【推しライナー】   作:チェシャ猫もどき

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前話でライナーに巨人の力が戻ったと思われた方が多かったみたいですが、始祖ユミルはアイの『愛してる』に満足して開放されたので巨人の力は無くなりました。

ライナーが回復したのは、始祖ユミルが開放される前にやったことなのでライナーは巨人になれないし、次刺されたら死にます。

自分の描写不足で勘違いさせてしまったことで脳を焼かれたので初投稿です!


ある戦士の話

 

 襲われたことでどうなるかと思われたドーム公演だったが、結果としては大成功だった。

 

 B小町全員のパフォーマンスがトップレベルなのに加え、アイの『愛してる』がかなりの評判を呼んだ。

 アイも今までライブなどで『愛してる』と言ったことは何度もあるが、今回の『愛してる』はいつもと違った。

 

 今までと違う心からの『愛してる』。

 

 それはファンだけでなく、スタッフも含めたドームにいる全員の心に届いた。

 そして、その『愛してる』の部分をSNSに投稿すると、SNS上でもかなりのリツイートや再生数になった。

 ドーム公演の成功と合わせてこれでB小町の人気は圧倒的なものになり、仕事のオファーもかなり増えたが、今は疲れを癒すために休みを取っている。

 いわゆる充電期間というやつだ。

 

「いやー、やっぱりこのメンバーが1番だね!」

 

「ずっと一緒にやって来たからね」

 

 公演に関わったスタッフ全員で行った打ち上げとは別にB小町のみんなと社長にミヤコさん、そして俺とアクアとルビーを加えた苺プロの立ち上げからいるいわゆる初期メンバーだけの打ち上げをしている。

 

 他のスタッフの人たちだってもちろん大切だ、蔑ろにするなんてことは絶対にない。

 だが、何もない時からずっと一緒に頑張って来たメンバーだからどうしても他の人より特別に思えてしまう。

 

 スタッフの人たちもそれをわかってくれているのか、俺たちだけの打ち上げをすることを快く受け入れてくれた。

 

「しかし、本当にいい部屋だよねここ!」

 

「家賃とか高いからね!」

 

「うわぁ、なんか生々しい」

 

 俺たちだけの打ち上げをする際の場所として、アイの部屋にした。

 襲撃があったとはいえセキュリティは抜群であり、防音もされていて話が漏れる心配もない。

 

 だからきっと、俺の話が他の誰かに聞かれることもないはずだ。

 

「大丈夫……ライナー?」

 

「辛いなら……話さなくても大丈夫だよ。みんなライナーさんの味方だよ」

 

 ルビーとアクアが俺の心配をしてくれる。

 2人に心配をかけさせるなんて、俺は本当に情け無い。

 

「アクア、ルビー……心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だ」

 

 膝をついて2人を抱きしめる。

 

 みんなのことは信じている。

 俺のしたことを知ったとしても、きっと俺のことを受け入れてくれると。

 それでも勇気が欲しかった。

 

 俺の犯した罪の告白をするための勇気が。

 

「お、どうしたライナー!やっと2人の父親だってことを認める気になったか!?」

 

「え、ついに!?」

 

「やっとかぁ!」

 

「いえ、違います」

 

 アクアとルビーを抱きしめているところを見られて、みんなに2人の父親にされそうになる。

 表向きはアクアとルビーは社長たちの子供ということになっているのにB小町のみんなに加えて、社長までノッてくるから勘弁して欲しい。

 

「すまない、みんな。みんなに話したいことがあるんだ。長くなるからとりあえず座ってくれ」

 

「わかった」

 

 俺たちだけの打ち上げもだいぶやって終わる雰囲気になっていたから話を切り出す。

 今までのお祝いの雰囲気とは明らかに違う俺の様子を見てみんながソファに座る。

 

 俺も座って目を閉じる。

 

 俺の犯した罪。

 

 それを言ったらきっとみんなを傷付けてしまうことになる。

 それだけじゃなく、みんなから俺という存在を拒絶されることになるかもしれない。

 だとしても、もう逃げるわけにはいかない。

 

 目を開ける。

 覚悟は決まった。

 罪を告白したあと、どんな結果になったとしても俺はそれを受け入れる。

 

「俺には別の世界の記憶がある」

 

「……別の」

 

「……世界?」

 

 別の世界と言われてみんな不思議そうにする。

 本当はこの世界の過去なのだが、世界の歴史は改竄されている。

 わざわざ混乱させる必要はない。

 

「俺はその世界に生まれて、何の罪もない人達を大勢殺した」

 

