オンボロ航空基地へと帰還したルーデルとニールマンは、
埃の舞う管制室で、持ち帰った地図を食い入るように見つめていた。
「……信じられん」
ルーデルが低く唸る。その地図は、彼の知る世界とは似て非なるものだった。
国境線は無残に引き直され、そこかしこに「汚染区域」を示す黄色と赤色のエリアが存在する。だが、その中には僅かに名前こそわずかに違うものの、確かに聞き覚えのある祖国「ドイツ」の名が記されていた。
しかし、問題はそこではなかった。
「大佐……我々がいる場所ですが。ベルリンはおろか、目的地だったキッチンゲンからも一〇〇〇キロ以上離れた、ソ連領のど真ん中のようです。……いえ、『新ソ連』…と書いてありますね」
「新ソ連? 何が変わったというんだ。名前を変えたところで、アカ共の土地であることに変わりはないだろう?」
「……いえ、大佐。さらに正気とは思えない記述があります」
ニールマンは、一緒に回収した複数の資料や端末の残骸……そこから読み取れる断片的な日付を指し示した。
「……ここはどうやら、西暦2060年……のようです」
「…………」
ルーデルは一瞬、自分が高度一万メートルからパラシュートなしで放り出されたような感覚に陥った。目の前の景色がぐらりと揺れる。
「2060……? 今は1945年のはずだぞ。120年近く経っているというのか!? まさか、あの嵐が……あの時、我々はタイムトラベラーというやつになったとでも言うのか!」
「大佐、その『タイム何とか』というのが何のことかは分かりませんが、事実として、ここは我々の知る場所ではないようです」
ルーデルは顔を青くし、ニールマンの腰のホルスターに手を伸ばした。
「……ニールマン、ちょっとそのP08を貸せ。夢なら今すぐ覚める必要がある」
「大佐、現実を見てください。弾がもったいないですよ」
ニールマンにピシャリと制止され、ルーデルは力なく椅子に座り込んだ。
空を支配し、ソ連軍から「スターリンの敵」とまで恐れられた伝説のエースパイロットも、百年の時の壁には為す術がなかった。
「……くそっ。なんのことなのかさっぱり分からん。……おい、とりあえず飯だ。腹が減っては思考も回らん」
「ですね。そうしましょう」
二人は再び、あの「アカ共の缶詰」を温め始めた。もはや毒であっても構わないという心境だった。
「そういえば、燃料は見つからなかったな。あの大きな施設ならあると思ったんだが」
「まあ、あれだけデカい建物です。全部見れたわけじゃないですしどこか別のところにあるはずですよ。明日また探せばいいじゃないですか。……いずれ見つかりますよ、きっと」
ニールマンの楽観的な言葉に救われ、ルーデルは黙々と豆料理を口に運んだ。
外は深い闇に包まれている。120年後の未来、(おそらく)敵地のど真ん中、彼らの傍らには、古めかしいが手入れの行き届いた『カノーネンフォーゲル』が、再び空を舞う時を待って静かに翼を休めていた。
その頃、基地の外周では。
グリフィンの偵察ドローンが、その古めかしい機体のシルエットをレンズに捉えていた。