MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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迷子の『フルール・ド・バロネス』と激おこ賢者

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 MDの広がりは人々と精霊とを繋ぎ合わせ共にある事が日常と化した。だからこそなのか、マスターたるデュエリストから離れ何を思ってか一人で行動する精霊も割とよく見かける様になっていたのだ。

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』とそんな彼と共に在る精霊が、偶然にも彷徨う精霊とのちょっとした出来事を描いた物語である。

 

 

 

 

 

 なお、本当にそれだけの物語なのでデュエル描写はデッキバウンスさせて頂く‼

 

 

 

 

 

 俺、『稲田遊賀』は今日はあまり運がよろしくないと感じていた。

 

 前々から楽しみにしていたコンビニの新スイーツを買いに出かけてみたら何故かその商品を掛けたプチ勝ち抜きデュエル大会が開催したり、まぁでも別にいいかとデュエリストらしく参加してみたら相手の手札誘発は通るのに自分の手札誘発が通らないと言うバグを疑いたくなるような事態に襲われ、それでも何とか勝利し新スイーツを手に入れることは出来たが微妙に俺の口に合わなかったという結末。

 

 もっともそこまでは言いデュエルは楽しかったし苦戦はしたが勝てた。新スイーツ事態俺の口に合わなかったと言うだけで『ティアラメンツ・シェイレーン』がとても気に入って俺の分も美味しそうに食べてくれているから無駄になる事無く済んだ、だからそこは良い。

 

 

 問題は目の前の道路のど真ん中にたたずむ豪奢な鎧纏う騎兵。カードの精霊『フルール・ド・バロネス』が無言で俺たちの事を見つめてきている事である。

 

「……」

 

 互いに無言。分からない。なぜ道のど真ん中から動こうとしないのか、そしてなぜ剣を抜いた状態でこちらを見つめてきているのかさっぱり分からない、そして普通に怖い。俺は極一部の人間をやめているデュエリストと違ってごく普通の人間なのだ、精霊にデュエルを挑まれたとしても負けない自信はあるが物理的に殴りかかられたら何も出来ずに死ぬ、サイコパワー的なものでひねられても死ぬ。

 

 だからこそ、『ティアラメンツ・シェイレーン』は素早く己のマスターの前に立ち直剣を構えながら『フルール・ド・バロネス』に鋭い視線を向けている。

 

 一触即発とはまさにこの事。

 

「…貴公」

「え、あ、はい…え、俺ですか?」

「うむ」

「マスターに何の用?」

 

 先に沈黙を破ったのはバロネス。先ほど以上に敵意を滲ませるシェイレーンなど意にも介さず、左手を盾を持ったまま器用に動かしてそれを取り出し突き付けた。

 

 

 スーパーのチラシを、突き付けた。

 

 

「…この場所へはどの道を通ればたどり着ける?」

 

 一瞬、何を言っているのか分からなかった。その問いかけはあまりに『予想GUY』だった、この場にシェイレーンやバロネスが居なければ通常モンスターが特殊召喚されていたことだろう。シェイレーンも予想外すぎて奇妙な表情を浮かべている。

 

「えっと…なに、道が分からないって事で良いのよね?」

「うむ、そうだ。主の生家より出立して凡そ3時間程経過しているが未だ辿り着けず頭を悩ませていたところだ」

「3時間」

 

 それって迷子か、迷子って事なのか? あの取り合えず出しとけ系シンクロモンスターなカードの精霊である『フルール・ド・バロネス』が? いや流石に違うよな、単に遠出してきただけの筈、多分。

 

 視線をチラシに向ける。書かれているのは自分たちも良く利用するスーパーだ。ここからそう離れてはいないと言うか北に5分も歩けば到着する位置にある……あ、『苗と霞の春化精』の米が凄い安い。まだ売ってたら欲しいなこれ。

 

「主は『ナチュルの森』産の新鮮野菜を求めて居られる。迅速に辿り着き、手にしなければ鮮度が落ちてしまう」

「そ、そうなの」

「うむ、これ以上時間をかける訳にはいかぬ故に他者を頼りする事とした」

「そうですか…」

「…じゃあなんで武器を構えているのよ」

 

 若干空気が緩み始めるも変わらず警戒を続けるシェイレーン。視線はバロネスの持つ剣に注がれている。確かに、何故剣を抜き身で持っているのかとても気になったが訊いて良い事なのか?