 みんなが息を呑むのがわかった。

 別の世界の記憶というだけでも混乱するだろうに、大勢の人を殺したと言われて冷静に受け止めてることは難しいに決まっている。

 

「理由……あるんでしょ?ちゃんと教えて」

 

 アイが言ってくれる。

 俺がどうして何の罪もない人達を大勢殺したのか。

 その理由を知りたいと。

 

「その世界では2000年前にエルディア人の始祖ユミル・フリッツが大地の悪魔と契約して巨人の力を手に入れた」

 

「巨人?」

 

「ああ、始祖ユミルはその力で人間でありながら巨人になることが出来るようになったんだ」

 

 この世界には巨人なんて存在しなかったからそんな反応になるのは仕方ないだろう。

 あの世界でもどうして巨人になれるのかハッキリとわかっていた訳じゃないからな。

 

「始祖ユミルの死後は巨人の力は九つに分離した。そして、その九つの巨人の力を継承しながらエルディア帝国は古代の大国マーレを滅ぼして大陸を支配した」

 

「……九つも」

 

 一体だけでも強力だと分かる巨人の力が九つもあったんだ。

 大陸を支配するのは簡単だっただろう。

 

「大陸を支配したエルディア人は土地や財産を奪い、いくつもの民族を滅ぼし、他民族に望まぬ子を産ませてその数を増やした。そんな民族浄化が約1700年間も続いたんだ」

 

「……1700年も」

 

「……ひどい」

 

 1700年にもわたってエルディア人は世界中の人々を殺し、苦しめた。

 とうてい許されることじゃない。

 

「だが、1700年も支配が続いたことでエルディア人は増長し、王家以外の八つの巨人の力を持った家同士が激しい権力争いをはじめたんだ」

 

「たとえ世界が違っても、どいつもこいつも権力か」

 

 呆れたように社長が言う。

 この世界に巨人の力はないが、それでも力を持った人間たちはその力を自分のものにしようと争いをしていた。

 たとえ世界が違っても歴史は繰り返すといわんばかりに。

 

「そしてエルディア帝国はマーレの内部工作によって弱体化し、マーレ国に九つの巨人の内七つも巨人の力を奪われた」

 

「マーレって、たしか滅ぼされた国だよね?」

 

「ああ、マーレは支配されながらも逆襲の機会をずっと伺っていたんだ。マーレがエルディア帝国に勝利したのが、俺が産まれるおよそ100年前のことだ」

 

「100年前って……下手したら当事者が生きている可能性もあるんだね」

 

「そうじゃなくても当時の出来事が詳細に伝えられているでしょうね」

 

 100年前に加えて1700年にもよる非道だ。

 風化したりすることは決してないだろう。

 

「マーレに敗北したエルディア帝国だったが、当時の王が一部のエルディア人を連れてパラディ島という島に逃亡した」

 

「逃亡って……そんなのすぐに攻撃されるんじゃない?」

 

「巨人の力も七つも奪われたんでしょ?」

 

 普通に考えたら逃亡が成功するとは思えないだろう。

 世界中から恨まれていて、九つの巨人の力も七つも奪われたのだから、報復によって滅ぼされるのが当然だと。

 

「説明していなかったが九つの巨人の力にはそれぞれ特徴があるんだ。今は王家の持っている始祖の巨人の力だけ説明するが、始祖は巨人を操ることが出来る。王はその力を使って数千万にもおよぶ大型の巨人で三重の壁を作り、パラディ島に干渉したら壁を構成する大型巨人で報復すると宣言した」

 

「大型って……どれくらいなの?」

 

「大きさはだいたい50mだ」

 

「それが……数千万」

 

「現代兵器でもキツイんじゃねぇか?」

 

 巨人が数千万体というだけでも恐ろしいのに、そのすべてが50mという巨体だ。

 あの世界より技術の進んでいるこの世界でもかなりの被害が出るだろう。

 

「数千万体はともかく、マーレの持つ巨人の力は七つ。七つだけでもかなりの力を発揮して世界を侵略していたが、文明が進むにつれて巨人の力が通じなくなりつつあった」

 

「エルディア帝国に支配されていたのに、結局マーレも他の国と戦争しちゃうんだね」

 

 マーレによってエルディア帝国が島に逃げたことで、世界が平和になることを期待していたのかもしれない。

 だが、実際はマーレもエルディアのように巨人の力を使い世界へ侵略戦争を仕掛けていった。

 

「侵略戦争をしていたマーレは巨人の力が通じなくなったら世界によって滅ぼされかねない。それを避けるためにマーレが目を付けたのがパラディ島だった」

 

「パラディ島に?」

 

