遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
そのコンテンツの広がりが生んだ精霊と人とのデュエリスト達との絆はとても強い、が案外そう言うのとは関係なくうろうろしている精霊も居たりする。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊の元にちょっとした来客があった時の出来事を描いただけの物語である。
なんか居る。
それが『ティアラメンツ・シェイレーン』が日課の散歩から帰ってきて最初に思った事だった。
普段食事を自分とマスターである『稲田遊賀』と一緒にしているテーブルに知ってはいるが知らない人物、いや精霊が一人、『灰流うらら』が絶妙にイラっとする表情を浮かべながらコーヒーを飲んでいた。
「あ、おかえり。いつも通り飲み物は紅茶で良いか?」
「え、あ、うん。ありがとう…誰これ?」
「誰、誰って」
遊賀は軽く首を傾げ乍らうららを見て、あぁそう言えばそうかと頷いた。
「お前は会うの初めてか。まぁ名前は知ってるだろうけど『灰流うらら』だ。俺の故郷での知り合いでな。一年に一回、大体この時期になるとうちに来るんだよ」
「よろしくぅー」
と軽く手を振るうらら。いやそれどういうと思いながらも促されるままテーブルに座り、朝食を取る。今日はトーストとカリカリに焼いたベーコンに目玉焼きとポテトサラダである、とても美味しそうだしデザートが楽しみ…ってそうじゃなくてとシェイレーンは思った。
「いや、朝食食べに来るって…どう言う関係よ」
「どういうって…どういう関係だ俺ら?」
「ん? んぉ―…」
彼女の言葉に首を傾げる遊賀とトーストを一枚そのまま口に突っ込んだ状態で腕を組ん考えるうらら。暫くして口の中の物を飲み込んだうららが答えた。
「んぐ、ふぅ…知り合いじゃない? うちと稲田の関係って」
「まぁ、それ以外ないな」
「…朝食食べに来るのに?」
「まぁそうだが…そもそもそこまで近しい関係でもないしな俺とうららは」
「だねぇ」
「どういう事よ」
「どういう事も何も」
言いながら牛乳を飲んで一息。
「そもそもがうららって俺の親の友達の家に居候してる精霊だからな」
「思ったより遠い関係ね」
「一応、こいつが居候してる家の家主とは俺も仲は良いんだけどな。だからお互いの事知ってて、偶に会ってたし会えば久しぶり元気かって感じの話はするし食事もする時はするけど別に親しい訳でもないって言う…なんかよく分からん関係なんだよ」
「どういう関係なのかって聞かれて滅茶苦茶困ったからね今」
そう、けらけらと笑いながらベーコンを麵の如く啜るうらら。
「しっかしお前が来るとあぁもうすぐだなって感じだな」
「それはうちも思ったよ」
「? そろそろって何がよ」
「俺の地元の祭りが近いなって事」
「祭り…なんで祭りが近いのよこの子が家に来るのが関係あるのよ」
「いやさ、うちが居候してる家の家主である大原のじっさまがこの時期になると稲田の坊主を呼んできてくれって頼んでくる訳よ」
「そうそう人手が足りないだの、寂しいから顔出しに来いとか言ってな。そう言えば大原のじっちゃん元気?」
「そこは直接会って確認すれば良いでしょ? で、頼まれた日の昼頃に家を出てここに向かうと丁度朝食の準備が終わる頃に着く訳」
だからついでに朝食貰ってる訳と目玉焼きの黄身を器用に引っこ抜いて食べながら彼女は言う…さっきから食べ方が独特だなこの精霊。
「で、稲田はどうする? すぐ行けそう?」
「あぁ行けるぞ。去年と違ってもう休みは取れてるから、流石にまだ準備終わってないけど」
「…?」
行く? 準備? 何処か行く予定あったっけ? なんて考えながらトーストの上にベーコンを乗せて一口。なんかあったっけと首を傾げ乍らよく噛んで飲み込んで…思い出す。
「…あ、そうよマスターの故郷に行くんだった⁉」
「うぉ⁉ どうしたいきなり? そんな驚く事じゃないだろう、昨日言っておいたんだから」
