誰かに呼ばれている気がする。
此処は暗くて静かだ、自分以外が存在しない真っ暗な世界。
自分が立っているのか寝ているのか、目を開けているのかいないのかすら分からない。
ここは揺り籠、自分の存在が溶けて周りと同化していく。
その感覚はとても優しく、母に全てを委ねて眠りにつく幼子のように穏やかな気持ちのようだった。
そんな時だった、孤独で温かな闇を光が切り裂いたのは。
その光はとても眩しく、目を焼くほどに強く己を照らしてきた。
その光は己を自分の元に呼んでいるようだった。
けれど己はそれが嫌だった、その光は確かに己の身を焦がすほど強く辺りを照らし道を示していてけれど。
己はこの場所から離れることを強く拒んだのだ、もう嫌だ、と。
何故かは分からない、けれどあの光を自分は知っている気がした、そしてそれに強く惹かれると共にそれを拒絶したのだ。
そんな自分を尚も呼ぶように光は強く、強く輝いた。
まるで母から離れるのを嫌がり愚図る子供のようにしていると、突如自分の体を包んでいた暗闇が離れていくのを感じた。
光によって引き剝がされたのではなく、まるで子供の背を押す親のようにそっと背中を押されるような感覚だった。
自分は振り向きどうしてと尋ねようとした、けれどもそれは答えてくれなかった。
それらはまるで、一人旅立つ子供の背を見送る親のような俺を送り出す事の寂寥感と、それ以上に優しい感覚でもって送り出したのだ。
「お別れの時だよ」と、そういわれた気がした。
それを感じた俺は、暗闇に手を伸ばすのをやめた。
この一人静かで真っ暗な、けれど決して孤独ではなかったこの場所に別れを告げる時が来たと理解したのだ。
だから後ろを向くのを止め、光の方へと進み始めた。
迷いを振り払うように。
孤独に蓋をするように。
決して振り返らぬように。
強く、強く前と進み始めた。
光に近づくごとに暗闇と混じり不明瞭だった身体が少しずつ、だが着実に形作られていくのが分かった。
光によって浮き上がり作られた足で地を踏み、その眼で光の奥を見定めるように前を向き続けた。
そうして遂に光の元へとたどり着いた俺は直感した、此処から一歩踏み込めばもう後戻りは出来ない、帰ってこられないと。
遠く離れた暗闇が俺をしっかり見ているのが分かる、我が子の巣立ちを見守るような温かさをもって静かに見守っているのを感じる。
けれど己に振り返るなと強く念じ、目から溢れた雫を乱暴にぬぐい一歩踏み出しながら言葉を紡ぐ、別れの言葉に万感の思いを込めて。
「行ってくる!」
「行ってらっしゃい、レイ」
聞こえた声は沢山の人の声が重なった声で耳に響いた。
踏み出し前に進んだ体は水底から一気に引き上げられるような感覚で光の奥へと強く引っ張れる。
視界が周り上下が分からなくなる。
酷く長くも感じもするし、一瞬とも思える時間にも感じる最中、意識が遠のくようにも覚醒するよう感覚がして俺は...