「まず最初に書くべき事としては、これは物語としてはありきたりな結末を迎えるだろうという事だ」
「なにせ、世界中にあふれている現実の一つを書き記すのだ。これを読み、聞く人は何処かで同じような結末を迎える物語を一つや二つは見たことがあるだろう。それでもこうして書き記してでも残そうとしているのは、この記憶が私にとって掛け替えのないものであるからというだけだ」
「さて、こうして作品として書き残すからにはなにか一言で言い表せる何かが欲しい所だ。故に色々と考えていたのだが」
「ワイトが少女の願いを否定するまでの物語、というものどうだろうか。我ながら中々良いのではないだろうかと思う」
「さてと、では始めるとしよう。どうか、どうか短くも輝かしき私たち二人の物語を…最後まで見ていってほしい」
アンデット族は死に魅入られている。
それは、己が命持たぬ存在であるが故か。生きる者たちが己と同じ場所に落ちてくる事に歓喜する。命が零れ落ちる瞬間に立ち会えたならばどれだけ幸福だろうかと嗤うものも居る程だ。
そういう意味では、自分は酷く幸せなのだろう。
なにせ今まさに、目の前で自らの命を捨て去ろうとしている少女が居るのだから……とは言ってもここで想定外が一つ。
「ねぇそこに居る死神さん。一つ貴方に訊きたい事があるの」
意味もなく彷徨っていた林の中、首を括ろうとしていた目の前の少女に話しかけられたことだ。尤も自分は死神でも何でもないのだが、しかしと己の格好を見る。ローブを纏った骸骨である、成程確かに人間たちが思い浮かべる死神のそれだ。これが『カードを狩る死神』に見えたと言うならばそれは違くないかと言う所である。
なんて、関係のない事を己が考えているなどとは思いもしないだろう少女は続ける。
「お父さんとお母さんは生きていればいつか幸せになれるって言うの…貴方も、そう思うの?」
なんともまぁこれは哲学的な質問と言う物では? 自ら死へと落ちようとしている少女がする様な質問なのか、いやだからこそか? 正直分からない、問いの答えも同じく分からない。
分からないから、素直に自分が思った事を口にする。というか質問するならこっち見ながら言えと思いながら口にする。
「『ワイト』もそう思います」
なにせ生者の喜び幸せは生きていなければ感じられない、死んで感じられるのは死者の喜び幸せだけだ。故に、そのように答えると少女はぽかんとした表情を浮かべてこちらを見て、そっかと言いながら首から外した…え、外すの?
そう思う己の近くまで歩き、少女はしっかりと視線を向けて再度問いかけた。
「何度も何度もデュエルしても勝てない様な私でも…幸せになれるの?」
デュエルに勝つ負けるは幸せに直接関係あるのか? なんて思いながらも仮に関係があるのだとすればと考えて…頷いた。
「『ワイト』もそう思います」
友人曰く、勝負は時の運と言うらしく。であるならば目の前の少女も運よくデュエルに勝利し、結果幸せになれるかもしれないと思ったからこそそう言った。
だからなのかは、分からないが。
「あ、あの…死神さん」
「『ワイト』です」
「お願いが…あるの」
「一緒に、私が幸せになれるか見ててほしいなって」
いや何故そうなった? 見ててほしいと願われるような事自分はしたかと首を傾げる。が、思い当たる様な事は無く。けれど同じように断る理由も思いつかなかったので、ポンと俯く少女の頭に手を置いて頷いた。
強い死の香りを漂わせる少女の浮かべる笑顔には、少しだけ命の香りがした。
さてと少女の後をついて家まで来てみた所。目の前で少女が大人の女性に抱きしめられる瞬間を目にした。
「よかった、本当に良かった! 大丈夫? けがはない?」
「う、うん大丈夫。死神さんも一緒に来てくれたから」
「死神さん?」
「いえ、『ワイト』です」
なんだかこのままだと自分が『ワイト』ではなく死神として認識されそうだと思ったので軽く手を振りながら訂正する。それを見ながら女性は少ししてから納得した様に頷いた。
「そう、なのね。貴方が…どうもありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」
本当に一緒について来ただけで何かした訳ではないので礼を言われても困ると言うのが本音。それよりも自分的にはと、軽く見渡す。
