遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
その広がりを切っ掛けに人間界へと多くの精霊が訪れている訳だが、それをした理由は精霊それぞれなのは当然の事だった。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊の元に、とある精霊が訪れた事が切っ掛けに起こる出来事を描いただけの物語である。
『ティアラメンツ・シェイレーン』にとってその日は何の変哲もない普通の一日だった。朝の散歩、朝食、仕事、それら全てこれと言った出来事も無く終わる、ある意味愛すべき日常だけがある一日だった。そうなる筈だった。
スーパーで出くわした三人の精霊、そのうちの一人である『ティアラメンツ・キトカロス』がくっそむかつく笑顔を浮かべながら遊賀とシェイレーンの事を見ていなければ。
「久しぶりですねシェイレーン‼」
「どっか行け、もしくは死ね」
「ド直球な罵倒だなおい」
これでも抑えた方だとこれでもかと不機嫌であると主張する様に顔を歪めるシェイレーンを無視してキトカロスが近づいてくる。
「丁度良かったです、これからあなた達の家にお邪魔しますね‼」
「くるなしね」
「もう、そんなこと言って良いんですか? せっかく良いものを食べさせてあげようと思ったのに」
「…一応聞くけど、なに?」
「それはですね‼ 人間界で尤も素晴らしいとされる食事‼」
ふんすと鼻を鳴らし堂々と口にする。
「すなわち、他人の金で食う焼き肉です‼」
「へーそっか…で、そのお金は誰が出すのよ? 貴女が出すの?」
「勿論レイノハートですよ」
何を言っているんだといった感じの表情を浮かべるキトカロスから視線を後ろにいる肉をかごに入れている『ティアラメンツ・レイノハート』に向ける。チラッと見える彼の表情はパッと見てわかる程死んでいた。
「…まぁうん、取り合えず焼き肉云々は分かったけど、なんで家に?」
「それはですね、人間界にお肉を買いに来たのは良いのですがよく考えたら自宅で焼き肉が出来るだけの道具がない事についさっき気が付いてどうしようかと考えていたんです、流石にホットプレートを買うと荷物が多くなりすぎて邪魔ですし」
「あぁー、もしかしてそれで家に?」
「そうです‼」
「まぁ、確かに家にはホットプレートありますけど」
「悪い事では無いでしょう? わたしたちもあなた達二人も焼き肉を食べられる。どちらも損はないですよ?」
「…んー、まぁ別にいいですけど」
「マスター⁉」
「やったー‼ これで直ぐ焼き肉が食べられるー! しかも匂いを気にしなくても良くなったー‼」
なんて事を口にするキトカロスにこの場で殺してやろうかと直剣を構えつつ、視線を遊賀に向けつつ問いかける、本当に連れていくのかと。彼は、あぁと頷いた。
「まぁ、約束もあるし」
約束とは何ぞや、と首を傾げてもまぁ気にする事じゃないと彼はスマホを弄りながら言った。
場所は移って遊賀宅。
「あー…んむ」
ジュージューと焼ける肉、その内の良い焼け具合の一枚をタレを絡めて頬張るキトカロス。頬を緩めながら目を輝かせている。
「んー! 美味しいですね‼」
「あぁそうかよ」
なんてため息を吐きながら『ティアラメンツ・レイノハート』は箸片手に肉の焼け具合を確かめながら視線を遊賀に向ける。
「なんかすまんな」
「あぁいえお気になさらず。寧ろこっちの方こそ一緒に食べさせてもらってる立場なので」
「そうよ、レイノハート。貴方にすまないとか言われても困るだけよ」
「そうか」
「そうですよレイノハート。貴方が謝る必要はありませんよ!」
「お前は謝れ」
「もしくは死ね」
「何でですか⁉」
酷いと言いながらも肉を食べる箸を止める事はしないキトカロス。と、軽く服が引っ張られどうしたのかと視線を横に向ける遊賀、そこには控えめに袖を引っ張る『ティアラメンツ・メイルゥ』が居て。
「あの、飲み物のおかわり貰ってもいいですか?」
「あぁ飲み終わったんですか。じゃあ取ってきますね、また麦茶で良いですか?」
「は、はい大丈夫です」
「あ、マスターあたしがとってくるわよ?」
「いや良いよ、俺も米おかわりしたかったし、まぁついでだついで」
よいしょと立ち上がる遊賀を見ていると、レイノハートがふっと微笑んだ。
「随分と良い人だな。まぁ聞いてた話の内容から悪いようには扱われてないとは思っていたが」
「悪いなんて事ある訳ないじゃない。あの人といるだけで良いと思えるんだから」
「そうか、そこまで行くと流石にどうかと思うな」
「正直あたし自身もそう思うわ」
まぁ、それが悪いとは全く思っていないのだがとシェイレーンは優しく微笑んで。
「まぁそうですね、幸せならそれで良しと言われてるそうですし‼ ペルレイノを出る前の死にそうな顔浮かべてた時よりは良いと思いますよ!」
「うるせぇ喋るなよお前」
「さっさと死んでくれない?」
「あ、殺しますか?」
「当たりが凄く強い…あ、そのカルビ良い感じですねください!」
「はぁー…ほらよ」
「わーい! んー‼」
「で、他人の金で食う焼き肉は旨いか?」
若干投げやり気味にレイノハートが問いかけると、キトカロスはきょとんとした表情を浮かべて、口の中の肉を飲み込んで答えた。
