遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
その広がりによって生まれた精霊たちと人類との繋がりは創作分野にも大きな影響を与えたのは言うまでもない。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊が、映画を視聴し終わった後の様子を描いただけの物語である。
「そう言えばこんな内容だったなー」
それが映画を観終わって『稲田遊賀』から最初に出た感想だった。
前に見たことがあったものだったからこそのもので、意外と間違った覚え方してたなと思う。『死霊王 ドーハスーラ』が出てきたところとか完全に『冥帝エレボス』が出てくると思っていたから結構驚いた。まぁ大まかな流れは覚えていた通りだったなと体を軽くほぐす様に伸ばす。つもりだったのだが、上手く行かなかった。
それは何故か。『ティアラメンツ・シェイレーン』が体に引っ付いているからだ。
「…おーいシェイレーン。終わったぞー…おーい」
声を掛けても無言で引っ付く彼女にどうしたものかと軽くため息。これがあれか、精霊を選ぶと言う言葉の意味か。どうしようかなとコアラみたいな状態になっているシェイレーンの頭をポンポンと軽く叩きながら考える。
「……ねぇマスター」
「なんだー?」
遊賀の服に顔を押し付けたまま彼女は彼に問いかける。
「あたしは…貴方が死んでしまうって時にあんな風に笑って見送れるかしら」
「……どうだろうなー」
重い。だが、真剣な質問だと思った。だからきちんと考えて。
「はっきり言って分からんが…そういう別れ方が出来る様な人生を送りたいとは思ってるな」
「……ん」
これ答えになってるか? と自分自身ちょっと心の中で首を傾げるが、どうやら納得できる何かがあったようで、シェイレーンは顔を上げ、遊賀の隣に座りなおす。
「で、映画を見た感想は?」
「なんて言えば良いのかしらね…圧が凄かったわ」
「あー、なんか分かるわ」
映画製作に精霊たちが関わり始めたばかりの頃の作品だったはずだ。その頃は精霊とどこまでできるのか分からず意味わからん作品が結構な数作られたのだ。その中でも当たりに分類されるのが今見ていたやつ。
「特にあの大会の時の女の子が振り返るシーンとか無音なのも相まってぞっとしたわ」
「分かる。あと『青眼の銀ゾンビ』がげらげら嗤う声が響くシーンとか子供が寝れなくなったなんて話が出た位だったぞ…まぁそこがやばすぎてそれからのシーンがある意味でギャグに見えた、なんてことも言われてたけど」
「いえ、あそこら辺はギャグでしょ」
「ぶっちゃけ俺もそう思う」
特に只管言葉が被り続ける『エクソシスター・ジブリーヌ』のシーンとか完全にギャグのそれ。正直どうなんだって言われてたけど原作とされている書籍の方でもそうなのだからもうどうしようもない。
「しかし精霊の様で精霊でない存在…か」
「なんなんだろうな。そんなの居るのかね」
「いえまぁその似たようなのなら…あ」
「あってなんだ、あって」
「いえ其のちょっと気になる事があっただけ…これ、実話を元にして作られてるって本当なの?」
「あぁーらしいな。まぁ演出上の都合とか諸々で一から十まで全部本当にあった事って訳じゃないらしいが」
「まぁそうよね。じゃあこのアンデット族もどきはどうなの?」
「それは知らんよ…あ、でも」
「でも?」
「そこそこ前になんか似たようなのと会った事がある様な気はする…いやどうだっただろ」
「……そっか」
地元の祭りに参加してた時に似た様なのがちらっと見えたような、なんて事を思い出しているとよいしょとや立ち上がるシェイレーン。そのまま何故か直剣を取り出して調子を確かめる様に軽く素振り。よしと小さく呟いて。
「それじゃあ行ってくるわね」
「いや何処に⁉」
「ちょっとそのもどきをしばき倒しに行くだけよ」
「いやいやいやいや‼ しばくってお前。単に似てた気がするってだけで流石に同じじゃないからな? というか本当にチラッと見た気がするってだけで実際何かあったわけでもないし…そもそも何処に居るのかも分からん奴らどうしばきに行くつもりだよお前」
「んぬぬぬ」
わなわなと震えながら直剣を握りしめ、やがて諦めたように力を抜いて直剣を何処かへとしまう。そして再びすとんと彼の隣に座りなおす。
「…もし出くわすことがあったらぼっこぼこにしてやる」
「なんだその、なに? お前何かされた?」
「何かされるかもしれないから」
「お、おう」
そうかとして言いようが無い。なにが彼女をそこまで駆り立てるのか。遊賀にはさっぱりである。まぁとりあえず落ち着いてくれたようで何よりだと他の借りて来た映画なりアニメなりでも見るかと思い、ふと視線を時計に向ける。
「あ、もう結構な時間だな…他の見る前にご飯にするか。何か食べたいのとかあるか?」
「何か? 何か……そうね」
そう少し考える仕草をしてから。ふと彼女の視線が先ほどまで見ていた映画『ワイトベイキングが芋を焼く理由』に向けられて。
「あれね、どうせだからお芋食べたいわね」
「芋、という事はつまり」
えぇと彼女は頷いて。
「じゃがバターが食べたいわ」
「そっちの芋かぁ…」
「え、なによ…もしかしてジャガイモなかった?」
「いやあるけど」
てっきり焼き芋食べたいと言うと思っていた自分は、彼女以上に影響されやすいのかも知れない。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
何気なく遊びに誘った存在が急に居なくなったことがあってもまぁそういう事もあるかと流して今の今まで忘れてたやつ。逆に手を取られて遊ばれていたとしてもまぁ彼らってそういう存在だしの一言で流したうえで遊び倒し、マイナスでもプラスでもないニュートラルな存在にしていたやばい奴。驚くことに彼の故郷の人間大体こんな感じ、魔境か?
『ティアラメンツ・シェイレーン』
映画に出て来たアンデット族もどきがなんか最果ての奴らに似てるなと思った瞬間理解した子。更にそいつらに愛しのマスターがちょっかい掛けられていたことが発覚し激おこ直剣ブンブン丸とかした。なお、その後に言われたことに確かにと頷く事しか出来なくてちょっと恥ずかしかった。
もしも、彼との別れの時が来たならば彼女は迷わず彼と共に…まぁ、語る必要のない事だ。
『アンデット族もどき』
タイミングと相手と運が悪かったの典型。確実に邪悪な加害者なのだがぱっと見被害者に見える不思議。もしも最果ての輝ける星よりも前に、誰かの死に魅入られる前に。彼らと出会えていたならばきっと彼らも、純粋に世界を楽しむことが出来ていたのだろう。
だからこそ、彼らは運が悪かった。
『最果てのゴーティス』
は?なにしようとしてんのお前? という殺意を抱くと同時に行動して全部終わらせた。丸々一つの世界を食ったようなものだが、大きさよりも不味さが堪えた。そしてそれ以上にお気に入りの子がちょっとしょんぼりしてる姿を見て滅茶苦茶落ち込んでいた。
この変なのがちょっかい掛けてなければ一緒に遊べたのにと八つ当たり気味に丁寧に噛み砕いた。やっぱりまずかった。
『夢幻崩壊イヴリース』
その時彼女がそこに居たのは偶然だった。それを目にしたのも又偶然だった。
矮小なれど確かに一つの世界であったそれを、空に泳ぎながら噛み砕く星々揺蕩うウミを内包した存在を見た。
あの瞬間こそが彼女と言う存在が生まれた時だった。