そこは美しき都であった。精霊界に置いてももはや存在しないものとされながら、伝説となって知るものは少ないけれど記憶から失せる事無く残り続けた海に住まう者達の故郷。
それが、『伝説の都 アトランティス』である。
今回のツアーの目玉であり、『アトランティスの戦士』曰く魔法使い族の知恵を借りて海に生きる者たち以外も何の問題もなく海中で過ごせる様にしてあり、普段一緒に水の中で過ごす事が出来ない主と一緒に水中を楽しめるとあって精霊たちから大変好評との事。勿論、思うままに水中で過ごせる事から人間たちからの人気も高いと言う。
さて、そんな美しき都は今どのような状況かと言えば。
「ギィアァアァァァアアア―――‼」
「ゴルゥァア―――ッ‼」
『海竜-ダイダロス』と『海竜神-リバイアサン』が盛大に暴れまわって酷い有様であった。
「いや何故ぇぇええ――――っ⁉」
「本当にね。ダイダロス辺りはどうせ居るんだろうなって思ってたけどリバイアサンは完全に想定外だったわね」
「だな」
荒れ狂う海に揺さぶられる船にしがみつきながら、暴れまわる二匹の精霊を見る。正直、『コダロス』を見た時点でダイダロスが襲ってくる事になるのではとは思っていたが、なんで『海竜神-リバイアサン』まで一緒になって暴れているのか。
「う、おぉ⁉ あ、主殿この場から離れることは」
「馬鹿言うなおめぇ引っ繰り返らないように踏ん張るので精一杯だぁこんな滅茶苦茶なの嵐でもこうはならんぞ!」
なんて聞こえた言葉に、そりゃあんなクソでかい化け物二匹がぶつかり合ってる状況とは嵐だって比べてほしくないでしょうよ。なんて視界の端ですっ飛んでいきそうになった『ティアラメンツ・メイルゥ』を他三人が必死に助けている光景を見つつ、そう思う。
「ていうか今更だけどなんでぶつかりあってると言うか喧嘩してるんだあの二匹?」
「さぁ、案外出会えば必ずあの規模の喧嘩をしてるのかもしれないわね」
「そんな事はありません‼ 顔を合わせただけで殺し合うような関係では無かった筈ですと言うかやけに冷静ですねお二人は⁉」
「冷静っていうか、まぁ精霊が本気で喧嘩すればこうもなるよなって感じですね」
「あたしは単に慌てる余裕もないだけよ」
「そうですかぁおぉ⁉」
「うぉ⁉」
船が激しく揺れた、いや跳ねた。余りの衝撃に一瞬船は宙を舞い、予想外の動きに堪え切れず遊賀の体が外に投げ出される。
「ふん!」
前に、シェイレーンが彼の腕を掴み船に引き戻した。その際、背中を打ったが今の海に投げ出されるよりはましだろう。
「いった⁉…あぁー、ありがとシェイレーン」
「どういたしまして、それでどうするの? あたしがマスターの事掴んで泳いで逃げる?」
「いやこの状況だとそれはよろしくない気がするなー俺は」
「私もそれは良い考えとは思えません、精霊である貴女は兎も角貴方の主はこの状態の海に入って問題なしと言う訳には行かないでしょうから」
という『アトランティスの戦士』の言葉に、それもそうねと彼女は頷いた。そんな時に、何かが荒れる海から飛び出し、船の上にドンっと乗って来た。
シェイレーンが反射的に遊賀を庇い乍ら直剣を構え、直後に『アトランティスの戦士』が驚いたように声を発した。
「『深海の戦士』‼ 無事だったのですね‼」
「あぁ『アトランティスの戦士』よ、そちらの先ほど投げ出されそうになっていた者は…無事の様だな」
どうやら『アトランティスの戦士』の知り合いらしい『深海の戦士』は揺れる船に少し体を揺さぶられながらもしっかりと立って遊賀の様子を見て安堵した様に息を吐く。
「誰?」
「あぁ彼は私の仲間である『深海のぉ⁉ す、すみません紹介は後程! 一体何があったと言うのですか⁉ あの二体は余程の事がない限り争うなどという事は無いはずですよ⁉」
