──side 零──
響と別れの挨拶を済ませ、長谷川さんに続いて移動しながら引き続き施設の説明を受けたが、正直に言うと記憶のない俺が見ても異様な程設備が充実していると分かる程に何でもあった。が、これらについての感想を長々と考えなくても良いと何故か感じた為、取り敢えず凄かったで纏めておこうと思う。
そうして1年の部屋があるエリアまで案内され、各自建物内のみ自由行動許可と言われ就寝時間までに明日の予定を確認するようにと告げられ解散と相成った。
さて、そろそろ現実逃避をやめ、己の状況に向き合う時が来たようだ。
俺は今、人生最大の危機に瀕しているのかもしれないと思う。何故かって? 飢えた猛獣の群れに囲まれ、絶対に逃がすものかと言わんばかりに逃げ場を封じられているからだ。その獣達は血走った目でこちらを見ながら大きく口を開けそして.
「あの可愛い子とどうやったら短時間で仲良く出来たのか教えてくれよ! 俺達も女子とあんな風に喋りたくてさ!? せめて仲良くなる極意みたいなの教えてくれ!!! 後生だからさ、な?!」
絶賛思春期の性に飢えたバカ野郎共に囲まれていた。
What the fuck!
時を遡る事数分前...
「なぁ、ちょっと良いか?」
そう俺の横から話しかけられ、指で自分の頭を指しながら「俺?」と聞くと、「そう! 君君!」と答えられた。
この後もう1回施設を見て回ってあわよくば早速利用しようと思っていたのだが、此処はこれから同じ3年間を過ごす者同士との交流が最優先と考え、まず相手の顔と名前を覚えるべく「別に構わないけど、君は?」と聞いた。
そう問いを返すと相手は1つ咳払いを挟むと少し巫山戯た様子で畏まって応えた。
「俺の名前はアルフォンス、アルフォンス・エドガー、地味に長いから気軽にアル、エドとでも呼んでくれ」
そう言って金髪に紫の瞳をした男.アルフォンスが左手を前に出してきた。それを右手で握り返しながら失礼にならない程度のフレンドリー感を出しながら此方も応えた。
「アルフォンス・エドガー...ね。お言葉に甘えてエドと呼ばせてもらうよ。自分の名前は零、九十九零。同じ新入生同士、今後3年間よろしくお願いするよ、エド」
そう言って応えるとエドは笑いながら「そんな畏まらなくても良いって良いって! 同じ1年同士なんだからもっと柔らかく行こうぜ?」と行ってきた。
そう言われ自分でもこの調子を維持するのは面倒だったのもありその言葉通りに普段の口調に戻して話し始めた。
「そうか?まぁそっちが良いならコッチとしても楽だから有難いが...」
「別に同年の男同士なら口調なんか気にしなくても構わねーと思うぜ?それに硬っ苦しい話し合いなんぞ疲れるだけだしよ?」
「それはまぁ、否定は出来ないが...」
「だろ?公的な役職や場所なら話は別だけど、男子同士の話し合いでそんなの気にしなくても良いと思うぜオレは」
「そういうもんか?」「そういうもんじゃねえかな?」「そっか...」
そこで1度話が途切れるとエドは「しかし珍しいな」と言って此方を見てきた。いきなりの事だった為、思わず「何がだ?」と問い返すとエドは此方を見ながら応えた。
「いやぁ、名前が珍しいなって」
「そりゃあ、数字だけの名前なんて中々無いだろうよ」
「確かにソッチも珍しいけど、そうじゃなくてさ」
「?他に何か珍しい所なんてあるか?」
発言の真意が分からず少し怪訝な顔をしながら聞き返すと、エドは少し呆れたように此方の質問に「あぁ、今のご時世でニホン系の名前って少ないんだぜ。知らなかったのか?」と答えてきた。
この半年程の間にあった人は皆、日本系の名前について特に何も言って来なかった為、その事実に少々驚きながら言葉を続けた。
「そうなのか?確かに俺みたいな名前って余り見なかったけど、響やトメさんも多分その純日本系?の名前っぽいからそんなに珍しいモンだと思わなかっ「そうそれ!」ウェッ!?」
人が喋ってるときに急に大声を出すもんだから変な声が出たが、そんな事お構いなしとばかりにエドは俺の両肩をガッと掴むと必死の形相を浮かべながら詰め寄ってきた。
「その響ってさっきお前が喋ってたちょっと髪が赤みがかった、可愛い女子の名前で合ってるか?!」
「エッ、まぁうんそうだけど、それがどうしたか?」
「どういう関係だ?!あの雰囲気からして地元から一緒に来た幼馴染とかそういう青春っぽい奴か!」
「?...いや?なんでそう思ったのか知らないけど、今日初めて会ってまだ2時間か3時間くらいしか経ってないけど...?」
何故そんな考えになるのか心底不思議に思いながらも、別段隠す必要も無いので包み隠さず質問に答えたのだが、今なら分かる。コレが良くなかった。
そう自分が答えた瞬間周りが「嘘だろ...?」「今日初めて会った親しくない男女の距離感か、アレが?」「エロゲ主人公みたいな特殊な力でもあるのかアイツ」「ちくわ大明神」「誰だ今の」と騒がしくなり始めた辺りで、何となく嫌な予感がし始めたが時すでに遅し。
この時既に無意識的にか己という獲物を囲う様に周りに壁が築かれており、異性との接点に飢えた思春期の脳内ピンクの馬鹿野郎共は獲物を狙う獣のような、あるものは救世主に縋る迷える子羊のような目で此方を見ていた。
面倒ごとの予感がビンビンだが、生憎逃走しようとしても両肩をガッチリ掴まれている為それも不可能だ。逃げることは不可能と断じ、この場をサッサと切り抜ける方向に考えをシフトし溜息を吐きながら質問に答え始めた。
閑話休題
そんな風に質問に答え始めてかれこれ1時間近く経とうとしていた。マジで君らのその執念というかバイタリティは何処から出てきてんの?俺そろそろ学園施設見て回りたいんだけど?