「ああ、始祖の巨人の力を奪うことにしたんだ」

 

「え……でもさ、そんなことしたら報復されちゃうんじゃ?」

 

「そうだ、だからマーレは巨人の継承者である戦士を4人、パラディ島に送り込むことにしたんだ」

 

「その戦士の中に……」

 

「ああ、俺もいた」

 

 マーレを、世界を救うと、信じて疑わなかった。

 

「島には大量の巨人がいたから俺たちは巨人が活動しない夜の間に少しずつ壁に向かって進んでいった」

 

「あれ?巨人は壁なんじゃないの?」

 

「まだ何もしていないのに、どうして?」

 

「壁を作っているのは大型の巨人でそれは始祖の力で生み出されたからそこまで巨大なんだろう。大抵の巨人は3から15メートルくらいの大きさにしかならない」

 

 大きめの無垢の巨人でも15メートルくらいで、それ以上は始祖の力によって生み出された九つの巨人でも獣と超大型くらいしかいない。

 

「島にいるそれらの巨人は始祖が生み出したわけじゃないんだ」

 

「じゃあ、その巨人たちはどうして生まれたの?」

 

 どうして巨人が生まれたのか気になるのは当然だろう。

 だが、真実を教えていいのか?

 巨人の正体はあまりにも残酷だ。

 俺しか知らないんだから、誤魔化したとしても。

 

「ライナー……お願い。真実を教えて」

 

 悩んでいた俺に、アイがそう言った。

 みんなも俺を真剣な眼差しで見ている。

 誤魔化すことは許されないだろう。

 

「巨人は……エルディア人が巨人の脊髄液を摂取することで生まれるんだ」

 

 

「……それじゃあ」

 

「島にいる巨人たちはみんな……巨人にされたエルディア人たちだ」

 

 マーレに反逆した人間を巨人にして島に送り込んだ。

 それはマーレに反逆した人間がどうなるかの見せしめでもあり、島の悪魔を壁から出さないようにするためでもあった。

 

「なぁ……ライナー。巨人はエルディア人……なんだよな?」

 

「……そうです」

 

 何かに気付いたのか、顔を青くしながら聞いてくる。

 

「エルディア人は巨人の力を継承してきたと言ったが……その継承方法はなんなんだ?」

 

「脊髄液を摂取したエルディア人は無垢の巨人という知性のない巨人になります。その無垢の巨人が、九つの巨人の力を持つ者を捕食することで継承は行われます」

 

「……っ!」

 

 巨人の力の継承方法に全員の顔が青ざめる。

 当然だ。

 人が食われるという残酷な行為が、何百年も続けていられていたという事実は到底受け入れられるものじゃない。

 

「ライナー……も?」

 

「ああ……俺も前任者を食って巨人の力を継承した」

 

「……そんな」

 

 自分たちが慕っていた人間が何の罪もない人達を大勢殺し、さらに同じ人間を食ったという事実。

 これだけで、俺はどれだけみんなを傷つけてしまったんだろう。

 

「じゃあ……ライナーもいつかは」

 

「ああ……俺もその時が来たら……次の継承者に力を託すはずだった」

 

「……どうして?」

 

 俺も食われるという事実を信じられなかったのだろう、どうしてそれを受け入れているのかを聞かれる。

 

「マーレではエルディア人は収容区に収容されている。収容区から出ることは許されていないし出るには許可が必要で、許可を取って外に出たとしても腕章を付けてエルディア人だとわかるようにしないと処罰される」

 

「……そこまで」

 

 日本だけじゃなく、世界でも差別を無くそうとしている。

 たとえ違う世界だとしても、差別が行われていたという事実は受け入れられないだろう。

 

「巨人の力を継承して戦士になれば名誉マーレ人の称号が与えられ、ある程度の自由が与えられる」

 

 俺はどうしても戦士になりたかった。

 

「俺の父親はマーレ人で母親がエルディア人だった。俺と母が父親と一緒に暮らすためには戦士になって名誉マーレ人になるしかなかった」

 

「じゃあ……ライナーはお父さんと一緒に暮らせたの?」

 

 戦士になれば、俺と母さんは父親と一緒に暮らせると信じていた。

 

「いや……父親はそんなことは望んでいなかった。マーレ人はエルディア人と子供を作ることを固く禁じられているからな」

 

 きっと、俺は望まれた命なんかじゃなかったんだ。

 

「言われたよ『俺は逃げきってやるからな!!お前らエルディアの悪魔の親子から!!』ってな」

 

「……そんな」

 

 母さんはずっと、ありもしない夢を見ていた。

 

