MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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 なんか思いついたので書いてみた。


『ティアラメンツ・シェイレーン』とそのマスターの日常一コマ

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 それは当初多くのデュエリストたちからの賛否両論を生んだが。

 

 実物のデッキではなく、データによって構築されたものを用いてデュエルを行うMDはデータであるが故に手軽に持ち歩けデッキの構築変更も容易く、インターネットを用いて気軽に世界中のデュエリストたちとデュエルに興じる事が出来る様になり、そして何よりも実物よりも遥かに容易くまた安価で多彩なカードを入手出来る様になった為にプロからアマチュア、子供から老人まで多くの人々に瞬く間に広く受け入れられていった。

 

 そうしてより多くの人々がより多くのカードと触れ合えるようになったからなのかは分からないが、カードの精霊と言う一部の界隈にのみ伝わっていただけの存在がこれまた多くの人々の前に姿を現すようになったのだ。

 

 

 これは、一人のデュエリスト『稲田遊賀』とそんな彼と共にある精霊との何気ない日常を描いた物語である。

 

 

 

 

 

 なお、本当にそれだけの物語なのでデュエル描写は無いものとする‼

 

 

 

 

 

「ねぇねぇマスター、ちょっといいかしら?」

「ん? なんだ?」

 

 と、俺事『稲田遊賀』は牛乳を飲み終えたコップをテーブルに置きつつ語りかけて来た人物、蒼い装束に身を包んだ宙に浮かんでいる少女に視線を向ける。そんな視線を向けられた少女、カードの精霊である『ティアラメンツ・シェイレーン』はこれよこれと、手に持っているスマホを見せつけてくる。

 

「今度大会があるらしいのよ、出てみない?」

「大会?」

 

 なんだそれ?と彼女からスマホを受け取り、映し出されている画面に目を通す。

 

「あー…へぇ、小規模ではあるけど割としっかりとした大会だなこれ」

「でしょう? 優勝賞品だってすごい豪華だし、どう?」

 

 可愛らしく首を傾げて見せるシェイレーン。確かに、大会の規模の割にかなり豪華だ。優勝者には実物のレアカード1枚とMD内通貨であるジェムポイント1万である。見た所だと今回が初回の大会だと言うのに大盤振る舞いが過ぎると言えるレベル。それこそレベル10モンスタークラスだ、もう一体並べてグスタフからリーベしなきゃ。

 

 さらにレアカードのレア具合に依ってはもっとすごい事になりそうだ。

 

 

 けど…なぁ。

 

 

「あー、でも開催日が1週間後か…今回は無理だな」

「え? な、なんで?!」

「いやちょっと今のデッキ調整しようと思っててさ」

 

 今のデッキと相性のいいカード探して。

 どれ抜いてどれを残すか考えて。

 組んでみたデッキを回してみてまた調整して。

 で、出来上がったデッキの回し方を手に馴染ませてだから…うん。

 

「やっぱり1週間じゃ時間が足りないな、今回はやめとくか」

「ちょ、ちょっとマスター! 目の前のデュエルから逃げるなんてそれでもデュエリストなの⁉」

「いや目の前にはねぇだろ」

 

 少なくとも1週間後はそこそこある方だろ。

 

「ねぇお願いマスター。デッキ調整も手伝うわ、それに調整するならジェムポイントも相応に使うでしょ? それならなおの事出場すべきだわ!」

「おぉう、やけに食い下がるなお前どうしたんだよ」

「どうしたもこうしたもないわよ! このあたしのマスターがいかに優れているのか証明する機会なのよ!? 逃す手はないわ!」

「ほーん?」

 

 成…程?

 

 

 

 

 

 

「じゃあこの参加賞である新作チョコは俺が全部貰っても良いんだな?」

「落ち着いてマスター、ちゃんと話し合いましょう?」

 

 やっぱおめぇこれが目的じゃねぇかよ!

