MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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 この作品は遊戯王カードの精霊が平然と人間と共に日常を謳歌している様子を描いただけの物語である!


常連客の『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』とデザート

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 その広がりにより、良き隣人となったカードの精霊だが、実際に会ってみたらイメージ通りだったとかその逆でそういう性格なのかと驚くことも珍しくはない様で。

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』のアルバイト先でのちょっとした出来事を描いた物語である。

 

 

 

 今日も今日とてアルバイト日和。相も変わらずすれ違う度に『宣告者の神巫』に宗教勧誘されるがアルバイト日和である。今回は何時ぞやと違って通勤途中に面倒なのに出くわさなかった為シェイレーンも一緒である。

 

「…あ」

「おや貴女は…ふむ」

 

 忙しい時間も過ぎて一息吐いてところで来店を知らせる音。モップを片手に移動していたシェイレーンは何となく音につられ視線を入り口に向けそんな声を零し、またどこかで聞いた事があるような声が『稲田遊賀』の耳に届く。どうしたのかと食器を乗せたお盆をカウンターに置きつつ視線を向けると。

 

 そこには入り口に立っている精霊『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』がシェイレーンを見て何か考える様な仕草をしており、そのまま視線を彼に向けて納得した様に頷き、そのまま彼とシェイレーンに深く頭を下げてからカウンターに一番近い位置にあるテーブル席へと向かった。

 

「お前フルール・ド・サージュと知り合いだったんだ」

「知り合い云々で言えばあの人マスターとも知り合いよ?」

「あ?……あぁいや今思い出したあの人あれか、迷いまくってた『フルール・ド・バロネス』の」

「そう、あの時のフルール・ド・サージュよ」

「そうか、別精霊かと思ってた」

「まぁ人間からしたら違いなんて分からないわよね」

「おや遊賀さんとシェイレーンさんは常連さんとお知り合いなのですか? それなら『宣告者』さまを信仰しますか?」

「話に加わるならせめて前後をちゃんと繋げてくれ」

 

 話をする二人の間からにゅっと顔を出し、相変わらず信仰心で輝く濁り切った瞳を向けてくる。

 

「あー、まぁ色々あってな…というかあの人ここの常連だったのか」

「はい、毎週来てますけど知らなかったんですか?…あぁでもよく考えたらフルール・ド・サージュさんが来るのは何時も遊賀さんが休んでる曜日だったし、見事にすれ違いで知らなくても可笑しくない訳ですね、これはもう呪われてるのでは? ぜひ『宣告者』さまを信仰すべきですよ‼」

「繋げろとは言ったけど力業でそれしろって言った覚えないんだけど…」

 

 しかしまぁ道理でと、それなら知らない訳だと店長と話すフルール・ド・サージュを見る。

 

「では、いつものをお願いしてもよろしいでしょうか?」

「うん、わかったよ。いつも通り時間掛かるから待っててもらえるかな?」

「はい…あぁそうでした店長一つお尋ねしたい事があるのですが」

「訊きたい事? 珍しいね、まぁうん。僕が答えられる事なら」

「その先日より私の同胞であるドアホ…失礼、『フルール・ド・バロネス』が行方知れずとなっておりまして、もしそれらしき姿を見ていたならと思いまして」

「『フルール・ド・バロネス』…うーん、見てないかなー」

 

 って、また迷子になってるのかあのシンクロモンスター。君は何か知っているかと向けられた視線に首を振る、今回は全く見てない。と、同じく視線を向けられた『宣告者の神巫』は満面の笑みを浮かべて二人の元へ駆け寄って行き。

 

「そういう時は『宣告者』さまのお言葉を聞けばすぐに分かりますよ‼ ですのであなたも是非信仰すべきです‼」

 

 彼女はいつも通りの様だ。すっと視線を『崇高なる宣告者』が居るだろうキッチンに向けると全力で否定するように見える位置に出された腕を振っていた。如何やら彼にも分からないらしい。いい加減、『宣告者の神巫』は己の信仰対象に無茶ぶりをするのをやめるべきだと注文品を取りにキッチンへ向かった『宣告者の神巫』をみながらシェイレーンは思った。

 

「すみませーん、デュエルお願いしまーす」

「あ、はーい今来ます」

 

 と、一瞬今仕事中であることを忘れていた。かけられた声にそう返して急いで向かう。

 

「お待たせしました、対戦はどのデッキで?」

「んー、ちょっと調整中のデッキの具合確かめるだけだから程ほどのでお願いします」

「分かりました」

 

 ならこれかなと選ぶ。展開済みのデュエルウィンドーに反映された事と、相手が準備完了済みである事を確認。では、デュエル開始である。

 

「お待たせしましたー。ご注文のウィンナーコーヒーとチョコレートパフェお持ちしましたー」

 

 その時、丁度『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』の注文も届いたようで。結構甘い物好きなんだなと頭の片隅で思いながらドロー。

 

 

 

