【推しライナー】   作:チェシャ猫もどき

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この話を思いついたときはこの世界が進撃の世界の未来なんて設定はなかったんです。

1話のタイトルも適当に付けたのに、進撃の未来がスクカー世界だからさらに未来になれば推しの子につなげられるんじゃって思ってからはすんなりいきました。

世界線が同じかぐや様が『竹取物語』が史実とされてたりするので、進撃でもいいかなって開き直りました。

ときどき、本当に何者かに導かれているような気がして脳を焼かれたので初投稿です。


嘘じゃない

「アイ……2人を……頼む」

 

 ライナーが私にそう言った。

 これはアクアとルビーの、そしてきっと私のために。

 ライナーが死んでも、私がみんなと一緒に前に進めるように。

 

「アクアとルビーは私が守るから。だから……もう大丈夫だよ」

 

 だから、私は言うんだ。

 ライナーが安心出来るように。

 

 私の言葉を聞いて、きっとライナーは安心したんだ。

 目から光が消えていく。

 

「……ライナー」

 

 聞こえないかもしれないけど、それでも伝えたかった。

 

「私たちを守ってくれて」

 

 何度も刺されたのに。

 痛くて苦しかったはずなのに。

 私たちを守るために立ち上がってくれた。

 そのおかげで、私たちはこうして生きている。

 

「私たちと出会ってくれて」

 

 小さい頃からずっと一緒にいてくれた。

 私のわがままを聞いて一緒に芸能界に来て、私たちを支えてくれた。

 アクアとルビーのことを、ずっと大切にしてくれた。

 

「ありがとう」

 

 冷たくなったライナーにキスをする。

 私の中にあった気持ちを伝える。

 

 嘘になってしまうのが怖くてずっと言えなかった言葉。

 だけど、もう怖くない。

 この気持ちは絶対に嘘じゃないって、やっとわかったから。

 

「愛してる」

 

 本当の『愛してる』を。

 

「何……これ?」

 

『愛してる』って言った途端、ライナーの体から蒸気が出る。

 

「……っライナー!」

 

「ライナーさん!」

 

「ライナー!」

 

 何が起こっているのかわからないけど、ライナーを守りたくて抱きしめる!

 アクアとルビーもライナーを守るために抱きしめてくれる!

 蒸気が熱いけど絶対に離れない!

 私たちの気持ちは一緒だった!

 ライナーを絶対に1人になんてしない!

 

「終わっ……た?」

 

 少しして蒸気が収まったから恐る恐るライナーを見る。

 冷たかったライナーの体はあたたかくなっていて、おだやかに呼吸をしている。

 

「生き……てる?」

 

 刺されてもう助からないと思っていたのに、今のライナーは生きている。

 

「アイ、ライナーさんの傷は!?」

 

「そうだ!刺されたのに!」

 

 アクアに言われてシャツを捲る。

 刺された傷がそのままだったらライナーがまた死んじゃう!

 

「傷が……ない?」

 

 傷がなかった。

 刺されたはずの傷はどこにも見当たらなかった。

 刺されていないのかと思っても、シャツは血まみれだから間違いなく刺されている。

 

 一体、ライナーに何があったの?

 

「どうして?なにがあったの?」

 

 何があったのかわからない。

 ライナーが生きているのは嬉しいことなのに、何があったのかわからなくて、どうすればいいのかわからない。

 

「そうだ、アイ!ドームに行かなきゃ!」

 

「でも、ライナーが!?」

 

 たしかにアクアの言う通り、ドーム公演のために行かなきゃいけない。

 だけど、ライナーをこのままにすることなんて出来ない!

 

「ライナーさんには僕たちがついてるから大丈夫だよ!」

 

「ママ!みんなが待ってるよ!」

 

「……でも」

 

 行かなきゃいけないのはわかっている。

 ドーム公演でたくさんのファンのみんながいるし、関わっているスタッフだって今までの何倍もいる。

 私の勝手な行動でみんなに迷惑をかけるわけにはいかないってわかってる。

 

 だけど、どうしてもライナーを置いて行くことなんて出来ない。

 

「大丈夫!ライブまでまだ時間がある!ライナーさんが起きたらすぐに行くから!」

 

「もしライブを出来なかったらきっとライナーは自分を責めちゃうよ!だからママ、行ってあげて!」

 

 アクアとルビーだって不安なはずなのに、ライナーやみんなのために私に行くように言ってくれる。

 

