元々、疑問に思っていた事ではあった。
何故、あんなにも体力がなかったのか。何故、たどり着く事など体力的に不可能だったろうに、あの場所に居たのか。何故、出会ったあの時少女は自ら命を絶とうとしていたのか。
結局理由が分からなかったそれらは驚くほど単純な単純なものだった。
この世界に分かり易い悍ましい何かが居たと言うだけだ。
まさか、物語に出てくる様な黒幕が実在するとはカードの精霊である『ワイト』も思っていなかった。
体力がなかったのは『何者か』にそうされていたから、あの場所に居たのは『何者か』に連れられたから。あの時死のうとしていたのは、自らの意志でなく…誰かに殺されようとしていた。
なんだそれは、ふざけるのもいい加減にしろ。そう言う物が許されるのは物語の中だけだろう。現実で、何の変哲もない唯の少女を相手にするような事じゃないだろう。
『ワイト』が走る。
向かっている場所に確実に居るとは思ってはいない。なにせただの思い付き、勘と呼ばれる類のものだ。こういうものは大抵外れる。だが、己には奇妙な確信の様なものがあった。それはただうっすらと感じただけの今回の黒幕の様な奴らが。
酷く邪悪で、悍ましい何かであるならば…どうせ趣味の悪い事をするのではないかと思ったから。
だからこうして、少女と出会った林まで。
「…あぁ、本当に趣味が悪い」
どんぴしゃ、とでもいえば良いのか。己の目の前に、少女が一人。出会った時と同じで、首には紐。軽く飛べば首つりが成立する状況で、少女は虚空を見つめてそこに居た。
違いがあるとすれば、己と彼女が知り合いである事と。
少女の体が半分腐っている事ぐらいか。
不快だ、色んな意味で。アンデット族は死に魅入られているとか誰が言ったんだ。これもそれに含まれるのだとしたらとんだ嘘つきだ。今度会ったらこれでもかと罵詈雑言をぶつけよう。
「…ねぇ死神さん」
声が聞こえた。少女の声だ。普段からそう呼ばれていたから己は反射的に少女を見て、しかし彼女は己を見ていなくて。あぁいやそうか、刺し世の時も、別に己に向かって言った訳ではないのかと理解し、少女の視線をたどれば、それが居た。
それは『死霊王 ドーハスーラ』…ではないなと思った。『ワイト』の知っているドーハスーラは見た目こそ恐ろしいが、目の前に居るそれ程邪悪な気配は纏っていなかった。姿が同じというだけの別精霊…いや精霊かどうかも怪しい。自分の知るドーハスーラがプラスだと言うなら、目の前のそれはマイナスだ。そんな存在が、少女と己を嗤っている。
少女が言葉を口にする。それを笑いながらドーハスーラの様な何かが答える。
「生きていればいつかは幸せになれるって言うの…みんなが私にそう言うの」
―――何時死ぬかもわからぬ幼子にそう言う。
「何時まで生きられるか分からない私にずっとそう言って来たの」
―――惨いなぁ、本当に生者は惨たらしい‼
「ねぇ死神さん。私は本当に幸せになれるの?」
―――なれる訳がない‼ お前は生きている限り苦痛ばかりだ‼
「そっか、やっぱりそうなんだ」
―――そうだそうだ‼ だからいっそ
「死んでしまえば幸せだとでもいうのですか?」
唐突に始まった茶番に、思わず溜息が出る。視線の先に居るそれを一瞬でも『死霊王 ドーハスーラ』と見間違えたのが申し訳なくなってくる程だ。己の知るドーハスーラは死霊の王と言う称号に相応しい威厳を湛えていた。
間違ってもこんな…幼稚な存在ではない。
歩く、少女に向かって。なんだか精神的に酷く疲れたように感じる。無駄だ無駄だと喚き笑うそれを無視して虚空を見つめる少女の前に立ち。ローブからそれを取り出す。
そう、芋だ。
―――は?