「その余程の事があったのだ。リバイアサンの奴め、どれほど腹を空かせていたか分からんが『海竜-ダイダロス』の子を、『コダロス』を襲い食いおったのだ」
「は、あぁ⁉」
「また想像以上の事が起こってるなおい」
「そんな事をすればダイダロスが怒り狂うのなんて分かり切っている事でしょうに⁉」
「それが分からなくなる程、腹が減っていたという事だろう。実際やつはその場に居た五匹の『コダロス』の内三匹を食らった上で、逃げ出した二匹をも食らおうとダイダロスに襲われながらも追いかける程だ。尋常ではない」
それを聞いて、密かに思っていたあの二体が落ち着いて事態が収まってくれないかなという願望が叶うものでは無い事を悟った。何時に成ろうと、正気を失う程腹が減っている奴と、子供を襲われた親以上に手が付けられないものはそう多くない。
「いや待ってください、そんな状況の二体がここに居るという事は」
「そうだ、逃げ出した二匹の内一匹がここアトランティスに逃げ込んできたのだ。最初は何事かと思ったが、見ての通りだ。逃げ込んできた一匹はアトランティスの更に奥へと逃げ込み、もう一匹は何処に居…あ」
と、唐突に気の抜けた声を零す『深海の戦士』。如何したのかと問いかけることはしない、なにせそこに居た全員が彼と同じ光景を見ていたからだ。即ち、落ちないように船にしがみつく『ティアラメンツ・ハゥフニス』の足をガジガジと甘噛みする『コダロス』が見えているのだから。
「これもしかしなくてもこっちに襲い掛かってくるやつよね?」
「いえそれは飽くまで気が付いていればの話なので」
「そうだ、そもそもあんな状況下でこんな船の上に『コダロス』が乗っている事に気が付く可能性はとても低い」
「いやでも思ったんですけど」
そう言うとなにをと首を傾げ乍ら三人は遊賀を見て。
「そんな正気失う程腹が減ってるなら、ここに居る全員含めて船そのものが丁度いい餌にしか思えないんじゃ」
沈黙、今もなお海が荒れ狂っていると言うのに、ここだけやけに静かに思えた。全員が全員流石にそれはと思いたかったが、そう思うには些か『海竜神-リバイアサン』がこちらを見つめ過ぎていた。
あぁそうだ、それは勘違いでも思い込みでもなく、間違いなく『海竜神-リバイアサン』は船を狙っていた。
「ギィアァアァァァ―――ッ‼」
咆哮し、『海竜―ダイダロス』を振り払い長い体をうねらせて海面を叩く。
直後起こるは津波、或いは『海竜神の怒り』である。
それはもはや波ではなく壁そのものだった。知識がなくとも、分かる。あれは駄目だと。
「―――‼ 主殿ぉ‼」
「無茶言うな‼ 全員対ショック姿勢取れ‼ 船が引っ繰り返る、いや吹っ飛ぶぞぉ‼」
聞こえる叫びと怒号、対ショック姿勢と言われてもとっさに出来るものなのかとやけに辺りが暗くなったなと思いつつ、あぁこれ波が天井みたいになっているのかと気が付く。同時にもう遅いなとも。遊賀に向かって飛びつくシェイレーンを受け入れつつ、それを見る。
唐突だが、この場に居る精霊で尤も強大な存在は何者であるか。暴れ狂う『海竜神-リバイアサン』か、それとも怒り猛る『海竜-ダイダロス』であるか。
否、そのどちらでもなく…彼女である。
壁の如き波が二つに割れる。衝撃に大きく船が揺れる中、それを為した彼女は、『ティアラメンツ・ルルカロス』は揺らぐことなく立ち、二体の精霊を見据える。
「狂う程の空腹、子を害された故の怒り、どちらも正しく生きている故の断ち切れないもの。それゆえの諍いもまた然り」
ですが、ゆるりと剣を振るい…構える。
「我が守護すべき同胞を、我が主を直接害すると言うのであれば私はあなたを両断する‼」
船を揺るがし力強く彼女は跳んだ、いいや飛んだ。戦場を裂く一矢の如く真っすぐと飛んで『海竜神-リバイアサン』と衝突。
その巨体を海から空へとかち上げた。
「うわすご」