「あ、うん。そうね…」
散歩から帰ってくるまではしっかり覚えていた、それはもううっきうきだった。帰ってきてなんか知らん奴いて全部吹っ飛んでたけど。
「ん、はぁ。ごちそうさまでしたっと、それじゃあ俺はさっさと準備済ませてくるわ。うららはどうする? 一緒に行くか?」
「んー? んー、そだねー別々に行く理由もないからねー」
「はいよー。シェイレーンもそれ食べ終わったら準備してくれよー」
「あ、うん。分かったわ」
言いながら食器を片付ける遊賀を見送りながら紅茶を飲む。と、彼と同じく食べ終わったうららがまたコーヒーを飲みながら語りかけてくる。
「どったのどったのぉ? もしかして、稲田と二人で行けなくてがっかりしちゃったぁ?」
「え、いえそんな事無いけど」
「あらまそなの?」
「えぇ、貴女も一緒だろうとマスターと一緒に出掛ける事に変わりないでしょ?」
「あらま随分なのろけだね、ならなんでうちの事みてたのかにゃぁー?」
これまた絶妙にイラつく笑みを浮かべながらそう問いかけられ、しかしシェイレーンは言葉に詰まる。正直、なんで彼女の事を見ていたのかは自分でもよく分からないのだ。最初は良く分からない精霊だったから警戒していたのだが、己のマスターと楽し気に会話をする姿にそう言うのではないなと理解してからは警戒はしていない…違う意味でイラっとしたがそれはそれ。だからなぜ見ていたかと問われるとなにかが引っ掛かっていたからと言った所か。
ならなにが引っ掛かっているかと言えば…そう、己のマスターの故郷から来たと言う点で。
「…貴女、本当に精霊?」
そう口にしたシェイレーンは自分から出た言葉に、自分で驚いていた。なんでこんな事言ったのかと自分で疑問に思う中、『灰流うらら』は成程と言いながらけらけらと笑った。
「あぁうんそうだねー。その心配は分かるよ。うんうん、彼の事思うなら当然だねぇー。でも心配ご無用で、うちはれっきとした普通の精霊だよ、ちょっとばっかし人間界に住んで長いだけのちゃんとした精霊界生まれの精霊だよ」
言いながら天井を、いやその上の空或いはその更に上の果てを指さし。
「お空の上のあいつらとかぁ」
―――祭りに出てくるあいつらと違ってね。
彼女はやっぱり、楽し気に笑っていた。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
実家は今どんな状況だろうかなんて考えてるやつ。実は『灰流うらら』とは十年来の仲である。実家に居た時は良く山に一緒に虫取りに言ってた。ベーコンも目玉焼きもポテトサラダだも全部トーストに挟んで食べた、これが旨いんだとの事。当然、飲み物は牛乳である。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
帰ってきたらなんか居てびっくりした子。やたらと仲が良い二人を見てなんかもやっとした。それはそれとしてなんかうららから普通と違う何かを感じて無意識に警戒していた。朝ごはんはゆっくり味わって食べました、デザートのチョコプリンはな何故か味わっていた筈なのに何時の間にか消えてた。
『灰流うらら』
人間界に来て84年目のおばあちゃん精霊。遊賀の知っている中で3番目に長く人間界に居る精霊、『妖怪少女』の名に恥じない精霊である。現在、大原と言う人物の家に居候中。出された朝食は最後に残ったポテトサラダをこれまた残っていた目玉焼きの白身で包んで食べた。
彼女は笑う、目の前の少女を。なんとも可愛らしいなと幼子に向ける様な視線で見ながら。
『大原のじっちゃん』
遊賀の親の知り合い。彼の実家からほど近い位置に住んでいる。現在うららと二人暮らし中。珍しい事にデュエリストではない。今年で88歳で、今日も元気に畑仕事をしながら害獣を追い払い、川に魚を釣りに出かけては釣果を奪いに来た熊を一本背負いして撃退している……人なのかこいつ?
【次回、帰省】