それを見て小ばかにしたように首を傾げるそれをやはり無視して手に持つ焼き芋を少女の口に突っ込んだ。
「私はんぼぉ――おぉ?」
何をされたのか理解できないと言わんばかりに視線を彷徨わせ…やがて、しっかりと少女は自分を見た。
「死ぬのが幸せ生きるのが不幸せ…それに関しては個人によるところがあるでしょうから何とも言い難い所ではありますが」
これははっきり言える事。
「死んだら一緒に焼き芋を食べられませんよ?」
少女は、ポカンとした表情を浮かべたまま、口に押し込まれた焼き芋を食べる。それは食べ切る前に途中で口から地面に落ちてしまうが少女は真っすぐ自分を、『ワイト』を見ている。
「…食べ、られないの?」
「えぇ、死んでしまえば食べられません」
「…貴方、みたいになったとしても?」
「なら尚の事食べられませんよ、見てください『ワイト』の顎の部分すっかすかでしょう? 同じようにそのままゾンビになっても駄目ですね、舌が腐ってしまってろくに味が楽しめない。なにより、自分の腐臭の所為で芋の香りが分からなくなるのが一番駄目です」
それは、嫌でしょう? と、問いかければ少女は静かに…頷いた。
「…うん」
一人でに、首にかけられていた紐が千切れバランスを崩した少女を抱きとめる。序とばかりに、足場にされていた『手招きする墓場』を踏み砕きながら。
―――なんで?
黙っていたドーハスーラもどきが口にする。
―――そこは死ぬ所だろう諦める所だろう何もかも滅茶苦茶にする所だろうなんでまだ生きようとしているんだよ。
「だって」
見るからに苛立つそれに、少女が言った。
「まだ、お芋一杯、みんなと食べたいから」
思わず噴き出した。芋を突っ込んだ自分が言うのもなんだが食い意地張り過ぎではないだろうか…あぁだけど、そうだ。
「『ワイト』もそう思います」
何かを食べたいと思えるなら、少女はまだ死ぬ時ではない。
「それじゃあ帰りましょうか」
「うん」
そう言って、気が付く。目の前のもどきが嗤っている。いやそれだけではない、何時の間にか自分たちが居る場所が林ではなく瘴気と屍の溢れる地に変わっていた…ここは。
「…『アンデットワールド』か?」
言ってからいや違うなと首を振る、目の前のもどきと一緒で似てるだけの別の場所だ。流石に、ここまで酷い場所ではない。
―――お前たちは死ぬべきだろう死ななきゃいけないだろう嘆けよ絶望しろよ八つ当たりしろよ滅茶苦茶にするなよ死ねよ死ね死ね死ねしねシね死ネ死ね何もかも無駄だから死ね‼
「見苦しい」
子供の我儘だってもう少し見れるものだと思える。特に何が酷いって目の前のもどきは全部自分の思い通りになると思っている所が特に酷い。ある意味、これこそ死に魅入られていると言う奴なのだろうか。ならこうならなくて良かった。とは言ってもだ。
軽く見渡せば、どこか見たことのある姿が、姿だけが似ているなにかがうじゃうじゃと。辺り一面アンデットだらけ。らしいと言えばらしい光景だ。同時にやばい状況。なのだが、別にピンチとは欠片も思えない。あぁ不思議なものだと少女をしっかりと抱きしめながら一歩前に踏み出し。
直後目の前を浄化の極光と風纏う竜炎が薙ぎ払った。
「あっぶなぁ⁉」
「わぁ」
あと一歩前に出てたら巻き込まれたよ今⁉ どっち食らっても欠片も残さず消滅してたよ今⁉ なんて骨しかないのに、冷や汗がこれでもかと流れるのを感じながら、それらが跳んで来た方向を見ると…なんか沢山いた。
「ソフィア、いやアソフィールが緊急だっていうから来てみれば…確かにこれは緊急事態ですね」
「こうなるのが分かっていたら素直にみんなで一緒に大会に着いていってたのに」
「いや流石にあたしたち全員が一緒は騒がしいでしょ?」
「でもチラッと見た所そこま「『ワイト』あの子は無事なの⁉」
