---side 零---
オッス!オラ零ってんだ!実はオラ、なんやかんやあって100年以上昔にコールドスリープで眠らされて、年齢約116歳で高校に入学することになった男なんだってばよ!
はい、誰に向かってしてるのかわからない挨拶は此処まで。改めて状況を整理しよう。
私は今、密着しないと2人乗り出来ないようなさっきサイドカーの上で出会って1時間もしない同年の女子を膝の上に乗せ、学園の入学式に向かうという誰も経験した事無いような高度なプレイをしながら人畜無害な羊のような、何食わぬ顔をしなければいけない(やり遂げれたは言ってない)という新手の拷問を経験した哀れな思春期真っ只中の一般コールドスリープ男子、九十九 零です。(自己確認)
そんな私は今、膝上に乗せることになった件の少女、朱羽 響ちゃんに、引きずられようにされながらお手手繋いで学園の窓口に爆走中です。
いや、なんで?
いや、惚けるのは止そう。恐らくだがこの子は先ほど起こった不幸な事故、事故か?いやまぁ事故で良いか。兎も角先ほど起こったツクモ建設違法建築事故の記憶はスッポリ抜けているらしい。まさかこんな形ゴートン氏が言っていた、ショックによる記憶喪失で本当に人の記憶が飛ぶことを体験することになるとはこの李白の(割愛)。
なにはともあれ、騙しているようで気が引けるがあの事件の事は無かったことにすることにした。(哲さんは面白がって弄ってこようとしたが、最近皆にバレない様に付き合い始めた彼女さんとの事をボソッと言ったら真顔で引き下がってくれた。持つべきものは友の秘密だね!)
流石に俺も入学初日から、入学式に向かう道で女子を膝に乗せて勃うぅッん!違法建築した変態男の呼び名は御免こうむりたいし、下手に伝えて俺に対して嫌悪感を示すだけなら良いが、これが原因で男性恐怖症にでもなられたら流石に申し訳なくて首を括りかねない。過失が俺にあったか微妙なところだが、こういうとき加害者になるのは基本男なのだ。世知辛いね。
そんな俺の葛藤など知らず、彼ピに対する位の距離感(まぁ実際にそうなのか知らんが)で接するこの少女についてこの短時間で分かった事が幾つかある。それを一旦纏めよう。
1,可愛い(可愛い)
2,距離がバチクソに近い(子の距離感、恐ろしい子!)
3,明るく元気(尻尾と耳を幻視するレベル、前世はワンコかな?)
4,天然(多分道に焦って迷ったり、距離感がバグってるのもこの性かな)
5,軽い(でも俺レベルでメッチャ食うらしい、マジか。哲さん談)
6,いい匂い(この女、スケベすぎる!)
7、柔らかい(とても柔らかかったです、まる)
うーん、守護らねば。違った気をつけねば。
あの距離感で接してきても不快にならないのは、一重に彼女の人徳というか人柄によるものが大きいのだろう。ああ見えて本気で人が嫌がるラインを頭で理解しているのか体感的に分かるのか(恐らく後者の可能性がヒッジョーに高いと思うけど)弁えて言る様に感じた、何となくだが。
だからこそ、かなりゴリ押しとはだったとは言えほとんど初対面の彼女にこんな砕けた態度で接しているのだと理解できる。自分で言っては何だが、俺は割と他人と壁を作るタイプらしく、(これは自分の境遇からくる無意識の行動だろうとはゴートン氏の談)気安く接する人間はその人が信頼出来ると感じてかららしい。(割と野良猫ミテェな奴とは哲さん談)
多分だが、この短時間で目の前を走っている少女が信用できる人間だと本能的に理解したからこそ、あんな風なボロが出たのだろう。
が、これについてはもういい。仲良く出来そうな友人、それも異性の可愛らしい少女であればバッチ恋、じゃなかったバッチコイなのだが問題はそこではない。
この子、いつまで手を握ってらっしゃるの?
