MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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そろそろ短編と言い張るの難しくなってくるころかも知れない…


『伝説の都 アトランティス』を求めて、いざ海へ! 【中編】

 泳ぐ。

 

 彼女『ティアラメンツ・シェイレーン』は何時も以上にのびのびと、深く広い海をゆうゆうと自由に泳ぐ。偶に近づいてくる魚を軽く揶揄う様に追いかけ回し、慌てた様子で逃げていく姿を眺めつつ何となく底に向かって潜っていったかと思えば今度一気に海面に向かって上がってきて勢いよく船の上から眺めていたマスターである『稲田遊賀』の前に顔を出した。

 

「久しぶりに海で泳いだ感想は?」

「そうね、最高以上の言葉ってあったかしらって考えるくらい?」

「そりゃ良い、新しい言葉でも作ってみるか?」

「んー。流石に面倒ね、やめておくわ」

「そうかい」

 

 よいしょと船に上がってくるシェイレーンにもういいのかと問いかけると彼女は頷いて見せた。

 

「別に満足したって訳じゃないけど。そろそろ船も動かす時間でしょう?」

「そうだな。けど泳いでついてくるって言うのも大丈夫だったはずだけど」

「んー…やめておくわ。マスターとも一緒に居たいし、そもそもあっちのみたいに確実に船に着いていけるか分からないもの」

「あっちの?」

 

 ってどっちの? と首を傾げる遊賀にあっちと指さすシェイレーン。そちらに目を向けてみるとそこには楽し気に、そして己の主に見せつける様に海面から飛び出しては一回転して見せている精霊『クリスタル・シャーク』の姿とそれを見て喜んでいる主と思われる人物がいた。

 

「へぇー『クリスタル・シャーク』って船より速いのか?」

「多分ね、少なくともあたしよりは速かったわよ? 軽くだけど競争してみたけど全く勝てなかったし。船より速いかは…この船の性能次第?」

 

「そもそも性能云々関係なく精霊が追い付けないような速度は出しませんよ。そんなことしたら乗っている人が全員振り落とされちゃいますからね」

 

 と、言いながら二人に近づいてくるのは今回のツアーの企画者である精霊『アトランティスの戦士』であった。

 

「ですので、泳ぎながらでも問題ないかと」

「って言ってるけど?」

「それでもやめておくわ、マスターと一緒に話しながら船に揺られるのも楽しいもの」

「言っては何ですが珍しいですな」

「あら、自分で言うのもなんだけどやっぱりそうなの?」

「えぇこのツアーを始めてから貴女の様な方は本当にわずかですね。大体は久方ぶりの海をこれでもかと堪能致しますので」

 

 大体あちらの方々の様に、と彼が指さした方向を見る。其処には海で気持ちよさそうに泳ぐ四人の精霊。

 

 

「く、クラゲが⁉ 何処からともなく現れたクラゲが纏わりついて、てってててて⁉ ど、どくぅがぁああばばばばば⁉」

「キ、キトカロス様⁉ 大丈夫ですか今助けにりぇぇえぇっぇ⁉ 足攣った――⁉」

「二人とも大丈―――あ、待って『コダロス』さん待って。今は早く二人助けないと、待って押さないで、あ、あぁぁあぁぁ―――……」

「ちょっとハゥフニスを何処に連れて行く気よっていったぁ⁉ え、なに足痛い⁉ え、ウツボ、ウツボ?! なんでこんな所にウツボって待って底に引きずり込もうとぼぉぉおぉぼぼぼぼっぼげぇあ⁉」

 

 いや気持ちよさそうも何もなく割とやばい状況に陥っている『ティアラメンツ』の少女四人がそこに居た、二人程どっか連れてかれてるけど。『ティアラメンツ』だからと言う訳ではなくどっかで見た事がある四人がそれぞれ酷い事になっている光景に、思わず唖然としていた『アトランティスの戦士』は、はっと正気を取り戻し動き出す。

 

