私に銀の弾丸を、貴方に百合の花束を   作:山本珈琲

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説明回


EP_005 理解

 

 目覚めた後の状況は此方に負担を掛けないようにしながらも、怒涛の勢いで変化していった。

 

 まず説明されたのが何故己が此処に居て、何故声を出す事すら儘ならないような状態なのかについてだった。

 説明は名前を告げた後、これ以上は負担が掛かりすぎると言われ眠らされ、目覚めた次の日の昼頃から行われた。

 そうして己に会いに来た医師は、硬い表情をしながらこれからいう事は質の悪い冗談や与太話ではなく、純然たる事実です。と前置きしてから語り始めた。

 

「まず貴方の身体や記憶の状態を説明するには、貴方自身が何故此処に居るのかを説明せねばなりません」

「もう一度言いますがこれからお伝えする事は、我々が現状貴方について知っている純然たる事実であり、その事から推測される現状の貴方の状態に対してです」

「まず、我々が知りうる貴方の情報からお話しします、焦らず、落ち着いて聞いてください。良いですか?」

「貴方は長い、とても永い間眠っていました。その長さですが正確な数字は分かりませんが凡その期間なら判明しています」

「貴方は、200年近く眠っていました」

「……そう、ですね。そう言った何を言っているか分からないといった反応をされると思っておりました。ですがこれは冗談でも何でもなく、現在判明している確固とした事実です」

「えぇ、普通はそんな長い期間人は生きられません、ですが貴方が見つかったとされる場所は、人を冷凍し眠らせる装置、コールドスリープといった方が分かりやすいですね。ともかく貴方はそこで発見されたとされています」

「この情報は、我々も貴方が此処に運ばれた際に政府の方から伝えられた事なので証拠となる物はお出し出来ませんが、実際貴方が運ばれた後にそういった場所が発見されたとニュースで流されていたので、ほぼ間違いないと思っていただきたいのです」

「これが貴方が此処に居る理由となります」

「ここは世界でも有数の医療設備がそろった最高峰の病院でして、今まで前例のないコールドスリープされた人間である貴方が運び込まれたのもそれを鑑みるに納得できる事柄かと思われます」

「……想定よりも落ち着いていらっしゃいますね? おや、失礼少し近づきますね? えぇっと、「200年とか余り実感がわかない」? そうですね、我々も最初は驚いたものですよ、何せ先ほどお伝えした通り前例がありませんでしたので」

「話を戻しますと、貴方は150年以上、恐らく180年といったところでしょうか? 

 それほどの長い期間冷凍保存されていたのです。此処に運ばれた際に色々と調べさせて頂きましたが命に関わる目立った外傷や病気もなし、むしろ健康体そのものでした」

「ですが、脳に損傷は見られなかったにも拘らず、何をしても目覚めない貴方の状態に我々も困惑しました」

「どれだけ調べても、それこそ脳以外のあらゆる体の部分を、それぞれの分野において天才と言われる医師たちが最新の医療機器を駆使して調べましたがどれもオールグリーン、問題なしという結果しか出ませんでした」

「その際に分かったことなのですが、貴方の身体情報から得られたデータがこちらになります」

「レイさん、貴方の身体から得られたデータによると貴方の年齢は15,6歳前後で、体全体に火傷・裂傷に、刀傷と思われるものや銃弾による傷が複数個所発見されており、尚且つご自身の身体ですのでお気づきでしょうが貴方の左腕、正確に言えば肘から先である前腕部分が存在しませんでした。こちらも検査によると産まれ付きによるモノではなく、何らかの理由で切断といった外的要因によって損失したものと考えられます」

 医者は苦々しい表情で言った。

 確かに今日の朝方に、上体を何とか起こした際に左腕が無いことに気が付いたが、それに対しての感想は「あれ? 左腕ないんだ自分」といった程度の感想しか浮かばなかったモノだ。

 医者に簡単そう告げると、どこか悲しそうな眼をしながら、というか後ろの看護師に至っては涙を流しながら顔を背けられた。なぜ? 

 そう思っていると医者は、(名前をゴートンと言うらしく、朝あった別の看護師曰く世界的に見ても優秀な医師で、尚且つカウンセラーの資格をもった凄い医者らしい)重々しく口を開いた。

「ここからは推測の域を出ないのですが、恐らくですが貴方は16歳という年齢で戦場に、それも調べたところそれぞれの傷跡ができた期間に差があるとの結果が出ており、それを踏まえた予想ですが、”君”は10代前半という少年と言っていい年から、真面に治療も受けられないような激しい戦場に、それも長い期間駆り出されていたと推測されます」

 そう語るゴートンさん顔は酷く苦しそうな顔をしていた。

 だが自分の感想は「へー、大変だったな昔の自分」位なもので特にこれと言った感想は特になかった。

 だってさ? 他人から「君は覚えてないけど酷い環境で育ったんだよ」と言われても、それを覚えてない人間にその出来事を自分の事のように苦しそうに言われてどう反応しろというのか。

