MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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里帰り祭り巡りは『ティアラメンツ・シェイレーン』と共に 【後編】

 結局、あのシェイレーンにとって同じ精霊と思いたくな存在との邂逅以降も色んな事があった。

 

 実はそこそこ有名な料理人だった主の父『稲田修平』の料理に目を輝かせたり、リベンジしてきた『灰流うらら』を返り討ちにしたり、突然山からおりて来た巨大な熊と『大原源治』の衝突によって周辺が『拮抗勝負』を打たれた様な状況になったり、近所に住んでる人から寝ぼけてた『タイラント・ドラゴン』が家を壊してしまったと言われた『聖魔の大賢者エンディミオン』が煤けた背中をさらしながら直しに行ったりと…本当に色々あったが。本番はこれからだったり。

 

 

 ではその本番とは何か、勿論…祭りだ。

 

 

「おぉー…っ‼」

「相変わらず人が多いな」

 

 そう呟く遊賀にシェイレーンは頷く。一言で言えば、活気が凄いとでもいえばよいか。見回してみれば見えるのは人、人、人。歩行に支障をきたすギリギリの数が動き回り皆、祭りを楽しんでいる。

 

「はい当たりー‼ 今年も頂いていくぞ岡田ぁ‼」

「ああぁくそ灰流のばばあてめぇまたかよちょっとは自重しろや‼」

「はっはっはっはっはー‼ 負け犬の遠吠えが耳に心地良いわー‼」

 

 訂正、少なくとも今まさに目の前でくじの目玉商品である最新型デュエルディスクを『灰流うらら』に持っていていかれたくじ引きの屋台の人は楽しそうではない…というか、ああいうくじ引きにちゃんと当たりが入ってる事あるんだと地味に思うシェイレーンだったり。

 

 と、ふいに視線を感じ辺りを見渡す。

 

「どうした?」

「いやそのなんかこう、見られた気がして…もしかしてまたあの」

「あぁー…まぁ確かに見てる位はするかもしれないけど関わっては来ないと思うぞ? あいつ的に今日は手が離せない筈だし」

「そうなの?」

「あぁ、実際祭りの日にあれこれしようとした事は無いし…精々俺が子供の時にどっかに飛び出してった位だな。祭り中に人前でした分かり易い行動なんて」

「そっか」

 

 少しだけ安堵した様に息を吐く。

 

「ま、取り合えずあれまでまだちょっとあるからなんか食べるか」

「あれって?」

「この祭りの目玉の事。あ、かき氷ある」

「かき氷! ねぇブルーハワイあるブルーハワイ」

「まぁ普通にあるな。買うか?」

「勿論‼ なんか祭りで買ったああいうのはすごく美味しいって漫画に描いてあったからこういう場で食べてみたかったのよ‼」

「個人的には美味しいと言うか楽しいって感じだけどな。その場の雰囲気も込みで…まぁとりあえず買うか」

 

 そんな訳で買ってもらったかき氷を食べて楽しむシェイレーン。そして思う事は。

 

「美味しいわね…普通のかき氷だけど」

「そりゃそうだ」

 

 で、あった。なんか思ってたのと違うなと思いながらチマチマとかき氷を食べるシェイレーン。それともっとシロップ多めにかけてほしかったとも、彼女は割と欲張りである。

 

 と、その時また視線を感じて。

 

「やぁ」

 

 同時に、声が掛けられた。人混みの間をすり抜けるようにして二人の前に立ったのは一人の精霊『デスピアの導化アルベル』だった。なんかしっかり浴衣を着ている彼は、どこか胡散臭い笑みを浮かべながら二人へと見定める様な視線を向けて。瞬間、シェイレーンは不快感を覚えるのと同時に気が付く。

 

 あ、こいつ『夢幻崩界イヴリース』と同類だと。思わず舌打ちが出た。

 

