遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
それが、生まれるよりもずっと前。デュエルモンスターズが生まれるずっとずっと前。とある国、とある村で生まれて始まったのは唯の札遊び。
それが、神へと捧げられる神事となったのは遊びが生まれてから少し後の事。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』が彼と共に在る精霊『ティアラメンツ・シェイレーン』と共に、己の故郷へと向かい、そこでの出来事を描いただけの物語である。
家を出て半日と少し、それが遊賀たちがそこに到着するまでにかかった時間だった。
「はぁー、やっぱり長時間の移動は体にくるわ」
「ほんとにねぇ、うちも腰が痛いわ」
「なんか年寄りみたいなこと言うわね貴女」
「いや実際うち年寄りだし…」
「そうだったわね……いやでも貴女アンデット族よね確か。腰が痛くなるとかあるの?」
「少なくともうちはある。ぎっくり腰とか2、3回なった事あるわ。よく聞きなシェイレーンちゃん、人型である限り『魔女の一撃』は唐突に叩き込まれるんだから気をつけな」
「あ、うん。そうなのね。分かったわ」
やたらと目の据わった『灰流うらら』の視線から逃れるように、シェイレーンは辺りを見渡して、率直に思った事を口にする。
「当然と言えば当然だけど…普通の町ね」
「そりゃそうだろ、寧ろ普通じゃない町ってなんだよ?」
「…さぁ?」
彼の問いかけに首を傾げる。確かに、普通じゃない町とは一体。建物の色が全部パッションピンクとか?…いやそれでも精霊界も含めれば普通にありそうなのだがなんとも。普通と言う物が分からなくなりそうなシェイレーンだった。
「さてと、それじゃあこのまま立てても熱中症になるだけだからさっさと行くか」
「そうね」
「どうする稲田? 取り合えず先に大原のじっさまの所に行く? 荷物持ったままは大変でしょうて」
「いや先に実家見に行くかなー。距離的にちと遠回りする程度だし。そっちの方が楽だろ」
「そだねー」
「……ん?」
ここ等辺の事は良く分からないからと黙っていたシェイレーンは何か二人の言い方に違和感を感じる。具体的にどこがどう可笑しいのかは分からないが。と、首を傾げていると二人が歩き出すのでそれを追いかける。
『稲田遊賀』の実家への道のりは、まさしく田舎と言ったような光景が広がっていた。遠目に山が見えて、見渡せば見えるのは田んぼと畑、少し離れた所に団地が見えて。
少し違うと言えるところと言えば今まさに目の前でごうごうと燃え盛っている一軒家位だなと、そこまで考えた時点でシェイレーンは目を擦ってから二度見。今度は軽く腕を抓って感じた痛みからその光景が夢ではない事を確認してから再び前を見る。
そこにはやっぱり燃え盛っている一軒家、彼が実家だと言っていたものがあった。
「…燃えてるぅー⁉」
「おぉ、今回も良く燃えてるな俺ん家」
「風物詩だねぇ」
「え、あ、え? ふうぶ…え⁉ なにそれこれが何時もの事だとでも言いたいの⁉」
「いやまぁ実際そうだし」
「大体この時期と正月は盛大に燃えるよね稲田の家」
「えぇ…どういう事なのよそれ」
なんて、理解が追い付かないシェイレーンに追い打ちをかけるかの様に声が聞こえる。反射的に声のした方へと視線を向けると、元気に手を振りながら歩いてくる一人の男性…と、妙に申し訳なさそうに縮こまっている精霊『転生炎獣ヒートライオ』の姿が。
「おーい、遊賀ー! 元気かー?」
「あぁ元気元気、久しぶり父さん」
「おう久しぶりだな遊賀‼ 半年ぶり位か? 位だな前会ったの正月だし‼」
なんて言いながら父と呼ばれた男性は彼の背中を軽く叩く。その光景だけなら何てことは無い親と子の久しぶりの対面でしかないのだが、背景に未だ燃え盛る家があるせいで台無しである。
唖然とした様子のシェイレーンに彼は言葉にする。
「あぁ、紹介する。父親の『稲田修平』。見た目暑苦しいけど…いや見た目通り暑苦しいから気をつけろ」
「おう、暑苦しいおっさんだ‼ 君が遊賀の言ってたシェイレーンちゃんか! よろしくな‼」
「あ、はい。よろしくお願いします」
そう言えば、おうと気持ちのいい笑顔を燃え盛る家をバックに浮かべる修平。と、そう言えばと辺りを見回す遊賀。
「母さんは?」
「あぁ残念だが今回は用事で来れなかった! 偶々今回は大会と日程が被ってしまったからな‼ お前に謝っておいてくれと頼まれた‼」
「大会…あぁそう言えばそうか。なら仕方ないか。謝られても困るけど」
「だろうな! 俺もそう言うだろうと母さんに言ったんだがどうしてもと言われてな! だから言う、すまんな遊賀‼」
「許す!」
「ありがとう!」
はっはっはと笑い合う親子。やっぱり燃え盛る家は無視である。もうどういう事なのか聞くかと思い口を開きかけて、視界の端で縮こまっている『転生炎獣ヒートライオ』とその背中を叩く『灰流うらら』が見えた。
「またやったねー君は」
「クルルゥ…」
「毎回さぁうち言ってるじゃん、燃やさないように気合入れるより先に炎抑えなって」
「クルゥー」