「家族3人で暮らすことは出来ないが、それでも俺は構わなかった。だって俺は選ばれた戦士だったからだ。戦士になって世界を脅かすパラディ島の悪魔を成敗すればエルディア人を……世界を救える。そしたら俺は世界一の自慢の息子になれると……信じていたんだ」

 

 島にいるのは世界を脅かす悪魔なんだと。

 世界を救って英雄になるんだと。

 

「だけど……違った。俺は戦士になるはずじゃなかったんだ」

 

「……どういうこと?」

 

「だって……ライナーは選ばれたんでしょ?」

 

 たしかに俺は戦士になったが、俺の力をなんかじゃなかった。

 

「巨人力を継承する戦士は候補生の中から選ばれるんだが、その時の候補生は7人。巨人の力は6つだから7人のうち1人は余る。余るのは候補生の中でドベだった俺になるはずだった」

 

「はずだった……て」

 

「選ばれたんだから……ライナーはドベじゃなかったんじゃないの?」

 

「違う……ドベは俺だった」

 

「じゃあ……なんで?」

 

 ドベじゃなかったから選ばれた。

 普通はそう思うだろう。

 

「戦士候補生の中に兄弟がいた。その兄弟の兄は弟を守るために俺を持ち上げたり、弟を貶めるような発言をして軍に印象操作をしたんだ。そのおかげで……本来なら戦士に選ばれるはずのなかった俺が戦士に選ばれた」

 

 考えればわかることだった。

 体力も、頭脳も、射撃能力も、格闘術も、何の取り柄もない俺が、戦士になれるわけがなかったのに。

 

「マルセルのおかげで俺は戦士になれたのに……俺はマルセルを殺した」

 

「……え?」

 

「どう……して」

 

 弟を守るためとはいえ、マルセルのおかげで俺は戦士になれた。

 マルセルはいわば俺の恩人とも言える相手だ。

 だから、その相手を殺す理由がわからなかったんだろう。

 

「夜が明けて太陽の光が俺たちを照らしたとき、俺の後ろの地面に潜っていた巨人が目を覚ました」

 

 想定外の出来事だった。

 だが、対処可能な出来事でもあった。

 

「突然の出来事で反応出来ずに巨人に食われそうになった俺を庇ったせいで……マルセルは食われた」

 

 驚くだけで動けずに食われそうになっていた俺を庇ったせいでマルセルは巨人に食われた。

 

「マルセルが巨人に捕まった時、俺が巨人になればマルセルを助けることが出来たかもしれないのに……俺は巨人にならなかった」

 

 俺はただ、マルセルが食われるのを見ていることしか出来なかった。

助けようとしなかった。

 

「マルセルが食われて……俺はアニとベルトルトを……仲間を置いて自分1人で逃げたんだ」

 

 死にたくなくて。

 仲間のことなんて忘れて1人で逃げ出した。

 

「マルセルが食われて……アニと……ベルトルトは作戦を中止して引き返そうとしたのに。俺は……2人を無理矢理説得して作戦を続行させたんだ」

 

 今でも思う。

 あの時引き返しておけば、アニとベルトルトは家族と一緒に過ごすことが出来た。

 何の罪もない人達が大勢死ぬことも、あいつの母親が巨人に食われる事もなかったのに。

 

「それは……保身もあるが。俺は……英雄になりたかった!!誰かに尊敬されたかった!!」

 

 そんなくだらない理由で俺は何の罪もない人達を、あいつの母親を殺したんだ。

 

「そして作戦を続行して……壁を破壊した。壁に空いた穴から大量の巨人が壁内に入って……大勢の人達が生きたまま巨人に食われていった」

 

 大人も子供も、男性も女性も関係なく、みんな生きたまま巨人に食われた。

 

「あいつの目の前で母親が巨人に食われたのも……俺のせいだ」

 

 俺が英雄になりたいなんて思わなければ、あの時引き返していれば、俺が戦士にならなければ、俺が産まれなければ。

 何の罪もない人達が大勢殺されることなんてなかったのに。

 

「壁が破壊され、大勢の人達が巨人に食われていく混乱に乗じて俺達は壁内に侵入した」

 

 たくさんの人達が、故郷を、家族を、大切な人たちを失った。

 俺達も故郷を失った犠牲者のフリをしてその中に紛れ込んだ。

 彼らが全てを失ったのは、全部俺のせいなのに。

 

「そして……俺達は兵士になった」

 

 俺達はあいつらに出会った。

 




ここまでのライナーに関することは、全部ライナーが12歳くらいまでの間に起こったことなんですよね。

いくらなんでもエグ過ぎない?
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