何時まで経っても開放されず流石にイラついてきた俺は、どいつもこいつも遠回りなやり方(異性の気を引く所作やら話し方なんかも聞かれた。俺が知るかそんなもん)ばかり聞く阿呆共に、この際バッサリと言い切ってやる事にした。
「じゃあ女子の流行とか「なぁ」なんだ?」
「そんな女子と仲良くなりたいなら、こんな風に野郎一人を囲んでアレコレ聞くより普通に女子と仲良くなる為に話しかけたりした方が有意義だと思うんだが?」
いまだ周りの連中の聞きたいことを代表して聞いてくるエドの言葉を遮り、意識的に顔にニッコニコの笑顔を浮かべながらバッサリ切り捨てた。
そう問いかけると周りの壁を作っていた馬鹿ども含めたほぼ全員の動きがビシッと音が鳴りそうな風に止まった。正面のエドの顔を見ると、冷や汗を流しながら目線を彼方此方にグルグルと動かし此方を見ないようにしながら震え声で反論しようとしてきた。
「いや?俺たちもそうするつもりだぜ?タダさ?実際に行動する前に先駆者の経験を聞くって大事じゃん?」
「応確かにそうだな。でも本当に行動するつもりあったか君ら?俺がどう響と知り合ったかはスゲェ根掘り葉掘り聞くのに、いざ女子との接し方を聞く質問になると途端に日和った質問に代わってたけど?」
「日和っ?!いやいやいや!いきなりガツガツ行ったら引かれるじゃん?だからこうさり気無くイイ男アピールできる方法をね...?」
「だからそんなん知らんと何度も言っとるだろうが人の話を聞けこの馬鹿門共が。第一そのさり気無いイイ男アピールとか言う奴も、互いに初対面の赤の他人相手じゃさり気無さ過ぎて気づかんわ!」
「ウゴッ?!いいいいいや?!そんなんわかんないじゃん?!気づいてキュンとしてくれるかもしれないじゃん!」
「お前は付き合い始めたばっかの面倒くせぇ彼女か!じゃあ逆に聞くがお前初対面の女子がどうコップから水の飲むかなんて気にするか?互いのことなんも知らないクラスメイト同士で!俺だったらそんな風に相手の小さな動作含めた全部を初めからマジマジと観察してくる奴は性別関係なく普通に怖えよ!」
「ごぼあっ?!で、でも」
「大体どいつもこいつも受け身すぎる!人とコミュニケーション取りたきゃ性別関係なく自分から話しかけるかなんかして行動しろよ!」
「ゴフッ?!あ、あの、もうちょっとこう手心というか...」
「そんで女子と関わって彼女とか欲しいならまず最低限身嗜み!次に言葉遣い!!そして自身の普段の素行!!!それら全部を抑えながら後は行動あるのみ!!!!以上!!!!!」
そう勢いよく言い切ると、エドは崩れ落ちるようにその場に膝をついた。周りからも「正論だ、正論で殴られた...」「ぐうの音も出ねえ」「ぐ、グゥウウウー!」「本当にぐうの音を出す奴があるかよ」とかんとか言いながらエドと似たり寄ったりの体勢で崩れ落ちていた。お前らさては仲いいな?
