MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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休暇中の『S-Force ラプスウェル』と図書館

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 その広がりによる多くの精霊と人々とが出会い共に暮らしている。偶に、精霊一人で行動することもあるようで。

 

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊が、ふとした思い付きで出かけた際に出会った精霊との何てことは無いひと時を描いた物語である。

 

 

 

「図書館に行くか」

 

 それは休日の朝の事。牛乳を飲み干した彼、『稲田遊賀』が唐突にそういった。いつも通り浮かびながらゼリーを食べていた『ティアラメンツ・シェイレーン』はキョトンとした表情を浮かべながら既に出かける準備をしている彼を見た。

 

「なんか随分と急ね」

「まぁ何となく図書館で本読みたいなって思っただけだし。あ、シェイレーンはどうする?」

「勿論一緒に行くわよ」

 

 こんな唐突にあれこれしようとするのも珍しいなと思いながら彼女も同じように準備を始め、いや別に珍しい事でもなかったかと、一人納得した様に頷いた。

 

 

 

 

 実の所を言うと遊賀は図書館が結構好きだったりする、特に夏の図書館が。うだるような暑さから逃げる様に急いで涼やかな図書館に入り、先ほどまで感じていた噎せ返る様な命の匂いではなく、インクと紙の匂いで満ちた館内を好みの本を探しつつ巡り、これだと言う本を見つけたなら先ほどまで痛いと感じる程だった蝉の鳴き声を遠くに、本を捲る音を近くに感じつつ読書にふける。

 

 そんな場所、そんな時間が結構好きだったりする。

 

「…お」

 

 ふらりと漫画コーナーに吸い込まれていったシェイレーンを横目に、ちょっと気になったミステリー小説片手に読書コーナーに向かってみたら、目立つ人影。寛いだ様子で本を読む精霊『S-Force ラプスウェル』がそこに居た。

 

「ん?……おや、貴方は」

 

 彼の零した声に反応してか読んでいた本から顔を上げて、遊賀へと視線を向けるラプスウェル。まぁ図書館内である事を考えれば結構声が大きかったからなと、次から気を付けようと思いながら軽く頭を下げる…と、そこで気が付く。なんか凄い見られてる。

 

 こう、チラって感じでなくジロジロと隠す気なぞ無いと言わんばかりに上から下までしっかり見つめられていて。『S-Force』にそんな見つめられるような事したっけなと思いながら恐る恐る問いかける。

 

「すいませんその、なにか?」

「あぁいえ、失礼しました。ただ少し気になる事があったもので」

「気になる事、ですか?」

「えぇはい、少し珍しいものに好かれているなと思わず見つめてしまいました」

 

 珍しいもの?と首を傾げる遊賀にラプスウェルはえぇと頷きながらおもむろに天井を見上げる。つられて彼も見上げてみると、室内だと言うのに僅かに星空が揺らめくのが見えた。

 

「あぁー、もしかして彼らがなにかしましたか?」

「そう言う訳ではありませんが、しいて言えばあまり見つめるなと注意されてしまった位でしょうか。そういう意味では、私の方こそその何かをしてしまっていたという事になりますね。実際、知り合いでもないのに見つめてしまいましたから」

「あ、いえお気になさらず」

 

 割とよくあるのだ、初対面の精霊に見つめられることが。多分、目の前のラプスウェルと同じ理由で見てきていたのだろう。そう言う訳でそれなりに見られることに慣れているのだ、余り慣れたくない類のものではあるけれど。なので改めてお気になさらずと、言いながら椅子に座る。

 

 と、その時視界に入るラプスウェルが読んでいた『ワイトベイキングが芋を焼く理由』という本。

 

「良いですよねその本」

「ん? あぁそうですね、まだ読んでいる途中ですが、既に結末がどうなるのかとドキドキしていますよ」

「分かります、最初タイトルを見て何となく読みましたけどあんな内容だとは思ってもみませんでした」

「私も今絶賛そう思っている所ですよ」

 

 まさか『ワイトもそう思います』のセリフに泣かされるとは思ってなかった。

 

