撮影の話を書いていたら1万5千字くらいになったので分割します
後半は明日投稿予定です!!
まさか前半と後半に分かれるとは思わず脳を焼かれたので初投稿です!!
(おいおい、とんでもねぇな)
ライナーの演技を見た五反田はそう評価した。
話題になったこともあり五反田もライナーの声優としての評判は知っていたし、実際にアニメを見てその演技力が本物であることも確認していた。
しかし、いくら声優としての実力があろうとも、役者として自らが演技するのとでは勝手が違う。
声優が主に声の演技に対して、役者は声に加えて、表情、動きの演技も必要となる。
もちろん、役者の方がすごくて声優は簡単などと言うつもりは全くない。
実力のある役者が声優をやってもうまくいかないことなどザラにある。
ただ、必要とされるスキルが違うのだ。
そのため、五反田はライナーが演じることが心配だった。
五反田はライナーのことはほとんど知らないが、おそらくライナーは演じるために再び役に入り込むはずだと予想する。
だが、いくら入り込んだとしてもうまく演じられるかは別問題。
ライナーのメンタルのことは心配ではあるが、五反田は監督として基準に満たない演技は容赦なくNGを出すつもりであった。
しかし、ライナーの演技は五反田の基準を簡単に超えて来た。
それはライナーが港でガビたちと会う場面。
ライナーがガビたちと接するシーンだが、それは問題ないだろうと五反田は思っていた。
役とはいえ、アクアとルビーと接するのだからそこまで難しくはないだろうと。
むしろ、難しいのはその後。
ライナーがガビたちに戦士候補生だった頃のアニたちを重ねてしまうシーン。
ガビたちを見守っていたにも関わらず、次の瞬間に絶望したかのような表情になるという演技。
見守る演技に集中してしまえば、絶望した演技が中途半端になり。
絶望した演技に集中してしまえば、見守る演技が中途半端になりかねない。
そのため何テイクも撮ることになることも覚悟していた。
だが、ライナーはその演技を完璧に行った。
優しく見守る表情から一瞬で困惑、そして置いて行かれそうになって思わず言ってしまった『待って』。
それらを完璧に演技してみせたライナーに、五反田だけでなく他の共演者やスタッフまであっけにとられていた。
(これ……あのシーンどうなっちまうんだ?)
ライナーの演技力の高さを目の当たりにした五反田が思ったのは、ファンの間でも人気のある自殺未遂のシーン。
あれを本当に撮影してしまってもいいのかという不安。
撮影に使う銃は当然本物ではない。
だが役に入り込んでしまうライナーがあれを実際に演じてしまったら、本当に自殺してしまうのではないかという恐怖。
そして、監督としてたとえライナーが死ぬとしても最高のシーンを撮影したいという監督としての欲望。
それらが同時に五反田を襲う。
(何考えてんだ。企画がここまで進んじまった以上、やるしかねぇだろ)
この撮影のために、多くの時間も費用も人間もかかっている。
撮影が始めておきながら、今更無理でしたなんてことは出来やしない。
(あいつらだっているんだ。大丈夫だろう)
アイ達B小町が、アクアやルビーがいるのだから大丈夫と。
たとえ役に入り込んでしまっても大丈夫なのだと。
アイ達がなんとかしてくれると自分に言い聞かせる。
(それに撮影は始まっちまったんだ。むしろ撮影をやめちまう方が迷惑になっちまう)
やめられはしないのだからと、これは仕方ないことなのだと理解している。
途中で中止にしてしまった方が、あらゆる方面に迷惑がかかってしまうことは明らかだった。
(だから、俺は撮る!!最高のシーンを!!)