いや分かってる。響に他意が無いのは良く分かってるがソレはソレとして距離感が可笑しいのだよ君は!君みたいな子がワンコの尻尾を幻視するレベルで嬉しいそうに駆け寄ってくるのは、可愛い子がちょっと優しくしてきたら「アレ?コイツ俺のこと好きなんじゃ」ってありもしない幻想にすがっちゃう悲しい生き物の思春期男子にとってもう薬を通り越して致死量オーバーの劇物と変わんないのよ!少しは自分の性別と外見の事を考えて距離感を考えていただきたい。by被害者の会 代表 九十九零
冗談はさておき、この様子だと友達になった己に対して彼女は今と同じような感じで接してくるのがもう分ってしまう。思春期の少年少女が集まるこの場所でだ。
入学式に二人でやってきてそんな距離感で過ごす二人を見たら周りがどう思うか?答えは簡単、付き合ってると思うだろう
そうなったらお終いだ。俺はウェルカムだが問題は彼女の方だ。もし万が一この学園で好きな人が出来た場合、告白するにしても噂と実際の姿が邪魔になるのは明白だ。だからこそ響には女子高生としての男子との適切な距離感と節度を弁えて頂きたい、いや割ととマジで、じゃないとこっちがヤラレル。
なんて阿呆な事を考えていると、受付の建物が見えてきた。かなりの速度で響も俺も爆走していたのに到着まで結構な時間が掛かってしまった。確かに響の言う通り急いで正解だった。反省
二人でその建物に二人して入ると、響は受付の女性に息も絶え絶えに話しかけた。俺の手を繋いだままだが。
「すみ、すみま、すみません。入学氏の受付を、お願い、します」
その様子に少し驚いた受付さんだったが、すぐさま笑みを浮かべると「承りました。では、入学許可証をご提示いただけますか?」と伝えてきた。
その言葉に「ハイ!」と元気よく伝えた響は自分のカバンを探ろうとしてソコで初めて俺と手を繋いでいるのに気付いたようで、「ひゃあ!」と言いながら、後ろにキュウリを置かれて飛び上がるネッコのように俺から跳ねるように離れた。(その際に頭を後ろに勢いよくぶつけたようで後頭部を抑えながら「う~」と呻いていた。痛そう)
ぶっちゃけ俺の心境は、「エッ今更?」という困惑と、「この子、この様子だと手を繋いだのも無意識だったんか...!」という一周回った畏怖の念の二つであった、ホンマ恐ろしい子やで。
そのコントのような様子が面白かったのか受付さんが「フフッ」と思わずといった感じで笑い、それを受けた響が更に顔を真っ赤にしながら「お、お願いしましゅ!」と財布から取り出した入学許可証を受付さんに出した後、生徒証と端末を受け取りヒュッンと音がしそうな速度で部屋の隅っこに行ってしまった。
それを微笑ましいモノを見たような表情で見送った受付さんに俺も「お願いします」と言いながら入学許可証を手渡した。それを受け取った受付さんが機械に許可証を通した後、そこから出てきた俺の学生所と端末を淀みない動作で確認しながら渡してきた。
「可愛らしい彼女さんですね?」
そうニッコニコの笑顔で部屋の隅で「あ~」とか「う~」言ってる何やら真っ赤になって溶け始めた可愛いモノを見ながら言ってきた。
「可愛らしい生き物なのは全面的に肯定しますけど、生憎と交際関係じゃないですよ」
そう俺が言うと凄まじく驚いた顔をしながら口を開いた。受付さんそういう顔も出来るんすね。
「あの様子で?」
「あの様子で」
「あの雰囲気で?」
「あの雰囲気で」
「年頃の男女があの距離感で?」
「年頃の男女があの距離感で」
「手も仲良く繋いでて?」
「手も仲良く繋いでて」
「やっぱり付き合って?」
「(付き合って)ないです」
そう言うと受付さんは「うっそー...」と言いながら俺と推定響と思われるスライム上の生物(後でどうやるのか教えて貰お)を交互に見てきた。受付さんもそう思う?俺もソーナノ。
「ついでに言うと今日初めて会って、会ってから1時間も経ってない位の友人です」
「アレで未だ1時間位しか経ってないの!?」
そう素で驚いた反応をした後、ハッとした表情を見せた後咳払いをすると「失礼、取り乱しました」と告げると響を呼び寄せた。
いつの間にやら人型に戻った響がチラチラと此方を上目遣いで横目で見ながらおずおずと俺の隣に戻ってきたが、先ほどに比べると少し距離が遠いがやはり近い。駄目だコイツ(の距離感)、早く何とかしないと。
それを見て此方を未だ疑うような視線で見てきた受付さんだったが、すぐさま切り替えると入学式の行われる場所への道案内表と、今日のこの後の流れが書き込まれたデータを先ほど配られた端末に送り説明してくれた。やはりプロなのかその説明は分かりやすく一度聞いて理解できた俺たちは、「分からないことがあれば質問を。もし後で分からないことが有れば端末のデータをご確認下さい」との言葉に「大丈夫です、ありがとうございました」と告げ建物を後にした。(しっかり説明したのに、最後の方に目で「やっぱ付き合ってますよね?」と言われたのが分かった。解せぬ)
「私は1年B組だって、九十九君は?」
「俺?俺は~、あぁ、同じ1年Bだって」
「ホントに!?良かった、実は別々だったらどうしようって不安だったんだぁ」
そう言ってズイッと下から覗き込んできた響の頭をグイっと手で押さえつけて離した。(その際、「あぅ」と鳴き声を鳴らした。)
「さっきも思ったけど響、お前ちょっと異性に対して距離感可笑しいぞ?」
そう呆れたように言うと顔を少し赤くした後に急にしゅん...となった。ホントに内心分かりやすいなコヤツ。
「その、御免なさい。ずっと憧れてきた場所だけど、地元から離れて心細かった時に初めて作れたお友達だったから。つい嬉しくて、その、急に距離を詰められて嫌だったんだよね...?」
そう的外れな事を言いながら俺から離れ足早に先に行こうとした響の手をガッとつかんで止めた。
それに驚いて此方を振り向いた少し涙目を浮かべた響の顔に近づくと、何やら慌てている彼女の頭に俺は躊躇なく...
