MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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姫様おめでとう


お隣の『白銀の城の召使い アリアンナ』とサプライズ未遂

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 結果的に精霊との交流を生んだそれに、やはりと言うべきか自分に纏わるカードが実装されると精霊にとって嬉しい事の様で。

 

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊のお隣さんの来訪から始まる出来事を描いた物語である。

 

 

 

「祝! わたくしの別衣装実装決定ですわー‼」

「あー…おめでとう?」

「ありがとうですわ‼」

 

 いきなりやってきてそう高らかに言葉にするのは『白銀の城のラビュリンス』。これでもかと言わんばかりのドヤ顔を浮かべる彼女と『白銀の城の召使い アリアンナ』の横に立つ女性、彼女たち『ラビュリンス』の主である『永守サエ』が申し訳なさそうに手を合わせていた。

 

「ごめんね稲田くん、いきなりお邪魔しちゃって」

「いえ別に気にしてませんから…すごい嬉しそうですね彼女」

「そうなのよ、前々からMDにそろそろ実装されるとは噂になってたけどやっぱり確定して相当嬉しかったみたいでね。この喜びを世界中に共有したいですわ‼なんて言って徹夜してた位だし」

「あぁ、それで昨日の夜何時もより騒がしかった訳ですか」

「そ、だからそれの件も含めての謝罪。改めてごめんなさいね」

「じゃあこっちも改めて、気にしてませんから」

 

 ありがとうと言いながら眼鏡の位置を治す永守さんと一緒にシェイレーンに面倒くさい絡み方をする二人を見る。と、そう言えばと彼女は遊賀へと視線を向ける。

 

「稲田くんさ、この後時間ある?」

「時間ですか? えぇまぁこれと言って予定はありませんけど…何かあるんですか?」

「そう言う訳じゃないけどーちょっと君に見てほしいものと言うか見せびらかしたいものがあるんだよねー」

 

 そう、堪え切れないと笑みを浮かべる永守さんに彼は首を傾げて何をと問いかけると。

 

 

「DDM…買っちゃったのよ」

「DDM…DDM? え、『ダンジョン・ダイス・モンスターズ』ですか⁉ あの⁉ マジですか⁉」

「マジよ‼」

 

 え、凄い。『ダンジョン・ダイス・モンスターズ』と言えば知る人ぞ知るなテーブルゲーム。プレミアが付きまくってとんでもない値段になっていると言うのは知っているが、一体幾ら出したんだこの人。

 

 いやしかし、確かにそんなものを手に入れたら自慢したくなるのも分かる、俺だって同じ立場ならばそうするしと深く納得した。

 

「え、というか。み、見せてもらえるんですか?」

「勿論、じゃないと自慢もなにも出来ないし。というか一緒に遊んでみない?」

「遊んで良いんですか⁉」

「ゲームは遊んで楽しんでこそでしょ?」

 

 言ってサムズアップする永守さん。今この瞬間、彼女が神のカード以上に神に見えた。まさかDDMを遊べる日が来るとは思ってなかった。

 

「と言う訳で帰るけど貴女たちはどうするー?」

「マスターが行くならあたしも行くわ。DDMがどんな物なのか気になるし」

「あれをすると言うならばわたくしも帰りますわ。喜びの共有も十分できましたし‼」

「おや、姫様もお帰りになられるのですか?」

「?…えぇそのつもりですわよ? それが何か?」

「先ほど祝いとしてケーキを買いに行くとおっしゃっていましたから、てっきりこのまま買い物に出かけるものだとばかり」

「そう言えばそうでしたわ…でも、うーん。やっぱり帰りますわ‼ そもそもよく考えたらケーキはアリアーヌが作ったものがありますもの! 完全に忘れていましたわ‼」

 

「………そうですか、では僕は先に帰って出迎えの準備をしてまいります」

 

「は? いや隣なんだから普通に一緒に帰ればって早」

「凄い速さで去っていったわねあの子、話も聞かずに。何時もあんな感じなの?」

「ですわ‼ すると決めたら一直線でとても可愛らしいですわ‼」

「取り合えず自分たちも行きますか」

 

 やけに綺麗なフォームで走っていた『白銀の城の召使い アリアンナ』を追う様に部屋を出て、隣に。本当にそれだけで何か可笑しな出来事が起こるなんて事も無く。

 

「そう言えばお隣にお邪魔するのっていつぶりだっけ? ラビュリンスがトラップ仕掛けすぎて酷い事になって以来?」

「確かにそうだな」

「その節はご迷惑お掛けしましたわ!」

「そう思うならせめてドヤ顔やめて言いなさいよ全くこの姫は…もしかしてトラップ仕掛けまくってないわよね?」

「してませんわ‼ きちんと報告した通りの場所と位置にしか設置していませんわ‼」

「なら良いんだけど」

 

 あ、トラップ仕掛けるの事態は良いんだ、なんて思いながら招かれて扉を潜り。

 

 

 