この自分の事を囲んで睨みつけている『ハーピィ・レディ三姉妹』をどうにかしてほしい。え、なんでこんなに殺気立ってるの? 自分何かしたかと空っぽの頭の中が疑問で一杯になっていて、女性に連れられて家へと入っていく少女を見送った。
「…ふん、見事に骨の香りね」
「えぇ、それ以外は何も」
「という事は唯の骨という事かしら」
いえ唯の骨ではなく『ワイト』です。いやそれ以前に骨で何か悪いのかと。思わず睨むと三人の内一人が軽く手を振った。
「あぁごめんなさいね。別に不快な思いをさせたかったわけではないのよ、死神さん?」
「いえ、『ワイト』です」
「知ってるわよその位わね…ふん、どうせだから聞くけど本当にあの子について来ただけなのね」
「そうですがなにか?」
「いいえ、唯の確認よ。さっきも言ったけど別に不快な思いをさせたかった訳じゃないわ…そうね、お詫びと言ってはなんだけど、何か一つだけ、なにかしてあげるわよ?」
なにかとはなんぞやと首を傾げる。何故彼女はやたらと前かがみになっているのだろうか。分からないから聞こうかと思ったが、それより気になる事があるのでそれを問う事にした。
「では少し気になる事があるのだが」
「…分かってたけど、無視なのね…まぁ良いわ、それで気になる事って?」
「なぜ『ワイト』をそんなにも警戒している?」
はっきり言ってそんな事される様な事はしてない筈なのだがと、問いかければキョトンとした表情を浮かべて姉妹同士で顔を見合わせてから。
「「「いや見知らぬ精霊が着いて来てたら警戒するでしょう普通」」」
と……まぁ、はい。それに関しては『ワイト』もそう思います。
思わず空を見上げるとカラスが鳴いていた、小ばかにしているのか笑う様に鳴いていた……いやカラスじゃなくて別の鳥か? まぁ気にするような事じゃないかと、三姉妹に招かれて家へとお邪魔した。
そうしたちょっとした出来事から少ししてから女性の夫らしき人物が慌てて帰宅し、少女が無事である事を確認するやこれでもかと大泣きしながら少女を抱きしめた。そして汗臭いと言われて崩れ落ちた。
そんな個人的に色々とあった日の翌日。
目の前で美味しそうにゼリー飲料を飲む少女を見ながらあぁー、なんて気の抜けた声を零していた。何があったかと言えば少女が女性の夫と行ったデュエルを見たと言うだけの事。それに対してなぜそのような反応をしていたかと言えば、少女のデュエル内容が酷かったとかそういう事では無く、もっと単純な事で。
「…体力がない」
デュエル途中でぱたりと倒れる光景を思い出す。まさかデュエルしても勝てないってそういう事かと思わず頭を抱えた。そう言えば昨日も家に帰るまでの道中何度も休んでいたなと思い返しながら友人の言う勝負は時の運と言うのは体力が無くて勝てないにも当てはまるのだろうかと考える。
「えっと、あの…どうかしたの?」
考える己に、少女はコテンと首を傾げた。純粋に、心配している瞳だ。それがすぐに揺らぐ。
「あ、あのその…やっぱり、私じゃ無理、かな? デュエルに勝つなんて」
勝つか負けるか、という点で言えば実の所そう難しくはないのではと思っていた。先ほどまで行われていたデュエルだって女性から借りたデッキを見事に使いこなし良い所まで行っていたように思えたからだ。幼いながらに素晴らしいデュエルタクティクスだった。
ただ如何にも、勝ちきるには体力が足りない。
正直自分が態々あれこれ考えた所でどうにかなる訳でもないのだが。と、その時友人の言葉が頭に過る。
曰く、結局デュエルは相手のライフを削り切った方が勝つと言う物。成程、『ワイト』もそう思いますと、深く頷き。ポンと少女の頭に手を置いた。不思議そうに見上げてくる少女に提案を一つ。自分を使ってみないかと、少女に問いかけた。
『ワイトデッキ』、それは数多いデュエルモンスターズのカードの中でも有数と言える程の、脳筋デッキである。多くの『ワイト』系カードを墓地に叩き込み、『ワイトキング』でぶん殴る。それだけのデッキ、シンプル極まれりなデッキである。これを女性の力を借りて『芝刈りワイトデッキ』に仕上げてみたらまぁ何てことは無い。
吃驚する位、少女はあっさり勝ってしまった。
体力が尽きる前に相手を叩き潰せばよいのではという発想から来たこのデッキが、思いの他少女とあっていたようだ。とはいえ、その少女はと言えばそれでも幾度となく難戦を乗り越えたかの様に疲れ果てている訳だが。
