライナーの言う通りいろんな事情があって一緒にいられなくても、親じゃなくなるなんてことはきっとない。

 

「それにアイだって知っているはずだ。施設に預けられた子供たちの多くが親から虐待を受けていたってことを」

 

私を含め、施設に来る子のほとんどが親から虐待をされていた。

中には病気や事故で親が亡くなってしまったり、貧乏でみんなで一緒に生活が出来ないから仕方なく施設に預けられた子もいたりしたけど、そんなのは少数だった。

 

「俺にいたっては赤ん坊の頃に施設の前に捨てられていたんだぞ。そんな奴らと比べたらいつも一緒にいられない程度じゃ母親失格になんてならないさ」

 

そうだった。

ライナーは赤ちゃんの頃から施設にいたからお父さんとお母さんを知らない。

それなのに私はこんなことを。

 

「でも……やっぱり私は」

 

ライナーはそう言ってくれたけど、自分のことばっかり考えている自分勝手な私がお母さんになんてなれない。

 

「なぁ……アイ。嘘でも『愛してる』って言えるのと、嘘でも『愛してる』って言えないのだったら、お前はどっちがいい?」

 

「……言えない?」

 

嘘でも言うなら分かるけど、嘘でも言えないってどういうことだろ?

 

「アイ、お前はアイドルだから2人の母親だってことは誰にもバレちゃいけない。だから、誰かの前でアクアとルビーに『愛してる』って言えないかもしれないし、それにいつの日かお前は言うことになるかもしれない。『アクアとルビーは私の子供じゃありません』ってな」

 

「そんなっ!」

 

私はアイドルだからアクアとルビーのお母さんだってバレちゃいけないのはわかってるつもりだった。

だけど、私の認識がどれほど甘かったのかわかってしまった。

 

わかっている。

アイドルで未成年の私が子供を産んだなんて世間にバレたら私だけじゃなくて、B小町のみんなや社長や大勢の人に迷惑がかかるってことくらい。

 

だけど、たとえ嘘だったとしてもアクアとルビーが私の子供じゃないなんて言いたくない!

 

「嘘でも『愛してる』って言えないかもしれないし、嘘でも『私の子供じゃない』って言わないといけないかもしれない。だから……せめて俺たちしかいない時くらい、嘘でも『愛してる』って言ってもいいんじゃないか?」

 

きっとそれは間違っていないんだと思う。

みんなの前では嘘でも『愛してる』って言えないなら、せめて信頼出来る人たちの前でくらい嘘でも『愛してる』って言ってもいいのかもしれない。

 

社長だって『嘘がいつか本当になるかもしれない』って言っていたから、嘘でも『愛してる』って言った方がいいのかもしれない。

だけど。

 

「ごめん……ライナー。やっぱり嘘でも言えない。アクアとルビーには嘘じゃなくて、心から『愛してる』って言ってあげたいんだ」

 

アクアとルビーのことは大切に思ってる。

もしかしたらこれは愛なのかもしれない。

 

だけど、私はまだこれが愛だって自信を持って言えない。

 

『愛してる』が嘘になっちゃう。

 

だから、心から『愛してる』って言えるまで待って欲しい。

 

今はまだ無理だけど、必ず言うから。

 

嘘じゃない、本当の『愛してる』を必ず言うから。

 

「そうか、わかった」

 

ライナーは安心したように笑った。

 

「今はまだ無理かもしれない。だけどアイ、お前なら必ずアクアとルビーに本当の『愛してる』を言える」

 

少しも疑っていない。

私なら必ず『愛してる』って言えると信じてくれている。

それが、本当に嬉しかった。

 

「ありがとう、ライナー」

 

「気にするな。むしろ、俺の方こそ余計なこと言っちまったな」

 

「ううん、そんなことないよ。私が『愛してる』って言えるように考えてくれたんでしょ?嬉しかったよ」

 

ライナーは余計なことを言ったって謝るけど、そんなことなんてない。

嘘でも『愛してる』って言えない私のために、嘘でも『愛してる』って言えるようにしようとしてくれた。

それがとても嬉しかった。

 

「そうか、ならよかった」

 

そう言ってくれたライナーを見て、胸がズキリと少し痛んだ。

ライナーは私のために考えて言ってくれたのに、私はそれを拒んだ。

 

ライナーはきっとそんなこと気にしないだろうけど、私も何かしてあげたいと思った。

 

でも、私に何が出来るだろう。

アクアに、ルビーに、ライナーに助けられてばっかりの私が。

こんな私がみんなに何をしてあげられるんだろう?