「おや、そんな反応される様な事した覚えは僕にはないがどうしたのかな?」

「……MDでは散々されてるわよ」

 

 烙印この野郎、という奴である。シェイレーン的嫌いなMDテーマ堂々の三位にランクインしているのである。因みに二位は害鳥で一位は言わずともと言う奴だ。

 

「やれやれ随分と嫌われてるねカードの僕は。精霊としての僕にまでそんな視線を向けさせるなんて」

「少なくとも貴方に向けてるこれはカードへの嫌悪感は関係ないわよ」

「まぁはっきり言っていきなりそんな品定めするような視線を向けられたらいい気分ではないですよ」

「おっと、これは失礼。別に君たちを不快な気持ちにしたかった訳ではないよ。ただ少し気になっただけでね。最果ての愛し子とその精霊がどんな人物なのかとかね」

 

 ゆるりと目を細めながら言う。

 

「それで?」

「まぁそうだね…安心したかな。君たちならまぁ最果てに居る怪物たちを悪いようにはしないだろうし、使われることも無さそうだ。寧ろ、君たちが居る限り人間界は安泰そうで良かったよ」

「はぁ?」

 

 思わず、シェイレーンは何を言っているんだこいつはと見る。そんな危ない事自分たちがするとでも…という意味ではなく。目の前の精霊があの面倒くさい『夢幻崩界イヴリース』とある意味同類であると確信しているからこそ、どういう意味だと眉間にしわを寄せて。

 

 

「―――アルベル? 何処に居るの?」

 

 

 小さな、しかし不思議と遠くまで響き渡る様な不思議な声が二人の耳に届く。その声は何処に居るのかと目の前にいる精霊を探している様で、アルベルは仕方がないと言わんばかりに軽く首を振った。

 

「やれやれ、もう少し待っていてくれても良いだろうに、まぁ仕方ないか。取り合えず、改めて謝罪しておくよ。不快な思いをさせてしまって悪かったね、また機会があればきちんとお詫びをするよ。もっともお互い会う事が無い方が良さそうだがね」

「それはそう」

「流石にもう少し隠せよシェイレーン」

「はっはっは、さてそれじゃあね」

 

 言いながら軽く手を振って人混みの中へと去っていくアルベル。一体何だったんだと軽くシェイレーンは首を傾げ。ふと、一瞬だけ人混みの間から見えた彼の横顔は…彼女が知らない少女と一緒に歩いているアルベルの横顔は、とても穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 それから、暫くしての事。

 

 

 

「あ、そろそろか」

「ふぁには? あっふ⁉」

 

 そう呟いた遊賀にどういう事かと問いかけようとして口の中のたこ焼きの熱にやられるシェイレーン。思わず吹き出しそうになるのを何とか堪え、若干涙目に成りながら改めて問いかける。

 

「んぐ、で何がそろそろなのよ?」

「さっき言っただろこの祭りの目玉。それがそろそろだなって事」

「あぁ成程、行くの?」

「ま、見ない理由も無いからな」

 

 言いながら残っていたたこ焼きを口の中に放り込む彼。地味に熱くないのだろうかとシェイレーンは思いながら階段を上っていく多くの人に続く様に階段に向かう彼を追い。

 

 

 シャン…ッ、と音が響いたのは丁度階段を上り切ってすぐの事だった。

 

 

「お、ぴったりだったな」

「あれは…」

 

 本殿の前。多くの人に囲まれながら、その中心で一人の青年が紙束を手に踊っていた。少しぎこちなさを残しながらも響く楽器の音色に合わせるように粛々と。

 

「やっぱりこういうのって踊りが多いのね」

「ん? あぁいやあの踊りはそう言うのじゃないぞ? 何年か前に観光客用に追加された奴だし」

「そうなの⁉」

「そうだぞ、元々部分だけだとなんというか…地味過ぎて観光云々には向かないからな」

 

