この話を思い付いたときは出会い、妊娠と出産、刺されるで3話くらいで終わると思っていたのに6話で出産と倍の話数になっていました。
自分の見通しの甘さに脳を焼かれたので初投稿です
「しかし、ずいぶんと田舎だな。社長もよく見つけたもんだ」
東京からだいぶ離れて九州の宮崎県。
見渡す限りの野山。
大自然に囲まれたこの病院にアイは入院する。
「でも自然がたくさんで気持ちいいよ!」
「たしかに、東京じゃここまでの自然はないからな」
見渡す限りの野山。
交通の便はお世辞にもいいとは言えず、コンビニは少ないどころかほぼ無い。
不便ではあるが、万が一バレでもしたら俺を含めた苺プロ全ての人間が終わってしまうのだからこれくらいして当然だろう。
「ま、これだけ田舎ならさすがのお前でもバレやしないだろう」
「そう?私の溢れ出るオーラは隠せないからバレるんじゃない?」
「そうなったら本当に困るから冗談でもやめてくれ」
バレないようにここまで来たのに、それでもバレたら全ての努力が水の泡だ。
頼むから本当にバレないでくれよ。
「正体は絶対にバレないようにするとして、まずは検査だ。大丈夫だとは思うが、お腹の子が元気か確認しておきたいからな」
「私の子だから大丈夫だと思うけど」
「そういう問題じゃないだろう」
妊娠がわかってからアイの仕事やライブは少しずつ抑えたが、それでもお腹の子に影響がないとは限らない。
心配なことはいろいろとあるが、お腹の子が元気かどうかを1番に知りたい。
「ここで俺たちがどうこう言ってもわからないんだ、さっさと病院行って検査するぞ」
「はーい!」
こうして病院に入り、受付を済ませて待つ。
総合病院とはいえ田舎かつ、平日ということもあり人はあまりいなかったからか思ったよりも早く呼ばれて診察室に行く。
「はい、おまたせしましたしましたっと」
入って来たのは眼鏡をかけた二十代半ばくらいの先生だった。
「えっと……星野さんは初めてですね」
「はい」
「貴方は旦那さん?」
「いえ違います!仕事仲間です!彼女施設育ちなんで!」
旦那かと聞かれて思わず全力で否定してしまった。
しかも後見人とか言わないで仕事仲間と。
大慌てでそんなことを言ったら怪しいに決まっているのに。
「そ、そうですか、すみません」
やっぱり引かれている。
このままだとマズイ。
話を変えないと!
「先生、一応聞いておきたいんですが、もの凄い便秘って可能性はないですか?」
「だとしたら死んでますねぇ……」
「……ですよねぇ」
社長に念のために聞いておくように言われていたから聞いたが、そりゃそうだよな。
「そっちは順調!今日も問題なかったよ」
「お前あんまりそういうこと言うなよ」
今は一般人のフリをしているとはいえ、アイドルなんだからそういったことは言わないで欲しかった。
「とりあえず検査してみましょう。準備がありますのでお待ちください」
そう言って準備をするために先生が出ていく。
いなくなったのを確認したアイが、責めるような目で俺を見る。
「というかライナーさっきの何?仕事仲間って。普通そこは夫でしょ」
「馬鹿言うな!嘘でもそんなこと言えるか!」
現役アイドルの夫なんて情報が嘘でも世間に流れてしまったら、炎上は確実だ。
妊娠だけでもアウトなのに、嘘でもそんなリスク増やせるか!