様々な理由を押しのけて、五反田は最高の映像を撮ると決意する。
その目には狂気的な輝きを宿していた。
★闇夜の列車
それはファルコの発言にライナーが詰め寄るシーン。
激怒したライナーにファルコが怯えるが、ガビのために奮起するという場面をライナーとアクアは見事に演じきった。
「さすがだなアクア。怯える演技完璧だったじゃん」
「……違う」
「え、違う?」
シーンを撮り終えて戻って来たアクアにメルトが声をかける。
アクアの演技力を知っているメルトは1発でOKを出したアクアにさすがだと関心したのだが、アクアはそれを否定する。
「あれ……演技じゃない」
「演技じゃないって……まさか!」
「……マジでビビってた」
「マジかよ!?」
演技ではなく、マジでビビっていたというアクアの発言にメルトは驚愕する。
本当に怯えていると思ってしまうくらい迫真の演技だと思っていたものが、実は本当に怯えているとは思わなかったからだ。
「たしかにすごかったけど……そんなに?」
「いや!!演技すごいし、お父さんに怒られたこととかなかったから余計に怖いんだよ!!」
「え、ライナーさんアクアのこと怒ったことないんですか?」
怒られたことがないというアクアの言葉に、保護者としてそれはどうなんだという視線を向けるメルト。
いくら社長の子供とはいえ、叱らないのはよくないと思うのが普通である。
「いや、アクアもルビーもいい子だから悪いことなんて全然しなかったし、したとしても1度叱ったらもうすることがなかったんだよ。だから、本気で怒ったことはたしかになかったかもな」
「しかもパパって頭ごなしに怒ったりとかしないで、どうしてそんなことをしたのかちゃんと聞いてくれるんだよ。だから、怒られる前に全部終わっちゃうんだよね~」
「あー、なんかすげぇわかる」
ライナーが怒らない理由を説明されてメルトは納得する。
アクアとルビーに対するライナーを見ただけだが、悪さをした2人に目線を合わせて理由を聞くライナーの姿を簡単に想像出来たからだ。
「そう思ったらお兄ちゃんだけパパに怒られてずるい!!パパ!!私にも怒って!!」
「いや……なんでだよ」」
「怒られたい!!怒られたい!!怒られたい!!」
「撮影中なんだから我慢しなさい」
「えー!!やだー!!」
「俺、怒られたいってわがまま言う奴初めて見たよ」
ライナーに怒られたいとまるで小さな子供のように駄々をこねるルビーに呆れるメルト。
怒られたくないならまだしも、怒られたいと言う気持ちがメルトにはわからなかった。
「もう面倒くせぇから、怒ってやれよ」
「え、いいんですか?」
「幸い1発でOK出たから時間に余裕があるからな。ちょっとくらい自由にしてもいいだろ」
「監督、ありがとうございます」
「やったー!!」
「ルビー、お前のわがままのせいなんだからちゃんと感謝しなさい」
「あ、ごめんなさい監督!あと、許可してくれてありがとう!!」
「いいっていいって、それよりさっさと怒っちまえよ」
五反田からの許可が出たことでライナーがルビーを怒ることが決定した。
わがままのせいで迷惑がかかることをルビーに謝罪させるライナーに、さっさと怒るように言う五反田。
時間に余裕はあるが、他の撮影もしておきたいのが本音だった。
「でも、怒ると言ってもなんて怒ればいいのか……」
「もう列車のシーンでいいだろ、セットもあるしな」
「うん、いいと思う。あのシーンのお父さんめちゃくちゃ怖かったし」
「それでいいかルビー?」
「うん!!いいよ!!」
「じゃあ、さっさとやるか」
「あの……すみません」
怒る理由が思いつかないライナーに五反田がアドバイスしてアクアがそれを肯定する。
ルビーもそれで特に問題がなさそうなのでさっさと怒ろうとしたところに気まずそうにメルトが声をかけた。
「どうしたんですかメルトさん?」
「いや……もしよかったらなんですけど……俺も怒ってもらうことって出来ませんか?」
「メルトさんもですか?それはどうして?」
メルトとは初対面なため、どうしてメルトに怒られたいと言われたのかライナーにはわからなかった。
「アクアがすごく怖かったって言っていたんで、俺も怒られれば怖がる時の演技の参考になるかな~なんて」
「なるほど」
怒りや悲しみなどを自分の経験を元にして演じる役者は多い。
それを知っているからこそライナーも怒られたいと言ったメルトに納得する。
「あの……監督申し訳ないんですが……」
「わかったわかった!!やっていいからさっさとしてくれ!!」
「ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!!」