 ほら、始まるぞと言う彼にシェイレーンは視線を中心に居る青年へと向ける。楽器の音色が止まる中、彼は先ほどまでの踊りとは打って変わって慣れた手つきで紙束から厚紙を一枚抜き出し。

 

 ペシリッと、地面に叩きつけた。

 

「…ん?」

 

 どういう事なのかと困惑するシェイレーン。いや如何やら同じような事を思ったのは彼女だけではない様だが、そんな人たちを置き去りにする様に青年は叩きつけた厚紙をするりと淀みない動きで拾い上げ、また地面にたたきつける。ゆっくりと丁寧に、言葉を口にしながら。

 

「神様、神様、おいでませ」

 

「どうか、どうか、私と共に遊戯を楽しみましょう」

 

 前に聞いた言葉と同じようで少しだけ違う言葉と共に、また厚紙がペシリと地面を叩いて。

 

 

 ひょっこりと彼の前に顔を出す存在が一つ、いや三つ。

 

 

 あ、と言ったのは誰なのか。少なくとも中心に居る青年と、その青年の前に姿を現した精霊『召喚獣プルガトリオ』ではないのは確かだろう。少し困惑した様子のプルガトリオに青年は笑顔で手招きをして、近づいて来た三体の内の一体に、紙束の半分を手渡し…また厚紙を地面にたたきつけ始める。

 

 どういう事なのかと首を傾げる手渡された小さな彼とは別の細身の彼がなにかを理解した様に近づき、渡された紙束から一枚引き抜いて…同じく地面に叩きつけて、そこにあった青年の厚紙をひっくり返す。

 

「あ」

 

 と、思わずと言った様子で動きを止める青年に、細身の彼はどうだと言わんばかりに胸を張っている。するとそういう事かと理解したのか小さな彼も同じように厚紙を抜き出し地面に叩きつけ…引っ繰り返らず首を傾げ。

 

 ペシンと青年の厚紙によって引っ繰り返る。

 

 それを見て小さな彼は大喜びで、細身の彼はそれで良いのかとあきれた様子でまた厚紙を叩きつけてひっくり返す。それには小さな彼はご立腹で、座って眺めていた大きな彼に近づいて腕を引く。お前もやれと言わんばかりだ。

 

 すると大きな彼は仕方がないと言いたげにゆっくりと起き上がり、厚紙を一枚受け取り大きく振りかぶっり!

 

 その際に発生した風圧で地面の厚紙が全部吹き飛んだ。

 

 一瞬何が起こったのか理解できなかったのか大きな彼はキョトンとした表情を浮かべて、少ししてしょんぼりした様子で腕を下ろした。そして他の二人がげらげら笑い、釣られるように青年も微笑む。大きな彼は少し恥ずかしそうだ。

 

 本当に楽し気ではあるがそれだけで…いやそれだけで良いのかと人々が気が付き始める。

 

 

「遊んでるだけ…って事よね」

「そういう事だな」

 

 成程確かに、地味とはっきり言うのも分かる。ただ、面子で遊ぶ精霊と人とを眺めているだけ。祭りなのかと訊かれたら首を傾げるかもしれない光景なのだが…不思議とこれで良い気がする。

 

 ついにひっくり返せた小さな彼が大喜びで、逆に初めてひっくり返せなかった細身の彼はとても悔しそう、そして今度こそとゆっくり厚紙片手に手を持ち上げた大きな彼は、力が入れな過ぎてただ落としただけに終わってまた二人に笑われて少し不機嫌そう。

 

 になったかと思えば青年の鋭い一撃がスパンと炸裂してそこにあった厚紙全部ひっくり返す。これには三体とも拍手喝采で凄い凄いはしゃぎ回る。

 

 

 なんというか、微笑ましい光景だった。

 

 

「ま、本当は唯の面子って訳じゃないんだけどな」

 