「いや分かるよ? 気合入れて炎抑えようとしてるのはさ? でも毎回気合入れると同時に炎噴き出してるんだからそれ辞めなって」
「クルルゥ―…」
原因発見。しかし別に悪意があってと言う訳ではない様で。そう言えば炎族や炎属性の精霊が意図せず火事を起こしていまったなんて事は良くある事だったな、なんて事を思い出す。
つまり、彼の実家が燃えるのは本当に良くある事なのだなと理解した、理解したからと言って如何にも出来ないが。
「…どうするのよこれ」
「当然、直すに決まっているだろう」
「うわ吃驚した⁉ 誰⁉」
突然聞こえた声に軽く跳ねながら視線を向けるとそこはローブ姿の精霊が一人。
「あ、エンディミオン久しぶり。あぁ、うちのじいちゃん所の精霊の『聖魔の大賢者エンディミオン』だ」
「エンディミオンだ、よろしく頼む。それと久しぶりだな遊賀、息災か」
「あ、どうも」
「めっちゃ元気だぞ。牛乳飲んでるし」
「それは関係ないだろう」
「えっと、直すって聞こえたけど…これ直せるの?」
言いながら指さすのは燃える家、今から消火した所で骨組みが残るか残らないかと言った感じの物だが。
「当然だ。二日もあれば元通りに出来る」
「…凄いわね魔法使い。そこまで出来るなんて」
素直に感心しながらそう言えば、エンディミオンは鼻を鳴らして…何処か遠くを眺めながら言った。
「………慣れたからな」
「あ、そう言う」
一言で全てをシェイレーンは理解した。そして彼の苦労を想像してしまい、少し泣きそうになった。そんな彼女の心情を察してかどうかは知らないが、彼はため息を吐きながら軽く頭を振って、視線を話し合う親子と慰め慰められている精霊たちへと向けた。
「ここに居ても仕方が無いだろう。移動したらどうだ?」
「おぉ、それもそうだな‼ いい加減遊賀やシェイレーンちゃんも休みたいだろうからな‼」
「まぁ流石になー。じいちゃんとばあちゃんは何時もと同じ?」
「おう、大原のじっさんの所にお邪魔してるぞ‼ 俺もさっきまで居た‼」
「知ってた。じゃあ俺たちも行くかシェイレーン」
「あ、うん。分かったわ」
「クルゥ…」
「帰ったら久しぶりに将棋でもしない遊賀?」
「良いけど俺よりシェイレーンの方が強いぞ?」
「おりょ、そうなのー?」
「え、あぁーまぁ勝率的には」
「ほほぉーそれは楽しみだねぇー」
けらけらと楽し気に笑いながら歩いて行くうららを追う様に歩き出し、そこでふと気が付く。この町に着いた時の会話で感じた違和感。何故、荷物云々の話をしてるのに実家ではなく大原と言う人物の家に行くなどと言ったのか、と言う物で。
その理由が、あれかと振り返ってみる。そこには燃え尽き始めている家を眺めながら何かをしている…やけに、煤けて見えるエンディミオンの背中があった。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
帰省したら実家が燃えてた…けど何時もの事なのでスルーしたデュエリスト。実際、毎年二回は実家が燃えてるので慣れた。慣れていいもんじゃないだろうそれ。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
マスターの実家に訪れたらその実家が燃えていたと言うやばい場面に出くわし、それが何時もの事だと周りが平然としてて困惑しっぱなしだった可哀そうな子。しかし実際何時もの事なのがとんでもない所である。実際隣の家が精霊同士の喧嘩が原因で中がとんでもない事になっている事をうららとエンディミオンだけが知っている。
『転生炎獣ヒートライオ』
初めて家に訪れた際に間違って家を燃やしてしまって以来、訪れる度に頑張って燃やさないよう気合を入れまくり、その気合と共に噴き出る炎によって家を焼いてしまい落ち込んで、今度こそはと気合を入れて炎が噴き出すと言う悪循環に陥っている。
実は普段は物を間違えて燃やすようなことは殆どないのでうららの言う通り気合を入れなければ家を燃やさずに済むのだが…完全に空回りしている。
『稲田修平』
遊賀の父親で、ヒートライオの主である。初めて出会って家に連れて帰ったら燃やされると言う悲劇に合う…が、まぁ炎噴き出してるからな‼仕方ない仕方ない‼ で、済ませてしまった男。それで良いのかお前。
『稲田家のじいちゃんばあちゃんと町の住人達』
家を燃やされた&その様子を見てた人達。どういう反応をしたかと言えばまぁ良くある事だ、精霊ってそう言う物だし仕方ない仕方ない…と言う物だった。実際稲田家が初めて燃えた日の前日には隣の家は寝ぼけた精霊によって内から水が噴き出して全壊しているのでマジで良くある事だったりする。
『聖魔の大賢者エンディミオン』
一番の被害者兼苦労人。最近聖や魔に属する魔法より土木作業などを行う事の方が多くて遠い目をしている。仕方ないとか良くある、精霊ってそう言う物だろう? の一言で済ませる住人たちに実際そうだからこそ頭を抱える事が多い。
なお、そんな感じで被害者たちが全く気にしていないからこそ加害者である精霊たちが更に申し訳なくなって色々頑張って結果空回りしている事を彼が一番理解している。
どうしようもないから、やっぱり頭を抱えた。
『灰流うらら』
全部慣れたので気楽に生きている。ある意味一番利口な精霊である。