「は、早く助けなければ‼」

「…あたしも手伝うわよ」

「それは、いえ助かります‼」

 

 言って、綺麗な飛び込みを見せる二人。遊賀は意味もなく空を見上げた…綺麗な青空が広がっていた。

 

 

 

 

「はぁはぁはぁ…ありがとうシェイレーン。貴女に助けられるのはこれで二度目になるわね。やっぱり貴女『ヴィサス=スタフロスト』なのでは?」

「だから違うって言ってるでしょ。勝手にあたしを『ティアラメンツ・シェイレーン』以外の存在に変えないでよ」

 

 クラゲの毒にやられていたにしては随分と元気な『ティアラメンツ・キトカロス』に冷たくそう言い放つシェイレーン。まぁ言われてる内容的にそうなるのも仕方がないが。と、視線を巡らせる。

 

 見える範囲に足が攣っておぼれかけぐったりとしている『ティアラメンツ・メイルゥ』に、『コダロス』に懐かれて引っ付かれ困っている『ティアラメンツ・ハゥフニス』と未だに足に嚙みついているウツボと格闘している『ティアラメンツ・シェイレーン』の横に疲れ切っている『アトランティスの戦士』が居ると言う中々に混沌としている状況である。

 

 あぁいや視界の端にどっかに押されて行ってたハゥフニスを助けて主に褒められて喜んでる『クリスタル・シャーク』も見える。あと、こちらに駆け寄ってくる一人の青年が。

 

「いや申し訳ない、本当なら僕が助けに行くべきだったんだけど」

「それはそれでまずかったと思いますよ? 普通の人だって溺れている状態だと助けるのに苦労するって話ですし、精霊が溺れて暴れてるならそれ処じゃないでしょうし」

「そう、かな。いやそうだろうね。はぁ全くそんな事も判断できないなんて彼女たちのマスターとして恥ずかしいな…っと自己紹介がまだだったね。僕は『トーマス』あの子たち四人のマスターだ。よろしく」

「『稲田遊賀』です、あっちの…あぁなんかやたらと冷たい目で貴方の所の四人を見てるシェイレーンの主です…なんかその、すみません」

「あぁいえ、いきなりあんなこと言われれば誰だってあぁもなりますよ、だからその、本当に申し訳ないです…っ‼」

 

 これでもかと頭を下げるトーマスと名乗った青年は、そのまま四人を連れて離れていった…あ、こけた。と、今度は『アトランティスの戦士』が近づいてきた。

 

「先ほどはありがとうございました。協力に感謝します」

「良いのよ別に、一応知り合いでもあったし。放置したらしたで色々と問題でしょう?」

「ははは、まぁここまで迅速な救出は出来ず予定に支障が出ていたでしょうな。その点も含めて改めて感謝を」

 

 それではこれでと、彼も周囲を見渡してから離れていった。

 

「主殿! 問題なしです」

「おぉーう、分かったー」

 

 そう、声が聞こえて船が動き出したのは少し経ってからの事だった。

 

 

 

 船の上で風を感じると言うもの良いものだとシェイレーンは思いながら何をするでもなく己のマスターである遊賀の横に座りぼーっとしていた。確かこの後は『伝説の都 アトランティス』に向かうのだったかと予定を思い出しつつ暇になりそうだから電子漫画でも読もうかとした所で、そう言えばと疑問に思っていたことを遊賀に問いかけた。

 

「ねぇマスター」

「なんだ?」

「『伝説の都 アトランティス』ってどんな所なの?」

「いやどんなって言われてもな。俺が知ってるのは飽くまでカードのそれだけだから実際のそこがどんな場所なのかなんて知らないぞ? というか精霊のお前の方が知ってること多いんじゃないか?」

「全然知らないわよ。多分、知ってる事はマスターと同じくらいじゃないかしら。カードとしてじゃなくてアトランティスが実在する何てこと知らなかったからそれ以下かも」

「へぇー、精霊界には無かったのかアトランティス」

「少なくともあたしが知ってる範囲ではなかったわね」

 

