先ほどまで荒れ狂っていたとは思えない程に凪いだ海。同じように怒り狂っていたとは思えない程に穏やかな『海竜-ダイダロス』は擦り寄る二匹の『コダロス』を連れ、小さく喉を鳴らしてからゆっくりと去っていく。
「…最後の一鳴きはなんて言ってたんだ?」
「さぁ? あたしはああ言う言葉を発しないタイプの精霊の言葉は分からないし」
「そうかぁ」
海面に浮かびながら何となく去っていく三匹に対して手を振る『稲田遊賀』とそんな彼を立ち泳ぎしながら船に向かって引っ張るシェイレーン。いやぁ大変だったなと、雲一つない空を眺めながら思う。と、船から海に飛び込んだ『アトランティスの戦士』が二人に近づいてくる。
「大丈夫ですか⁉」
「ん? あぁ、大丈夫ですよ、ちょっと海水飲んじゃいましたけど」
「しいて言えば服が酷い事になってる位かしらね」
「あぁーそれがあったか。いやまぁ普通に着替えあるから被害と言えるものでは無いだろ」
「そうですか、それは良かった」
「いやその、良かったって言って良いのこれ?」
言いながらシェイレーンは見つめる方へ彼も視線を受けると見えたのは『伝説の都 アトランティス』があった場所。今は、廃墟しか無い。美しき都は見る影もなく、壊れ果てていた。
「あぁ、えぇまぁそうですね。アトランティスの状態は良いものとは言えませんね。申し訳ございません、お客様方には楽しんでいただきたかったのですが」
「そうじゃなくて、折角見つかった貴方の故郷がこんな事に」
「えぇ確かにボロボロになってしまいたした」
「ですが見つかったばかりよりはましですから!」
あの時は大変でしたよと言う『アトランティスの戦士』にシェイレーンはぽかんとした表情を浮かべ、彼はなお続ける。
「今みたいに、いえ今以上に建物はボロボロでしたし。何よりそこら中に茂っていた海藻がまぁ強敵でしたよ。『深海の戦士』や手伝いをしてくれた精霊たちと何度全部壊して作り直した方が速いのではと話し合った事か」
「そ、そう」
はははと彼は笑いながら、しかしその瞳が酷く淀んでいる様に見えた。一体どれ程大変だったのかは、聞かない方が良い気がしたので二人ともそうする事にした。
「あぁ、そうだ、それに…そうですね」
彼は遠くの何かを思う様に瞳を細める。先ほどまで淀んでいたとは思えない澄んだ瞳を。
「アトランティスは、私の故郷が目の前にまだあるのです。突如して失われた訳でもなければ、在るかも分からないもの求めてただ只管に広大な海を彷徨う必要もなく…ただ壊れただけで、目の前にあるのです」
えぇですからと、彼は言いながらドンっと力強く胸を叩いた。
「壊れたならば直せばよいと言うでしょう? その言葉の通りすぐに元通りに、いえ今回のような事態になってもびくともしない様なもっと凄くて、もっと素晴らしいものにして見せますよ‼」
そう、笑う彼に遊賀は精霊とか人間とか関係のない、命としての強さを感じた。かと思ったら彼はすぐにまたとても申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を掻く。
「ですからその、ただ純粋にあなた方お客様にとって良くない思い出になってしまっただろう事が申し訳なく」
「それはもう仕方がないとしか」
「なぁあぁーえっと、今大丈夫か『アトランティスの戦士』」
「ん? どうかしましたか『深海の戦士』」
と海面に顔を出す『深海の戦士』に『アトランティスの戦士』は首を傾げ乍ら聞く。確か彼は事態が収まってすぐにアトランティスの様子を確かめる為に潜っていた筈だが、何かあったという事なのかと遊賀とシェイレーンも彼へと視線を向ける…と、何やらとても困惑している様で。
「その、なんだ…うぅむなんと言うべきなのか」
「貴方にしてはやけにはっきりとしない物言いですね。察するにアトランティスでなにかあったのですね?」
「うむ、あぁいや違うな。アトランティスではなく海に異変が起こっているのだ」
「なんですって⁉ それはどのような?」
「海が海でなくなっている」
「……はぁ?」
いったい何を言っているのか。それは、すぐに分かる事だった。
コポリと水中で息を吐く。だと言うのに不思議と息苦しさは無く、水中であると言うのにいつもと変わらず呼吸をする事が出来ている。成程これが『アトランティスの戦士』が言っていた事か。確かに水中で呼吸が出来ると言うのなら、水の中で生きる者以外でも普通に過ごすことが出来るだろう。あぁだが、水中で呼吸をしていると言う非日常がどうでもよい事に思える光景が目の前にある。
海が、星々が揺蕩う『最果ての宇宙』が目の前に広がっていた。
「す…ごい、わねこれ」
まさか海の中で星空を見る事になるとは思っていなかったとシェイレーンは目を丸くしながら泳ぐ。