その後暫くしてから、立ち直ったエドを含めた野郎共との会話(今度は普通に自己紹介とかそんな感じのフツーの)をしながら施設を回るために歩き始めた。1部のかなり遠い場所から来て時差ボケやら環境の急な変化で疲れて休みたい連中を除いた俺達は学校を回ることにした。
世間の評価で世界有数の名門校の1年生だけあってか、中には俺以上に熱意や決意に満ちた連中ばかりで、自己鍛錬に対する姿勢もさっき迄の阿呆っぷりが嘘の様だった。
そうして回り始めた施設巡りだが、外観でも分かる通りやはりデカイのだ此処は。それも天井が高いとか奥行きがあるからそう感じるというモノでなは無いのである。
こんだけ巨大な建物がまだ幾つもあって、此処よりも遥かに大きな施設もあるというのだから施設の大きさやその建設費用や維持費を考えると、この施設群を運用・管理している存在の財源の底なし具合は途方もなさ過ぎて驚きを通り越して呆れるほどである。
そうしていざ学校の施設を巡ろうとした時、自身のポケットにある端末が震えた。何かと思いポケットから取り出し画面を見るとそこには「赤羽 響」の名前が表示されていた。
別れる前に一緒に見学しようと言っていたことに関するものだろうと辺りを付けメッセージを確認した俺は思わず頭をひねってしまった。というのも内容が不可解であったからだ。
[っさっきi緒にmawaろうtおお願したんだけ、疲れteuごけそuにないので今日は休muことにしっまs。私からsasoってい御免なさi]
恐らく疲れが限界を迎えてさっさと休みたかっただろうに、態々メッセージで謝罪を入れてくるとはやっぱり律儀だな~あの子。なんて考えながら少しクスッとしていると、しばらく画面と立ち止まってにらめっこしていたのもあり遅れていた俺に、前方からエドのせかす声が聞こえてきた。
少し急いで先頭付近にいたエドの隣に合流すると、エドから一息入れてから言葉を掛けられた。
「さっきは急に立ち止まってどうしたんだ?なんか端末を見てたっぽいけどなんかあったのか?」
そういって此方を少し覗き込むようにしながら遠慮がちに訪ねてきたエドに、何故そんな心配そうにするのかと不思議に思ったがすぐに合点がいくと彼を安心させるように笑いながら言葉を紡いだ。
「あぁ、特に問題とかがあって連絡来たわけじゃないから安心してくれて大丈夫」
そういうと、俺自身の様子からも問題があったわけではないと分かったエドは、心配そうな表情を崩し先ほどと同じようなヘラっとした顔に戻った。
恐らくだが彼は俺に関することで何か火急の連絡が学園側から来たのではないかと考えたのであろう。
というのも現状この端末は配られたばかりで、当然だが皆が普段使っている携帯端末のように友人からの連絡といった私的なものはまだ来ないはずである。だが、その端末に一斉送信の連絡ならまだしも俺個人のみに連絡が送られてきた事に、彼は何かあったのではないかと心配してくれていたのだ。
表面上だけで言えば心配性の男。という一文で片付いてしまうようなことだがその実、一歩踏み込んで考えるとこの男はそう言った情報や状況を瞬時に見極め自身の中で組み合わせ、即座に対応できる非常に優れた能力の持ち主であると同時に、出会ってまだ小1時間するかしなかといった関係しかない人間の身を本気で案じることのできる人柄だと理解する事が出来た。この調子を女子に接する際にも発揮すれば、自ずと彼らの言っていたモテモテとかいうモノになれるのでは?と考えたが口に出すのはやめておいた。多分また面倒くさくなるからコイツ。
そんな風にアルフォンス・エドガーという男を自分なりに分析しながら株を上げ下げしていると自分たちよりも前を歩いていた集団が止まった為、それに合わせ足を止める。どうやら目的地である場所についたようだ。
「すっげぇ...」
それは誰がつぶやいた言葉だっただろう?自分かエドであったようにも、それ以外であったかもしれない。だが、皆口に出さずとも気持ちは一緒であったと確信できる。それほどに目の前の光景は圧巻だった。
そこは大きくドーム状に広がった建物であった。ちょうど3階に位置する自分たちは上から下の様子を見る事ができ、下では上級生やここの職員と思われる人たちが、それぞれの仕事を進めるべくせわしなく動いている様子が見て取れた。内装の印象は巨大な倉庫といった感じで、上では釣り下げ式の巨大なクレーンが動いており、したではフォークリフトのような車両が行き来している様もあり、とても学校にある設備とは思えない様子である。
だが、そんなものがどうでもよくなってしまう程に、それは圧倒的で、俺たちは目をそらすことが出来なかった。
