遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
それを切っ掛けに生まれた人と精霊との交流は、精霊たちに精霊界に居た時には思ったことも無いような願いを抱く事があるとかないとか。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と彼と共に在る精霊が知り合いにとあることを願われた際の出来事を描いただけの物語である。
シェイレーンはとても困っていた。外、隣に立つ遊賀と一緒に家に入る事が出来なかった精霊『サイバー・ドラゴン』を見上げながら、そのマスターである男性『中津栄斗』に問いかける。
「えーっと、その…本当に?」
「まぁ…うん」
と頷く中津も少し困った様子でスマホ片手に『サイバー・ドラゴン』を見上げていて。
「なんか、パフェが食べてみたいらしい」
その言葉に『サイバー・ドラゴン』は肯定する様に頷いて見せた。
「と言う訳ですけど、どうしましょう?」
「んー…どうしよっか?」
と、珍しく本当に困った様子の『筑波』店長。彼はカウンターに手を置きながら視線を遊賀の隣に座る中津へと向ける。
「取り合えず…中津くんだっけ?」
「あ、はい」
「彼…彼? 彼女? は、人と同じものは食べられるのかな?」
「その…無理っす」
「まぁだよねー」
言いながら外から店内をのぞき込んでいるサイバー・ドラゴンを見る。
「食べられないからこそ食べてみたいって事かしらね」
「多分……個人的には叶えてやりたいんすけど…おれ、そこまで料理詳しくなくて」
「料理云々なのかなこれ?」
「正直俺も分からなくて店長に相談しに来たんですよ」
「ふーむ」
腕を組んで首を傾げる店長、少ししてからキッチンへと視線を向け。
「『崇高なる宣告者』、君機械族も食べられるパフェ作れる?」
その問いかけに、よいせとキッチンから顔を覗かせた『崇高なる宣告者』はビシッとバッテンマークを作った。如何やら知らないらしい。
「駄目かー」
「流石に喫茶店のキッチン担当でも無理って事ね」
まぁ仕方ないと言える事だが。料理は得意だが、それ関係の知識を何でも知っている専門家と言う訳ではないのだから…と言う訳でとシェイレーンは隣に座っているコーヒーゼリーを食べている『マドルチェ・マジョレーヌ』に問いかける。
「と言う訳なんだけど、お菓子の専門家みたいな貴女は何か知ってる?」
「急にカウンター席に連れてこられたと思ったらそういう事ね」
「いやごめん、迷惑なのは分かってるのよ」
「別に迷惑でも何でもないわよ。で、機械族でも食べられるパフェでしょう? 申し訳ないけど私も知らないわよ」
「そっか、まぁそうよねー」
「味覚が人や私たちと違うとかアレルギーがあってとか、もしくは食性が違う程度なら如何にでも出来るけど、流石に食べる機能が無いんじゃね」
それはそうだとしか言いようが無い。と頷くシェイレーンの横ににゅっと顔を出した『宣告者の神巫』は、相変わらずの笑顔で言葉にする。
「思い悩んでいるのでしたらわたしに提案がありますよ皆さま‼」
「なんか嫌な予感しかしないから言わなくて良いわよ」
「はい! 『宣告者』さまを信仰しましょう! そして食べられないと言う事実を効果認定して『宣告者』さまのお力で無効破壊してしまいましょう‼」
「いや破壊しないでほしいんだけど」
「そもそも事実を効果認定って何よ、そんな事出来るの?」
だとしたら恐ろしいに程があるがと視線を向ければ、先ほどとは比べようもないキレのあるバッテンマークを作っていた。出来ないらしい、ちょっと良かったとシェイレーンは思った。
「はぁー…やっぱりむりなのかねぇー、すまねぇサイバー・ドラゴン俺は無力だぁ」
「ごめんね力に慣れなくて」
「あぁいえ、こちらこそ急にすみませんでした」
言いながら頭を下げる、店に押しかけてこんな相談をしたのに一緒に考えてくれただけでもありがたいの一言に尽きる。
しかし結局どうしようも無いと言う結論に至ってしまった中津はこれでもかと落ち込んでしまっていて。
「…はぁ仕方ない、あいつに聞いてみるか」
「? あいつって?」
「俺が知ってる中で一番精霊に詳しいやつ。あんまり頼りたくないタイプなんだけどな」
と言いながらスマホを弄り、電話を掛ける。待つのは一瞬で。
『はぁい、そちらからかけて来るなんて珍しい事もあるものね?』
「珍しいどころか初めてだよ、今大丈夫か?」
えぇ勿論と、電話の向こうで『夢幻崩界イヴリース』は楽し気に笑った。隣に座るシェイレーンが人前でして良い類ではない表情を浮かべていた。
『それで? わたしにどんな用があるのかしら?』
「料理食べられないやつが食べられる料理知ってるか?」
『は?………謎々かなにか?』
「いや全然違うが? 俺の知り合いのサイバー・ドラゴンがパフェを食べたいらしくてな、機械族でも食べられるパフェってないかなと」
『あぁ、そういう。んー……それならあれでどうにかなるわね』
「え、あんの機械族が食べられるパフェ」
そう言うとまじかと中津と聞き耳を立てていた『マドルチェ・マジョレーヌ』ががたっと立ち上がる。お菓子の精霊としてかなり興味があるようで。
『無いわよ』
