「成程、それで『ワイトベイキング』でもない唯の『ワイト』の貴様がそうして芋を焼いている訳か」
「そういう事です。あぁ笑いたければ笑っていただいて結構ですよ」
「ぬはははははは‼」
「思いきり笑いやがりましたねこの野郎」
もう少し加減をしろと瞳は無いが寛ぐ己の友人、『不死王リッチー』を睨みつける。が、構わず友人は笑う。あれか、丁度いい具合の枝片手にたき火の中に突っ込まれた芋の様子を見ているからか。まぁ正直同じような事をしていたら己とて笑う、絶対。
「ふーんぬ、しかしなんだ…こう言っては何だが良いのか?」
「? 何がですか?」
「芋を焼いていてだ」
は? と首を傾げる。何故そんな事をと思っていたら友人が軽く指さし。そちらに視線を向けてみれば、今まさにデュエルを始めようとしている少女の姿が。
「ほれ、貴様の愛し子が懸命にデュエルしておるぞ? 応援の一つでもしてやらんのか?」
「愛し子?…いやぁまぁそれは置いといて、芋の様子見ないといけませんし…そもそも必要とも思いませんので」
「ほほぉ? 随分と薄情になったものだな」
とは言われてもなと、芋に枝を突き刺し焼け具合を確かめながら、改めて少女に視線を向ける。
「あの子が負けるとは思えませんし」
そう言葉にするのと少女の『ワイトキング』が相手のライフを消し飛ばすのはほぼ同時だった。
「ね?」
「おぉ―…見事なまでの後攻ワンキルだ」
「まぁあそこでしのがれていたら負けていたかもしれませんがね」
体力的に。
「し、にがみ…さんっ‼」
「『ワイト』ですって」
「また、はぁ…勝てた、から‼ お芋‼」
「もう少し掛かりますから、飲み物飲んで休んで待っていてください」
「ん」
そこで限界だったのか差し出された水筒を手にもってぱたりと座り込む少女。相変わらずの体力の無さ。息は乱れているし顔色も悪い。いや寧ろ体力の無さに磨きがかかっていないか? 磨くのはドロー力だけにしておいてほしい。
「はふぅ…―――」
「ん、ほら。良い具合に焼けましたよ」
「あ、わ、ありがとう…っ‼」
これまた焼き立ての芋の皮に苦戦しながら嬉しそうに食べ始める少女と、その様子をじっと見つめる友人。
「ふぅんむ」
「…なんですか?」
「いやなに、貴様も気が付いては居るのだろう?」
「えぇまぁ、と言うか『ワイト』に限らず『アンデット族』ならすぐ気が付く事でしょう?」
どうしようもない事も含めて、とは言う必要はない。友人もまたそこまで気が付いているからそうさなと短く答えた。
「ま、見た所ではありますが、あれには問題なさそうですけどね」
「あれ? あれとはなんだ?」
「言っていませんでしたっけ?…言ってませんでしたね」
チマチマモソモソと芋をゆっくり食べる少女を見ながら言う。
「大会ですよ、所謂公式大会に出るのですよ彼女」
ね? と声を掛ければ少女は芋を加えながら小さく頷いた。
相変わらず、空では鳥が鳴いている。
「しかしまぁ確かに意外ではありましたね」
「何…が?」
「貴女が大会に出たいと言った事がですよ」
友人に正気かと問いかけられたが、まぁ正直『ワイト』もそう思います。二回のデュエルに勝利し、疲れ切ってしまった少女を背負いながら歩く。この状態では大会に出ても勝てはするだろうが勝ち進むことが出来るかと言えば無理だろうなと言うべきだろう。
きっとそれは少女も分かっているだろうに、彼女は控えめに笑いながら答えた。
「あの…ね、死神さん」
「『ワイト』ですよ」
「私、ね…自慢したいの」
「は?」
思ってもいなかった言葉に、ポカンとした表情を浮かべてしまう。それが見えているのか分からないが、少女は少し恥ずかしそうに顔を己のローブに押し付けて。
「……お父さんとお母さんにハーピィのお姉さんたち、死神さんに…私はこんなにすごいんだぞって、自慢…したくて」
思わず、肩から力が抜けて少女を落としそうになるのを何とか堪える。やっぱりこの子は控えめでも何でもない、寧ろ強欲と言えるのではないか? だが、まぁ。
「なら、頑張らないといけませんね」
「‼…うん!」
強く頷く少女をよいしょと背負いなおして進む。ふと気になったことを口にする。
「そう言えば先ほどから貴女の案内通り進んでいますが、まだ家にはつかないのですか?」