「いいじゃん別に、嘘ついちゃえば」
「お前なぁ……もっとアイドルとしての自覚持てよ」
不満そうにするアイだが、俺は何も間違っていない。
アイはアイドルとして才能はあるし努力もしているが、それは歌やダンスにファンサービスといったところが中心で、プライベートのようなアイドル以外の部分は意外といい加減だったりする。
「おまたせしました。こちらへどうぞ」
そんな話をしていると準備を終えた先生に呼ばれる。
検査室へ行き、エコー検査をして検査結果を待つ。
「検査結果、20週、双子ですね」
「「……双子」」
出た結果は双子ということだった。
「本当に産むのかアイ」
「うん、産むよ」
少しも迷うことなくアイは言った。
「双子なら、産んだらきっと賑やかで楽しい家族になるよね!」
「……全く」
嬉しそうに笑いながら、愛おしそうにお腹を撫でる。
そんなアイを見て、仕方ないと思ってしまった。
未成年のアイドルが妊娠に出産なんて世間にバレてしまえば、どうなるかわかっているのに。
こんなにも嬉しそうなアイを見て俺はもう子供を産むなとは言えなかった。
★
検査結果が分かって双子を産むことを決めたあと、入院の手続きや入院生活に必要な荷物を運んだりなどで時間がかかってしまい、辺りはすっかり暗くなってしまった
「お腹の子は双子でした」
『……双子かぁ。やっぱりもの凄い便秘じゃなかったか』
「エコー検査の写真にしっかりと赤ちゃんが写っていましたから便秘はありえませんね」
『……だよなぁ』
誰にも聞かれないようにするために病院の屋上で検査結果を社長に報告する。
社長はやはり困ったような反応をした。
わずかでももの凄い便秘である可能性にかけていたらしい社長はもの凄くガッカリとしている。
『アイは産むつもりか?』
「ええ、アイは絶対に子供たちを産むつもりです。説得は無理だと思いますよ」
『……だろうな』
社長もアイがどういう人間か理解している。
産むと決めたアイを説得することは不可能だといった俺に社長は反論しなかった。
「社長、俺たちも覚悟を決めましょう。たとえ今から中絶をしたとしてもそっちの方がアイに悪影響が出るはずです」
俺は見た。
双子と聞いて嬉しそうに笑うアイを。
賑やかで楽しい家族になると、愛おしそうに子供たちのいるお腹を撫でたことを。
それを否定して、無理矢理お腹の子供たちを中絶しても何もいいことなんてないはずだ。
『……そうだな。無理矢理中絶するよりも子供が産まれて愛する対象が出来た結果、アイドルとしてさらに成長する可能性にかけるか』
「アイならきっと大丈夫ですよ」
諦めたように社長は言うが、俺は確信を持って答えた。
社長もあの時のアイを見たらきっと、確信を持ってそう言うはずだからだ。
『ま、そこらへんも子供が無事に産まれてから考えるか』
「そうですね。帰ったらその辺についても話し合いましょう」
まだ子供たちは産まれていないが他のB小町のメンバーのことや、産まれたあとのアイの復帰のタイミングや子供たちの扱いなど、考えるべきことはたくさんある。
ただ、俺も社長も子供たちが無事に産まれて来ることを信じていた。
『ライナー、お前最近ずっと働いていたんだから少しはゆっくりしてもいいんだぞ』
「ありがとうございます。でも、今はあの子たちのために何かしてあげたいんです」
社長が俺をアイの付き添いにさせたのは、俺を休ませるためだったのか。
その気遣いをありがたいと思いつつ、今の俺はやる気に満ちていた。
俺はあの世界で多くの命を奪った。
とうてい贖うことなんて出来ない罪だ。
そんな俺が、産まれて来る新しい命のために何かをしてあげられる。
それがとても嬉しかった。
もちろん、そんなことをしたって罪を贖うことが出来るなんて思わない。
一生自分を許すことなんてないだろう。
それでも、あの子たちのために出来ることは何でもしてあげたかった。
『わかったよ。でも頑張りすぎて倒れたりするなよ』
「はは、気を付けます。それじゃあ」
『ああ、またな』
報告を終えてスマホを切る。
アイの出産にB小町のこと、仕事に週刊誌対策とやることは多いが関係ない。
あの子たちのために出来ることは全部やるだけだ。
「ああ、こんなところにいたんですね」
屋上の扉が開き、アイを診てくれた先生が出て来た。
「仕事の上司に連絡をしていたんです。他の患者さんの迷惑になっちゃいけないと思ったんで屋上に来ていたんです」
「そうだったんですね」
何も嘘は言っていない。
芸能事務所とはいえ社長は上司だし、アイのことを誰にも聞かれたくなかったとはいえ他の患者さんの迷惑になるかもしれないと思ったのは事実だ。
こう言えば普通の会社員だと思われるだろう。
「あの……もし違っていたら申し訳ないんですが……ライナー・ブラウンさんですか?」
「なっ!」
思わず声を上げてしまった。
外国人だから普通より目立つとはいえ、マネージャーである俺は表舞台には出ない。
ライブは袖や客席の隅の方で見たりするし、テレビに映ったこともない。
だからバレるとしたらアイだと思っていたから、俺の名前を言われて動揺してしまった。
「……どうして俺の名前を?」
「やっぱり!ライナーさんで合ってた」
しまったと思った時にはもう遅かった。
人違いだと言えばよかったのに、動揺していて合っていることを肯定してしまった。
「ああ、すみません。昔……患者にアイのファンが居たんです。それでB小町のライブDVDの特典映像にあなたが映っていまして」
「そういえば……そんなのもありましたね」
B小町のメンバーが悪ふざけのようなノリで俺や社長たちの裏方を紹介するとか言って映像を撮って、それをDVDの映像特典にしたんだった。
裏方の俺たちを映したのなんてそれ1回だったし、たいした時間じゃなかったからすっかり忘れていたが、まさかそれが原因で正体がバレるとは。
「やっぱりあの子はアイですか?」
「あの……先生。このことはどうか内密に」
バレないようにここまで来たのに、あっさりとバレてしまった。
これが広まってしまったらB小町は終わってしまう。
「大丈夫です、誰にも言ったりしませんよ。さっき言った患者の影響で俺もアイのファンになったので」
「ありがとうございます……本当に」
先生がファンであるからこそバレてしまったが、先生がファンであるからこそ秘密は守られる。
少し複雑になりながらも、少し……いや、かなりホッとした。
「待てよ、アイが妊娠したということは……まさかお腹の子たちの父親はあなたなんですか!?」
「違います!俺じゃありません!絶対に違います!本当なんです!」
先生に俺が父親なのかと詰め寄られるが、全力で否定する!