其処に居たのは、鋼鉄の巨人ともいうべきもの達が居た。
大きさは様々だが、最も小さい物でも優に15メートルは超えているだろう巨体であり、1番大きなものになると高さ15m付近にいるであろう自分たちの位置でも首を上げなければいけないような巨体を誇る大きさであり、正しく巨人である。
そうして巨大な建物内のスペースの半分以上を占める程のこれまた巨大な鋼鉄製の巨人の集団を俺達が惚ける様に、いや、実際に惚けて見ていた。
「おーい!そこの君たち!こんな所でボケっと突っ立ってどうした~?」
そうしてどれだけ長い間見ていたのだろうか?此方に向かって横から若い女性の溌剌とした声が掛けられた。
その掛け声で現実に戻ってきた俺達(まだ何割かわ見上げているが)は、声の掛けられた方へと向くと、こちらに向かって大股で歩いてくる人影がすぐ近くまで来ていた。
見た目は声からも分かる通り女性で、体付きは女性らしいフォルムをしており、胸の膨らみはおそらく平均より大きいであろう事が伺えた。 問題はその格好で、上は白いタンクトップに下は少し青みがかったつなぎを来て上半身のものは腰に巻いているという、中々女性がするにはアレな格好をしており俺は周りの馬鹿どもがエキサイトするのではないかと少々不安に駆られた。
「君らは...あぁ!!新入生の子達かぁ!そっかそっか!今日が入学式の日だったか〜!最近忙しくてすっかり忘れてたわーw」
アッハッハと笑う彼女は透き通るような銀髪に切れ長の目をしており、スタイルも相まって黙って立っていればそれこそモデルのような姿をしていたが、仕草の大雑把さや話し方に雰囲気から俺は早々に察した。察してしまえた。
あぁ、この人トメさんの店に昼間から酒飲みに屯してるオッサン共と同類だ...と。
そこからの立ち直りは早く、(というよりさっき迄の感動みたいなのが、初対面で失礼だが目の前の推定残念な人のお陰で吹き飛んだ)先輩と思われる目の前の彼女に対し失礼と思われないよう言葉を投げかけた。
「自分はこの度1入学した1年の九十九零というものです。貴方のお名前を伺っても宜しいですか?」
そう畏まっていうと、彼女はビックリしたように目をわずかに見開いて黙ったかと思うと、次の瞬間先ほどよりも大きく笑い始めた。絵に描いたような大爆笑である、ナニワロテンネン
暫く笑い続けていたが、落ち着いてきたのかこちらに目を合わせると先ほどの質問にようやっと答えてくれた。
「イヤー悪い悪いw先輩として敬われる事とか殆ど無かったからちねぁ、だからそんな不機嫌そうな顔をしないでくれよぉ後輩くぅん」
未だにツボにはまったのか所々で吹き出しそうになりながらそう答え居てきた。それで笑えるとか笑いの沸点がマジで酒飲んだ時のおっちゃんズと同レベルなんだが?いや、あっちは酔ってるから...いやいつもこんな感じだわあっちも。
そんな風に人知れずおっちゃんズの株を下落していると、オホンとワザとらしく咳払いした見た目美女中身推定おっさんの残念な先輩は口を開いた。
「私の名前はアメリア・葛城。一応君たちの先輩にあたる花の女子高校2年生の美女!かたっ苦しいのは好みじゃないからタメ口の方が先輩的には嬉しいかなぁ~って?見ての通り工学部整備班所属、んまぁメカニックだねぇ。ここで知り合ったのも何かの縁だし、腕と知識にはちょーっとばかり自信があるから困ったことがあったらおねーさんに相談しなー?今なら特別価格で安くしとくよ若人諸君、なんと今ならメアド交換をタダでしてあげるよ~w」
成程彼女の名前はアメリア・葛城といって2年の先輩だと判明した。ついでに推定ではなく確定おっさんであると確信できた眼前の花の高校2年生の残念美女先輩はニヤニヤしながら端末を差し出してきたので、せっかくなので連絡先を登録しておくことにした。腕が良いとは言っているがそれが真実なのかは甚だ疑問だが、この学園で1年間過ごしてきたのは事実なのだ。
現状、過去の記憶も何もない自分にとっては知識を与えてくれる存在は非常にありがたいので、一先ずは様子見でそれから付き合い方を決めて行こうと考えた。
「ではお言葉に甘えてタメ口にさせてもらいますよ、先輩」
「おっ!先輩のいう事を素直に聞くとはいい子じゃないか~wお礼に頭撫でてあげよっか~?」
様子見をするといったな?あれは嘘だ。
前言撤回、このタイプに遠慮はいらねぇな。(決意)
「まずは自身の両手の油や煤まみれの両手を見てから言ってくださいよ花の女子高校2年生」
「ありゃま痛烈!おねぇさん悲しいなぁ...」
「つか花を自称するくらいなら身嗜みを整えてから言ってくださいよ先輩殿」