 

「なにが証明する機会だよただの食欲じゃねぇか!? お前頭エクレシアかよ!?」

「う、五月蠅いわね!? 誰が聖女の如く可憐で淑やかで食欲旺盛な所が可愛らしい女の子よ!? その通りだけど言うタイミングってものがあるでしょ!」

「ポジティブが過ぎる!?」

「あぁもう、そうよどうしてもこの新作のチョコが食べてみたいの! ねぇだからお願いマスター、出場するだけでも良いから!」

 

 そう懇願するシェイレーン。いやでもなぁ。

 

「デュエリストとして大会に出るならきちんとしたデッキで、ちゃんと勝利を目指して挑みたいからな。やっぱ今回は無しだ」

「そんなー!?」

 

 よよよと器用に空中で泣き崩れて見せる彼女だが、はっと何かに気が付いたかのように顔を上げると同時に俺を指さした。

 

「そうよ、それならあたしとデュエルしなさいマスター!」

「これまた唐突だなおい」

「デュエリストがデュエルを行うのに唐突も何もないでしょう! ちなみにあたしがマスターに勝ったら大会に出てもらうわ! そしてマスターがあたしに勝ったらそのデッキに調整は必要ないだろうからやっぱり大会に出てもらうわ!」

「丁寧な様で雑に逃げ道潰してきたな」

 

 ただまぁ、確かに彼女が前に見た他の『ティアラメンツ・シェイレーン』と少し、いやそこそこ…所でなくかなりに違う感じではあるとはいえ、彼女もカードの精霊。彼女に勝てるのならばこのデッキの完成度は確かなものだと言えるのかもしれない。

 

 

 それに、それとは関係なくデュエルを申し込まれて断るデュエリストは居ない!

 

 

―――システム・マスターデュエル起動

 

―――デュエルウィンドー展開

 

―――デッキデータ確認

 

―――スタンバイ・OK

 

 

「あぁ分かった、そこまで言うならやろうじゃねぇか」

「ふん、それでこそよ! 勝っても負けてもあたしが得する事に文句言わないでよね!」

「言うかバカ、お前こそボコられても文句言うなよ?」

 

 

 

 

 

「俺のウィッチクラフトデッキにな!」

「いやティアラメンツ使いなさいよ馬鹿!」

 

 めっちゃ怒るじゃん。

 

「え、いや…良いじゃん別にウィッチクラフト」

「そうだけど! ウィッチクラフトが駄目なんじゃなくてあたしの! 『ティアラメンツ・シェイレーン』のマスターならティアラメンツ使いなさいって言ってるのよ!」

「って言われてもそもそもティアラメンツ組んでないし」

「なんで組んでないのよ!?」

「じゃあそもそもなんでティアラメンツ組んでない俺の所に居るんだよ」

「え、なんか相性良さそうだったからだけど」

「それだけか」

「それだけよ、実際居心地良いし。でも今回ばかりは駄目ね許せないわ! こうなったら意地でもティアラメンツデッキを組みたくなるようにボコボコのギタギタのメタメタにしてやるわ! 覚悟しなさい!」

 

 言いながら俺と同じように構えるシェイレーン。なんか微妙に納得いかないが彼女は間違いなく本気だ。そしてティアラメンツである彼女の本気とはつまり、あの環境を染め上げ暴れ散らかした…というか今も暴れているほどの物。一瞬の油断やミスが命取りだ。

 

「さぁ行くわよ!」

「あぁ、来い!」

 

 

 

 

 デュエルが始まる。

 

 

 

 

 

「あたしの儀式ドラグマで叩き潰してあげる!」

「いやティアラメンツ使えよティアラメンツゥ!?」

 

 シェイレーンにえ?って顔された。いや、え?じゃないよえ?じゃ。

 

「そのなんだ…え、良いのかそれ?」

「何がよ?…あ、もしかしてビーステッドが入ってるか気になったのね?」

「いやまぁ確かに気になるけど…ティアラメンツとしてその、ティアラメンツ使わなくていいのか?」

「良いのよ別に、あたしティアラメンツデッキ嫌いだし」

「おいティアラメンツ」

「だってしょうがないじゃない。なんかあたしと同じ姿したのが、ギャンブルしてるみたいでこう……なんていえば良いのかしら、その……微妙な気持ちになるのよあれ!」

「あー……」

 