「あの、言葉にか「傷一つでもついてたら粉にして川にまき散らすわよこの骨‼」
「だか「それにしても酷い場所ね、風がここまで腐るなんて」
「ちょっとはしゃべら「グルゥアアアアアアアアアアアア‼」おぉん‼」
コントでもしに来たのかあいつらは。そう思う程愉快な会話をする『エクソシスター』の四人と『ハーピィ・レディ三姉妹』に『ハーピィズペット竜』たち。だが、そんな会話をしながらも次々ともどきどもを薙ぎ払っていく。
「それにしても悪霊か悪魔の類かと思っていましたが、少し違う様に思えますね」
「だとしても邪悪な存在に変わりはないでしょう? 私とミカエリスの『アルティメットエクソシスターコンビネーション浄化アタックマークツヴァイ』で浄化できるのだもの」
「ある…え、何今のだっさ⁉」
「だ…⁉ そんな一生懸命考えたのに…酷い‼」
「酷いのは貴女のネーミングセンスよカスピテル。あとジブリーヌも拗ねてないで手伝いなさいよ‼」
「だってちゃ「行きなさい我がしもべ、猛る竜よ! あの子を害する愚か者を滅しなさい!」
「もぉおおおお「ギィヤァアアアアアアアアアア‼」
やっぱりコントしに来たのかもしれない。主にあのもどきどもを使ってのものボケ。いやツッコミかも知れないな、なんていくつかの攻撃が真横を通り過ぎていくのを見て現実逃避気味に思う。
「…『ワイト』が出来る事はなさそうですね」
「そんな事ない、よ」
思わず呟いた言葉に、少女は否定する。いやこの状況で何ができるのかと視線を向けると、彼女はしっかりと『ワイト』の事を見ていて。
「だって、貴方は弱くないって…私は信じてるもん」
「だから貴方は強いよ…『ワイト』」
あぁ…成程。そう言われたなら、答えるべき言葉は一つだろう。
「『ワイト』もそう思いますよ!」
そう言われたならば、少女の言葉を嘘にしない為にも頑張らなければ。なに、幾ら酷い状況と言ったってどうにかなる。なにせ『ワイト』は攻撃は弱いけれど。
何処にでも出てきて、集まると大変なのだから。
さぁもどきどもの嗤い声を笑い声で潰してやろう。積み重なる屍の山から湧き出ろ湧き出ろ『ワイト』ども。ここは恐ろしい『アンデットワールド』ではない。
ここはわれらの『トライワイトゾーン』だ。
さて結果どうなったかなど、語る必要もなく。敢えて一言で言い表すならば。
蹂躙だ。
青い青い空の元、不快に嗤う鳥は…もういない。
そんな出来事から数日。今日も『ワイト』は芋を焼いていた。
「で、結局どうなったのだ?」
「と言いますと?」
「貴様の愛し子たる少女の結末だ」
言いながら自分からもぎ取っていった焼き立ての芋を噛み千切りながら友人は問いかける。そんな聞くまでもない事を。
「…分かっているでしょう。幾らあの子があぁなっていた元凶を排除したとしても何もかもが元通りになる訳もない。ましてや半分ゾンビになっていたのですから」
「…そう、さな。すまんな」
「いいえ気にしなくてもいいですよ」
もう過ぎたことだ。そもそもの話。
「死神さん‼ 勝てたよ‼」
「『ワイト』ですよ、あとおめでとうございます」
「あれ生きてるぅ⁉」
そもそも、死んでいないし。
「生きてるって…何言ってるんですか貴方は」
「いやだって貴様、さっきのいい方は完全にそういう事だっただろう⁉」
「でも一言も死んだとは言っていませんよ?」
「いやそうだけども…えぇ?」
「あの、ごめんなさい?」
「良いのですよ謝らなくても、このクソボケが勝手に勘違いしていただけですから」
本当に不謹慎な奴だ。そう思いながら、遠くに見える『エクソシスター』の四人とその主…この前の大会で少女が勝てなかったデュエリストが頭を下げている。
「いやまぁ確かに勘違いにしても質の悪いものだとは認めるが…なぜ?」
「良く見れば分かりますよ?」
「見ればと言われてもな」