社長の時もそうだが、どうして俺が父親だと疑われなきゃいけないんだ!
「父親が誰なのかはわからないんです!知らないんです!本当です!」
「そうだったんですか。すみません……失礼しました」
「いえ……気持ちはわかりますから」
全力で否定したおかげでわかってくれたようだ。
しかし、先生の気持ちもわかってしまう。
俺もアイに妊娠を告げられたときはものすごく混乱したからな。
「ですが、子供を産むってことはアイは……アイドルを」
「やめませんよ」
先生が言おうとしていたことを遮る。
「大丈夫ですよ、アイはアイドルをやめたりなんてしませんから」
そう、アイはアイドルをやめたりなんかしない。
子供は産むし、アイドルも続ける。
普通は片方しか選べないが、アイはどっちも選んだ。
「つまり……それは」
「ええ、子供たちのことは公表しません」
アイも俺も社長も、子供たちのことは公表せずにアイドルを続けることを選んだ。
「いいん……ですか?」
「よくありませんよ、バレたら一発で終わりです」
未成年のアイドルが出産。
それが世間にバレたらアイドル生命は終了するし、事務所も監督責任を問われて終わるだろう。
それほど大変なことだが、俺たちはアイが子供たちを産んでもアイドルを続けることを受け入れた。
「ですが、アイが産むと決めたのに大人の俺たちが逃げるわけにはいかないでしょう」
問題はいろいろある。
B小町のこと、バレないようにしなければいけないこと、バレてしまった時のこと。
産むのをやめた方が楽に決まっている。
アイだってわかっているはずだ。
それでもアイは子供たちを産むことをきめた。
戦うことを選んだんだ。
「アイは施設の育ちで頼れる親がいません。頼れるのは俺や社長くらいです。アイドルの妊娠だからなおさら誰にも相談出来ないでしょう。それなのに俺たちが逃げてしまったら、アイは一人になってしまいます」
アイはきっと一人になったとしてもあの子たちを産むだろう。
どれだけ辛くても、どれだけ寂しくても、そんなことないかのように子供たちに、そして自分にも嘘を吐きながら生きていく。
そんなのを誰が認められるものか。
「アイもあの子たちと同じ、守るべき子供です」
アイはまだ16歳。
まだ守られるべき子供だ。
「守ってあげたいんです」
俺は守るべきあいつらから逃げてしまった。
苦しみに耐えられずに、守るべきあいつらのことも忘れて一人楽になりたくて逃げてしまった。
「もう逃げたくないんです」
もう逃げない。
どれだけ辛くても。
どれだけ大変でも。
もう守べき存在から逃げたりしない。
「ですが……医者の立場から言わせてもらうとやっぱり危険です。ただでさえ出産は大変なのに、アイは未成年でおまけに双子の出産です。最悪の場合……アイが命を落とすかもしれませんよ」
先生の言う通りだ。
普通の出産でも命を落としてしまうことがあるのに、アイは未成年の上に出産するのは双子だ。
命の危険は普通の人の何倍もあるのかもしれない。
アイドル生命からも、アイの命を考えても、出産はするべきではないのかもしれない。
でも……だからこそ
『俺は逃げきってやるからな!!お前らエルディアの悪魔の親子から!!』
「だったら、なおさら逃げるわけにはいかないじゃないですか」
俺は一度逃げてしまった。
守るべきあいつらを置いて。
「たとえそれが故意じゃなかったとしても、誰かの命を奪ってしまうことはとうてい耐えられるようなことじゃありません」