割と本気目のチョップを落とした。
隙だらけの所を、俺の芯を捉えた情け容赦ない攻撃に「痛ッたぁー!」とうずくまった彼女を見下ろすように仁王立ちで見下ろした。
明らかに怒っている俺の様子に、痛みもあって捕食者を前にした小動物の様にプルプル震えている少女と、それを明らかに切れている男が見下ろしている現状は、第三者的に見たら大分危険な絵面だが知った事ではない。
零は激怒した。必ず、かの天然距離感バグの女を説教せねばならぬと決意した。零には女心がわからぬ。零は、100年間眠っていた男である。リハビリをし、医師と常連客に勉学や一般常識を教えて貰い暮して来た。けれども容赦なく怒って良い阿呆に対しては、人一倍に敏感であった。
暫くそうやって見下ろしていると響は痛みが引いたのか己の愚かを棚上げしながら抗議してきた。頭が高いぞ貴様。
「何?!?!なんでいきなりチョップしたの?!」
ほう?この女、どうやらまだ理解できんらしい。良ろしい、ならば肉体言語だ。
そう決めるが否や両手で響のちっさい頭を両手で持って力を籠める。最初は何か分からなかったようだが響も即座に頭に加えられる痛みによって何をされているのかすぐさま気づいたようだ。
そう、俗に言うアイアンクローである。尚、今まで酔っぱらった大の男共を地に沈めてきた歴戦の輝かしい実績もある為、威力は折り紙付きである。
そうして徐々に力を込めていき「痛い痛い痛い!」と言いマジ泣きする一歩手前で力を緩めてやる。(また阿呆な行動を起こされない為に手は離さんが)
暫く涙目で「頭が、頭が割れるぅ」と言っていたが、痛みが引いてきたのか此方をキッと睨むが、未だに自身の頭に添えられた手に気付いたのかまたプルプルと震え始めた。
その様子を見て一旦落ち着いたと判断した俺は説教を始めた。
「まだ分からんかこの馬鹿チンが」
「馬鹿?!今バカって言った?!?!」
「おう言ったぞこの馬鹿、なんか文句あんのかバカ、喜びの余り異性との距離感も分からんくなったバカ、もうほんとにこの馬鹿」
「4回もバカって言った!」
「馬鹿がいやなら阿呆と呼んでやるぞこの天然距離感バグの阿保」
「酷い!お兄ちゃんにもチョップされて罵倒された事ないのに!」
「お前はどこの天パの新人類だ」
そうやって一しきり言い合った後、はぁ...とため息をつくと、この際面倒なので全部言ってやることにした。
「まず一つ目!余りにも距離感が近い!!同性の友人ならともかく、異性の、それもあって1時間もしないような奴相手に警戒心なさすぎだ己は!」
「でもツクモ君は私を助けてくれt」
「シャラップ!デモも案山子もあるか!適切な距離感を保て適切な距離感を!風情が無い!そして次!!!俺がなんも言ってないのに勝手に自己完結すんな馬鹿がよ!」
「バっ!?だって私が近づいた時イやそうな顔してたし...」
「アレはイやそうな顔じゃなくて呆れた顔つーんだよ阿保んだら」
「また阿保って言った!また言った!!!」
「じゃかあしこの天然ボケ女!一辺自分の行動を振り返ってから適切な距離感だったか考えてから反論ししやがれ!」
「それは...」
そう言って考え込む動作をした後、どんどん顔が赤くなっていくのを見て俺は安心した。よかった、ちゃんと異常な距離感で接しているって自覚と恥じらいは有ったんだ。
「わ、私なんてことを...?!」
「おう自覚したか距離感バグ女」
「れ、"レイ"君違うの!?普段はあんな」
「”レイ君”ねぇ...普段通りじゃないってホントでござるか?」
「...ッー!!!」
やべ、揶揄いすぎた。まぁ、自覚できたっぽいしそろそろ良いかな?
「別にそこまで気にしちゃいねぇよ俺は。ただ適切な距離感を心がけようなって話。あーゆーおけー?」
「う、うん。これからは気を付けます...」
そう言ってうつ向いた姿を見て、ようやく分かってくれたと思った直後、ゆっくりと顔を上げると最後にトンデモネェ爆弾発言を言いやがった。
「これからは、レイ君って呼んでもいいかな?」
やっぱこの女反省してないのでは?
今回、響ちゃんの距離感バグってた一番の原因は、自己嫌悪で落ち込んでたら颯爽と現れて助けてくれたそこそこイケメンの男に情緒を乱され、その直後ドキッ!春のサイドカー膝上祭り(違法建築もあるよ)をされたせいで、元々異性との距離感が近かったのに、混乱してるうちに初日膝上通学とかいう高度なプレイをされて無意識的に距離感バグらされたからです。響ちゃんかわうそ...でも君は作者が弄られキャラを目指しているからね、しょうがないね。