「アクア、ルビー……ありがとう」

 

 ありがとうって気持ちを伝えたくて、アクアとルビーを抱き締める。

 本当に、私にはもったいないくらい優しくて素敵な子たち。

 アクアとルビーのお母さんになれた私は、本当に幸せだ。

 

「アクア、ルビー……愛してる」

 

 2人のこと、ずっと愛していたのに。

 これが愛なんだって信じられずに、言うのこんなに遅くなっちゃった。

 

「僕も……アイのこと愛してる」

 

「私も……ママのこと愛してる」

 

 アクアもルビーも、私のことを愛してくれている。

 もう、何も怖くない。

 

「私行くね。アクア、ルビー……ライナーのこと……お願い」

 

 正直、行きたくない。

 ライナーのことが心配だし、アクアとルビーのそばにいてあげたい。

 だけど、ライナーが私たちを守ってくれた。

 アクアとルビーが背中を押してくれた。

 たくさんのファンやスタッフのみんなが待ってくれている。

 

 だから、私はアイドルとしての責任を果たさないといけない。

 

「……アイ」

 

「……ママ」

 

 2人は目に涙を浮かべながらそれでも笑顔で。

 

「「いってらっしゃい」」

 

 そう言ってくれた。

 

 だから、私も2人に負けないくらいの笑顔で言うんだ。

 

「アクア、ルビー」

 

名前を呼ぶ。

私の大切な子供たちの名前。

 

「いってきます」

 

 不安だし、怖いけど、振り向いたりしない。

 

 だって私は、最強で無敵のアイドルだから!

 

 タクシーに乗ってドームに行って、関係者専用の入口からドームに入る。

 

「アイ……お前1人なのか?ライナーは?アクアとルビーはどうした?」

 

「ライナーにはアクアとルビーがついてるから……大丈夫」

 

 何があったのか説明するのが難しいのもあるけど、みんなに心配をかけたくないから。

 

「そうか……わかった」

 

 それだけで社長はわかってくれた。

 本当は聞きたいことがあるはずなのに、私の言葉を信じてくれた。

 私はその信頼に応えなきゃいけない。

 

「アイ……その目どうしたの!?」

 

「大丈夫!?」

 

 控室に入ったら、中にいたみんなに心配される。

 ライナーが死んだと思って泣いちゃったから、まだ目が赤いんだろうな。

 

「私は大丈夫だよ」

 

「……本当に?」

 

「無理……してない?」

 

 心配してくれるみんなに言えないのは申し訳ないけど、公演前で混乱させたくないし、うまく説明出来る自信も無いから誤魔化させてもらう。

 私たちは怪我してないし、ライナーも無事だから嘘は言ってないよね?

 

「いろいろあったけど……本当に大丈夫。今はどうしてもドーム公演を成功させたいの。だからお願いみんな!今は何も聞かないで……私に力を貸して!」

 

 みんなに頭を下げる。

 

 ライナーが守ってくれたことは絶対に無駄なんかじゃないって証明したい!

 背中を押してくれたアクアとルビーの気持ちに応えたい!

 みんなと一緒にしてきた努力を無駄にしたくない!

 私たちを支えてくれたみんなに報いたい!

 私たちを待ってくれているみんなに喜んでもらいたい!

 

 だから、今だけは何も聞かないで私に力を貸して欲しい!

 

「頭を上げてよアイ」

 

「私たち仲間でしょ?」

 

「頭なんて下げなくたって、全力で力を貸すに決まってるじゃん!」

 

 本当に、私はなんて幸せなんだろう。

 こんなに素敵な仲間に恵まれたんだから。

 

「みんな……ありがとう!」

 

「ちょっと、もうすぐ本番なんだから泣いちゃだめだよ!」

 

 嬉しくて泣きそうになっちゃった。

 泣いたらファンのみんなも心配しちゃうもんね。

 

「ほら、笑って笑って!」

 

「どうする?くすぐろうか?」

 

「泣かないからくすぐらなくて大丈夫!」

 

 手をわきわきさせながら近づいて来るから慌てて止める。

 くすぐられちゃったら違う意味で泣いちゃうよ。

 

「ありがとうみんな!絶対に成功させようね!」

 

 みんなにありがとうって言う。

 みんなのおかげでもう絶対に泣くことなんて出来ないや。

 

「私たちなら大丈夫!」

 

「そうそう!ずっとがんばって来たんだから!」

 

「あ、でも心配ならセンター変わろうか!?」

 

「ダメダメ!センターは絶対に譲らないからね!」

 

 みんな私を励ましてくれて、多分だけど冗談も言ってくれる。

 このままじゃセンターを奪われかねないからしっかりしないとね!

