遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
それと共に広く知られるようになったカードの精霊の存在であるが、案外友好関係は人と変わらず複雑なようだ。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊の元に在る精霊が訪ねて来た際の出来事を描いただけの物語である。
『ティアラメンツ・シェイレーン』は結構喫茶店での仕事が気に入っていたりする。色んなお客さんと話をするのは楽しいし、賄いとして出してもらえる料理も美味しい。そして何より己のマスターである遊賀と一緒にと言うだけでもう彼女的には最高なのである。
最近はなんか個人的に面倒くさいと思う客が良く来るようになったが、偶にちょっかい掛けられるだけで変な絡まれ方はせず普通にコーヒー飲んでサンドイッチ食べて帰るだけなので寧ろ同僚の方が問題な様な気がしている位だ。
そんな訳で、割と毎日張り切って仕事に励んでいる彼女は来店を告げる音に入り口へと視線を向けて。
「いらっしゃいま―――」
「久しぶりですねシェイレーン‼」
「御免なさいマスター、それと店長急に体調悪くなったから帰っていい?」
「本当に急だなおい」
来店した『ティアラメンツ・キトカロス』が自分の良く知っている精霊である事を瞬時に理解した彼女はとても帰りたくなった。
「わぁ、凄い張り付いてますねシェイレーンさん。気分が悪いようですが『宣告者』様を信仰しますか? それとも信仰しますか?」
「……しないわよ」
「わぁ、本当に駄目そうですよ遊賀さん。『宣告者』様を信仰すれば良くなりますけどどうしますか?」
「しないからな?」
「そんなー」
とはいえ、駄目そうなのは確かにその通りだ。ここまでになってるのは見たことがない…って訳じゃないな、前に一回だけ。丁度彼女と出会った時か。いやぁま、あの時はもっと酷かったけど。
なんて思いながら、もそもそと卵サンドイッチを食べている『ティアラメンツ・キトカロス』を見る。
彼女がシェイレーンが『ティアラメンツデッキ』嫌いになった原因か。なんて思いながら。
「んぐ…はふぅ。すごくおいしいですねここのサンドイッチは」
「うん、まぁサンドイッチだけでなくどれも美味しいのだけれどね。他のも食べてみるかい?」
「うむむ。非常に魅力的ですね。ですが残念な事にもうお腹いっぱいなのです」
と、割と普通の会話をしていた。パッと見た感じシェイレーンが行っていた程酷い感じではない。なんて思いながら。ゆったりと紅茶を飲んでいたキトカロスはふと遊賀の後ろに引っ付いているシェイレーンへと視線を向けて。
「あ、シェイレーン。ちょっとわたしの代わりにお金を払っておいてもらってもいいかしら?」
「死ね」
「わぁ、凄いですよ遊賀さん。シェイレーンさんがド直球な罵倒を言う所と本当に寝たまま寝言いう人を初めて見たした」
「少なくともどっちも見たくはなかったなー」
前言撤回、普通に酷いわこいつ。
「えっと、つまりお金が無くて払えないと?」
「いいえそんな事は在りません! きちんとお金を用意する事は出来ます! 丁度今日MDの大会があるのでそこで優勝すれば余裕です! だからちょっとの間代わりに払っておいてもらうだけです‼。すぐ返しますから大丈夫です‼」
「言動がとても危ないですね。『宣告者』様の信仰でもしますか?」
「え、いえしませんが?」
これはひどい。今まであって来た精霊の中でもトップクラスで酷い。あの色々とねちっこい『無限崩界イヴリース』がまともに思える位だ。というか、今日大会なんてあったっけ?