悪魔を殺すために訓練をしていた俺達でも、人たちを殺したことには耐えられなかった。
「大人でも耐えられないのに、小さな子供が、それも自分が産まれたことで母親が死んでしまったと思ったらその苦痛は計り知れません」
自分が産まれたせいで母親が死んでしまったとしたら、それはどれだけつらいのだろう。
自分なんて産まれなければよかったと思いながら、それでも生きなければいけないのなら。
「だからこそ、俺たち大人が守ってあげないといけないんです」
守ってあげられるのは俺たちしかいないんだ。
「子供が出来たと俺に言ったとき、アイはとても嬉しそうでした」
アイは嬉しそうに笑いながら、俺に子供が出来たと言ってくれた。
「先生も見たでしょう。お腹の子が双子だとわかったとき、アイは賑やかで楽しい家族になると嬉しそうに笑ったのを」
賑やかで楽しい家族になると嬉しそうに笑いながら、愛おしそうにお腹を撫でた。
「たとえアイが子供たちを産むために死んでしまったら、アイが子供たちのことを愛していたと教えてあげられるのは俺たちだけになってしまいます」
アイは子供たちを愛していた。
それなのに俺たちが子供たちから逃げてしまったら、アイが愛していたことを伝えられないまま子供たちは生きていかないといけない。
「だから、逃げたりしませんよ。絶対に」
俺はもう二度と逃げない。
守るべきあいつらから。
「なんだ……やっぱり父親じゃないですか」
「え……いや、俺は」
「すみません、そう意味じゃなくて」
父親と言われ否定しようとするが、どうやら先生もはそう言った意味で言ったわけではなさそうだ。
「女性は妊娠するので母親としての自覚がある人が多いんですが、やっぱり旦那さんは子供が産まれるまで父親の自覚が無い人が多いんですよ」
それはお腹の中で成長していく子供の成長を感じているからなのだろう。
だが、男性は産まれるまで子供に触れることは出来ないからだろう。
「それに、子供が出来ても責任を取らずに逃げてしまうような男性もいますから……」
そうだ、父親だったとしても逃げる人はいる。
たとえ、血の繋がりがあったとしても。
「そんな人たちに比べたら、ライナーさんは立派な父親ですよ」
先生はそう言ってくれた。
そうか、こんな俺でも父親になれるのか。
「安心して下さい。僕が産ませます。安全に、元気な子供を」
もう何も心配することなんてなかった。
アイの妊娠がバレることも、アイが無事に子供たちを産めるかどうかも。
先生が約束してくれたんだから。
無事に産ませてくれると。
「先生……ありがとうございます」
心から感謝を伝える。
この先生に会えたことに。
アイのファンいてくれたことに。
子供たちを無事に産ませてくれると約束してくれたことに。
「あっセンセ、それにライナーも」
俺と先生が話していると、アイが屋上に出て来た。
「星野さん夜風が身体に障りますよ」
「厚着してるからだいじょうぶ!」
先生がアイの心配をするが、アイは大丈夫と言う。
本当に母親の自覚あるのか?
「そうだアイ。先生にお前がアイドルなのがバレた」
「え、そうなの!?」
アイが驚く。
さんざんバレてはいけないと言っていたのに、こんなにあっさりと言われたら当然だろう。
「先生がお前のファンだったんだ。だからすぐにバレちまったよ」
「やっぱり私の溢れ出るオーラは隠せなかったね!」
「今回ばかりは否定できないな」
先生がファンなのもアイの魅力のおかげだから、アイの言っていることは間違っていないのか?
