MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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木陰の『魔救の探索者』は嫉妬中

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 その広がりが生んだ人と精霊、そして精霊同時の出会いは思いも居なかった意外な組み合わせを生んでいた。

 

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と共に在る精霊が、日課の最中に起こった出来事を描いただけの物語である。

 

 

 

 それは『ティアラメンツ・シェイレーン』が日課としている朝の散歩から帰って来た時の事。それを見て、なんだこれと彼女は思った。

 

「ほれほれどうだー、気持ちいいか―?」

「キルゥゥー…」

 

 目の前で起こっている事はお隣の『白銀の城の召使い アリアーヌ』が何時だったか『白銀の城のラビュリンス』が乗って来た『魔救の奇跡-ラプタイト』の体を水洗いしていると言う物。これ自体は偶にラプタイトが飛んできてはしてもらっているのでそれなりの頻度で見る光景…なのだが。

 

「フ、ク‼ キぎぃぃい――…っ‼」

 

 なんか木の陰からそんな様子を見ながら歯ぎしりする不審者『魔救の探索者』は普段見ない、というか見たくない類のものだった。本当に木の枝もって隠れてる人初めて見た。

 

「ほれほれここかー? いやこっちか? あぁここー」

「キゥルゥゥー」

「うぇぷぇ⁉ ちょっとお前、びしょびしょなんだから頭を擦りつけてくるなよー」

「なんで、ラプタイトなんで…‼ あぁそんな近づいて気持ち良さそう鳴き声を、ぐ、うぐごごご―――…っ‼」

「あ、これはあれね。脳が破壊されるとかいう奴」

 

 漫画で偶に見る奴と妙な納得と共に地面をビタンビタンと跳ね回る『魔救の探索者』を見る。

 

「よぉし、洗うのはこんなもんかな? さてとそれじゃ何時もの持ってくるからちょっと待っててねー」

「クィー」

 

 そう一鳴きし、離れていくアリアーヌを見送り身震いすると何やら嘴で翼を突き始めるラプタイト。

 

 に、向かって跳ねとんでへばり付く『魔救の探索者』…あんな体勢からあそこ迄人って跳ねる事が出来るのねなんて彼女は思った。すぐに同じような動きを何時もしている狂信者が浮かんだので頭を振って追い出した。

 

 そしてへばり付かれたラプタイトはと言えば、やれやれと言った様子で軽く頭を振ってから顔を彼女へと近づけて。

 

 嘴で加え引きはがしペイっと地面に捨てた。

 

「なぁんでぇえええ⁉ そんなあの女が良いの⁉ 私の何がいけないのよぉ⁉」

「汚れてるからじゃないかしら」

 

 地面で跳ね回ってたわけだしと、思わず口にしてしまったシェイレーンに地面で暴れまわっていた彼女は勢いよく顔を上げた。

 

「何時もはもっと汚れてる状態でも乗せてくれるもん! 今日! 今この瞬間乗せてくれないのはなんで⁉」

「いや体綺麗にしたばっかりだからでしょ」

 

 誰だって綺麗にしたばっかりなのに汚されたら嫌な気分になるものだ。そう言えば、彼女はまた唸り始めた。言っている事は分かるが納得が出来ないと言った感じか。そしてそんな彼女たちを見てそこそこ大きなバケツを持ってきたアリアーヌは困惑した様子で二人と一匹を見まわした。

 

「えっと、どういう事これ?」

「あたしに聞かないでよ…」

「来たわねこの泥棒猫‼」

「ど? いやわたし悪魔族だけど」

 

 いやそうじゃないと思うシェイレーン。首を傾げ乍らもまぁとりあえずと持っていたバケツをラプタイトの前に置いた。

 

「ほい、これ今日のご飯ね‼ お礼としては今回も余りものだけどさ」

「キィルゥー‼」

「は? ラプタイトちゃんに余りものなんて食べさせようとしてるの⁉」

「そもそもなんなのよそれ?」

「あこれ? これはねー」

 

 と荒ぶる『魔救の探索者』を横目にバケツを蓋を開ける。

 

 

「姫様が釣って来たクロマグロの切り身の残り」

「……は? え、は? クロ…は?」

 

