遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
人とは違い超常的存在と言える精霊たち、だがそんな彼らもしくは彼女たちでも抗いようの無い現実と言う物に襲われることがある。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と共に在る精霊が出会った精霊とした何気ない会話を描いただけの物語である。
『ティアラメンツ・シェイレーン』は日課の散歩中になんかよく分からない事に出くわす事が多い。最近は慣れてきてしまったななんて思うシェイレーンだが、別に散歩に出かける度巻き込まれる訳でもない。あるいは単純に知り合いと出会う事だって当然ある。
例えば自動販売機の前で何を買うか悩んでいる精霊『マドルチェ・マジョレーヌ』なんかがそれだ。
「んー…ん? あ、貴女喫茶店の、こんなところで奇遇ね」
「そうね…で、何やってるのよ?」
「何って、単に何飲もうか悩んでるだけだけど」
「あぁいやそっちじゃなくて」
言いながら視線をマジョレーヌから外しその下、なんか溶けかけてるジャージ姿の『マドルチェ・プディンセス』へと向けた。
「……え、あ、はは、気にしなくても良いのよ唯そうちょっと気持ちよく運動したい気分になって張り切って走り過ぎただけで決してこれと言った深い意味がある訳では」
「あぁ肥えたからダイエット始めたけど速攻でへこたれてるだけだから気にしなくても良いよ」
「オブラートォ‼ もうちょっと発言をオブラートに包んでマジョレェーヌ‼」
「オブラートで包んだ所でこのお腹が元に戻る訳じゃないでしょうに」
「あ、ちょ、やめて、突かないでよ‼」
つんつんと持っているフォークでお腹を突かれ、そう言いながら腕をばたつかせるプディンセス。言われてみればカードのプディンセスより若干彼女は全体的に丸いように思える。
「…貴女達って太るのね」
「何その反応…って言いたいけど仕方なくはあるわね。正直、私たちが一番驚いたもの、私たちって太るんだって」
「うー、今まで体重に変化なんてなかったのにー…何でこんなことに」
はぁと溜息を吐きながら遠くを眺めるプディンセス。
「ま、取り合えず水分補給しましょ。スポドリ…で、良いのかなこの場合?」
「…あ、もしかしてあたしに聞いてる? なんで? そういうのは飲む本人に聞けばいいじゃない」
「はいはいはい! ミルクティー飲みたい‼」
「その本人がこの状態なんでね」
「今飲むのにこれ以上ないほど適してない物を求めてるわね。まぁスポドリで良いんじゃないの?」
「じゃあそれで」
と、よいしょと言いながらスポーツドリンクを購入し手渡すマジョレーヌ。そして渡されたプディンセスと言えばすぐに蓋を開ける一気に飲み干した。
「ぷはー! 美味しい‼ じゃあ次はミルクティー頂戴‼」
「痩せたいと私に泣きついて来たやつのセリフとは思えないわ本当に」
痩せる気あるのかと視線を向けられると言葉に詰まり暫く視線を彷徨わせてから諦めたように肩を落とした。
「あぁー…甘い物もっと食べたい飲みたい落ち着かないー」
「凄いわね。わたしも相当お菓子好きで食べてるけどあそこ迄では無いわよ」
「まぁ気持ちは分かるわよ。そもそも私たちってそういう存在だし…まぁだからこそ太ったって言う事実が衝撃だったのだけどね」
「なにか変わった事とかないの?」
その問いかけに、少し考える仕草をしてからマジョレーヌは首を振った。
「無いわね。人間界に来てからの生活は精霊界に居た時と変わらないもの…あぁいや一応あったか変わった事。プディンセスじゃなくて私がだけど」
「あ、そうなの?」
「そ、だってお菓子食べる量すごく減ったもん」
「え、そうなのマジョレーヌ⁉」
「…もしかして気付いて無かった?」
「全然気が付かなかったわ…なんでそんな事になったのよ貴女は?」
「いやなんでって」
言いながら頬を掻くマジョレーヌ。
「その、何事にも限度ってものがあるなって思い知ったから…かな」
「どういう事よそれ?」
「あー…そういう事ね。分かるわ」
「なんで?」
いまいち意味が分からないと首を傾げるプディンセスを置き去りにだよね、うんと頷き合う二人。あの甘ったるい災害に出くわした者同士、通じ合うものがあるという事だろう。実際シェイレーンもかなり甘い物を食べる量が減った。
「ま、そう言う訳だから私はお菓子を食べる量が減ったって訳よ」
「成程、納得しかないわ…あれ、って事はもしかしだけど貴女体重」
「あぁそれはプディンセスが太ったって騒いだ時についでに計ったけど変わってなかったよ」
「何ですてぇ⁉ この裏切り者ォ‼」
「裏切った覚えなんて欠片も無いわ」
がるると威嚇する様にプディンセスは両手を持ち上げ。あ、と声を零して動きを止めた。