「え、あ、うん。家に向かってもらってないから…着かないよ?」
「はい?」
気持ちの良い空を飛ぶとリが鳴いている。わラう様にナいている。
「…家ではなくどこに向かっているのかと思えば」
成程と思いながら目の前に広がる厳かな空間。神社境内を見渡す。というか出会った場所の近くだなと思いつつふらつきながら歩く少女の後を追う。
「それで、何用でここまで?」
「えっと…神頼み?」
「……まぁだろうなとは思っていましたけど」
神社に来てする事の第一候補そのまんまだった、けどなぜ疑問形? しかしなんだと少女と共に賽銭箱の前に立ちつつそう言えば最近神という存在が己らカードの精霊と言うものに置き換わり始めているなんて話を聞いた事があったな、なんて思う。そこまでどこもかしこもって感じではないらしいが。
少女が賽銭を入れ、手を叩いて合わせ。
「…なにを頼んだので?」
「……これからも一杯、お芋食べられますようにって」
顔を上げる少女に問いかければそんな回答。なんとまぁ食欲旺盛なもので、この分なら大会が始まるまでに体力が付くのではないかなんて…思えたなら気楽だったのだが。
多分、気づいた上でという事か。
思わず、ため息一つ。アンデット族は死に魅入られているとか誰が言い出したのか。実際、それに近づいていく少女を前にすると唯々気が重いだけだ。
「……ふむ」
少女と同じように手を叩き合わせる。申し訳ないが賽銭は持っていないので神にはまたの機会まで待っていてもらおう。
「…なにお願いしたの?」
「そう大したことではありませんよ」
ただちょっと、隣に立つ少女の願いが少しは叶いますようにと願っただけだ。お互い、神頼みにしては慎ましいものだろう、多分。それじゃあ今度こそ帰りますかと言って…そう言えばここはどんな神を祀っているのかと気になりひょいと神社の中を覗いて見る。
「……」
なんか、クソでかい右腕を天高く掲げた『倶利伽羅天童』の木像が置いて在った…え、君神社とかそれ系だったの?
知らなかったなと思いながら、今度こそ帰路に就く。結局体力が尽きた少女を背負ってだ。
こういう時は、光陰矢の如しとでも言うべきなのか。気が付けばあっという間に大会当日だ。とは言っても、この日が来るまでにあった事と言えば少女がデュエルするのを眺めながら芋焼いて少女が芋食べてまたデュエルして倒れてなんて事を繰り返していただけ。特にこれと言って変わった事は無いが…しいて言えばあまり嬉しくない変化ではあるが少女の体力が更に減った位か。大会の開催される会場まで近かったと言うのにもう顔が真っ青だ…いやこれは体力云々の話だけではないか。
「緊張しているようですね」
「……うん」
仕方のない事ではある、と思う。幾ら無名であろうと出場できると言っても公式大会。それも上位三名にはレアカードが進呈されると来た。唯でさえ会場を埋め尽くす観客からの視線があると言うのに、相手となるかも知れないデュエリスト達が全員独特の威圧感を放っている。
正直に言えばとても帰りたい。特に何故か『ワイト』は誰の精霊か分からないが『エクソシスター・ソフィア』に滅茶苦茶睨まれているから更に帰りたい…あ、なんか首傾げて視線外した。
「……ねぇ死神さん」
「『ワイト』ですよ…なんですか?」
「勝てなかったら、どうしよう」
手の中のデッキ、今日になるまで何度も何度も親と三姉妹と、そして己と一緒に調整してきたそれを握りしめる。きっと、デュエリストならだれもが抱いている感情を今、少女は初めて抱いている。
正直、己には少女が勝てるかどうかなんて事は分からない。分からないが。
「…そのデッキが弱いと思いますか?」
少女は無言で首を振る。一生懸命みんなと一緒に組んだデッキだ、弱いなんて思う筈がない。
「でしょうね、『ワイト』もそう思います」
ゆっくりと少女が己を見る。何時も以上に、死にそうな顔をしている。
「そしてそのデッキ以上に、『ワイト』は貴女は強いと知っているし、勝てると信じています」
だからまぁ、勝てなかったとすればと理由を考えて座り込んでいる少女の頭にポンと手を置いた。
「『ワイト』が弱かったからというだけです」
なにせカードにでかでかと『攻撃は弱い』と書かれているのだ。ならもう、負ける理由としては十分だろうと言葉にする。