「親身になってくれる美人系お姉さんの先輩が泣いてるのに追い打ちかけてくるねぇ君ぃ」
「いや、葛城先輩みたいなタイプの人というか人種はこの程度でへこまないし、そもそも気遣ったらつけあがるでしょう?」
これは直感だが、この人の素で話していないと確信している。
それはしぐさや話し方が芝居っぽいみたいな理由とは違い、本人的に相手と関わる際に楽な話し方や態度なのだと理由は無いが何故か確信していた。
そんな風に考えながら答えると、少し驚いた顔をしてワザとらしい泣き真似を辞めると、ほんの僅かに、注意をしていても気づけるかどうか怪しい程だが確かに、此方に向ける目をスッと細めて見据えてきているのが分かり、正直に言うと俺はかなり驚いた。
何故ならそれは、いきなり先輩に対して今日入ってきたばかりの一年が生意気で怒ったとかそういった負の感情の感じではない、此方を警戒するように、そして見定めるようとする感覚のそれは相手も恐らく俺の考えていることに薄っすらとだが気付いているのが分かったからである。
俺は他の人が言うには、感がものすごく鋭いらしいのだ。らしいというのはイマイチよく理解できていないからである。
何となくだが異変や場の変化を感じたり察せたりはするそれは、世間で言う野生の勘みたいなものだと教えてもらった。
実際その話を他から聞いた定食の常連に、
「お前は野生の勘が鋭いって聞いたぜ!所でモノは相談なんだが兄弟、ちょいと俺と一緒に遠出しないか?なぁに心配ねえよ!ただちょーと俺と一緒にお馬さんが走る姿を見に行くだけだぜ?そん時にお前から見てどの馬が速そうか教えてくれるだけでいいんだぜ?な?簡単だろ?」
なんて競馬に誘ってきた賭け事大好き李・ウェラン(ダメおっさん筆頭の一人)はその後来たトメさんほか大人数名に囲まれ正座で説教されていた。尚この後、普通に興味が湧いたので頼んで連れて行って貰った先で指名した馬達が掲示板を埋めた為一緒に来ていた他数名の見張り役の常連客達から大層驚かれた。
この後ウェランが賭け事に俺の勘を使おうとするのは辞めた。理由は「別に俺は金が欲しくてかけてるんじゃなく賭けた時のひりつく感じが好きだからそれを利用しようとかは思わねえな!」と言っていた。
(偶に誘われてどちらが数多く正確に当てれるかの為に誘われることはある)
ー閑話休題ー
そんな事もあり、俺自身の勘の鋭さは異常ともいえるらしいそれを、確信はしていないだろうか薄く感づいている事に俺も警戒心を上げざる負えなかった。
「へぇ?この短時間でそこまで分かっちゃうなんて凄いねぇ...まるでエスパーみたいでおねぇさんちょっと怖いなぁ~」
そういって此方の真意を探ろうとしているのだろう彼女は確かに、評価を改めなければいけない相手であろう。
だが申し訳ない、俺がここまで初対面の相手に対し適当な態度をするのには理由があるんです。
「だって葛城先輩、俺が良くお世話になってる処に屯してる駄目な飲んだくれのオッサン共と同じ人種っぽいんですから」
そう、此処まで対応が雑なのは何も勘だけでこの相手なら大丈夫であろうと考えての事ではないのだ。
飲んだくれみたいな相手に単に真面目に対応するのが面倒だからである
そう言うと彼女は今度こそ本当に心の底から驚いたようで、此方を呆けたように見つめる事数秒。俯いて肩を震わせ始めたかと思うと、腹に手を当てながら大きく笑い始めた。先ほどの大爆笑のように形だけではなく、本当に面白おかしくて堪らないというように笑う葛城先輩の顔は晴れやかな満面の笑みを浮かべており、笑い声もよく通る鈴のような声で笑っていた。
そうしてどう反応しようか困っていると、未だに笑っている彼女の後ろから新たな人影が歩いてきているのが見えた。
見た目は葛城先輩よりも青みがかった黒っぽい銀髪で背も高くスレンダーな体系をしており、今時珍しいとされている銀のフレームをした眼鏡をかけているレンズの奥には少し釣り目気味の髪色によく似た色をした瞳があり、その目線は未だに笑っている葛城先輩を見据えていた。
「仕事を放りだして居なくなったと泣きながら謝られた班の子達を宥めて、他の班の方達に私が探しに行く間の指示をしてから彼方此方探し回って、次の指示を出す時間になって急いで戻ってきたら、当の張本人が仕事場の上で堂々とサボりながら一年生に絡み始め、かと思えば此処全体に聞こえるような大きな声でそれはそれは楽しそうに笑っている現場を見た私ですが...さて、私はどうするべきでしょうか?アルファ学院高等2年工学部特殊整備学科所属かつ第11格納庫及び第7特殊整備班統括責任者及び2年整備班最高責任者のアメリア・葛城さん。あぁいえ、リーダーとお呼びした方が宜しかったでしょうか?」