「自信家かわいい」
先生を見れば顔に手を当てて感動していた。
疑っていたわけじゃないが、本当にアイのファンなんだな。
「先生が約束してくれたぞ、元気な子供を産ませてくれるって」
「本当!ありがとうセンセ!」
「もう……死んでもいい」
「いや、死なれたら困るんですけど」
先生が感極まって死にそうになっている。
これはアイがスゴイのか、それとも先生がアイのことを好きすぎるのか。
どちらにせよ心配することは無さそうだ。
アイは必ず、元気な双子を出産出来る。
俺はそう確信した。
★
俺は無力だ。
今日まで頑張って来たがもう何も出来ない。
アイの苦しそうな叫び声が聞こえてくるが、俺にはただ祈ることしか出来ない。
アイは今戦っている。
赤ちゃんを無事に産んであげるために。
命をかけて。
「頼む……どうか無事に産まれて来てくれ」
多くの命を奪った俺が祈ったところで意味なんてないかもしれない。
それでも祈るしかなかった。
どうかアイと子供たちが無事でいてくれるように。
アイが分娩室に入ってからどれだけの時間がたったのだろうか。
もう何時間もたって、祈り続けてきたがついにその時がきた。
アイの叫び声が止んで、そのかわりに二人の元気な泣き声が聞こえてきた。
「よかった……産まれた」
ずっと祈っていて力が入っていたのだろう全身の力が抜けて、どっと疲れが襲ってきた。
「はは……情けないな」
俺はただ祈っていただけなのに、こんなにも疲れている自分が情けなくて笑ってしまう。
「でも……よかった。本当に……よかった」
それからしばらく待って、看護師さんに呼ばれて病室に入るとベッドに横になったアイと、二人一緒に並んで眠っている双子の赤ちゃんがいた。
「よく頑張ったな……アイ」
「ありがとうライナー」
「俺は何もしてないさ」
「ううん、そんなことないよ。ライナーが一緒に来てくれて嬉しかった」
頑張ったアイをねぎらうが、逆にアイから感謝される。
俺にはわからないが、アイには何か感じることがあったのかもしれない。
今は俺の存在がどうこう言うよりアイを休ませてあげる方がいいだろう。
「ライナー、赤ちゃんかわいい?」
「ああ、お前に似て二人ともかわいいぞ」
今は眠っているが、それでもこの子たちがかわいいのは一目でわかる。
きっとアイに似たんだろう。
「ねぇ、ライナー。赤ちゃんを抱っこしてあげて」
「……え」
その言葉を聞いて、そんなことは出来ないと思った。
大勢の人を殺した俺が、この子たちに触れることなんて許されないと思ったから。
「いや……でも。アイ……俺は」
「お願い……ライナー」
「ああ……わかった」
出産したばかりで精神が不安定になっているのだろう。
泣きそうになりながらアイは俺に頼んでくる。
そうまでして頼まれたのに、断ることは出来なかった。
眠っている子に、血まみれの手を伸ばす。
呼吸が荒くなり、吐き気が込み上げてくる。
いやだ、触れたくない、この子たちを汚したくない。
やめてしまいたいのに、逃げてしまいたいのに。
「大丈夫だよ、ライナー」
優しく微笑むアイが、それを許してくれない。
俺なんかが、この子たちに触れてもいいのだと言ってくれる。
逃げることを許してくれない。
そうだ、逃げないと誓ったのに。
俺はまた逃げようとしていた。
覚悟を決めてまだ眠っている子に触れる。
「……あ」
あれだけあった罪悪感が、後悔が、逃げたいという思いが、一瞬で消え去った。
「あれ……なんで」
気付いたら目から涙が出ていた。
そんなつもりはないのに。
止めようと思っているのに全然涙が止まらない。
「アイ……ごめん。ちがうんだ……すぐ止めるから」
止めないといけないのに、涙は止まらない。
止めようと思っているのに、止め方がわからない。
どうしてしまったんだ俺は。
こんなこと前の世界でもなかったのに。
このままじゃアイにおかしくなったと思われてしまう。
だけど、アイは。
「ありがとう、ライナー」
嬉しそうに笑った。
「その子たちのために泣いてくれてありがとう。その子たちが産まれた、こと。祝福して……くれて。……ありがとう」
「俺……が?」
アイも耐えきれずに泣き出す。
アイは言った。
祝福してくれてありがとうと。
「いい……のか?俺なんかがこの子たちを祝福しても」
祝福なんてしてはいけないと思っていた。
大勢の人を殺して、責任も果たさず、守るべき子供たちから逃げた、俺のような存在がこの子たちを祝福なんてしてはいけないと。
「いいんだよ……ライナー。祝福……してあげて」
そうまで言われて、もう我慢することはなかった。
「あり……がとう」
言ってしまったら、もう止められなかった。
止めるつもりもなかった。
「ありがとう」
心からの言葉だった。
「産まれて来てくれて……ありがとう」
小さくて、柔らくて、それでいて、とてもあたたかい。
世界で一番大切な存在を、潰してしまわないように、壊してしまわないように、やさしく抱きしめる。
「大丈夫……必ず……守るから」
大勢の人を殺して、責任も果たさず、守るべき子供たちから逃げた俺が言ったところで信じられないかもしれないけれど。
だけど、それでもかまわない。
信じられないとしても、俺は今度こそ責任を果たす!
前回の感想のほとんどが親がライナーじゃないのかよってのと、アイがライナーに薬を盛ったんだろっていうのがほとんどでした。
いつからアイは意中の相手に薬を盛るようなキャラになってしまったのか。
その謎を解明するために我々調査隊はアマゾンの奥地へと向かった!