言いながら、少女に視線を向ける友人。すぐに、あっと声を零す。
「…なんか、あの娘精霊になっていないか?」
「半分程、ですけどね」
正確に言えばもどきどもによってゾンビにされていたい部分がアンデット族の精霊に近い状態になっていると言うべきか。近いだけで同じではない。なんでなのかは『ワイト』にも分からん。
「まぁそう言う訳で、寧ろ前よりも元気はつらつとしている訳ですよ。半分ゾンビである事に変わりありませんけど」
「えぇ、いや確かに…でも、そんな事あるかぁ?」
「目の前でそんな事が起こっているでしょう?」
まぁ納得できないのは分かる。実際自分だって同じような感じになった。というかあの場に居た全員がそうなった。案外少女の強すぎる食欲がそれを為したのではと思いながら、懸命に芋に噛り付く少女の頭に手を置く。少女は不思議そうに首を傾げた。
「ふぅむ、なんとも納得いかん処もあるが。まぁなんにせよまだまだ共に居られるという事か。良かったではないか骨」
「誰が骨ですか。間違ってませんけど…っと、そろそろ時間ですね」
「ぬ? なにか用事でもあるのか?」
「えぇ少し挨拶に行こうかと、ですよね?」
「んぐ、ん、分かった」
「そうか、ま。誰に挨拶しに行くか知らんが無理はせんようにな。元気になったと言え無理は禁物ぞ」
言われなくともだ。綺麗に焼き芋を平らげた少女と共に歩く。向かうのは…優しい神様の居る神社だ。
目の前を少女が歩く、いや走る。
こんなに思い通りに動けるのは初めてだと笑っている。まぁだろうなと思う。そもそも前までは歩く事さえ碌にできていなかったのだから。それはもう嬉しくて堪らないだろう。
そして前来た時とは比べようもないほどあっという間に神社前だ。
それでも元気があり余っていると言わんばかりに跳ねる様に進み。
ボトリと、少女の腕が落ちた。
「…あぁ」
腕が落ちた事なぞ気にしない、気が付いていないと言わんばかりにそのまま少女は進む。実際、気が付いていないのだろう。もうあの子は痛みや違和感を感じる機能が欠落している。
そう、嘘。嘘なのだ。
元気になどなっていない、唯疲れたと感じる機能が無くなっているだけ。生きてなどいない、ただ今は死にぞこなっているだけだ。
これからも一緒になど居られない…彼女はこれから、死ぬのだから。
それを、少女も分かっているからほんの少しの猶予をくれた神様に感謝をしにここに来た。
気づけば、何時かの賽銭箱前…少女は、そこに凭れ掛かるようにしてそこに居た。
「……遅かったね、死神さん」
「『ワイト』ですよ。色々と落ちていたのでそれを拾っていたのですよ」
「そっか、以外と綺麗好きなんだね、知らなかった」
「骨は白くてなんぼですから…お礼はちゃんと言えましたか?」
「うん、ちゃんとありがとうって言えたよ。貴方のお陰てちゃんとお別れ出来ましたって、ちゃんと勝つことも出来ましたって…いっぱい、お芋が食べられましたって」
「……そうですか」
少女の隣に座る。それに何の反応も見せず、彼女は唯虚空を見つめている。前とは違い…ただ見えないだけだ。見えなくなった…だけだ。
「…ねぇ死神さん、お願いがあるの」
「『ワイト』ですよ…なんですか?」
「私ね、もっとお芋が食べたかったの」
「欲張りですね、今から焼けと?」
「ううん、違うよ。だってもう食べても美味しいかどうか分からないもの…誰が居るのかも、分からないもの」
だから、今じゃないと彼女は言う。
「もしも、もしも来世があったらって話なんだ」
「もしも私に来世があって。生まれてこれて…貴方に会えたら」
「また、私にお芋を焼いてくれますか?」
相変わらず自分の欲求に素直で…そしてささやかな願い。再会の願いだ。だから答えは決まっている。ゆっくりと口を開き、答える。
「いえ『ワイト』は嫌です」