 それを簡素に伝えると後ろの看護師さんは遂に嗚咽を漏らし始め、ゴートンさんは「君は強い子だね」と言ってきた。

 イエ、全く自分の過去に実感が湧かないだけなんです。とは流石に言える雰囲気ではなかった。

 暫くすると「取り乱して悪かったね」と前置きしてからゴートン氏は続けてまた話し始めた。

「君が眠っていたおおよその期間を割り出せたのは、君の身体の傷に合致するような人間同士の激しい戦争が約180年前にあったからなんだ。

 そして当時の技術力からしてコールドスリープも不可能ではないと判断した我々は、原因不明で眠り続ける君に対し我々は一つの仮説を立てた」

「それは身体的な問題でなく、精神的なものによって眠っているのではないかというものだ。通常なら考えつかないことだが現状いくら調べても一切理由が判明しない状態に対し一度区切りをつけ、何か問題が起こった際に対応できるように体制を整え見守る事にしたのだ」

「そうしてデータを観察しているとここ数日君のデータに僅かだが揺らぎが発生していることが確認された」

「目覚める事は無いかもしれないと言われ始めたころ、君は目覚めたんだよ、レイ君」

「そしてこれも憶測だが、君の記憶が戻らないのは精神的なものによるものではないかと私は考えているんだ」

「実際、心に大きな傷を負う程の出来事に直面すると、その記憶に蓋をして自我を保つ例も確認されているんだ。

 だから私は君の記憶が戻らない原因を、コールドスリープによるものか、精神的なショック、又はその両方が原因とみているんだ」

 ゴートン医師はそう自分に対し、何故ここにいるのかとを伝え、そこから考えられる記憶がないことに対する推測を述べた。

 そうして自身を取り巻く現状を伝えられた己の心境は驚く程凪いでいた。

 これには何より自分自身が驚くと同時に納得した。

 要約すると、記憶喪失の貴方は100年以上前の人間で、少年兵として酷い環境で過ごしていた可哀想な子ですってのが伝えられたのだ。

 はっきりいって情報量の暴力である、訳が分からないよ。と言うのが素直な感想である。

 記憶がない事に対しての反応も今は落ち着いている、そりゃあ不安だよ? でも、そもそも自分が100年以上の前の人間で、しかもゴートン氏の口振りからするに自分以外に眠っていた人間なんかは運ばれてきていないと分かる。

 ぶっちゃけると正直に思ったのは「記憶が有ろうが無かろうがあんまり変わらなく無いか?」と思ったのだ。

 昔の自分を知っている人は生きてないし、そもそも180年、つまり1世紀以上すぎた世界なんて、もう別世界のようなモノでは? という考えが過ぎったからだ。

 確か過去を思い出せないのはに不安だ。だが、現状こうやって思考出来るのは、所謂思い出といものが思い出せないだけで常識的なものは恐らく欠落していないからじゃないかなと考えている。(実際の所は調べないと分からないが)

 現状最も不安なのがこれから先のことである。

 先程ここは世界最高峰の病院で、そこに集まった世界的に名の知れた医師が集まっていると言っていた。そしてそんな医師達が己の為に最新鋭の医療機器を使って治療をしていた旨も語っていた。

 世界最高峰の病院で、これまた世界最高水準の医師達が、最先端の医療機器を使ってである。

 掛かった金額を考えると眩暈と吐き気がしてきた。金なし所か帰る場所すらない己にとてもじゃないが払えるとは思えない。

 そんな状態の変化に即座に気づいたゴートン氏が酷く申し訳なさそうに「すまない、こんな話をして。ショックだっただろう?」と悔やむように言ってきた。

 すいません多分貴方が考えているようなご高尚なモノじゃなくてもっと俗物的なモノのを考えてただけなんです。とは流石にこんな雰囲気でストレートには言えず、できる限りオブラートに、過去の事については気にしていない、今後自分がどうなるのかが不安だという旨をボカして伝えた。

 そう伝えるとゴートン氏は酷く感動したような、何処か痛ましいモノを見る目で、看護師は感極まったように「大丈夫よ、貴方を誰も見捨てないわ!」と言って涙ながらに頭を撫でてきた。

 ヤメテッ! 貴方達を気遣って言ったりとかそんな健気なモノじゃなく、ホントに気してないだけなの!! だからそんな感動的なシーンみたいな反応をしないで!!! なんか罪悪感で潰れそうだから!!! 