余りの光景に、そんな言葉が思わず零れる。だがそれでは終わらない。彼女の剣の一振りがリバイアサンの鰭を切り飛ばす。精霊ってあそこまでできるんだと他人事のように思いながら海に向かって落ちていくルルカロスを見る。
彼女が跳んだ際の衝撃で投げ出されていた救助用の浮き輪に引っかかって一回転する光景を見る。
「…え」
そういったのは誰なのか、それが判明するよりも前に回転した勢いそのまま海面に叩きつけられ、そのまま近くを泳いでいた『クリスタル・シャーク』の口の中に頭からダイレクトアタック。
何が起こったのか理解できず、パニック状態の『クリスタル・シャーク』は『ティアラメンツ・ルルカロス』を咥えられたままどこかに泳いで行ってしまった。
「え、ちょ、ええぇぇええええええ――っ⁉」
「シャァァアァァク⁉」
「「「ルルカロス様ー⁉」」」
「いやなんでそうなるのよ?」
「分からん」
分からないが、現状の打破が出来る精霊が居なくなったのは間違いない。寧ろ状況自体は悪化したと言えるかもしれない、なにせ『海竜神-リバイアサン』からこれでもかと敵意を向けられてるから。どうすんだこれと、思わず空を仰ぎ見て…ため息一つ。
「取り合えずデュエルするか」
「いやなんでよ」
その言葉に思わずと言った様子で軽く叩く彼を叩くシェイレーン。一体何を言い出すのかと思っている様だが。
「そうかデュエルをすれば解決するのか、ならこの俺の『シャーク』の脅威を味わってみるか⁉」
「いや、ここは僕が。よく見かける様なものとは出来が違う真の『ティアラメンツ』を教えてあげるよ」
「なんでそんなノリノリなのよ⁉」
それは勿論、デュエリストだからである。だがまぁ彼らの提案も非常に魅力的なのだが、今回相手にするのは彼らではない。揺れる船の上でなんとか立ちつつ、デュエルウィンドーを展開する。
「それじゃあ始めようか…」
ごく自然に、先攻は自分だと動き出した彼にその場に居たデュエリスト達も流石に困惑した。いや相手が居ないじゃないかと。だが、シェイレーンは気が付いた、相手も居ないのにデュエルを行う彼の近くに、メンダコの様な灯が揺蕩っている事に。
「俺は召喚した『ゴーティスの灯ペイシス』の効果によって『ゴーティスの守人イーノック』を特殊召喚しそのまま効果を発動、除外され―――」
「ギィアァアァァァ―――‼」
船が大きく揺れる。それは『海竜神-リバイアサン』が攻撃してきたからと言う訳ではなく、再び『海竜-ダイダロス』が奴に襲い掛かった際の大波が原因だった。そしてそれは、どこにもしがみ付いて居なかった立っているだけの遊賀を船から叩き落すには十分なものだった。
シェイレーンは手を伸ばし、彼を掴む。しかし体勢が悪い。船に戻すことが出来ないと悟るや否や、彼を庇う様に抱き海へと共に落ちる。
だが、一人だけのデュエルは続く。
「―――俺は、手札の『ゴーティスの陰影スノーピオス』の効果を発動、手札墓地から魚族モンスターを二体除外しこのモンスターを特殊召喚する」
ここでちょっとした昔話をしよう。
「相手ターンで除外された為『ゴーティスの紅玉ゼップ』の効果発動、このモンスターを特殊召喚する」
彼の生まれ育った地では、デュエルとは遊びであった。同時に神聖な儀式でもあった。世にも珍しい一人だけで行われるデュエルだ。だがそれは決して相手が居ないと言う訳ではなかった…相手はここには居ない、けれどどこかには居る神と呼ばれる存在だった。
「『ゴーティスの紅玉ゼップ』の効果により、自分フィールドに存在するモンスターを素材にシンクロモンスターをシンクロ召喚する」
それは儀式だった、だがそれ以上に遊びだった。神と呼ばれる超常存在に、こちらに来て一緒に遊びましょう、どうかどうか楽しんでいってくださいと誘うものだった。
「俺は『ゴーティスの陰影スノーピオス』に『ゴーティスの紅玉ゼップ』と『ゴーティスの灯ペイシス』をチューニング」