「いえ他人のお金とかは美味しさには関係ないでしょう? 美味しいのは飽くまでお肉、もとい牛肉を育ててくれた人たちとそれを食べられるように加工した人たちの努力によるものですから。自分で払うか他人が払うかで変わるのは気分位ですよ」
そう、言われたレイノハートは何度目かも分からないため息を吐いて。
「じゃあ他人の金で焼き肉を食う気分はどうだ?」
「勿論最高ですよ‼」
「そうか、やっぱクソだなお前」
「やっぱもなにも今更過ぎない?」
「ここで殺しておきます?」
「ここでは色んな意味で部屋が汚れるからやめてメイルゥ」
そんな物騒な会話をされてにも拘らず我関せずで肉を頬張るキトカロスに、三人は同時にため息が零れる。と、丁度その時遊賀が戻って来た。
「はい、麦茶ですよ」
「あ、ありがとうございます」
「お茶と米持ってきただけにしては随分と時間掛かったわね、何かあったの?」
「ん、あぁちょっと電話が来てなそれの対応」
「電話?」
「そ、もうすぐ着くってよ」
「は?」
誰が? と、問いかけるその直前にインターホンが鳴り響く。丁度だなと言いながら遊賀が再び立ち上がり、玄関へと向かう。本当に誰だと首を傾げていると、扉が開きその場にいる四人の視線が集まる。入って来たのは当然遊賀と、あと一人。
「お久しぶりですねキトカロスさん‼」
『宣告者の神巫』が立っていた。
カラリと、キトカロスの手から箸が零れ落ちる。そして滑らかに無駄なく椅子から立ち上がり…全力で窓に向かって走り出す。あるいは音すら置き去りにしているのではと思える速度で窓に手を伸ばし、それ以上の速度でキトカロスの前に回り込んだ『宣告者の神巫』に掴まれた。
「あ、はわ、あわわ…っ‼」
「体調不良だからと精霊界に帰ってしまったあの時からキトカロスさんの事、凄く心配していたんですよ‼ 同じ『宣告者』さまを信仰する者として気が気ではありませんでした!」
「あ、あばばばば」
「でもよかったです‼ こうして戻ってきて来てくれて‼ 心身ともに健康そうで『宣告者』さまも大いに喜んでくれることでしょう!」
「やだ、やだやだやだ⁉」
「さぁ行きましょう『宣告者』様の元に信仰を捧げに‼ そしてより広く多くの人々に『宣告者』様の素晴らしさを広げに‼」
「あ、待って‼ 待ってください! 助けて、助けてぇぇええええぇぇぇぇぇ‼」
あぁぁぁああああぁぁぁぁ――――……
なんて、声を残し『宣告者の神巫』に引きずられていく『ティアラメンツ・キトカロス』を見送る四人。余りに突然の出来事に思考が追い付かず固まるレイノハートとメイルゥと違い、ある程度慣れているシェイレーンはゆっくりと遊賀へと視線を向ける。
「…さっき言ってた約束って、もしかして」
「ん? あぁそうだぞ。ディヴァイナーに頼まれてたんだよ。もしあのキトカロスと出会う事があったら教えてくれって。なんだかんだずっと心配してたからなー…まぁ流石にあそこ迄強引に動くとは思ってなかったけど」
「…思ってなかったも何もいつもあんな感じじゃない」
「そうか? 何時もはもうちょっと自重してるだろ?」
少なくとあんな風に引きずっては行かないしと彼は言う。それにはまぁ確かにと思うシェイレーンだった。大体鬱陶しくしつこくはあるが言葉での勧誘止まりだったなと。
と、漸く動き始めたメイルゥがキトカロスが連れ去れた方向を見ながらぼそりと呟いた。
「……殺しておいてあげた方が良かったんじゃ」
「それはぁ…まぁ、うん」
否定はシェイレーンにはできなかった。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
実はまぁ約束したし程度の感覚でやばいのに連絡を入れた結構感覚が壊れてる男。正直居座られるかもとは思っていたがまさかの連れ去りに吃驚した。流石にまずいかとも思ったがこの後何事もなかったかのように精霊たちが焼き肉を再開したのでまぁ良いのかと思う事にした。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
嫌いや奴が突然現れたやばい奴に連れ去られる場面を見て前と同じく憐れむと同時にそれ以上にすっきりした子。この後何事も無く焼き肉を再開した。主に倣って焼き肉丼を作ってみた、とても旨い。
『ティアラメンツ・レイノハート』
あれが元凶かぁと思ってた今回一番の苦労人。調子が戻った記念とかいう訳分からん理由で肉買わされるわ荷物持ちにされるわ肉を焼かされるわと何でもさせられていた。連れ去られるキトカロスに少し可哀そうと思いつつざまぁと思った。この後何事もなかった様に焼き肉を再開し、キトカロスに食われないように隠しておいたとびきりの肉を取り出して焼き始めた。
『ティアラメンツ・メイルゥ』
なんだあれと思いながら見てた子。実は三人の中で一番手が出るのが早く、獲物のハンマーが良くキトカロスの血で染まっている。連れ去られるキトカロスを見て心底憐れみ帰ってきたら介錯してあげようと心に決めた…怖い。肉より遊賀が作った浅漬けが気に入った様子。
『宣告者の神巫』
実は本当にキトカロスの事を心配していた。無論、同じ『宣告者』を信仰する仲間としてである。こうして再会できたのも『宣告者』の導きあっての事。
やはり『宣告者』さまは素晴らしいですねキトカロスさん‼
『ティアラメンツ・キトカロス』
たすけてぇ。