まさか断られると思っていなかったのかキョトンとした表情を浮かべる少女に思わず笑いそうになるのを堪えて、続ける。
「来世がちゃんとあるのかは『ワイト』にも分かりませんが、もし貴女がまた生まれてきて、また出会う事が出来たなら、芋以外も焼きたいのですよ『ワイト』は。貴女にはもっと色んな美味しいものを食べてほしいですからね。お願いするなら焼き芋以外でお願いします。まぁどうしてもというなら、他の色々を食べ終わってから…飽きる程焼いてあげますよ」
だから。
「だから、ちゃんと会いに来てくださいね…」
その言葉に、少女は静かに微笑んだ。
「うん、きっと貴方を見つけるよ死神さん」
「最後まで死神ですか、結局一回しか呼んでくれませんでしたね」
「だって…私にとって貴方は…死神さんだったもの」
「最後まで、私に寄り添ってくれる…優しい死神さん」
手を、握る。命の熱の零れた手を。
「…ねぇ死神さん…最初のお願い叶えてくれて…ありがとう」
「最初の」
「うん、私が…しあわせに、なれるかみててって」
手が、崩れる。灰の様に、役目を終える様に。
「わたし、ね。しあわ…せに、なれたよ…みんなといっしょ…に、いられてしあわせだった。あなた、に…であえて、しあわせだったよ」
少女が、淡く微笑んで。
「わたしのところにきてくれたしにがみがあなた、で…しあわせだったよ」
カラリと、音を立てて落ちるペンダント型のカードケース。手に取って見れば、そこに入っていたのは一枚のレアカードなどではなく。
何処にでもある『ワイト』のカードが収まっていた。
「…出会えて幸せだった…ですか」
ただ静かに、そのカードを抱きしめた。
「『ワイト』も…」
いいや。
「私も、そう思いますよ」
カードケースを首から下げ、立ち上がる。そしてゆっくりと振り返り、一礼。
「…ありがとうございました」
「ん、どういたしまして」
言葉に言葉が返ってくる。振り返ってみてみれば、狛犬に座っている精霊が一人。『俱利伽羅天童』が眠そうな表情を浮かべながらそこに居た。
「一日に二度も感謝された、満足」
「幾ら感謝しても足りませんよ。貴女のおかげで、彼女は大切なひと時を得る事が出来たのですから」
「でも、した事は神社に侵入してきたなんか汚い奴ら焼いて、それで生まれた熱をあの子に貸してあげただけ。正直お礼言われるような事とは思えない。そもそも時間を得られたのも大体君がしてた事のお陰」
「私の?」
そんな、たいそうな事はしていない。そう言えば彼女は首を振って。
「してたよ? ずっと芋焼いてた」
「ここで芋? ですが別にそれがなにか影響を与える事なんて…」
「君、芋を焼く時何時もしてた事ある、でしょ?」
「何時もしてたことって」
そんなこと言われてもちゃんと焼けれるか確認したりとか。あとは。
「最後に美味しくなるように、何時も精霊としての力使ってた」
「あぁ、えぇまぁ。確かにそれはしてましたよ。結局味見もなにも出来ませんから私は、だから精霊としての力を込めて無理やり美味しく」
「だからだよ」
ビシッと、彼女は自分を指さして。
「純粋な美味しく食べてほしいっていう気持ちと一緒に込められたその力が、元々良くない方向に傾いていたあの子を生きながらえさせてたんだよ。自分がした事はそれを維持するために必要な熱を貸しただけ」
だから大体、君のお陰。
なんて、言葉に顎が外れるかと思う程驚いて…つい、笑ってしまった。結局最後まで芋かと。そうして、ひとしきり笑った所で、さてと立ち上がる。
「君はこれからどうするの?」
「どう、と言われますと」
さてどうしようか。思いつくことは沢山あるが…これだなと思ったのは一つだけ。
「取り合えず、芋でも焼きますよ」
「あの子居ないのに?」
