MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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『ティアラメンツ・シェイレーン』と朝の散歩

 遊戯王マスターデュエル。通称『MD』

 

 

 

 

 

 

 

 言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。

 

 多くの精霊たちが人間界に訪れるようになった昨今。デュエルに置いてよく見かけるカードの精霊と出くわすこともそう珍しい事ではない。

 

 

 

 

 これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』と共に在る精霊『ティアラメンツ・シェイレーン』が散歩に出かけた際の出来事を描いた物語である。

 

 

 

 

 なお、本当にそれだけの物語なのでデュエル描写は墓地から除外させてもらうぜ‼

 

 

 

 

 カードの精霊『ティアラメンツ・シェイレーン』は朝食前の散歩を日課としている。それは軽いもので家の近くのそこそこ広い公園まで行きそこを一周して帰る、それだけのもの。それは健康の為とかそういうものでなく、ただ何となく続けているだけのもの。あるいは辞める理由がないから続けているとでもいえば良いだろうか。

 

 ただまぁ朝の公園の空気、或いは雰囲気をシェイレーンは気に入っていた。

 

 人気の少ない朝の公園を進む。すっかり顔見知りになった体操するおじいさんたちに軽い挨拶。朝っぱらから元気にデュエルに勤しむデュエリストたちを見つけ。そんな二人の横を無邪気に『共振虫』を追い掛け回す『灰流うらら』が通り過ぎる。

 

 と視線が自然と『灰流うらら』へと向かう。『共振虫』が捕まるのを見てサーチ通らなかったのねとぼんやりと思う。

 

「…とりあえず拝んでおこう」

 

 先攻後攻問わず、取り合えず一枚うららが手札に来ていますように。いやまぁ強いデュエリスト相手にはあまり効果無いけど、精神衛生あった方が嬉しい。ので虫かごに捕まえた『共振虫』を押し込んでいる『灰流うらら』に手を合わせてお辞儀。

 

 暫くしてから頭を上げてふっと一息。先ほどまでのシェイレーン同様うららを拝んでいる二人のデュエリスト横目に散歩を再開。二人の手札が春の如くうららかなものだったのかそれとも『大寒気』だったのか、まぁ気にするような事ではないだろう。

 

 さて公園一周も大体半分。最近水属性の精霊が増えたからとかいう理由で設置された大き目な噴水に近づく。シェイレーンは別に水属性ではないが種族は水族、マスターの家の風呂場も居心地は良いのだがやはり量のある水が恋しくなることもある。

 

 そういう日は散歩の序でここの噴水で軽く水浴びをする事もある。そして今日はそういう気分だった…のだが。

 

「……」

「―――――」

「ゲコッ」

 

 想定外の先客が2人、いや2体。

 

 一体は紫色の大きなクラゲ。何故かデュエリストたちに先輩と呼ばれているエクシーズモンスター『No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン』。彼、或いは彼女が噴水の中でぷかりぷかりと浮いていた。いや浮いているというか大きすぎて半分程度しか浸かる事が出来ていないのだが。

 

 そしてもう一体は白くて柔らかそうなもちの如きあん畜生、『餅カエル』が彼女の事をじっと見つめていた。

 

 思わず一歩下がるシェイレーン。なぜ禁止行きになったカードの精霊がここに、とは思わない。禁止云々は飽くまでMD内での話。現実における精霊たちの行動を阻害するようなものでは無い。だからこうして普通に居るのは可笑しな事では無いし、彼女がとやかく言う権利もない。

 

 が、何時ぞやの『フルール・ド・バロネス』の時もそうだが、理由も分からずただ見つめられると普通に怖い、そして困惑する。

 

「……えっと、なに?」

「ゲコッ」

 

 そして困ったことにバロネスの時と違って言葉が通じない。もう水浴びは諦めて帰ろうかと思った時、『餅カエル』が舌を伸ばし、ペチンと自身の背中を叩いた。

 

「…え?」

「ゲコッ」

 

 もう一度ペチンと背を叩く。どういうことなのか、背中を見てくれとかそういう奴なのかと見に行ってると。

 

「……枝?」

「ゲコリ」

 

 鳴き方が変わる。シェイレーンの視線の先には『餅カエル』の背中に刺さっている、と言うかめり込んでいる木の枝が。いやそもそもよく見てみれば丁度『餅カエル』の背中の枝がめり込んでいる場所付近をステルス・クラーゲンの触腕が行ったり来たりしている。これはあれだ、頑張って引っこ抜こうとはしてるけど上手く行かなくてわちゃわちゃしてる感じ。

 

 二体の視線が、彼女に集まる。ここまでくればもう言葉が通じずとも分かる。枝を抜いてくれと言っているのだと。シェイレーンは無言でめり込んでいる枝を掴む。瞬間手に伝わってくるのは出来立ての餅を箸で突いた時のあれ。本当に名前の通り餅みたいなのねと思いながら、ヌポッと枝を引き抜いた。