 

 そうしてその日の面談はこれ以上の自分に対する負担を鑑みて終了され、俺はなんとも複雑な気持ちのまま眠る事になった。

 

 その翌日、「よく眠れたかい?」と言いながら1人で入室したゴートン氏は、暫くした後に昨日の質問に穏やかに答え始めた。

「君の入院に関する治療費なんかは気にしなくても大丈夫。政府が全額負担することになっていてね? だからそんなに気を揉まなくても大丈夫」

 その答えに驚いて思わず上体を起こしながら質問した。

 |「な、んえ、そこま、でしてくうぇれるんでそうか?」《なんでそこまでしてくれるんでしょうか?》

 上手く回らない口を懸命に動かし発音する。

「それはねレイ君、君人道的にもが歴史的にも重要な立場になるからだよ」

「じうおうなたち、ば?」

 はて? 記憶が無いから当たり前なのだが、心当たりが全く無い答えが帰ってきた。

「そう、君は記憶喪失だが君そのものが嘗て行われた人間同士で行われた大戦の悲惨さと愚かさを認知させうる存在なんだ。最近の世界情勢は少し雲行きが怪しくなっていてね? 世界的なテロ集団が最近急速に勢力を拡大していて、それに対して世界全体で軍備増強が行われると同時に兵器を横流ししている場所を探し出そうとしているのが今の世界情勢なんだ。勿論表立って動いている訳では無いけれどそれも何時まで続くか.」

 そう語るゴートン氏は溜息と共に続けて語った。

「そんな中、世間に君の存在が知れたら今の情勢は一変する可能性があるんだ、戦争の悲惨さの実例として公表すれば世論は戦争反対に一気に傾きうる」

 そこで1度区切ると、彼は初めて見せる侮蔑の表情を浮かべながら呆れたように続けた。

「それだけじゃない、君は当時の戦争を経験した少年兵だ。そんな人間同士の大規模な戦闘を経験した悲惨な境遇の少年が、「O.R.A」に入学して人類の守護者の1人として立派に成長したら? それはそれは大衆好みの美談として語られるだろうね。君を入学させた大人達の名前と一緒に」

「おー、ある、えぇ?」

 初めて聞く単語聞き返しと、彼はハッとして表情になり少し申し訳なさそうに答えてくれた。

「あぁすまない、君の頃にはまだその名前ではなかったのかな? 嘗て異星人と戦う為に作られた組織「オメガ・レジスタンス」という組織が

 あったのは覚えているかい?」

「おめが.」

 何故だろうか、その名前を聞いた瞬間、胸がザワつくような感じがした。

「今から300年程前、レイ君の時なら150年程前かな? 人類同士で戦争していた所に突如として現れ、人を絶滅寸前まで追い込んだ異星人に対抗する為に結成されたとされている組織の名前だよ」

「当時の文献は殆ど残っていなくてね? 最近では異星人の存在も人が作った兵器の存在が、歪んで伝えられたんじゃないかって説も支持され始めているんだ」

 ゴートン氏はそう言った後「すまない、話が逸れたね」と言ってからまた話し始めた。

「終戦直後は国家が成り立たない程に悲惨な状況だったらしく、それらの代わりに旗頭となり人々を導いたのが、当時最も多くの人が所属し組織として唯一残っていたオメガだったんだ。そうして選ばれたのがオメガの上層部数名と、英雄とされる「シルヴァ・バレットチーム」の生き残り、組織の中でも特に有能だった他数名を基軸とした組織として新たに生まれ変わったそうだ」

「そうして作られた組織は連綿と受け継がれ、君が経験したと推測される戦争の「第四時世界大戦」もしくは「新第1次世界大戦」と呼ばれる事件を切っ掛けとした様々な事情を元に徐々に組織の形態を変化させ、遂には軍事力を持った世界政府という形から、世界政府傘下の軍隊教育組織へと変化したんだ、表向きにはね」

「そう言った事が今から約150年程昔にあったらしく、それ以降世界の軍事力であった「オメガ・レジスタンス」は、頭文字を残して再度侵略者が来た時に備えて人を育てる新生組織「オプティマス・レンジャーズ・アカデミー」通称「O.R.A」に姿方を変えたんだ」

「君を支援している連中は、表向きは人類の守護者であるストライカーパイロットを育成する組織であるO.R.Aに君を入学させた後、世間に対してこう説明する気なのさ。

「少年兵として悲惨な境遇を過ごした10代の少年が、それでも人類を守る為に再び武器を取る事を自ら選んだ。そしてそれに感銘を受け、その少年に対し無償の支援しているのが我々である」とね」

 そう言ったゴートン氏は心底軽蔑するような表情をしていた。

 自分をそういった思惑で支援している人間に対して思ったのは、彼のような人を自身の地位を向上させる為の道具として利用しようとするのに対する侮蔑ではなく、むしろ感謝であった。

 だって身元不明、出自不明の薄気味悪い10代のガキを、様々な思惑があれど無償で生活を保証し、更には世界でも有数の学園にまで入れてくれるのだ。右も左も分からない現状で、名声を得る為に利用するだけで生活を保証してくれるのなら幾らでも利用して頂いて結構だった。

 その旨をゴートン氏に伝えると、少し顔を歪め「そうか.本当に君は強い子だ」と言ったあと今後の予定を伝えてから看護師に呼ばれ部屋を出ていった。

 

 なんとか現状を理解し頭の中でもやらなきゃいけないリストを作成し第一の目標を決めた。

「身体を動かせるようにする」

 これを目標として明日からリハビリする事を決めてその為に早速行動を開始した。

 

 色々考えて疲れたから取り敢えず一旦寝て、明日に備えよう! と。

 そうして目を閉じ一先ず寝る事にした。

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