「それとバナナパフェにフルーツパフェにチョコワッフルにプレーンワッフルにチョコプリンにプリンアラモードにアイスクレープに宇治金時ですー、ごゆっくりどうぞー」

「ありがとうございます」

 

 いや多いな。思わず相手と共に視線を向けるとそこにはテーブルを埋め尽くすデザートの数々とそれを見たことも無いような満面の笑みを浮かべながら見ている『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』の姿が。

 

「―――――ッ‼」

 

 心底美味しそうに表現でもしているのかパタパタと足を動かすサージュ、そしてそれ以上の速度で動く腕はパフェと口を往復していた。というかもうチョコレートパフェ食い終わるじゃん、早いなおい。

 

 と、いけないデュエルに集中しなければと盤面を見る。如何やら相手も同じような状態だったのかはっとした後に向き直り、視線がぶつかり…ちょっと恥ずかしそうに頭を掻いた。まぁ仕方がないと思いながら気を取り直し改めてドロー。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

 

 二人同時の迫真の二度見である。え、もう食べ終わったの嘘だろう? 相手の隣に座っている精霊の『マドルチェ・マジョレーヌ』も唖然とした表情を浮かべている。というかよく見たら店内に居る店長と『宣告者の神巫』と『崇高なる宣告者』の三名以外全員が見ていた。

 

 そんな状況にも関わらず気が付いていないのか、或いはいつも通りだから気にする必要がないとでも言いたいのか、サージュは軽く口元を拭って一息。

 

 

「あ、すみません。チョコレートパフェとチョコプリンをもう一つお願いします」

 

 

 まだ食べるの⁉

 

 

 結局、『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』はデュエル喫茶『ついばみ』のメニューに載っているデザートを全種を閉店ギリギリまで食べ続け、それはもうご機嫌な様子で帰って行った。偶々会計をする事になったシェイレーン曰く、あんな額この店で見たのは初めてだったとの事。

 

 因みにデュエルは一応勝った、勝ったけどなんか…こんなに集中できなかったデュエルも久しぶりな気がする。

 

 

 

 

 

 

 

「はいこれ」

「はい?…あのなんでコーヒーを?」

「いやだってねぇ? 飲みたいでしょう?」

「…それは、まぁ、はいいただきます」

「どうぞ召し上がれ。はいシェイレーンちゃんもこれ紅茶」

「どうも……ねぇマスター」

「なんだ?」

「あたし、甘い物食べたくないって思ったの初めてだわ」

「奇遇だな俺もだ」

「ははは! そうだろうねうん、僕は毎週そう思ってるけどね‼」

「「あ、はい」」

 

 

「プハー‼ やっぱり仕事終わりのあまーいカフェオレは最高ですね『崇高なる宣告者』さま」

 

 その言葉に、『崇高なる宣告者』はげんなりとした様子で、肩を竦めた。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『稲田遊賀』

 今までで一番ダメージを受けた。何故か一週間に一度喫茶店内のコーヒーの香りが塗りつぶされ甘ったるい感じになる日があるので不思議に思っていたが、今日その理由を知った。因みにデュエルが不完全燃焼だったので後日改めて同じ人物にデュエルを挑んだ所、接戦の末敗北した。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 彼と共に過ごす様になって初めて甘い物が食べたくないと思った。その日初めてブラックコーヒーを飲むことが出来たが、なんか甘い気がして顔をしかめる事になる。その原因が鼻に残り続ける甘い香りであることは分かり切っていた。


『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』

 週一でデュエル喫茶『ついばみ』を襲撃する超絶甘党効果モンスター。訪れる毎にデザートを食べる量が増えている。なお帰る途中、コンビニによってデザートをかご一杯に買う姿が目撃されている、そのうちのお気に入りの一個は己の主の為に…残り全部は自分の為に。実は主からバロネスよりもすごい人認定されている事に気が付いていない。

 数多のスイーツバイキングに出禁を食らっている猛者の中の猛者である。


『筑波店長』と『崇高なる宣告者』

 毎週訪れる戦場に備え、幾度となく勝利してきた歴戦の勇士である。が、その日の夜はゾンビの如く呻きながら布団で藻掻く事になる。それでも笑顔を絶やさず拒否もしない素敵なジェントルマンである。


『宣告者の神巫』

 今日も彼女は無敵であった。きっとこれからも無敵である。


『対戦相手のデュエリストとその精霊』

 『マドルチェ』使い。一緒に居る精霊の『マドルチェ・マジョレーヌ』にこの店はデザートが美味しそうな気配がすると言われ立ち寄り実際その通りで、対戦相手のデュエリストも強く大満足…という気分を全部塗りつぶされた可哀そうな人。同時に『マドルチェ・マジョレーヌ』に甘い物を見たくないと言われる貴重な体験をした。





『迷子のフルール・ド・バロネス』

 主のコンビニのケーキ食べたいな発言を受け出立。三か月後、ハワイ沖で見つかった。
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