 

「む、これは人間界とは危険多き地であると言われたが為に、何時強襲されても対処できるようにとしているもの。事実、汝の如く私に鋭き敵意と警戒を抱き向ける精霊は数多い」

 

 それ武器構えてるからじゃないのだろうか? そう、俺は思った。多分シェイレーンも思ったのだろう、また微妙な表情を浮かべていた。

 

「…あぁそうだスーパーへは北に進めばすぐ着きますよ」

「む、そうだったか。協力感謝する」

 

 取り合えずこれ以上はややこしい事になりそうだから聞かれた事に答えてしまう。余り変に話を長引かせる必要もない。そうして教えられたバロネスはそう短くお礼を返すと力強く馬を走らせ駆けていった。

 

 

 

 

 

 南に向かって。

 

「いや逆ぅぅ――――っ⁉」

「なんと⁉」

「いやなんとじゃないわよなんとじゃ‼」

「今、滅茶苦茶恐ろしい事起こったな」

 

 思わずと言った様子で警戒心をかなぐり捨てて叫ぶシェイレーン。と言うか…え、さっき北って言ったじゃん。なんで迷いなく南に進んだんだこの精霊。あれか、もしかして方角が分からないとかそういう奴なのか? いや流石にと思いつつゆっくりとこちらに戻って来たバロネスに対して恐る恐る尋ねる。

 

「あの、こんな事聞くのもなんですが…北がどちらか分かりますか?」

「うむ、当然把握している。赤い車が置いて在る方向だろう?」

 

 詰まりあちらだと、路上駐車されている赤い車を指さした。方角は勿論…南である。シェイレーンが思わず顔を覆った、俺は空を仰ぎ見た。まじか…まじかぁ。

 

「そのとりあえずなんだけど」

「なんだ?」

「車は動くから北側にあるとは限らないわよ?」

「―――――――――ッ⁉ そう、だった…車は、動くのだった‼」

「いやそんな大げさな反応するような事実ではない気がしますよ」

「ならば北は⁉」

「「あっち」」

 

 今度は言葉では指さして見せる。これならば少なくとも目的の店には辿り着けるだろう…多分。少し落ち込みながらも再び感謝すると口にしてて走りだし、ひょいと十字路を右に曲がっていった。

 

「ちょ⁉ 待って待って待って‼」

「む、貴公なぜ止める?」

「寧ろなぜ曲がる⁉」

「先ほども言っただろう、迅速に辿り着き入手しなければ新鮮野菜の鮮度が落ちてしまう。だから近道をしようと」

「ここを右に曲がっても近道にはなりませんよ⁉」

「そうなのか⁉」

「寧ろなんで近道になると思ったのよ……」

 

 怖い、マジで怖い。さっきとは違った意味で意味が分からなくて怖い。

 

 そして仕方がないと、また戻って来たバロネスに今度はしっかりと店までの道案内する事した。なんかこのままだと永遠に目的のスーパーまでたどり着けそうにないし。と言う訳で、途中幾度となくわき道に逸れそうになるバロネスを何とかスーパーまで案内することが出来たのだがスーパーの前、そこでとある存在、花の如きローブを身にまとう精霊『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』鋭い視線をバロネスへと向けながら立っていた。

 

「待っていましたよバロネス」

「む、サージュか。どうしてここに? いやそれは良いまずは主の求める新鮮野菜を」

「それは既に購入済みです」

「なんと、流石は時花の賢者だ」

「いいえその様に賞賛される様な行いではございません。なにせ‼ 主様の生家より西に20分程歩けばたどり着ける店にて買い物を済ませただけの事…幼子ならば兎も角我々精霊がそれをなしたとて誉とは言えません」

「そうか、相も変わらず汝は己に厳しいものだ」

 

 私もそうあるべきかと悩んで見せるバロネス。いや自分に厳しいとかじゃないと俺は思う。というか他の精霊、それこそシェイレーンから向けられていただろう警戒心とか敵意が霞んで見えるレベルの怒気が目の前のサージュから発せられてるのだが。それこそレベル8モンスターが2体並んでいる様な感じ、分かりやすい殺意の形。シェイレーンが若干怯えてる程だ。

 

「所で、そちらの方々は?」

「む、あぁ彼らは私をここまで案内してくれた心優しき者たちだ。彼らが居なければ私は未だ町を彷徨っていたことだろう」

「…そう、ですか。それは深い感謝をせねばなりませんね」

「あ、いえお構いなく」

「いいえ、感謝は言葉と形にしてこそ。心のうちに留めておくべきものではありません」

「うむ、その通りだ貴公。改めて感謝を、私をここまで導いてくれてありがとう」

 

 すごい大仰な感じに言ってるけどスーパーまで連れて来ただけなのだか?