申し訳なさそうなライナーに面倒くさくなった五反田がやけくそ気味に許可を出した。
断ってもよかったが、これでモチベーションが下がっても面倒と思っての許可だった。
「じゃあ、私もいいかしら?」
「え、フリルさんもですか?やっぱり演技のためですか?」
「そう、演技のためでもあるけど、ライナーさんに壁ドンされたくて」
「……壁ドン」
まさかフリルに壁ドンされたいと言われるとは思っていなかったため言葉を失うライナー。
この頼みをどうするべきか必死で考えるが、壁ドンに反応したのは残念ながら他にもいた。
「えー!!ライナーに壁ドンしてもらえるのズルい!!私もライナーに壁ドンされたい!!」
「アイも!?なら私も!!」
「あ、ズルい!!私もして欲しい!!」
「抜け駆けは許さんぞー!!」
「え……みんなも……」
「先輩!!お願いします!!」
「……お前まで」
ライナーに壁ドンされたいとアイ含む元B小町メンバー、さらには作者までもが名乗りを上げる。
予想もしなかった展開にライナーは若干引いていた。
「あの……どうしますか?」
「めんどくせぇから……さっさとしてくれ」
「……すみません」
まさかの展開にどうでもよくなった五反田からの許可が下りたため、ライナーは役者と元B小町メンバーに加えて作者までも壁ドンするはめになったのである。
ちなみに、作中のようにライナーに壁ドンされ激怒された面々の感想は1人を除き『マジで怖かった』であった。
★壁の中の少年
「はぁ……やっぱり私じゃなかった方が……」
「大丈夫だよおかあさん!誰だって最初はこんなものだから!!」
場面はライナー達が自宅で家族や親戚と食事をするシーン。
ライナーが島にいた時のことを話し、ライナーの母親が悪いのは全て島の悪魔のせいだと言う場面である。
演技初挑戦のあゆみは当然緊張してしまいNGを連発。
今は一旦休憩しているところであった。
「でも……このままじゃみなさんに迷惑が……」
「大丈夫!!大丈夫!!みんなも通って来た道だから!!」
「……でも」
アイが必死にフォローするが、あまり効果はない。
あゆみとしてはテレビで見たことのある役者もいる中で、自分1人だけが未経験。
他があまりNGを出さない中で、自分だけがNGを連発して周りに迷惑をかけてしまうことの罪悪感は相当なものであった。
「それじゃ、そろそろ撮影再開します!!」
「ああ……そんな」
撮影の再開を告げるスタッフの声に絶望するあゆみ。
このままではまたNGを連発してしまうことは明らかだった。
「あの……あゆみさん、ちょっといいですか?」
「……ライナーさん」
そんなあゆみを見かねたライナーがあゆみに耳打ちをする。
あゆみは驚くが、覚悟を決めたような表情となりライナーと共に撮影に向かう。
そのライナーのおかげなのか、あゆみはNGを出さずに1発でOKが出たのであった。
「おかえりおかあさん!!すごいよ!!1発でOKなんて!!」
「ありがとね……アイ」
「ライナー……おかあさんになんて言ったの?」
OKが出たのに暗い表情のあゆみに、本番直前にライナーが耳打ちした内容を聞く。
「……虐待していた時のことを思い出して演技してくださいって……言ったんだ」
「ああ……」
アイを虐待したことは当然あゆみにとってトラウマである。
演技のためとはいえ、それを思い出すように言ったライナーに思うことはあれど、そのアドバイスのおかげであゆみはOKを出すことが出来たのでアイは何も言うことが出来なかった。
「撮影終わったら……みんなで美味しいもの食べようね」
「うん……そうだね」
「……すみません」
少しでも気持ちを切り替えるために食事の提案をするアイに、あゆみは感謝を、ライナーは謝罪をすることしか出来なかった。
★手から手へ
美しい。
それが演技を見た者たちの感想だった。
罪悪感に耐えきれなくなったライナーが銃で自らの命を絶とうとするシーン。
ファンの間では主にネタとして語られることが多いが、この現場においてこのシーンを笑う者は1人もいなかった。
レンガ造りの机と椅子しかない部屋。
窓から差し込む光。
ライフルを口に咥えた姿。
光の消えた目。
漫画で描かれた光景が目の前にあった。
誰もがその光景から目を逸らせないでいた。
それは壁を叩く音と衝撃で我に返る。
「クソ、このままじゃ、ダメだ」
正気に戻り、銃を口から出すライナー。
見ていた彼らもいつしか止めていた息を吸う。
「そうだ、俺にはまだ、あいつらが」
守るべき子供たちの存在を思い出して自殺を思いとどまる姿を見て安堵する。
いつしか演技であることを誰もが忘れていた。
「カット!!」
五反田の声がかかる。
それで場を支配していた緊張が解けた。