「そう言えばそれ実写映画化されてるんですよね、結構前ですけど」

「そうなのですか? ふむ、それは…どうせ今日は暇だし読み終わったら見てみようかな」

「暇、ですか?」

「あぁ、意外ですかね?」

「まぁ正直」

 

 『S-Force』と言ったら暇という言葉とは無縁なイメージがあった遊賀は素直にそういった。いやまぁ精霊はそれぞれ別だから本当にイメージと言うだけなのだが。そういうと、彼はそうですねとほほ笑んだ。

 

「皆に言われるほど働き詰めと言う訳ではないのですよ。結局の所精霊とて生きている事に変わりはありませんから、幾ら人に比べ頑丈であろうと何かをし続ければ疲れ果ててミスが増えるのは道理です。そうなる前にきちんと休むと言うのは当然の事でしょう?」

「あぁー、そうですね」

 

 全くもってその通りである。

 

「まぁとは言え、私自身休んだ所でこれがしたいと言えるような趣味らしきものもなく、こうして意味もなく街を彷徨った結果ここでこうして本を読んでいる訳ですが」

「読書も趣味の一つと言えるのでは?」

「えぇ、私も確かにこれは夢中になれるものだと思った所ですよ。これからは休日にはゆっくり本を読む事にしますよ」

 

 そう言って、さてと彼は立ち上がった。

 

「あぁお帰りですか」

「えぇ思っていたよりこの本が面白かったので、なにか飲み物でも飲みながら読みたいと思いましてね」

 

 なにせここは飲食禁止ですからと、笑いながら本を撫でた。

 

 

 

 それではと彼は近くに置いて在った何冊かの本を手により、遊賀に頭を下げてから歩いていく。

 

 それと入れ替わるように少し加減をしろと言いたくなる量の漫画を抱えて近づいてくるシェイレーンが見えて。何故か辺りを見渡してから遊賀の隣に座った。

 

「随分楽しそうだったけど誰と話してたの?」

「誰…誰かって言えば」

 

 ふむ、と少し考えて。

 

「……普通の精霊?」

「いや何が如何普通なのよ」

 

 如何と言われてもそうとしか言えない。彼は何処にでもいる様な普通の精霊だったのだから。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『稲田遊賀』

 この後本を二冊読んでから五冊借りて帰った。やはり夏の図書館は良いなと改めて思った。多分、ラプスウェルに対して最果ての彼らは注意所で無い事したんだろうなと何となく察している。今度あったらちゃんと謝ろうと決めた。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 漫画を探しながらも彼がラプスウェルと話している間ずっと意識を向けてた。もしなにかしようとしたらその瞬間首狩りに行く気満々だった。結果的には何事もなく普通にマスターと会話を楽しみつつ漫画を読んだ、でも正直漫画より一緒に本を読んでいる状況が嬉しかった子。漫画を借りようとも思ったが流石に量が多かったので諦めてマスターから勧められた二冊を借りて帰った。

 読破後、感動して泣いた。


『S-Force ラプスウェル』

 実は稲田遊賀を見た際になんか変なやばい奴らに気に入られてる子が居るから保護した方が良いかなと行動に移そうとして最果ての奴らに洒落にならない殺気を叩きつけられてた。話してみた所別に困っていると言う訳でもなく、まぁ問題ないかと判断し、寧ろ彼と一緒に居る方が果ての彼らを刺激すると判断してそこそこ会話を楽しんでから立ち去った。

 後にふと思う。あの時行動に移していた場合、彼らにとっては己の主を拉致しようとしていた不埒ものになる訳かと気が付き、それならまぁあの反応も仕方がないかと深く反省した。また出会う事があればきちんと謝ろうと心に決めた。


『最果てのゴーティス』

 なにうちのお気に入り連れ去ろうとしてんだよおぉん⁉ とぶちぎれて洒落にならない殺気を叩きつけて、小さな灯に頭を叩かれた。少しは加減せい。





『ワイトベイキングが芋を焼く理由』

 ワイトがワイトベイキングと名乗るようになる話。内容的には内気な少女をひたすらワイトが肯定し続けて成り上がっていくと言う物語。





 の、皮をかぶった精霊と人との別れを描いた物語。

 曰く、この物語は『ワイトが少女の願いを否定するまでの物語』であると言う。
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