 成程と思いつつじゃあ結局どんな場所なのか分からないという事か。まぁ後いくらか待てばその場所に着くのだからそれで済む話なのだが…なんか気になった遊賀である。

 

「…どうせだし聞きに行くか」

「それ良いの?」

「別に駄目って事は無いだろう。着いてからのお楽しみですって言われるかもしれないけど」

 

 

 と言う訳で一番『伝説の都 アトランティス』というものに詳しいだろう精霊『アトランティスの戦士』に聞きに行くことにした二人であった。

 

 

「あぁ、シェイレーンさんが知らないと言うのもそう可笑しな事ではありませんよ? なにせつい最近まで精霊界は『伝説の都 アトランティス』は文字通り伝説上のものだったのですから」

 

 そう何でもないかのように『アトランティスの戦士』は何故か居る『ティアラメンツ・ハゥフニス』と彼女にじゃれつく『コダロス』の様子を見ながら言葉にした。

 

「それはつまり…えっと」

「あぁ言葉は選ばなくても大丈夫ですよ? 要するに、精霊界では少し前まで『伝説の都 アトランティス』は、そういう場所があったらしい程度の物だったという事です」

「らしいって」

「実際そんなものだったのですよ? 私も生まれた時にはアトランティスという都は存在しないのが普通でしたので。知ってる事と言えば先祖が唐突に消え失せて住む場所がなくなって途方に暮れたと言っていたらしい位の物でしたから」

「でしょうね」

「はい」

 

 ですからまぁ嬉しかったですよ、と彼は言う。

 

「マスターデュエル、あぁMDと言った方が良いのでしたっけ? それが広まって、精霊が人の元に赴くのも随分と楽になってから暫くしての事でしたが、主殿と寛いでいたら急に仲間が慌てた様子で駆け込んできましてね。どうしたと聞いてみたら『伝説の都 アトランティス』が見つかったって言うのですからそれはもう驚きましたよ。言われた場所が意外と近かったので主殿と一緒に行ってみたら本当にあってもっと吃驚しましたけどね」

「港から出て真っすぐ向かえば2時間で着く位置ですからね」

「えぇですので、最初聞いた時は完全に嘘だと思っていましたよ」

 

 あの時は申し訳ない事をしたなと彼は頭を掻きつつ言う。いや、それは仕方ない事ではと遊賀は思わなくもない、誰だって近くに伝説上の街があるぞなんて言われても信じないだろうし。

 

「それでもまぁ着いてみれば直ぐに分かりましたよ、ここが嘗て存在したと言う『伝説の都 アトランティス』だと。何故、精霊界ではなく人間界にあるのかとか未だに分からない事は多くありますがすぐにどおでもよくなりましたよ」

 

 

「なにせ、目の間に伝説になってしまった筈のアトランティスが、私たち戦士が命を懸けて守るべき都が…先祖がずっと、帰る事を望み続けていた故郷があるのですから…えぇ、嬉しいと言う感情以外は在りませんでしたね」

 

 遠く、船の進む先。きっと『伝説の都 アトランティス』があるのだろう方角を見つめながら噛み締めるように言った。

 

「まぁ個人的にはその後に起きた事の方が嬉しかったのですがね‼」

「その後の事って」

「えぇはい。そうして故郷を見つけることが出来た私たちだったのですが、それじゃあここをどうしようかと頭を悩ませる事となったのですが、その時一緒に来ていてくれた私の主殿が何とかしようと言いましてね? そこからはあっという間でしたよ、具体的にはどうやったのかは私にはさっぱりでしたが今こうしてあなた方をアトランティスへと招待しても問題ない位にはなっています」

「じゃあ嬉しかったことって貴方のマスターが一肌脱いでくれた事なの?」

「いえそこではなく、何故かツアーを組むことになって何故なのか主殿に問いかけた時に言ってくれた言葉ですね」

 

 

―――そりゃおめぇ、俺の相方の故郷がこんないい場所なんだ、ちったぁ自慢したくなるのも仕方がねぇ事だろう?