本院の言う通り探し回ったというのは、額に僅かに浮かんだ汗を拭う姿で真実だと分かるが、当の本人はただ淡々と、其れこそ機械の方が感情を込めて喋れるのではないかという程に抑揚無く一切の息継ぎなしに言い切った。本人の声もとてもよく通る凛とした声な事もあり、一層の不気味さを感じさせた。
彼女とは初対面だがそんな俺でも勘など関係なしに分かる事がある。
間違いなく怒っている、其れもマジ切れやブチ切れの類であることはその体から放たれるプレッシャーや空気の冷たさでそれはもう良く理解できる。
だがそれに反して先ほどから一切動かない表情や感情が全く込められていない口調がより不気味さや恐ろしさを際立たせていた。
ただ、葛城先輩の背に向けられている目はそれはもう冷たい目であり、一周回って何も感情が込められていないようにすら見えるその目は、養豚場のブタでもみるかのように冷たい目をしていた。
『かわいそうだけど、明日の朝にはお肉屋さんの店先にならぶ運命なのね』とか言い始めても違和感がない程に感情の込められていない目を向けていた。
尚俺の後ろで葛城先輩の圧に負けたのか黙っていたエドを含めた男連中は、彼女が一歩こちらに近づくたびに後ろに下がっており、最初の一から10歩ほど離れた位置に離れていた。エドータスお前もか。
そして現在そんなヤベーイ様子の人の怒りの根源であり、話しかけられた張本人は声を掛けられた瞬間から固まって動かなくなっていた。表情も笑っているときのままだったが、顔は危機を察知してか僅かにひきつっており額には冷や汗が浮かんでいた。
そんな風に見ていると彼女が目線を合わせて救難信号を出してきた。
(後輩君、此処は一つ可愛くて美人な先輩を助けると思って...)
(絶対嫌です自分で何とかしてください)
(即答?!少しくらい迷っても良いんじゃないかい)
(何が悲しくて初対面の変人を助ける為に、真っ当に怒ってる人を止めなければいけないんですか)
(そんな?!ただ私はちょっと飽きてきたから気分転換に購買に行ってから外で昼寝して、部下が頑張って仕事してるか上から見下ろそうと思ってきたら、初々しい一年生の子達が居たから粉を掛けていただけの幼気な少女なのに!)
(どこをどう取っても有罪だわ何考えて許されると思ってんだアンタ、大人しく自分の罪でも数えてろ)
(いやだ!私は今処で終わるわけには...ッ?!「そうだ後輩君!!!今助けてくれたらおねぇさんちょっとエッチなお願いも聞いてあげるよ!度が過ぎない程度の若いリビドーをぶつけられる美人の先輩だよ?!」
「あんた自分すら身売りするとかどんだけ叱られたくないんだよ?!ただサボりたくてうろついてただけなんだからいい加減諦めろよ!それはそれとして結構ですのでお引き取りください」
「そんな?!じゃあ私はどうすればいいっていうんだい?!あと地味に今のは本気で傷ついたぞ後輩君!」
「傷がつこうがつかまいが知らん、それにどうすればいいって普通に大人しく叱られてれば良いんじゃないっすかね?」
「君に人の心は無いのかい?!」
「そっくりそのままお返ししますよダメニタ・葛城先輩」
「ダメニタッ?!い、いやだ!こんなの、こんなのって...?!」
「お前が始めた物語だろ」
「い、いやだぁ!!叱られたくないぃ!!!誰か、だれか居ませんか?人が死にそうなんです!誰かぁ!」
「つまり、特に理由もなくサボった挙句、今日入学して色々と見学したかったであろう一年生にダル絡みをしていたという事で宜しかったでしょうか。アメリア・葛城リーダー」
「「あっ...」」
最初はアイコンタクトだったが、いつしか互いに口に出ていたようだ。というかこの人その日出会ったばかりの相手にアイコンタクトで意思を伝えて、相手の思考も正確に読み通るとかやっぱり普通じゃない。
そんな風に思考を回していると、部下と思われる彼女はツカツカと距離を詰めると、葛城先輩の頭を左右から抑えて持ち上げた。
俗にいうアイアンクローである。
食らっている本人は妻女、「あぁー!?」とか「つ、潰れる!頭が縦に!」だの「後輩君、時が見える」だの言っていたが最終的には浜に打ち上げられた死に際の魚のように時折ビクンビクンと弱々しくのたうつだけのものになった。
それを確認すると、彼女は両手の力を緩め、あっ今ゴンッ!ってすごい音なったな。緩めるて獲物を地面に放り捨てると此方へと一直線に足早に近寄ってきた。スワッ今度は俺が餌食になるのかと身構えていると、彼女は少し離れた位置で止まりこちらに頭を下げてきた。hwy?