「ライナー!!」
アイがライナーに駆け寄る。
あれほどの演技をしたライナーのことを心配になったのである。
「大丈夫!?」
「ああ……大丈夫だ。ありがとう」
「……よかった」
心配するアイを安心させるように微笑むライナー。
どうやら本当に大丈夫なようだとアイはホッとする。
「だけど……本当にすごかったです」
「そうね……思わず見入ってしまったわ」
ライナーの演技を絶賛するメルトとフリルに言葉にはしないものの演技を見た全員が同意する。
「作者さんなんて泣いてるし」
連載中にライナーの自殺未遂の場面を締め切りギリギリまで描き、原画を部屋に飾るくらいお気に入りのシーンを完璧に再現してくれたことに進撃の巨人の作者は感動のあまり号泣していた。
「そりゃあ、自分が一生懸命描いた作品を完璧に再現してくれたら嬉しいよ!!」
「うぐっ!!」
ルビーの言葉が実写ドラマの今日あまで主演を務めた結果、そのあまりにもひどすぎる演技で酷評の嵐を巻き起こしたメルトに突き刺さる。
「本当に……どうして俺は……あの時」
「気持ちはわかるが、反省はあとな」
当時を思い出して落ち込むメルトに反省はあとにするようにアクアが言う。
それはメルトのことを思ったからではなく、落ち込んだ空気がライナーに悪影響を与えることを恐れたためである。
「ていうか、やっぱりすごかったんだな」
「そりゃあすごかったよ!!すごすぎてもはや芸術だったよ!!」
「でも『……美しい。これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう』ってセリフに共感出来ちゃったのがちょっと複雑……」
「まぁ……それくらいすごかったってことで……」
ルビー達はライナーの演技に感動するが、進撃でもよくネタにされる『……美しい。これ以上の芸術作品は存在し得ないでしょう』というセリフに共感出来るようになってしまったことは果たしてよいことだったほんの少し疑問に思ってしまうのであった。
「そこまでか。正直、ちょっと見たかったかも」
「アクアはファルコで壁殴ってたもんな」
ファルコとして己の不甲斐なさに壁を殴り、その結果ライナーの自殺を止めるという重要な役割があったためライナーの演技を直接見ることが出来なかったアクアは、少し残念がってしまった。
そう、残念がってしまったのだ。
「どうするアクア?1発でOK出たからもう1回……」
「「「「「「「「「絶対にしないで!!」」」」」」」」」
「お、おう……」
壁ドンの件もありライナーはアクアのために善意で言ったのだがある1名を除き、全員から猛反対されたことで素直に2回目を演じることをやめるのであった。
★宣戦布告
「時代や環境のせいじゃなくて……俺がわるいんだよ。お前の母親が巨人に食われたのは俺のせいだ!!」
誰もその叫びが演技であると思えなかった。
ライナーの前世を知らない者たちは当然としても、ライナーの前世を知っている者たちですらライナーが演技ではなく心からエレンに懺悔しているのではないかと思わずにはいられなかった。
そう思ってしまうほどに、ライナーの演技は圧倒的だった。
「大丈夫!?ライナー!!」
カットがかかった瞬間にライナーの安否を確認するためにアイは走った。
今のが演技なのか、それとも演技ではなく本当にエレン役の姫川に懺悔してしまっているのかアイには判断出来なかったからだ。
「大丈夫だ、心配かけてすまないな」
「そっか……よかった」
ライナーの様子は演技を終えたばかりで多少の疲労はあるものの、このまま自殺してしまうほどのダメージは受けていないとわかったことでアイは安心する。
「正直、銃のシーンのインパクトが凄すぎるせいで忘れてたけどさ、お父さんの演じるシーンって全体的にキツ過ぎるよな」
「メンタルボロボロになって、自殺未遂するような精神状態のキャラクターだからな……」
「これ……あとどれだけ撮るの?」
「撮影するのは戦闘シーン以外だから、そんなに多くない……はず」
「でもさ、撮影するやつ全部キツイやつじゃねぇの?」
「…………だよなぁ」
撮影するのは戦闘シーン以外とはいえ、ライナーのシーンのほとんどが精神的に辛いものばかりである。
この後の撮影も大丈夫なのかアクア達は心配になってしまう。
だが、アクア達に出来ることなど無いに等しい。
だから、アクア達は祈る。
どうか無事に終わってくれと。
思い付いたこの作品のネットミーム
ライナーを見習え
主に演技が下手くそな声優や役者に言われるセリフ
演技未経験でありながらメンタルボロボロになるほど努力して完璧な演技を最後までやりきったライナーを見習えという言葉