 視線がアリアーヌとラプタイトとバケツの中のマグロとを行ったり来たりする。いや分かる、凄い気持ちはわかる。シェイレーンとてまさかバケツの中身でこれとは思っていなかった、というかバケツに雑に詰め込まれてて良いものじゃないでしょと改めて見て、思い出す。

 

「あ、そう言えば昨日マグロのお裾分け貰ったわね…もしかしてそれ?」

「そうそれ。いやぁ姫様が釣って来たクロマグロ立派過ぎて周りにお裾分けしまくっても余るもんだからさ。丁度この子が来たんで釣ったマグロ運んでもらったお礼もかねて今回も食べてもらおうかなって」

「あぁ成程」

 

 確かに大きさにも依るがとてもじゃないが食べきれる量じゃないだろうしと思っている『魔救の探索者』が待ってと視線をアリアーヌに向けながら言葉にする。

 

「今回もって、そう言ったよね? え、なに? ラプタイトちゃん何回かここに来てたみたいだけど毎回マグロ貰ってたの?」

 

 と視線を動かしマグロを美味しそうについばむラプタイトへと向けながらそういうと、アリアーヌはいいやと首を振った。

 

「流石に姫様だって釣りに出る度クロマグロ釣って来る訳じゃないし。前回は別の物だったよ?」

「そ、そうよね。流石にね?」

「そうそう、前回手伝ってもらったお礼にあげたのはー…なんだっけ?」

 

 言いながら首を傾げるアリアーヌ。それにつられてシェイレーンも首を傾げて思い出すのは前回ラプタイトが『白銀の城のラビュリンス』を乗せてい飛んでいた時の事。あの時、お隣からお裾分け皿たのは確かと、そこまで思い出した時点で思わず、あっと声を出した。

 

「もしかして、牛?」

「牛?…あぁ牛‼ そうだそうだ思い出した前回は姫様が友人からもらって来たって言う馬鹿でかい牛肉の塊の一部ステーキにしてあげたんだった。凄い美味しそうに食べてたのは覚えてるよ‼」

「まぁ、でしょうね」

 

 確か最高級とかそういう言葉が付くタイプのお肉だったはずだしと小さく呟く。がその呟きを聞き逃さなかった『魔救の探索者』は再び視線がアリアーヌとラプタイトとを行ったり来たりして。

 

 そして。

 

「ちくしょぉおおおおおお! 覚えてろぉおおおお!」

 

 そう、叫びながら走り去っていった。彼女が零した涙は何を意味しているのか。

 

「……結局なんだったの彼女?」

「さぁ?…ただまぁ一つ確実に言える事と言えば、そうね」

 

「嫉妬は、してたと思うわよ」

 

 それが『白銀の城の召使い アリアーヌ』に対してなのか『魔救の奇跡-ラプタイト』に対してなのか…いや多分両方だろうなと、シェイレーンは思うのだった。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 帰宅後、朝食に出て来たのがお裾分けされたマグロだったので思わず苦笑した。そして同時にお裾分けされたマグロの量が結構多かったことを思い出し、バケツの中にあった量を含めるとどれだけの量余っていたのかと疑問に思ったが、なんか色々と怖かったので結局聞かなかった…具体的にそれだけの量が取れるクロマグロの値段とか。


『白銀の城の召使い アリアーヌ』

 無自覚に一人の精霊の心をへし折った子。本人に悪意は欠片もなく普通に多すぎるマグロにまじで困ってたので大量に消費してくれるラプタイトに助かるとしか思っていない。

 なお、翌日大量のトリュフを持って帰って来た姫に対して白目を剥く事になる。


『魔救の奇跡-ラプタイト』

 以前、なんか落っこちて来た『白銀の城のラビュリンス』を家まで送って以来の付き合い。姫様が何かしら大荷物になるとそれを運んであげてお礼に体を綺麗にしてもらえる上に美味しいものまで貰えてご満悦。なお、なんかこいつだけ旨いもの食ってるなと言った感じの視線を他の『魔救の奇跡』から向けられているが全部無視している。心が強い。

 因みに、『魔救の探索者』の事は普通に好きだがべたべたされ過ぎて鬱陶しいとも思っている。


『魔救の探索者』

 あの後泣きかえって主に慰めてもらった。ラプタイトへの態度がペットにウザがられる飼い主のそれである事にまだ気が付いていない、多分一生気が付かない。
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