 堂々と聳える石壁が目に映り込む。

 

 

 

「……」

 

 無言である。隣を見れば自分以外の全員が無表情で聳える石壁を見ていた。きっと自分も同じ表情浮かべてるんだろうなと遊賀は思った。だがそれ以上に。

 

 

「いやなんですのこれ―⁉」

 

 『白銀の城のラビュリンス』がここに居る全員の思いを代弁した。と、その叫びに反応したのか『白銀の城の召使い アリアンナ』がよく見たら何故か曲がり角になっていた部分からひょっこり顔を出す

 

「あ、姫様主様おかえりなさいませ、お客様方もいらっしゃいませ。この様な状況ではありますがどうぞごゆっくり」

「いやゆっくりもなにもないでしょこれ」

「これはどう言う状況ですのアリアンナ⁉」

「見ての通りですが『迷宮壁-ラビリンス・ウォール』によって主様のご自宅が迷宮化しております」

「いや何故⁉」

 

「僕が『迷宮壁-ラビリンス・ウォール』を召喚したからですが?」

 

「いや本当に何故ですの⁉」

 

 その問いかけにアリアンナは緩く首を傾げる。

 

「姫様の新衣装版実装決定祝いのサプライズパーティーの準備をしているのでその時間稼ぎをする為にですが?」

「……そう言うのって普通隠しておくものじゃないの? 教えちゃってよかったの?」

「あ」

 

 シェイレーンの指摘に今気が付いたと言わんばかりに口を開けるアリアンナ。視線を少し彷徨わせて。

 

「……今から内緒ですと言えばサプライズになるでしょうか?」

「なる訳ないでしょうおバカ」

「がーん」

 

 分かり易く落ち込む彼女に、永守さんは若干頭が痛いと手を額に当ててため息一つ。

 

「取り合えずやりたい事は分かったから、この状況を何とかしなさい」

「分かりました…ですが正直に申しますと僕にはどうする事も出来ないのです。壁を物理的に壊す、それこそMDのモンスターを破壊するようにすれば良いのですが、僕では攻撃力が足りず」

「はぁ、そういう事ね。ラビュリンス、お願い」

「任されましたわ‼」

 

 言いながら頼られたからか今まで以上に輝いて見えるドヤ顔を浮かべながら武器を構えて歩み出て。

 

「あ、いけません姫様」

「先ほど言った攻撃力の事ですわよね? 確かにわたくしもカードに書かれている限りでは足りませんがちゃんと」

「いえそうではなく」

 

 

 では何なのかと訊く。前に、『白銀の城のラビュリンス』の姿が消える。それは消滅したと言う訳ではなく、彼女が吸い込まれるように突如床に空いた穴に呑まれたからだ。無言で、浮遊感を感じた瞬間虚無顔を浮かべながら底に落ちていった。

 

「『迷宮壁-ラビリンス・ウォールー』を召喚した際にかなり廊下に設置されていたトラップの位置が変わって仕舞たのです。そのせいで僕もここから動けなくなってます、助けてください」

「そう言うのは早く言ってくれないかなー‼」

 

 あぁもう面倒くさいと頭を掻く永守さん。どうしようかとシェイレーンを見る遊賀。

 

「言っておくけど、あたしもこれは壊せないわよ? 動き回れないって言うのも一緒だし」

 

 言いながら何時の間にか持っていた直剣で石壁を叩いて見せるシェイレーン。まぁそうだよなと頷く。さてじゃあどうしようかと申し訳なさそうにしている永守さんと考える。

 

 と、その時わずかに揺れを感じた。

 

「ん? 地震かこれ?」

 

 その疑問に誰かが答える前に、目の前の壁から腕が生えた。そして反応を示すよりも早く、その腕は大きく動き。

 

 

 『迷宮壁-ラビリンス・ウォール』を粉砕した。

 

 

 迷宮から唯の玄関、唯の廊下に変わると同時に生えていた腕の全身が目に入る。それは鎧、或いは像…見る人が見れば魔人であると称するそれの名は。

 

 

「あ、『白銀の城の魔神像』じゃないですか。さっきまで居たのに見ませんでしたが壁の中に閉じ込められ

いたぁい⁉」

 

 見た目からは想像もできない素早さで『白銀の城の召使い アリアンナ』に近づき渾身のデコピンを叩き込む『白銀の城の魔神像』。それはもう、表情など分からないのに見るだけで怒っていると分かる。というかよく見たら持っているのはカードに書かれている様な大剣ではなくモップである、掃除でもしていたのだろうか。

 

「あぁもう全く。取り合えずありがとうね魔神像」

 

 そう言うと褒められるような事はしてないと言いたげに腕を振る。それでもまぁ良いからと軽く魔神像を叩き、振り返り二人を見る。

 

「その、自分で誘っといて悪いのだけれど、DDMはちょっと待っててもらえる? 急にすることが出来ちゃったから。あ、魔神像二人にお茶とお菓子だしてあげて」

 