 

「じゃ、早く準備して!」

 

「うん、わかった!」

 

 もう大丈夫。

 衣装に着替えて歌やダンス、公演の流れを確認していけばあっという間に開始の時間になってしまった。

配置に着く。

 

 ライナーたちはまだ来ない。

 

「アクアもルビーも、ライナーも大丈夫」

 

「世界中に届くくらい、最高のステージにしよう」

 

「私たちなら出来るよ」

 

「うん、そうだね」

 

 ライナーたちがどうして来ないのかも聞かないで、私を励ましてくれる。

 間に合わなかったとしても、最高のステージを。

 そうすれば、きっと届くと信じて。

 

 そう、決めたのに。

 

「早く!早く!」

 

「急いでライナー!」

 

「すみません、ちょっと通してください!」

 

 開始まであと少し。

 覚悟を決めたのに、その覚悟が揺らぐ。

 

 スタッフの人達をかき分けて、こっちに来る。

 

 すごく辛かったはずなのに、それなのに来てくれた!

 

「アイ!」

 

 私の名前を呼んでくれた。

 嬉しくて泣きそうになる。

 今すぐ駆け出したい。

 

 そんな気持ちを無理矢理押し込める。

 

 だって私は、アイドルだから!

 

「ライナー」

 

 名前を呼ぶ。

 私の大切な人の名前。

 

「いってきます」

 

 もう、何も怖くない。

 

「いってらっしゃい」

 

 もう迷ったりしない!

 みんなのために、最高のステージを!

 

 ステージに立つ。

 ファンのみんなの歓声が私たちを出迎えてくれる。

 ミュージックが始まる。

 

 私たちの代表曲『サインはB』。

 

 何度も歌って踊って来た曲なのに、今日の私はいつもの私じゃない。

 ドームに来てくれたみんなの顔がわかる。

 

 最前列はもちろん、わかるはずなんてない1番後ろの席にいる人の顔までハッキリと。

 

(いつも握手会に来てくれる人だ)

 

 B小町の結成の時から私たちを応援してくれている人がいる。

 

(あの人、わざわざ宮崎から来てくれたんだ)

 

 地方のライブの時に来てくれた人。

 東京まで何時間もかけて来てくれた。

 

(あ、女の子もいる。珍しいな)

 

 男の人が多いけど、女の子も何人かいる。

 私たちのこと好きになってくれて嬉しいな。

 

(あの人たち、もしかして親子なのかな?)

 

 十代くらい男の子の隣でおじさんが一緒になって笑ってる。

 

(あの人、ずっとニノのこと推してる人だ)

 

 私のファンだけじゃなくて、みんなのファンが来てくれている。

 

(あの子、車イスに乗ってる)

 

 車イスに乗っている子が、それでも一生懸命にサイリウムを振ってくれてる。

 

 いろんな人たちがいる。

 みんなが喜んでくれている。

 私たちの歌とダンスで笑顔になっている。

 

(やっぱり……私って馬鹿だなぁ)

 

 前々から私は無責任でどうしようもない人間だと思っていたけど、あらためてやっぱりどうしようもない人間なんだって思う。

 

(私の欲しかったものは……ずっとここにあったのに)

 

 ずっと欲しくて、がんばって探していたのに。

 

(みんながずっと私にくれていたのに)

 

 みんながくれていたのに。

 

(全然気付いてあげられなかった)

 

 いつも遠くばかり見ていたから、全然気付いてあげられなかった。

 

(ずっと愛されていた!!)

 

 私はずっと、みんなに愛されていた!!

 

(伝えたい!!)

 

 ここにいるみんなに!

 

(伝えたい!!)

 

 ここにはいないみんなに!

 

(伝えたい!!)

 

 これから出会うみんなに!

 

(伝えたい!!)

 

 いなくなったみんなに!

 

(伝えたい!!)

 

 この思いを伝えたい!!

 

 曲が終わる。

 

 この思いを伝えたくて、叫ぶ!

 

「みんな!!」

 

 ああ、やっと言えた!

 

「私、みんなのこと!!」

 

 これは絶対噓じゃない!

 

「愛してる!!」

 

 愛してる!!

 

 

 





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