困惑していると彼女は頭を上げると、此方に目を合わせてから、後ろの俺一人を置いて逃げた弱き者を見渡してからもう一度目を合わせてから口を開いた。
「この度は皆さんの記憶に一生残る大切な日である入学後の見学を、此方の不手際で邪魔してしまい申し訳ありません。アレには後できつく、きつく言いつけておきます。此度の嫌悪責任はリーダーを止められなかった部下の上司である私の、いえ、元より今日くらいは大人しくしているだろうと高を括って目を離してしまった私一人の責任です。本当に申し訳ありませんでした」
そういって頭を下げようとする彼女を慌てて止め、彼女の言葉を否定する。
「私も後ろにいる連中もそんなに怒ってませんから大丈夫です。だからそんな簡単に頭を下げないでください。それに一年生が入学初日から変人上級生から絡まれるってのも一つの思い出になりますよきっと!なぁ!」
そう振り返って同意を求めるとみな肯定的な意見を返してくれた。それを確認してからもう一度向き直り笑いながら「ねっ?だから頭を上げてください先輩」と伝えると、表情を和らげ(といっても至近距離でよく見ないと分からない程度の変化だったが)て「お心遣いありがとうございます」と言ってきた。
一先ずは大丈夫そうだと考え、俺は改めて奥に転がって未だ蹲って悶えているアレに苦労していそうな先輩と自己紹介をする事にした。
「改めて、自己紹介を。一年防衛科パイロット専攻科所属の九十九・レイと言います。以後お見知りおきを」
「これは...すみません私としたことが自己紹介をしていませんでしたね。アルファ学院3年生工学部特殊整備学科所属のリース・葛城と言います」
成程、彼女2年ではなく3年生の先輩で、千尋・葛城と言うらしい。成程成程、千尋・葛城さんかぁ、どっかでというかついさっき聞いた気がするんだよなぁ...
え、葛城?葛城って言うと奥の方でゾンビみたいな動きで立ち上がり始めたアレと同じ葛城?
アレと同じ血が流れてる葛城?????
「どうされましたか?」
情報が完結せずギャグみたいに固まった俺を心配するように聞いてきた声で我に返った俺は、ゾンビみたいな動きをしているアレの姉にあたるような人には到底見えず、素で聞き返してしまった。
「葛城先輩...あぁはい千尋さんの方ですね。貴方は今出来の悪いゾンビみたいな動きをしているアレのお姉さんという事でしょうか...?」
そう聞くと少し意外そうな顔をしてからこちらの質問答えてくれた。
「あぁいえ、確かに姉妹ですが書類上では妹になりますね」
「あーぁ...ん?書類上は?妹??」
「はい、ほかの方からも時折聞かれるのですが彼女とは直接的な血の繋がりはありません。遠縁の親戚ではあるのですが血の繋がりでいえば殆ど赤の他人と変わらないようなものです。名前の方は事情が有り私が養子として彼女の家に引き取られたから同じになっているからですね。最後に妹といった事ですが、確かに私の方が数か月早く生まれているだけでほとんど差がありませんし、家を継ぐ際血の薄い私が他所に嫁ぎやすくするための処置ですね。それに本来なら彼女も三年生なのですが、まぁ、いろいろありまして...」
軽い気持ちで聞いたがどうやら色々事情が有ったようだ。無神経に訪ねた事を謝罪すると、「気にしていませんから」とさっぱりした様子で言われてしまった。どうやら本当に気にしていないようだ。
「しかし驚きました、パイロット専攻科の方が葛城の名を、それも彼女本人に出会って何も反応を示さないなんて...だから気を許した?いや、彼女がそこまで分かりやすいい人なら私もここまで苦労しないのですが...」
そう小声で俺とゾンビ、失礼、葛城先輩を交互に見やりながら考え込んでいた。
そんな彼女によろよろと近づき、がバッと音がしそうな勢いで縋りつくとメソメソと泣きながら抗議の声を上げ始めたゾンビ。
「うえーん!チーちゃんあんなに強く締め上げて、それから地面に捨てるなんてひどいよぉー!」
「誰がチーちゃんですか。それよりもサッサと持ち場に戻ってください。貴方のせいでスケジュールに遅れが発生しているんですから」
「んーとそれなんだけどさー?それもうちょっと後で良い?だーいじょうぶ安心してよ、今すごーく調子が良いからさぁ、ね?千尋」
なんてふざけたことを言い出す目の前の駄目な方の葛城に、今度こそ絞められて殺されたいのかな?と思いながら苦労している葛城先輩を見ると大きなため息を一つはいたかと思うと、「分かりました、但し、ほかの方に迷惑をかけた分も働いて頂きますのでそのおつもりで」と、驚くべきことに許可を出した。