「えぇ、色々なものを焼いてあげると言いはしましたが…結局、あの子にとって一番分かり易いのはそれですから」
「そ、なら君はこれから『ワイトベイキング』になるの?」
「そう簡単に変われるものか分かりませんが…まぁそれもいいかもしれませんね」
「良いんだ?」
「えぇ、『ワイト』だろうが『ワイトベイキング』だろうが…あの子にとっては死神ですから」
「そっか」
じゃあねと彼女が消える。どこか精霊離れした雰囲気を持っていたが、あの時のもどきどもと違って嫌な感じはしなかった。案外、カードの精霊ではなく本物の『俱利伽羅天童』だったのかもしれない、なんて。
「はぁ」
空を見上げる、雲一つない良い天気だ。
「うん、じゃあ焼きますか」
枯れ葉を集めながら、思う。今日は風も無いから煙が空高くまで届きそうだと。その煙に、とびきり美味しい焼き芋の香りを乗せてやれば…うん、きっとあの子の所に届く気がした。
これが私の『ワイトベイキング』の芋を焼く理由。
きっと、何処にでもある…再会の願いだ。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『ワイト或いはワイトベイキング』
意味もなく彷徨い、気が付けば一人の少女と出会っていた精霊。それはきっと運命と呼べるものだったのだろう。ともに居た時間は短いけれど、それでも大切な輝かしい時間だった。何気なくやっていた行い、或いは面倒を省くためのそれが、少女の定めを変えていた。結局芋かとずっと笑っていた。
だから今日も彼はたき火で芋を焼き、空を見上げて微笑んでいる。その香りと気持ちが届いている事を信じて。
『ハーピィ・レディ三姉妹とその主夫婦』
ずっと何も出来なかった。愛しているのに、そういう事しか出来なかった。少女が姿を消して、諦める事しか出来なかった。そして、少女が死神と共に帰ってきて何もかもが変わった。それからの日々は、短かったけれど、やっとちゃんとした家族として過ごせたと…みんな、泣いていた。
『エクソシスター・ソフィア』
公式大会優勝者と共にある精霊。文句なしのMVP。この子が居なければ何もかもが最悪な方向に転がっていた。彼女が気が付いてくれた、彼女が話しかけた、彼女が助けてくれた。だから、少女は救われたのだ。
『俱利伽羅天童』
本当に最後の手助けをしただけ。少女が勝てたのも、一杯お芋を食べられたのも、『ワイト』が救えたのも…結局自分たちが頑張ったからだと、この精霊は言う。頼まれた事を全部叶えてくれた、優しい神様である。
『アンデット族の様ななにか』
死者、或いは怨念。プラスではなくマイナス存在。唯ひたすらに他者の死を望み、生を妬み、同胞が生まれる事を渇望し蠢いている。『エクソシスター』と『ハーピィ・レディ』、それから『ワイト』たちによって蹂躙されたが、それでも彼らは残っていた。今もこうして誰かの死を望んでいる。ほらあそこを見てごらん、態々自分たちと遊ぶと誘っているものが居る、それは良い、とてもいい。それじゃあお望み通り遊んであげよう、君で遊ぼう。
そうして、伸ばされた手を掴もうとして。
空から落ちて来たウミに欠片も残さず飲まれて…全て消えた。
『少女』
ずっとそのカードを『ワイトベイキング』を持っていた。羨ましいなと眺めていた。何時かこうやってたき火でお芋を焼いて、食べてみたいなと願っていた。願いは、ふらりと現れた死神によって叶えられた。それからは、いつも持っているカードは二枚になった『ワイトベイキング』と、何の変哲もない『ワイト』のカードだ。
語られることのなかった少女の名は、『あゆみ』
生きて、進んで、その果てふと振り返った時、その歩みの軌跡が誇れるものであってほしいと願われてつけられた名だ。
その願いは、少女にちゃんと届いていた。最後の瞬間、振り返った少女はただ誇らしさと幸せで胸が一杯だった。