「?…どうしたの?」
「いや、その…マジョレーヌ、貴女が食べなくなった分のお菓子はどうなったのかなってー思って」
「は? いやそれに関しては私が食べる分が減るだけでしょ何言ってるのよ。そもそもそこら辺は何時もお菓子作りしてる貴女の方が詳しい……あ」
言いながら先ほど自分がお菓子を食べる量が減っていた事に今気が付いたと言っていたなと思い、何かを察したマジョレーヌ。同じく察したシェイレーンは無言でプディンセスへと視線を向ける。彼女の瞳は凄い事になっていた。
「……私の食べる量が減っていた事に気が付いてなかったって事はずっと変わらない量を作り続けてたってこよだよね?」
「…うん」
「って事は当然お菓子が余る訳だけど…それを貴女どうしてたの? 私、知らないから教えてほしいのだけど」
「それはー…そのー、ね? なんでこんな余ってるんだろう不思議だなーって思いながらー…ね?」
てへっと舌を出してプディンセスは言った。
「勿体ないから全部わたしが食べた‼」
「つまり精霊界に居た時の凡そ倍に近い量のお菓子を一か月間食べてた訳ね…馬鹿じゃないの⁉ なにが太った理由は分からないよ明らかにそれが原因じゃないの‼」
「吃驚する位当然の結果ねこれ」
「待って! 話を聞いて‼」
「言い訳がしたいなら早くして」
「ひん、視線が冷たい…そのね、確かに余った分のお菓子は全部食べたけどちゃんと拙いとは思って色々工夫はしてたのよ」
「全部食べてる時点で工夫も何もあったもんじゃない気がするけど…何をどうしたのよ?」
仕方ないと言った感じで問いかけると彼女はこれでもかとドヤ顔を浮かべながら言う。
「一気に食べずに一時間置きに食べるようにしたり深夜に小腹がすいた時に食べるようにしてたのよ‼」
「益々もって馬鹿! 道理で最近ずっと何か食べてると思ったわ! 自分の分のお菓子小分けにして食べてるのかと思ったらそういう事かこの馬鹿‼」
「い、いくら何でもバカバカ言いすぎでしょ!」
「まだ言い足りないわこん畜生‼」
苛立ちを表現する様に手に持っていたフォークを地面に叩きつける。そしてそのまま驚いて飛び上がったプディンセスを睨みつけて。
「取り合えず、ランニングを再開するわよ」
「え、もうちょっと休憩したいんだけど。あとミルクティー飲みたい」
「………」
「あ、ちょ、痛い! 無言で蹴らないで‼ わたしが一体な」
「何をとか言ったら容赦を捨てた全力の蹴りを叩き込むけど…なんて?」
「あ、はい何でもありません、よーし頑張って走るぞー」
なんて若干棒読みなプディンセスにため息を吐きつつ叩きつけたフォークを拾い軽く埃を払ってから視線をシェイレーンへと向ける。
「それじゃあ私たちはランニングを再開するからここ等辺で失礼するわね。また今度喫茶店に行くからその時はもう少しくつろぎながらちゃんと話でもしましょう」
「そうね…まぁ忙しく無ければだけどね」
「それはそう」
「はいはい! わたしも行きたい! そしてパフェ食べたい!」
「駄目に決まってるでしょ。寧ろ食べる量を減らすのよ貴女は」
「……ひん」
なんて言いながら走るプディンセスとそれを追うマジョレーヌを見送り。ふと自分の体を見るシェイレーン。
「……帰ったら体重計に乗ろ」
彼女もお年頃である。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『ティアラメンツ・シェイレーン』
帰ってすぐ体重計に乗って、そもそも体重を量ること自体初めてだった事に気が付いた。因みに彼女の体重は調べた結果とても健康的なものであったとか。実は浮かんでいること自体に結構なエネルギーを使っている事を彼女自身も知らない。その為今より食べる量を減らすと逆に不健康だったり。
『マドルチェ・プディンセス』
自業自得。己の行いが己に帰って来ただけの精霊。同じマドルチェ・プディンセスと並んだ場合普通の人でも一目で分かる位丸い。ランニングの後帰ってから流れるようにチョコケーキをミルクティーで流し込んでマジョレーヌにしばかれた。
白馬の王子様に憧れる乙女の如く、動かずに体重が落ちないかなと空想している…現実はお菓子ではないのでそんな甘くはない。
『マドルチェ・マジョレーヌ』
とてもキレてる。とある一件以来お菓子の食べる量が減った。それが今回の事態につながったと言える…いやそんな事はない。帰宅後早々にケーキを食べたプディンセスに痩せる気があるのかと問いかけたらあると元気にクッキーを食いながら言われた、蹴りを叩き込んだ。
その日の午後、実はプディンセスがお菓子を作った際の味見として食べるお菓子の量が滅茶苦茶増えている事が発覚し、やっぱり蹴りを叩き込んだ。
この日以来、彼女の運動量と蹴りのキレがどんどん増していく事となる。