これにはさすがに驚いて、思わず「良いんですか?」と俺が聞くと、呆れたような、けれどどこか嬉しそうな顔をしながら「何時もなら許可は出しませんが、姉がここまで心の底から楽しそうにしていることは滅多に有りませんから。それに、彼女はやるといったことは必ずやり遂げる人間ですから」とのこと。
この人普段は相当厳しくしているようだが、多分根っこの部分では相当姉に甘いのだとなんとなーく理解できた。ただ、此方には彼女が仕事をどう片付けようが此方にはあまり関係ない為「そうですか...」とだけ答えておいた。
「しかし此処に居る君たち新一年生運がいいねぇ!入学初日でストライカー、それも一年初めだと余り関われない大型タイプの本物にお目に掛かれるんだから!」
そう言って凭れ掛かっていた体を離して手すりの方に歩き、芝居がかった口調と仕草で此方を勢い良く振り返り、最初のようなニヤニヤ顔をしながら俺たち全員を見回しながら大きな声で言い切った。
それを聞き視線と意識を眼前で静かに佇む巨人へと向ける。顔はあたんの上部が少し流線形のような形をしており、その下にはバイザの奥に光のともっていない目のようなものが薄っすらと確認できた。
「これが、ストライカー...」
思わず事が言葉が口に出る。
その言葉を拾ったアメリア先輩が笑みを深くしながら此方を試すような雰囲気で答えた。
「そうさ。これこそがかつて人類が人間同士で争うために作り上げた兵器であり、人が作り上げた最強の殺戮兵器の一つでありながらも、のちに人類の守護者と呼ばれるようになった大きな大きな大量破壊兵器さ」
「葛城先輩!そのような言い方は....!!」
エドが思わずといった様子で声を荒げ何かを言おうとし後ろの皆も口にこそ出なかったが同じような表情をしていた。その言葉と態度に対しひどくツマラナイ物を見る目を向けながらアメリア先輩が答えた。
「うーん、やっぱり君たちみたいな若いパイロット君たちはそうなるよねぇ...さて後輩君、君は私の意見をどう思うんだい?」
横でそんな風に聞かれていたが、俺の頭の中には一切入ってこなかった。俺は目の前の巨人だけを見つめていた。
この目の前で静かに佇む鋼鉄の巨人がストライカー。何百年も前の大戦で作られ今なお受け継がれる兵器。俺がここに来た理由であり、俺が生き残る為に否が応でも乗らなければいけない己を縛り付ける鎖であり命綱という、呪いのような存在。
俺には過去の記憶が一切ない。だが何故だ?何故コレを見ているとひどく懐かしい気持ちになる?何故こんなに胸を掻き毟りたいような、泣きそうな程の思いに駆られるんだ?何か大切なナニカがすぐそばにあるよう、遥か遠い場所にあるようなそんな気持ちになるんだ?
何故「後輩君?!」
何か焦ったような大きな声っとともにガッと肩を掴まれるような感覚に襲われて、俺はようやく正気に戻った。
見れば其処にはひどく慌てた顔をした葛城先輩の顔があり、いつの間にか自分は手すりのすぐ近くにまで歩いてきていたようだった。
「急に黙ったと思ったらいきなり手すりの向こうに歩いて行こうとしたから本気で肝が冷えたぞ!一体何を考えてるんだ君は?!」
どうやら自分は葛城先輩が止めていなければ向こう側に落ちていた可能性が非常に高かったらしく、ひどく怒られた。それに対して謝罪しながらも未だに俺は目の前の兵器を見ていた。
俺は名前以外の記憶がない。
俺が誰なのか、どんな性格だったのか、何故100年以上眠ることになったのかもわかっていない。
アレもないコレもない、自分が今あるものを数えたほうが遥かに早いような空っぽの人間だ。
けれど何故だろう。物的証拠も何の確証もありはしないというのにはっきりとした確信があった。
俺はこれに乗るべきだ、いや...乗らなければいけない。
たとえそれがどんな結果になろうと、俺にはその責任と義務がある。
頭ではなくもっと別の身体が、詩的な言い方をするのなら[心で理解した]とでもいうべき思いが俺の胸中を占めていた。
もう一度手を伸ばす、今度は何かに導かれるようにではなく、己の意志でしっかりと。
空に浮かんだ星々に手を伸ばすように真っすぐと、届かぬ事を理解しながらそれでも伸ばすことを辞めぬ幼子のように愚直に唯々前に向かって。
そうして俺は手を伸ばす、何も持ってはいない掌で。
そうして離さぬようにしっかりと、何かを握りしめるように強く、強く握りしめた。
今度は何も失わぬように