「あ、無い」
すっと二人して座りなおした。
『まぁ機械族が食べられるパフェは無いけどどうにか出来るのは本当の事よ。今貴方は何時もの喫茶店よね? 向かうからちょっと待っててね』
「待ってるのは良いけどなんで俺がここに居るって知ってるんだよ」
『……ふふ』
答える積りは無い様で。
「はぁ…取り合えずどうにか出来るって事だけど、なんか変な事だったりしないよな?」
『そんな事は無いわよ? 寧ろ普通の事よ、ごく普通のね。あ、そうそう。一つ聞くけどお金は幾ら迄用意出来るのかしら?』
「報酬的なのか?」
『いいえ? 単に用意出来る額によってカラクリ美食堪能箱の性能が変わるから聞いただけよ?』
「カラクリ美食…え、なにそれ?」
『機械族が人間や他精霊種族と同じものを食べられるように開発された機器の事よ、因みにちゃんと正式名称なのよ? カラクリ美食堪能箱って…正直この名前あんまり好きじゃないのよね』
もう少し何とかならなかったのかしらね、なんて声をスマホ越しに聞いたその場に居る全員が思った事。それはたった一言で。
売ってるんだ。と言う物だった。
「別に知らなくても可笑しな事では無いわよ?」
店の外、足代わりに連れて来たと言う『トロイメア・ユニコーン』に座り足を揺らしながらタブレットを弄るイヴリースがそういう。
「基本的に、機械族の精霊が態々メモリ割いて専用機器取り付けてまで人間や他精霊と同じものを食べようとするのは奇人変人、もしくは狂人の類だから全然一般的じゃないもの」
「そういうものか?」
「そう言う物よ」
そうかと初めて食べるパフェの味にはしゃぎ回るサイバー・ドラゴンとそれを見ながら一緒に喜んでいる中津を見る。本当に嬉しそうだなと真横から聞こえるシェイレーンが直剣で素振りする音を聞きながら思う。
「で、だ。なんで素直に頼まれてくれたんだ? 正直もっと色々要求されると思ったけど結局…グルメマシーンズ? とかいうの買うのに必要だった額しか要求しなかったし」
「あら、別に不思議な事では無いでしょう? さっき言った様に、あれを求める様な機械族は奇人変人狂人の類だって。そんな珍しい存在のデータが手に入るのだから寧ろ報酬を支払いたい位よ」
ほらと見せられたタブレットには様々なグラフや文字列が流れている。それがどういう意味なのかはさっぱり分からないが。
「まぁなんにせよ、今回は助かったわ。正直どうしようもないって思ってたし」
「どういたしまして、何ならもっと気軽に頼っても良いのよ? 仲良くなれば成程、あれの事をもっと知る機会が増えるでしょうし」
「あたしは全然仲良くなりたいとは思わないけどね‼」
と、威嚇する様に遊賀の腕にへばりつくシェイレーンにイヴリースはあら残念と言って。
「それじゃあ報酬として貴方の片腕貰おうかしら?」
「死ねぇ!」
「あら怖い。でもそれ以上に可愛いわねこんな分かり易い冗談に反応しちゃうなんて」
くすくすと笑いながら楽し気に直剣を振り回すシェイレーンから逃げるイヴリース。そんな追いかけっこする二人を見つつ、何となく一言。
「……平和だなぁ」
「どこがよ‼」
めちゃ雑人物紹介こーなー
『稲田遊賀』
実は今回の件を頼まれた際にイヴリースの事が頭に浮かんでた。しかしあいつなら知ってるだろうけど頼ると何要求されるか分からないしなーと思い選択肢から外していた、結局頼ったけど。別に変な事されたり要求もされなかったので一安心。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
今日も今日とてイヴリースに威嚇中。あたしのマスターに寄るな触るな頼んだ事は終わっただろうさっさとどっか行け。と、言っても帰ろうとしないイヴリースにぶちぎれてデュエルを挑み…惨敗して泣いた。
『中津栄斗』
遊賀の学生時代の友人で所謂『サイバー流』という奴である。尤も実力派そこ迄では無い、がとにかく楽しそうにデュエルをする。そういう所が遊賀と気があうのだろう。自分と一緒に居てくれる『サイバー・ドラゴン』のお願いを叶えてあげられてとても嬉しい、今度飯奢ろうと誓った。
『サイバー・ドラゴン』
己の主に迷惑かけて心底申し訳なく思ってはいたがどうしても彼と同じものを食べてみたかった。正直自分でも無理だと思っていたのでどうにかなってとても吃驚した。初めて食べたパフェはとても柔らかくて冷たくて甘かった、それが美味しいと言う物なんかは分からないが、主と一緒の物が食べられてとても嬉しかった……ただバナナとかいう食べ物はなんか苦手だなと思ったそうな。
『夢幻崩界イヴリース』
言っていた事に一切嘘偽りは無い。最果てに居る彼らの反応は無かったが珍しいタイプの『サイバー・ドラゴン』の事を調べられてとても満足している。実は普通に彼とは仲良くなりたかったりする、最果ての彼ら抜きにしても遊賀の事は気に入っているのだ、だから割と邪険にされるとショックだったりする。今日も今日とてシェイレーンを弄って楽し気に笑っている。
最近、最果ての彼に飲み込まれた上で吐き出されて戻って来たと言う貴重な経験をした精霊の捕獲に成功した。捕まった精霊がどうなったかと言えば……語る事では無いが一言だけ言うならば死んではいないとだけ。