 なんて、ついに小さな彼が周りに居たお客さんの内の一人に近づき一緒にやろうと誘い始めるのを見ながら彼が呟く。それにシェイレーンは小さく知っていると答えた。

 

「あれ、じゃんけんみたいな相性があるんでしょ?」

「あぁ裏面につけられてる色によって勝ち負けがあるんだよってお前知って…いやそっか、そう言えばそうだったな」

「そうよ、少しだけだけどやった事あるもの」

 

 貴方と初めて会った時に。

 

 そう言葉にしながら見る。何時の間にか中心に居るのがプルガトリオと青年だけでなく、客と客と共に在る精霊とが入り乱れ、みんながみんな無邪気に面子を楽しんでいる光景を。案外、最近ではあまり見ない珍しい…けれど素敵な光景だ。

 

 

 だって、みんな笑っているから。

 

 

「…そう言えば」

「どうした?」

 

 さて自分たちも混ざるかと言った所でふいに声を零すシェイレーンに首を傾げる遊賀。どうしたかと言えば少し気になる事があったと言うだけ。

 

「ここの神社の御利益ってなんなの? ほら、こう…無病息災とかそういうの」

「あぁそれか、別に珍しくもなんとないぞ?」

 

 

 

 

「普通の縁結びだし」

 

 

 そう言って彼も遊びに加わっていく。よく見ると何時の間にかラーの翼神竜も混ざっていて、器用に嘴で厚紙を叩きつけている…周りから手を使えばいいのにとか言われてるけど。

 

 しかし成程と頷いた。本物の神様が居るだけの事はあると、彼女は小さく手を叩き、拝む。

 

「素敵な縁をありがとうございます」

 

 小さく、しかしはっきりとそう言うと彼女もまた遊びに向かう。

 

 

 皆で一緒に遊ぶのだ…きっと、とても楽しい事だろう。




めちゃ雑人物紹介こーなー

『稲田遊賀』

 この後伝説の右手で五枚同時返しをやってのける。遊びなのだから、みんな楽しくだ、つまらない遊びなんて嫌だろう? 楽しむなら相手にも楽しんでほしい、それが彼の根本にある感情であり、純粋な願いである。

 それがきっと最果てにいた寂しがり屋や大切な何かを失いかけていた少女を救う事に繋がったのだろう。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 多くは語る必要なし。ただ彼と一緒に居て、一緒に遊んで、楽しかったと笑い合った…それだけで彼女は幸せなのだ。


『灰流うらら』

 面子に参加して勢い余って見せびらかすために持っていた新型デュエルディスクを叩きつけて壊した、とても泣いた。そして彼女以上にくじ引きの屋台のにいちゃんが泣いていた。


『召喚獣プルガトリオ』

 人間界に顔を出したら神様呼ばわりされて凄い困惑してた。けれど、まぁ良いかと思えるぐらいとても楽しく遊んだ。祭りの日以来、青年と一緒に暮らし始めた、とても充実した日々を送っている。


『最果てのゴーティス』

 顔は出さなかったが、昔を思い出してとても楽しんでた。今日も幸せそうである。




『デスピアの導化アルベル』

 その気になれば人間界精霊界問わず混沌の坩堝に叩き落す様な事を引き起こせる奴。尤もその積りなど欠片も無いが。既に彼の求めているものがすぐ傍にある。これを壊すなど愚か者の所業だ。

 実はある精霊を殺しに来てたのだが、気分が変わって止めた。あれはもう、何も出来ない。精霊としての力のあるなしに関わらず…ね。


『とある精霊』

 また駄目でしたね。でも大丈夫です、きっと主様の信じたカミサマを連れて会いに行きますよ。何をしてでも、カミサマと一緒に全部救って見せますよ。

 そうすればきっと…きっと、なんだっけ?

 少女はただ楽し気に遊ぶ人々を遠くから眺める。酷く羨まし気に、なんでそんな事を思うのかも分からないまま。
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