少女は…笑った。
「なら…うん、勝って死神さんは弱くないんだって証明しなきゃ」
「だから『ワイト』ですって」
立ち上がり、一瞬ふらつきながらも気合を込める様に両腕に力を籠め…そして少女は改めて己を見た。
「死神さん……ありがとうね」
その笑顔には相変わらず、少女の命が宿っていた。
さぁ大会が始まる。とは言っても、内容を記す必要があるとは思えないので省く事とする。だが敢えて何か言うとするならば一言。
『蹂躙』というのが、ふさわしいだろう。
「なんともまぁ、凄まじいですね」
「えぇ本当にね」
隣に立つ三姉妹の内の一人と一緒に開いた口が塞がらない。強いと思っていたし、勝てるとも思っていたが。対戦相手の妨害の悉くを跳ね除け後攻ワンキルしていくとは思っていなかった。
いや勿論、それ以外に勝機は無いのは分かっていた。分かっていたがそれを通すのがどれだけ難しいのかも分かっている積りだったのだが。
「…あの子には申し訳ないけど、ここまで戦えるとは思っていなかったわ」
「えぇ、『ワイト』もそう思いますよ。正直、一回戦で負ける事もあり得ると」
「いいえ、そうじゃないのよ」
彼女は腕を組みながら真っ青な顔でしかもふらつきながらも、それでもデュエルに挑む少女を見ながら言葉にする。
「貴方は知らないでしょうけどね。あの子ね、もっと酷かったのよ」
「…は? 今よりも?」
「比べようもないわ。家の中でトイレに行けず途中で泡ふいて気絶してたなんて事があった位よ」
「それは」
「そうだから、そうね。あの日、あの子が貴方と一緒に帰って来た時だって実の所途方に暮れていたのよ。あの子が家に居なくて、でも一人で何処かに行ける筈もない、なら誘拐されたとしか思えなくて、でもそれらしい痕跡も見つからず、マスターの旦那様みたいにがむしゃらに走り回ってそれでも見つからなくて…泣いてるマスターを慰める事も出来なくて」
「……それであの日『ワイト』の事をあんなに睨みつけてきていた訳ですか」
「そういう事誘拐犯かと思ってね。まぁ実際は唯の骨だった訳だけど」
「だから『ワイト』ですって」
いやまぁ骨である事は確かだけども。
「だからそうね、これでも貴方に感謝してるのよ? あの子、貴方と一緒に帰ってきてからはとても元気だったもの」
「あれで元気判定されるレベルだったとは驚きですよ」
「でしょうね。えぇだから、そうね。こうしてあの子がなにかを食べたいと願う姿が見れて、あの子がやりたいと言った事に挑んでいる姿が見えているのは、きっと貴方のおかげなの」
だから、ありがとう。と小さく、けれどしっかりこちらを見ながら感謝の言葉を彼女は口にする。だから、己は思わず視線から逃げた。感謝されることなどしてないだろうと。なにせ己は少女の。
「あの子がもう長くないだろうって事を話さなかった事は、負い目に感じる事では無いわ」
「……気づいていましたか」
あぁいや、先ほどの話を聞く限り気が付いていたと言うよりは。彼女は、力なく笑う。
「気が付いていたと言うよりは、そうね…覚悟していたと言うのが正しいわ。あぁこの子は長くは生きられないなって」
だからあの子が貴方の事死神さんって言った時は思わず泣きそうになったと言う。
「だからただ黙っていただけの貴方は負い目を感じる必要はないの。全部諦めて弱っていくのを見ていただけで…その理由も何もかも貴方に押し付けてしまおうとまで思った私たちよりも、よっぽどあの子の支えとなってくれたのだもの」
だからと、彼女は続ける。
「勝手なお願いで悪いのだけれど。最後まであの事一緒に居てくれないかしら? きっと、喜んでくれるから」
「…えぇ」
目の前のデュエル。大会の決勝戦。多くの戦いを超え、限界も超えて戦う少女の場は今まさに切り札たる『ワイトキング』が降臨し。
「元々そのつもりでした」
その攻撃は……凌がれた。ここで、少女の最初で最後の挑戦は…幕を下ろした。
あぁ、トりが今もなイていル。わらウ様にないテいる……それが、酷く不快だった。
だがそれ以上に、今にも泣きそうな少女を見ていると…とても悲しかった。
「……そんな、申し訳なさそうな顔をする必要など無いでしょう」