 

「あぁそうだサージュ、時花の賢者よ聞いてくれ‼ 私は彼らから素晴らしい事を聞いたのだ」

「……それは、なんでしょう?」

 

 俺は思う。あ、なんかこれ駄目な奴だ…と。デュエルに置いて特に理由は無いが敗北を確信してしまった時の様に彼はそれを理解した。バロネスは今から地雷を踏み抜くと。

 

 

 

「うむ、なんと車は動くから目印にはならないそうだ‼」

 

 

 

 その瞬間、俺とシェイレーンは…いいやこのスーパー近辺に居た全ての人物が三つの音を聞いた。

 

 最初に顔から表情が抜け落ちる音。

 

 次になにか切れてはいけないものが千切れ飛ぶ音。

 

 

 

「それはもう幾度となく私や主様が教えた事でしょうがぁぁあ―――――――――っ‼‼」 

 

 

 

 そして最後に、世にも珍しい美しい花から雷が落ちる音であった。

 

 

 

 結末としては、迷いに迷いまくっていた『フルール・ド・バロネス』は『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』に文字通り首根っこを掴まれて帰って行った。案内しただけの俺たちはと言えばサージュからの感謝と謝罪の意を込めてのそこそこの量のジェムポイントと特売品である『苗と霞の春化精』の米を譲られてしまった。

 

 本当に案内しただけなので明らかに貰い過ぎなのだが、サージュの無言の笑顔が怖くて貰ってしまった。

 

 当初の予定よりも重たくなった鞄を手に帰路に就く二人。ふと、シェイレーンは遠くを眺めながら口を開く。

 

「…精霊界には『フルール・ド・バロネス』に関する噂話とか伝承が幾つかあるのよ」

「どんなの?」

「凄惨な争いが起きようとしている地、打ち倒すべき悪が蔓延る町、或いは救いを求める誰かの元にバロネスは現れるって…実際、余りに様々な場所に姿を現すけれどなぜそこに現れたのか全く分からなかったからそういう噂が生まれたってだけみたいだけど」

「成程」

 

 確かに『フルール・ド・バロネス』はいろんな場所に居るな。レベル10シンクロが出せるデッキなら取り合えず入ってるって感じあるし。其処ら辺はカードと似てるのだなと思う俺。

 

「それで思ったのだけど」

「なにを?」

「もしかして色んな場所に姿を現してたのって単に迷ってただけなんじゃないかな……って」

「あぁー……」

 

 空を見上げる、少し夕焼けに染まり始めている空を。シェイレーンと共に眺める。

 

「……マスター」

「なんだ?」

「人の夢と書いて儚いって書くらしいけど…その人って精霊も当てはまるのね」

 

 知りたくなかったー、と空に向けて吐き出すシェイレーン。

 

「そのなんだ、今日であったバロネスが方向音痴だったってだけかも知れないから、そんな落ち込むな」

「そう、ね。そうよね。あのバロネスが特殊なだけでちゃんと噂話や絵本に出てくる様なかっこいい『フルール・ド・バロネス』はいるわよね」

「あぁ、多分だけど」

「そこは断言してよマスター」

「いや流石にそこらへん分からないから断言は出来んだろう…あ、そうだ夕飯なにか食べたいのあるか?」

「急に話題変えたわね、アジフライ」

「じゃあ米炊いてそれにするか」

「うん」

 

 

 豪奢なる鎧纏う騎兵『フルール・ド・バロネス』よ。ちゃんと噂話や伝承の様にかっこいい精霊も居てくれることを切に願う。




めちゃ雑人物紹介こーなー


『フルール・ド・バロネス』

 雑に出てくるクソつよレベル10シンクロ。その精霊。圧倒的方向音痴であり、遊賀とシェイレーンに出会わなければスーパーに辿り着くのは1週間後だった程。サージュに滅茶苦茶叱られた。

 迷子になった回数は数え切れず。最長で家から出立後半年間姿を晦まし事があり、その時発見されたのは精霊界の大霊峰。そこで高野豆腐は売っていないかと聞いて回り『相剣大公-承影』を滅茶苦茶困らせた事がある。


『時花の賢者-フルール・ド・サージュ』

 クソつよ効果モンスター。助言は幾度となく与えた、地図を持てスマホなどの連絡手段を持て動くものやありふれたものを目印にするなと…それらは未だ一度も守られたことは無い。バロネスを滅茶苦茶 りつけた。

 迷子となった事? 一度もありませんよ。


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 通りすがり、善意から案内し結果昔から抱いていた夢と憧れが壊された完全なる被害者。その日の夜、実家から持ってきていた絵本『花の騎士物語』を久しぶりに読んだ。なぜか無性に泣きたくなった、というか泣いた。

 迷子には少し前に一度だけ。けれど道を見失い彷徨ったからこそ彼に出会えた。故に彼女は今、ただ幸せだけを感じている。



『稲田遊賀』

 今日はやっぱり運が悪かった気がする一般デュエリスト。夜にシェイレーンに見せてもらった絵本はとても煌びやかで、でも方向音痴なんだよなと思ってしまい微妙な気持ちになった。

 迷ったことはない。彼の進む道は何時だって最果てにて揺蕩う星々の輝きが照らしているのだから。
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