「と言う訳でね? お願いシェイレーン。大丈夫、さっきも言ったけどすぐ返すから‼」
「死ね」
「さっきから同じ言葉しか言えなくなってますね」
「まぁ僕としてはすぐに払って貰わなくても別にいいんだけどね」
「店長⁉」
「本当ですか!」
「うん、後だろうがきちんと払ってくれるならね」
正気かと思わず『筑波』店長を見る。すると任せろと言わんばかりに軽く手を振って見せた。
「君が言うに今日の大会は優勝できる自信があるのだろう? ならきちんと勝って、きちんと代金を払ってくれればそれでいいよ」
「わぁありがとうございます‼ 必ず優勝しますよ! わたしの『ティアラメンツ』はとても強いですから‼」
「絶対払わないわよこの女は」
「あ、やっとほかの言葉言いましたね」
「それで、そうだねー…もし勝てなかったら代金分うちでちょっと働いてくれればいいよ」
「え、それ在りなんですか?」
「有り無しで言えば個人的には在り。一度こういうのやってみたかったんだよねー」
はははと楽し気に笑う店長とそんな彼の様子に肩を竦めて見せる『崇高なる宣告者』。相変わらず彼は大変そうだ。序に背中のシェイレーンからうめき声が聞こえた。まぁ勝てなかった場合暫く一緒に居なくちゃいけない訳だしな。
「あー、そうだ。これからその大会の会場に行くのだろう?」
「はい! その為のお金はしっかり持ってますよ‼ それ以外ないとも言えますが」
「そっか。それじゃあ遊賀くんとシェイレーンちゃんはちょっと抜けてこの子と一緒に会場に言ってくれないかな? 流石に無いと思うけど負けてそのまま逃げたなんて事になったら流石にねぇ」
「いや流石にそれは」
「分かったわ店長、しっかり逃げないように見張ってるわ」
シェイレーンの気合の入り方が凄い。というか、するのかそういう事をと視線を向けたら無言でうなずいた…するのか。
と、思わずため息を吐きながら意気揚々と外へ出る『ティアラメンツ・キトカロス』の後を追う様に外へ。
「あ、そうだディバイナーちゃん」
「? なんですか店長さん」
「もしもあの子が大会に勝てなかったらの話なんだけどさ」
そう、のほほんとした調子で口にする。
「彼女がうちで働いてる間は彼女に対しては好きなだけ布教していいよ」
遊賀とシェイレーンは思わず勢いよく振り返り、そして視線を逸らした。視界に入って来たやっぱりのほほんとした店長はともかくとして発狂してるかのような表情を浮かべていた『宣告者の神巫』をあまり見ていたくなかったから。だからさっさと外に出て、待っていた様子の『ティアラメンツ・キトカロス』に彼は少し同情した。
と、ふと気になった事を彼女に問いかけた。
「そう言えば出場する大会ってなんですか?」
「あ、はい。それはですね」
と、言いながら告げられた大会名。あぁーと気の抜けた声が零れた。
「あれ、かー。そうか」
「どうかしたのマスター?」
「いやなんと言うか…キトカロスさんってMDランクどの位なんですか?」
「ダイアモンドの上位ですよ! この大会だって蹂躙しちゃいますから‼」
「あ、はい」
そんな生返事を送り、意気揚々と歩いていく『ティアラメンツ・キトカロス』をゆっくりと追う。すると本当にどうかしたのかとシェイレーンが訪ねてきて、素直に答えた。
「いやさ、彼女が言った大会ってさ。参加条件がMDのハイランクデュエリストのみって言う大会なんだけどさ」
「凄いわね、むかつくけど…ダイアモンドランクなら普通に参加条件あるじゃないの。何か問題があるの?」
「あぁ、まぁ問題と言うか。これだとどういう事なのか伝わらないよな」
どういえば良いかと少し考えてから。
「『霞の媼』クラスの人が好き勝手暴れまわってる大会って言えば伝わるか?」
「……あ」
シェイレーンは察した。目の前の『ティアラメンツ・キトカロス』の行く末を。
MDマスターランク。通称修羅の国。そこは極まったデュエリストしかおらず。よく見る『ティアラメンツ』を前にして平然とただ強いだけのデッキと言いながら蹂躙する化け物どもである。
で、大会はどうなったかと言えば。
「グォレンダァ!」
「きゃああああ!?」
初戦、後攻ワンキルを決められ…敗北。
その後どうなったかと言えば喫茶店で少し働くことになったのだが…まぁ、あのシェイレーンがちょっと憐れむ事になったとだけ。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
話に聞いてたキトカロスが割と本当に酷くて驚いた人。そして仕事が終わった後割と別人のような状態になったキトカロスを見てやっぱり一番ひどいのは『宣告者の神巫』だなと強く思った。実は今回の大会に出場してたら準決勝までは行けてたかもしれない強者。少なくとも、キトカロスと違って勝負にはなっていた。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
出来れば二度と会いたくなかった存在が来店して心が死に絶えてた子。大会でボコボコにされる姿を見て、少しすかっとし。その後狂人に只管絡まれ続ける姿を見て生まれて初めて憐れんだ。
『筑波店長』
言っていた通りお金が払えない子に代わりに働いてもらう、なんてシチュエーションにちょっと憧れていた。まぁそれはそれとして約束はちゃんと守ってね。堂々と勝てると言ってたんだしこのくらいの罰ゲームは可愛いもんでしょとのほほんと死刑宣告を口にした。
『崇高なる宣告者』
まぁ今回は別に良いかと許した。秒で後悔した。
『宣告者の神巫』
今日も『宣告者』様のすばらしさを広めることが出来ました‼
『ティアラメンツ・キトカロス』
もし遊賀とシェイレーンが付いて来てなかったら普通に逃げるつもりだったナチュラルクズ。まぁ直剣を素振りしているシェイレーンを見て無理そうだなと思い、そもそも負けるつもりなど欠片もなかった。なにせ?『ティアラメンツ』は最強ですし? と慢心と油断を携えて大会に挑み、瞬殺された。
支払いの代わりにした仕事を終えた後、一か月ほど口から出る言葉が『宣告者サマステキ』だけになった。
『キトカロスを初戦でぶちのめしたデュエリスト』
みんな大好き『サイバードラゴン』の使い手。表も裏も使いこなし、その堂々たる勝ち姿からみなからカイザーと呼ばれている。でも本人的にはもっとかわいい呼び方をしてほしいと言うかせめてエンプレスにしてくれと思っている女子大生である。
なお、大会は準優勝だった。
『大会優勝者』
トマト。