準優勝という結果は、十分に胸を張って然るべきものだろう。だから、泣く必要なんて。
「やっと見つけたわよ‼」
「ぬぉあ⁉」
「ちょ、なによ急に⁉」
いやそれは己ではなく急に叫ぶように話しかけて来たこの精霊、『エクソシスター・ソフィア』に言ってくれ。彼女が来なければ普通に叫ぶ事無く少女の元に行っていたのだから。というか急に話しかけて来ただけでもあれなのに、なんでこんなジロジロとみられなければ行けないのか…なんかまた首傾げてるし。
「んー? やっぱり違う? でもなんかそれっぽいのよね」
「いや何がですか? 『ワイト』なにかしましたか?」
「何かしたのかと思って探してたのよ、見つけるのに結構かかっちゃったけど。あんな小さな子をあんな状態で放置してるんだからなにかしてるんじゃないかって思うの当たり前でしょう? 貴方の事『ワイト』の皮被った悪霊か何かかと思ったわよ」
全くと言わんばかりに肩を竦める彼女。どうやら少女の状態を理解している口ぶりだ…いやまぁ今の少女の状態を見れば誰だって思い至るかと、視線を向ける。今まさに準優勝の証としてペンダント型カードケースに入れられたレアカードを送られている所だった。
その表情はやっぱり悲し気で何処か遠くを見ている。
―――どこを見ている?
「その、悪いけどあんまり大きな声で言わないで貰えるかしら。言いふらしてるみたいで良い気もしないし」
「当たり前でしょう、そんな質の悪い事しないわよ」
カードを受け取った少女は何かを堪える様に出口に向かって歩いていく。
―――あんなにもしっかりとした歩みを今の彼女は出来るのか?
「それはそれとしてしっかり話は聞かせてもらうわよ? なんであの子は―――」
少女が振り返る。変わらずあの子は青い顔で…
「半分ゾンビになってるのよ?」
―――嗤っていた。
「…駄目だ」
「は? いや何がってちょっと⁉」
「ちょっとはこっちのセリフよ、どういう事よそれ⁉」
「いやどういう事はこっちのあぁもう‼」
走る、なにか言われるのを無視して走る。精霊として人知を超えた速度で会場を駆け巡る。ただ少女を探して駆けずり回る。
居ない。
居ない。
何処にも居ない‼
「ここに居たぁ‼ もう二回も探させないでよ!」
「ちょっと、勝手に居なくならないで話を聞きなさいよ‼」
「話を聞けって言いたいのはこっちよアホンダラ!」
会場前の広場で、肩を掴まれて止められて膝から崩れ落ちる。止めて来たのは、息を乱す『エクソシスター・ソフィア』で、その後を追う様に空から降りてくる『ハーピィ・レディ三姉妹』の内の一人。
「分からない…何処にも、なんで『ワイト』は」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさいよ」
「落ち着いてられる訳が無いでしょう! あの子が、ゾンビなんて、どういう事なのよ⁉」
「いやその話するなら尚の事落ち着きなさいよ‼」
そう、分からないのだ。何が如何分からないのかも分からない。混乱していると言うのは間違いなくこういう事なのだろう。
そんな『ワイト』を見てか、空をまうとりガナいてイる。ワらう様に…様、に?
「…あ」
「今度は何よ⁉」
「違う…」
「何がよ⁉」
「ちょっと聞いてるの⁉」
「訊きたいのはこっちって‼」
「トリじゃない」
弾かれるようにその場に居た三人が空を見上げる。視線の先には悠々と空を飛ぶ鳥が鳴いていて…違う。気が付かなかった。ずっと隣に居る少女の死の香りが強すぎて気が付かなかった。
あれは、あいつは…ずっと自分たちを見て嗤ってたあいつは…っ‼
『ワイト』は再び立ち上がり走りだすのと、何時の間にか変身していた『エクソシスター・アソフィール』がその手に持つ矢を空に放つのはほぼ同時だった。
ただ思い付き、もしかしたらと希望にすがるように空っぽな脳裏に過った場所を目指して走る。
その背後で、声が聞こえる。
すがるように走っていく『ワイト』を見て嗤っている。
撃ち落された『青眼の銀ゾンビ』が嗤っている。
地面に叩きつけられ、ハーピィ・レディに踏みつぶされても。
ずっと、ずっと…嗤っていた。
所で、『最果てのゴーティス』はこの世界出身の存在ではない。
そういう奴らが居るという事。
つまりは……そういう事。