 

 

「私の故郷を良い場所だと言ってくれた、これほどうれしい事はありませんでしたよ」

「なる…ほど?」

「まぁ故郷を褒められればよっぽど嫌いでもなければ悪い気はしないですよね」

「えぇ、生まれの地ではございませんでしたが、それでも嬉しいものは嬉しかったですよ」

 

「だからこそその、ちょっと心配事があると言いますか」

 

 と、困った様子の『アトランティスの戦士』にどうしたのかと首を傾げ乍ら二人、彼があちらですと軽く指さした方向を見る。

 

 そこには相変わらず『コダロス』にじゃれつかれている『ティアラメンツ・ハゥフニス』と何時の間にか合流して一緒に遊んでいる『ティアラメンツ・メイルゥ』の姿があった。そして『アトランティスの戦士』が指さしているのは、『コダロス』。

 

「あの『コダロス』なのですが、名前から分かる通り『海竜-ダイダロス』の或いは『海竜神-ネオダイダロス』の子供なのですが…その、もしもお客様である『ティアラメンツ・ハゥフニス』さんに懐いて着いてきてしまったと言うのを攫われたと勘違いされた場合、襲われるかもしれない訳でして」

「あぁー…」

「それは、まぁ」

「いえ勿論、可能性としては低いのですよ。『海竜-ダイダロス』にしろ『海竜神-ネオダイダロス』にしろ気性自体は穏やかなものです、それこそ直接危害でも加えない限りそうそういきなり襲い掛かってくると言う事は無いのですが、お客様方の事を考えますと万が一があるとまずいので」

 

 心配になるような事を言って申し訳ないと頭を下げる『アトランティスの戦士』だが、そんな彼の下げられた頭は視線に入らず、二人は唯遠くを見つめた後、互いを見て思う。

 

 

 これ、良く漫画とかである絶対に襲われるやつだ、と。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『稲田遊賀』

 シェイレーンが楽し気に泳いでる姿を見て連れてきた甲斐があったなと満足げに頷いた。彼女たち精霊が泳いでいたポイントに着くまでの道のりもイルカが居たりクジラが跳ねたりと見どころ満載で大満足だった。のだがなんかこれから起こる事を悟ってしまい絶賛遠くを眺めて現実逃避中。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 久しぶりの海、久しぶりの全力の泳ぎ、それを眺める楽し気な己のマスター。これだけで彼女は満たされていた。全力で泳いだのにぼろ負けしたり、なんか面倒くさいのと再開したり、確実に面倒な事態が発生するだろうなと半ば確信する事となったが彼女は元気です。なにかあったらマスターを抱えて全力で逃げようと、死んだ目をしながら密かに決意を固めている。


『アトランティスの戦士』

 割と丁寧にフラグを設置してった精霊。なにが悪かったかと言えば…運、だろうか。


『トーマスとティアラメンツ四人娘』

 ただ只管に運が悪い子たちとその主。トーマスと名乗った青年事態はそこまで運が悪いという事は無いがそれを全て塗りつぶすほど四人娘の運が悪い。実はツアーの予約も彼ら自身が取れたものでは無く友人に取ってもらったもの。入念な準備をした上で念には念を入れて連休を取って一週間前に出かけ…無事、ツアー当日に辿り着くことが出来た。いやこれ全然無事でも何でもないな?

 彼女たちが居た所為で問題が発生するのではない、運が悪いから問題が発生する時に訪れてしまったのである。


『クリスタル・シャークの主』

 一般デュエリスト。ゴリゴリの『シャークデッキ』の使い手。『クリスタル・シャーク』とはよく泳ぎで競争する仲、大体主である彼が勝利する。船を平然と置き去りに出来る精霊相手にである。一般人では断じてない。


『コダロス』

 実はハゥフニスの事を美味しそうだと思っている。





『伝説の都 アトランティス』

 次回、アトランティス死す。デュエルスタンバイ!
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