「―――――――っ‼」
それが気にならない程、少女は喜んでいた。それこそふらつく足を必死に動かして自分に抱き着く位に。
「勝て、た! 私勝てたよ死神さん‼」
「『ワイト』です。でもそれはそれとしておめでとうございます」
「えへへ…」
ポンと頭に手を置くと嬉しそうに顔をローブにこすりつける。そんな肌触りの良いものでは無いのに。と、何時の間にか自分を囲うように『ハーピィ・レディ三姉妹』が立っていて優しく己の肩に手を置いた。
「これはあれね、なにかお祝いでもしてあげるべきじゃないかしら死神さん?」
「『ワイト』です」
「そうよねぇ、初めての勝利だもの。なにか我儘でも聞いてあげてもいいわよね死神さん?」
「いえ『ワイト』です」
「そう言う訳だから、さ。死神さんがなにかお願いを聞いてくれるらしいわよ?」
「だから『ワイト』です」
というか何故自分が願いを聞くことになったのかと、いやまぁそんな良いのか?って感じの表情浮かべなくとも別にそれ位ならば良いのだがと頷いて見せると。少女は控えめに、デッキからカードを一枚取り出して、見せる。
「その…これが、したいなって」
言いながら『ワイトベイキング』のカードを差し出した……いやこれと言われても分からん。『ワイトベイキング』の何がしたいのかと悩んで、ふとカードに書かれているイラストがしている事が目に着く。これはもしや。
「……たき火で焼き芋がしたいと?」
その言葉に、少女は控えめに頷いた。思わず、空を見る。綺麗な秋空でたき火のなにも問題なく行えそうな、いい天気である。
何故自分は、唯の『ワイト』でしかない自分が『ワイトベイキング』の様に焼き芋を作っているのかと疑問に思いながら目の前のたき火の前で枝先に刺さった良い焼け具合の芋を揺らす。
甘い香りに誘われるように一口。うむ、外だけでなく中までしっかり火が通っている…まぁ口にした分はそのままストンと顎から落ちてしまっている訳だが。なんて思いながらワイワイと三人ではしゃぐ…いや正確には焼き立ての芋片手に苦戦する少女の周りで盛り上がる女性とその夫が見ながら思い出すのは、焼くための枯れ葉や主役の芋を買ってくるとドタバタし始めてすぐ、ぼそりと『ハーピィ・レディ三姉妹』の内の一人が呟いた言葉。
―――もしかしたらッて思って言ってみたけど、本当にお願いするなんてね。あの子が何かお願いごとする所なんて初めて見たわ、ありがとうね死神さん?
だから自分は『ワイト』だって言ってるでしょうが。それにしても初めてのお願いかと考える。割と主張が激しいと言うか押しが強い様に思える少女がそんな控えめだったのかと意外だった。
今もこうしてちまちまと焼き芋を食べながら自分の隣に移動してきたこの少女がそうなのだとしたら本当に意外である。
「……美味しいですか?」
「うん、美味しいよ死神さん」
「『ワイト』です、まぁそれはそれとしてよかったですよ」
正直焼き芋は初めてだったがうまく焼けていてよかったとふっと息を吐く。知り合いの『ワイトベイキング』の長ったらしい焼き芋豆知識も無駄ではなかったという事か。
「ん…んぬ、お母さんが言ってた通りだった」
「と言いますと?」
「誰かと一緒に食べた方が美味しいし、楽しいって」
「…まぁ、『ワイト』もそう思います」
実際、自分と友人二人の三人で言った焼き肉はとても楽しかった。まぁ己と友人は食べる事が出来ないから只管もう一人の友人に食わせまくってただけなので美味しいかまでは分からないが。楽しかったのはしっかりと覚えている…こんなに食えるかとキレられた所までしっかりと。
「あの…死神さん」
「だから『ワイト』ですって…なんですか?」
「また、デュエルで勝てたらお芋焼いてくれる?」
その言葉に、更に驚いた様子の女性と夫、それから三姉妹。それを見ながら思うのは、芋だけで良いのか? と言う物だったが、まぁ他に何かあるならその時言うかと思い頷いた。
「えぇ、良いですよ。今回見たいにうまく焼けるかは分かりませんが」
「や…やった‼」
と喜ぶ少女。それを見て、良いのかと視線を向けてくる女性に構わないと軽く手を振る。
どうせ、そう量を焼く事にはならない。
空を見上げれば、鳥らしきものが鳴いていた、笑う様に鳴いていた。隣に座っている、疲れてこけてしまった少女も笑っている。
相変わらず、濃い死の匂いを漂わせながら…笑っている。