彼女の目の前で海中を漂うアトランティスの瓦礫と輝く星の一つがぶつかると、音もなく星は弾け底へと向かって流れ星の如く軌跡を描いて落ちていく。その光景は幻想的という言葉以外に表現しようがなくて、四人の『ティアラメンツ』の少女たちとその主は素直に光景に見入り、『クリスタル・シャーク』とその主は何を思ったのか流れ落ちていく海の星と競争を始めている。
「これって原因さっきのよね? どうしてこんなことになってるか分かる?」
さっぱりであると彼は首を振る。確かに原因は自分が呼び出した『最果てのゴーティス』だろうが、何がどうしたらこんな海の中が宇宙の様な事になるのか皆目見当もつかない。
コポリと口から零れた泡が揺らぎながら上へ上へと昇り、星とぶつかり海の中に空を広げる。
「いやはやなんと言うべきか、悔しいものだな『アトランティスの戦士』よ。幾ら壊れてしまっているとはいえこれでは我らが故郷がついでの様ではないか」
「そうですね『深海の戦士』。とても悔しいですね‼ この光景なんて目じゃない位われらの故郷を素晴らしいものにしないといけませんね‼」
「うむ、些か難しい気もするが。その方が気合が入ると言うものだ‼」
なんて会話をしながら泳いでいく二人の精霊。彼らは彼らで目の前の光景を楽しんでいる様だ。
と、ふいにシェイレーンと視線が交わる。あぁそう言えばとコポリと泡を零す。結局面倒な事に巻き込まれ、予定よりも泳ぐ事が出来なかったが目の前の光景に彼女は満足してくれているだろうかと。
そう思っていたら彼女は穏やかに微笑み、彼の手を引く。その拍子に、星々が割れて沢山の流れ星が海の中で軌跡を描く。
「別に、景色が如何とか泳いだ時間が短いとか…そう言うのは関係ないわよ」
二人だけと言う訳ではない、のんびりなんて出来ない、好きな様に泳ぐなんてもっての外。
だけど、けれど。
「マスター、貴方と一緒にこうして居られるだけで…泣きたくなる位幸せなの」
満足なんて言葉じゃ足りないわと、彼女は笑う。だから彼もそれは良かったと笑うのだ。
あぁ歌声が響く、星々揺蕩う海の中で少女たちの楽し気な美しい歌声が。それを耳にしながらゆっくりと彼は泳ぐ、しっかりと彼女の手を握りながら…一緒に星々が揺蕩い輝く海を。
あぁ、これが良くない思い出なんてとんでもない。
ずっとずっと忘れる事のない、輝く星の如き美しい思い出だ。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
理不尽ともいえる精霊同士の衝突に巻き込まれた事に対して、いやまぁ神と言うか精霊ってそういうもんでしょ? な思考から平然と受け入れた強い奴。なんか海が凄い事になっているが別にそうしてほしいと頼んだわけではない。
この日、彼は美しき思い出を得た。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
結局の所ただ彼と、己のマスターである遊賀と一緒に居られればそれだけで良い。だがそれでも今日の出来事は間違いなく特別だ。
彼女はずっと共に在る、この輝かしい幸せと共に…ずっと、ずっと。
『伝説の都 アトランティス』
この日、彼の地は新たな伝説を得た。その都は、美しき星々と共に在ると言う伝説を。
『それ行けスプリガンズ‼ ~マリンセスハイパーダンシングバトル~』
【スプリガンズは今日も行く! 今回の舞台は『海晶乙女の闘海』で行われるのはダンス大会‼ さぁみな刮目せよスプリガンズダンスの神髄‼ と、思ってみたらまさかのデス☆ゲーム⁉ 敗北者の魂は神に捧げられるってどういう事にゃ⁉ 古代アトランティスって一体何なのにゃ⁉ 伝説って? あぁ! もう何がなんだが分からないけどとにかく勝てばそれでよし! さぁ行けスプリガンズ! 踊れスプリガンズ! そしてダンス大会の裏で蠢く悪を叩き潰すのにゃー!】
と、言うあらすじの『それ行けスプリガンズ‼』という題名の漫画の最新刊。曰く『スプリガンズ・キット』の体験した事をそのまま漫画にしたものとの事で、なんでも今回の出来事は割と最近あった事らしい。やっぱり最終的に『天霆號アーゼウス』が全部薙ぎ払って終わるのだが。今回は黒幕が古代アトランティスの王を名乗る人間だったりして流石にフィクションだろうと読者から思われている。
が、細かい所はともかくとして出来事自体は実際にあったらしくその場に居たと言う精霊曰く冗談抜きで世界の危機だったとか。
あと、何の関係もない事だが『天霆號アーゼウス』に薙ぎ払われた場所の近くには『海竜神-リバイアサン』の餌場があったらしい…本当に、この出来事には何の関係も無いが。
『どこぞの釣り人スタイルのお姫様』
なんか知りませんが今日も大漁ですわー! でもなんでこんな何時もと違う魚ばっかりなのかしら? まぁ釣れるのだから気にする必要はありませんわー‼ ジャンジャン釣りますわー‼