豊穣と息災を願って行われる神を楽しませるそれは、昔から今へと続く神降ろしだった。
「輝ける星を食らい、広がりゆく空を飲み、今こそ己を揺蕩うウミとせよ…シンクロ召喚」
まぁ尤も、そのデュエルの相手が神であると思われていたのは少し前までの事、今は相手が誰であったのかが分かっている。そして同時に儀式を行って来た者たちは安堵した…あぁ自分たちはちゃんと彼らを、精霊たちを楽しませる事が、一緒に楽しむことが出来ていたのだと安堵した。
その儀式が神降ろしであったのはもう昔の事だ。今は大切な隣人である精霊と心を通わせる為の…日常である。
「おいで、『最果てのゴーティス』」
空を見た。『海竜神-リバイアサン』は纏わりつき嚙り付いて来ていた『海竜-ダイダロス』を振り払い、ふと意味もなく空を見た。
空に星々揺蕩うウミが広がっていた。
いや違う、あれはウミではない。あれは自分を見つめるものが何なのか。それに気が付けたのは、空から落ちて来たウミに飲み込まれた後だった。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
明らかにやばいデッキを使ってる一般デュエリストを名乗ってるやつ。別に大した事はしていない、小さい頃か遊んでいただけ、ずっとずっと遠くで寂しそうにしていた子たちを誘って一緒に遊んでいただけ。それだけの事が世界を救う事に繋がっていた。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
やっぱあいつ普通じゃないと思いながらリバイアサンを周辺の海事飲み込んで空に戻っていたやつを見ていた。正直、マスターの事が心配ではあるが…まぁ害そうとはしてないから良いかと、海の中で彼を抱きしめ揺蕩いながら思った。役得である…が、この後息が続かなくなったマスターを見て慌てて浮上することなる。
『ティアラメンツ・ルルカロス』
もうちょっと運が良ければ今回の事件全部一人で解決できてた子。だが彼女はとても運が悪かった。その後何故か氷山に突き刺さった状態で見つかった、どうしてそうなったのか。
『海竜-ダイダロス』
突然現れたリバイアサンに子供食われてぶちぎれてた精霊。結果的にはリバイアサンに一歩及ばなかったが、目の前でそいつが良く分からん存在に食われるのを見て冷や汗を流した。もし、もう少し抵抗出来ていたら一緒に自分も食われていたと理解している。
『コダロス』
ずっとハゥフニスの足噛んでた、するめを噛んでる気分。
『海竜神-リバイアサン』
今回の騒動の原因かつ最大の被害者。実は普段利用している餌場に何故か獲物が一切居らず二か月間碌なものを食べられていなかった。空腹も限界であり、餌を求めて彷徨った果てに人間界に迷い込んでダイダロス一家を発見、何かを考える余裕もなく襲い掛かった。現在、良く分からん化け物に食われその腹の中に広がっているウミで虚無顔を浮かべている。多分、その内ぺってされる。
『最果てのゴーティス』
精霊に良く分からん化け物扱いされてる凄いし子。実はある少年と出会わなければMD次元のラスボス候補だったやべぇ奴。
お気に入りの子がひどい目に合っていてとてもイライラしていたが頼って貰えて今はとてもご機嫌。それは特別な出来事だった、何時もの如くただ飢えを満たすために星を食らおうとしたとき、小さな手が差し伸べられた、一緒に遊ぼうと声を掛けられた。初めての事でどうすれば良いか分からなかったが…とても嬉しかった事は今も覚えている、きっといつまでも忘れることはないだろう。
『夢幻崩界イヴリース』
遠い地で、しかし最果てと比べれば遥かに近い場所からゴーティスの存在を感知し喜びを抑えきれず絶頂しながら転げまわってた。そして近くに居た『トロイメア・ユニコーン』に蹴られた。