 それだけ言うと二人の反応を待たずに居間に向かってずんずんと向かっていく。どうしようかと改めて考える二人にどうぞと気絶しているアリアンナを小脇に抱えた『白銀の城の魔神像』に促されて、まぁそういう事ならと後に続く。

 

 そして居間について最初に目についたのは『姫様新衣装実装決定おめでとう』の文字で。あぁ本当にサプライズパーティーする積りだったんだなとすぐに分かった。そして忙しそうにテーブルの上に料理や飲み物、皿やコップを並べていた『白銀の城の召使い アリアーヌ』がこちらに気が付き、あちゃと言った感じに額に手を当てた。

 

「やっぱり間に合わないかー、いやまぁ正直無理だろうなと思ってたけど…あれ? なんでアリアンナ気絶してるの? というか姫様は?」

「ラビュリンスなら『奈落の落とし穴』に落ちてどっか行ったわよ」

「…え?」

「で、アリアンナが気絶してるのは廊下に『迷宮壁-ラビリンス・ウォール』を召喚してあたしたちの移動を妨害したからよ」

「は、はぁ⁉ なんでそんな事…あ、待ってもしかしてさっき言ってた時間稼ぎするってそういう?」

「そういう事だったのでしょうね。その反応からしてそこまでするとは思ってなかったようだけど」

 

 

「取り合えず、正座」

 

 

 どうぞと魔神像に差し出された紅茶とチーズを頂きながら、何となく思う事。『白銀の城のラビュリンス』よりも上の問題児居たんだぁ…であった。

 

 

 

 その後、ちゃんとDDMを見させてもらったし遊ばせてもらった。とても楽しかったと満面の笑みで遊賀はシェイレーンに言ったとの事。

 

 そしてその日の夜に現在の値段を調べてみて余りの値段に…彼は震えた。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『稲田遊賀』

 とんでもない物を遊ばせてもらった一般デュエリスト。高いとは知っていたが実際はどの位なのか知らなくてつい調べてしまった。とても楽しかったが、次また遊ぼうと誘われても無邪気に遊べるか分からなくなった。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 己の主がとても楽しそうに遊んでいるのを見て満足げだった子。後に主と一緒に遊んでいた物の値段を見て夜、うなされる事となる。後日お隣さんに思わず畏怖の視線を向けてしまった。チーズケーキはとても美味しかった。


『永守サエ』

 『ラビュリンスデッキ』の使い手にして、手の届く範囲だったからと貯金も突っ込んでDDMを買った剛の物。デュエルに限らずテーブルゲームを好んでいる。姫さまを祝いたい気持ちは分かるけどもう少しやり方があっただろうと心の底から思った。一緒に遊んだDDMがとても楽しかったのでまた誘おうと誓った。因みに他の知り合いにはDDMで遊ぼうと言った直後、みんなに断られている。

 とても軽くなってしまった懐にどうしようか考えていたら帰って来たラビュリンスがなんか知らないけど大量の宝石を持ち帰って来たのでどうにかなった…いやどういう事なのか。


『白銀の城の召使い アリアンナ』

 今回の事を純粋な善意でやらかした子。仕事はとても出来るのだがどうしてそういう事しちゃうかなーってなる事がとても多い。永守家の精霊の中で一番怒られる事が多い。結果的に人に迷惑をかけた為、帰って来た姫様に一週間紅茶禁止を言い渡された。とてもつらいと、死んだ魚の様な目をしながら言っていたらしい。


『白銀の城の召使い アリアーヌ』

 喜ぶラビュリンスを見て、どうせだからサプライズパーティーをしてもっと喜ばせようと提案したある意味で現況兼被害者。姫様の事だしどーせ寝起き直後にトラップ引っかかってどっか行って夜ごろに帰ってくるだろうから準備は余裕だろうと思ったらまさかの徹夜で予定が全部ぶっ壊れた。そして同僚がやらかした。一言で言えばとても可哀そうである。


『白銀の城の魔神像』

 廊下の掃除してたらいきなり同僚がモンスターを召喚しそれに巻き込まれた被害者(二度目)。閉じ込められながらどうしようかと悩んでいたらそれをした理由を聞いてキレた結果力で全て解決した。


『迷宮壁-ラビリンス・ウォール』

 なんかデュエルでもないのに召喚され、デュエルでもないのに破壊された。今回最大の被害者かも知れない。



『白銀の城のラビュリンス』

 位置がずれていた所為で引っかかった『奈落の落とし穴』によって良く分からん地の底まで落とされた被害者。まぁ落ちたからには仕方がないかと帰り道を探しながらついでだからと発掘作業に勤しみ、大量の宝石を担ぎながら『魔救の軌跡-ラプタイト』に乗って帰って来た。相変わらず良く分からない所に行っている姫様である。

 サプライズでのお祝い自体はとても嬉しかったがそれはそれ、やらかしたならきちんと叱れるしっかり者な姫である。
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