 

アイドルでいつも一緒にいられない私が。

辛くて苦しい時にそばにいてあげられないかもしれない私が、みんなに何をしてあげられるんだろう。

 

「そうだ!動画撮ろうよ!」

 

「……動画?」

 

考えて、思いついた!

アクアとルビーのために動画を撮ることを!

 

「そう!アクアとルビーに向けたメッセージを撮るの!そうすればそばにいてあげられなくてもいつでも励ましてあげられるでしょ!」

 

いつも一緒にいられないけど、メッセージを残していれば辛いときにそばにいられなくても励ましてあげられる!

 

「お、それいいな」

 

「でしょ?B小町のみんなに社長とミヤコさんにも撮ってもらってさ!みんなでアクアとルビーのために撮るの!そうすれば2人も寂しくないでしょ!?」

 

「そうだな、それならきっと寂しくないはずだ」

 

いつも一緒にいられないけど、だけど私だけじゃない。

みんなが2人のことを大切に思っているってことがわかるように。

2人が寂しくないように、私たちの思いを伝えたいから。

 

「ライナー、準備するからアクアとルビー連れて来て!」

 

「もう撮るのか?それにアクアとルビーも一緒か?」

 

「善は急げって言うでしょ?それに2人が大きくなった時に『昔はこんなに小さかったんだよ』なんて言いたいし!」

 

「はは、今から楽しみだな」

 

スマホを取り出して机に立てかけると、ライナーが2人を連れて来てくれた。

抱っこされたアクアとルビーは安心したようにぐっすり眠ってる。

 

「ルビーは私が抱っこするから、アクアはお願いね」

 

「え……俺も一緒に撮るのか?」

 

「別々に撮るのも面倒だし、せっかく一緒にいるんだからまとめて撮っちゃおうよ!ほらほら!」

 

「はぁ……わかったよ」

 

ソファに座って、隣を叩いてライナーを呼ぶ。

ライナーも仕方ないって感じだけど、隣に座ってくれた。

これで準備はOK!

 

「よし、それじゃあ始めるね!」

 

録画のボタンを押した!

 

 

 

 

『ちゃんと撮れてるかな?』

 

『うん。ライナー、ルビーは私が抱っこするね』

 

『ああ、頼んだ』

 

『ふふ、産まれたばかりの頃はすごく小さかったのに、2人ともどんどん大きくなるね』

 

『これを見てる2人は何歳なのかな?』

 

『小学生?中学生?もしかしたらもう大人になってるかもしれないね』

 

『あ、もしかしたらアイドルをやってたりするかも!』

 

『私の子だし、全然ある話だよね!』

 

『私はアイドルだから2人には寂しい思いをさせちゃってると思うから説得力なんてないかもしれないけど、君たちのことはずっと大切に思っているよ』

 

『なんにせよさ』

 

『元気に育ってください』

 

『母の願いとしてはそれだけだよ』

 

『はい、次はライナーね!』

 

『ああ、わかった』

 

『アクア、ルビー』

 

『アイドルの子供だから色々としがらみがあるかもしれない』

 

『だけど、そんなのは気にするな』

 

『いろんな所へ行って』

 

『いろんな奴らと出会って』

 

『いろんなことをしていいんだ』

 

『この世界にお前たちを閉じ込める壁なんてのは存在しない』

 

『アクア……ルビー』

 

『お前たちは自由だ……』

 

 




カラス少女が真の意味で母を得られなかった2人って言っているけど、これ母親に復讐の道具にされていたライナーにも当てはまると思うんです。

実際にライナーの母親も母親らしいことを何も、と言っているんで間違ってないと思います。

いや、本当にどうしてこんなに噛み合うの?
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