 そうか、カードの精霊的には自分と同じ見た目の存在や近しい人物が全力でギャンブルに興じてる様を見せられてるようなものなのか…うん、確かに気持ち的に微妙になる。自分で使うのはちょっとってなるのも分かる。

 

「あとティアラメンツ使ってると相手に【うわ、ティアラメンツかよ】って顔されるのよ、気持ちはわかるけど」

「待てそこは分かっちゃ駄目だろ流石に」

「だって相手にすると面倒くさいじゃないティアラメンツ。除外以外の妨害は殆ど相手側のアドバンテージにしかならないし、自分のターンなのに何故かどんどん相手側が展開してくのよ!? これが鬱陶しくない訳ないでしょういい加減にしなさいよ! あとせめて効果使用後はティアラメンツ融合モンスターしか召喚出来ないとかって書きなさいよ!」

「やめろやめろやめろ! いや確かに結構な数のデュエリストが思ってそうな事だけどいったんやめよう、な?!」

 

 

 そう言って宥め、なんとかシェイレーンを落ち着かせる事が出来た。10分位掛かったけどやっと仕切り直しである、いやまぁまだデュエル始まってないけど。そしてシェイレーンはと言うと先ほどまで荒ぶっていたからか、それとも恥ずかしいのか少し青みを帯びた白い肌をやや赤く染めながら、そっぽを向きつつ言葉を口にする。

 

「…悪かったわね取り乱して」

「まぁ気にするな。俺は気にしないから」

「そう、ならそのお詫びって訳じゃないけど先攻は貴方に譲るわ」

「良いのか? かなり不利な気もするが」

「良いわよ別に。それに」

 

 彼女はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「後攻だろうと欠片も負ける気無いもの、あたし」

「それは…怖いな全く」

 

 ならば、改めて構え向かい合う。

 

 

 

 いざ、デュエル開始!

 

 

 

「俺の先攻。取り合えず『隣の芝刈り』を発動!」

「あ、サレンダーで」

「おぉいカードの精霊ぇ⁉」

 

 はぇよ!?

 

「いやさっきの負けない発言どこ行ったんだよ⁉」

「相手がウィッチクラフトであること分かった上でうらら握ってない状態で芝刈りされたらサレンダーするに決まってるでしょう⁉」

「それは…まぁ、うん」

 

 絶望しかないのは確か。でも手札によってはどうにかと思いつつ彼女の手札をチラ見して……わぁポーカーだったら俺が負けてたな、うん。

 

「えっと、その…マスター?」

「んぇ? あ、うんなんだ?」

「一応、マスターはカードの精霊であるあたしに勝った訳だから、デッキの完成度は」

「いや流石にこれでデッキ完成度云々を言うのは無理があるだろ」

「そうよねそうなるわよね! もぉおぉぉぉマスターのバカァァ! アホォォ! シャイニングドロー!」

「最後の悪口なのかそれ⁉」

 

 

 その後、泣き叫ぶ彼女を落ち着かせるのに先ほど以上に時間を要した…という事は無くコンビニで買ってきた新作プリンをあげたら普通に機嫌を良くし、大会への興味もどっかに言ってしまった様子。

 

 

 いやそれで良いのかお前は。

 

 

 

 

 

 因みに完全に蛇足であるが。例の大会なのだが、優勝賞品であるレアカードがまさかのブルーアイズホワイトドラゴンであった為に、『ティアラメンツ』『ビーステッド』『スプライト』『ふわんだりぃず』などのやべぇデッキが入り乱れる魔境と化し。

 

 

 

 それらを颯爽と現れた『ブルーアイズ』使いが滅びのバーストストリームで全て薙ぎ払い高笑いしながら優勝を搔っ攫っていったらしい。

 

 すごいね遊戯王。

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