 

 枝の長さは大体シェイレーンの人差し指程度。思っていたより長い、成程確かにこれは抜いてほしい訳だと一人納得する。

 

「ゲココッ」

「ん?」

 

 鳴き声と同時にシェイレーンの手を舌がペチリと叩く。如何したのかと視線を枝から餅カエルに向けると噴水から大きな餅カエルの上に何時も乗っている蜜柑みたいなものを乗せた小さな方が顔を出し、定位置に戻る。そういえば居なかったなと思っていると小さな餅カエルがプルリと体を震わせ、蜜柑みたいなものをシェイレーンの方へと落とした。

 

「おっとぉ⁉……えっと、貰って良いの?」

「ゲコリ」

 

 と、一鳴きしてから『餅カエル』は噴水に飛び込んだ。如何やら譲ってくれるらしい。いやそれだけでなく良く見ればステルス・クラーゲンが脇にどいてくれている。どうぞとでも言いたいのか。

 

 彼女は手の中の妙にもちもちした蜜柑の様なものを見て、噴水を見て、ステルス・クラーゲンと餅カエルを見た。ゲコリ、と鳴き声が一つ。

 

 

 言葉は分からないが、お言葉に甘えることにした。

 

 

 噴水での水浴びを堪能してからの帰り道。

 

 やはり蜜柑とは思えないもちもち加減のそれを何となく揉みながら家へと向かう。

 

「あら、シェイレーンさん。おはようございますわ‼」

「んぇ? あ、ラビュリンス。おはよう」

 

 急な声掛けに視線をもちもち蜜柑から前へ、そこにはお隣さんの『白銀の城のラビュリンス』が立っていた。何故か釣り人の様な格好で。

 

「その恰好は…こんな朝早くから釣りにでも行くの?」

「逆ですわ‼ 今、帰宅する所ですのよ‼」

「へぇー、って事は夜釣り? とか言うのでもしてきたの?」

「ですわ‼ 昨日の朝『激流葬』で海まで流されたので序だから存分に釣りを楽しんできましたの‼」

「あ、そうなの」

 

 それで昨日は一日中気配がなかったのかと彼女は納得する。そして序だからと丸一日釣りを楽しむメンタルの強さに少しばかり憧れる。ポジティブとかそういうレベルじゃないと。

 

「あぁそうですわ。シェイレーンさん。お魚のお裾分けですわ‼」

「え、良いの?」

「ですわ‼ 釣果上々を超えて大漁‼ はっきり言ってわたくしたちだけでは処理しきれないので寧ろ助けると思っていただいてほしいですわ‼」

 

 そこは素直にリリースすればよかったのではと思いつつ、どうぞと見せてくるそれに視線を向ける。ぱっと見分かるのは鯵に鯖に秋刀魚に鰹……一体何処で釣りをしてきたのだと疑問に思う程だ、鰤までいるしと思いながら視線を走らせ…鰤を二度見。一瞬見逃しそうになったがこの鰤どう見てもただの鰤ではない、いやと言うか。

 

「この子『鰤っ子姫』じゃない⁉」

「え?……あ、本当ですわ⁉」

「ちょっとすごい痙攣してるけど大丈夫なの⁉」

「分かりませんわ⁉ もしかして活〆したのがまずかったのかもしれませんわ⁉」

「確実にそれよね⁉ 分かりやすい止め刺してるじゃない本当にどうするのよ⁉」

「こうなったらこれですわ‼」

 

 言って、ラビュリンスが取り出したのは一枚の魔法カード。

 

「『死者蘇生』ですわー‼」

「想像以上のゴリ惜し⁉ え、それ精霊に直接使ってる所見たことないけど大丈夫なの⁉」

 

 

 大丈夫だった。

 

 

 そして蘇生された『鰤っ子姫』は滅茶苦茶怒っていたがラビュリンスが秋刀魚をあげたら許してくれた…鰤っ子姫って肉食だったのねと思うシェイレーンは密かに思った。

 

 

 そうしてラビュリンスから何匹かの魚を譲り受けた上で、何時もより色んな事があった散歩も終わり。帰宅である。

 

「ただいまー…マスター」

「おぉーおかえりーってなんだその荷物?」

「色々とあったのよ」

「みたいだなっと、なんで魚?」

「ラビュリンスからお裾分けよ」

「そうか…いやなんで? え、釣りに言ってたのか彼女?」

「みたいよ、あとはいこれ蜜柑」

「これこそなんでなんだが……うわすごいもちもちしてるなんだこれ本当に蜜柑なのか?」

「知らない、『餅カエル』から譲ってもらったものだもの。少なくとも食べられないって事は無いんじゃないの?」

「そうかー…うわ、もちもちし過ぎてて指じゃ剥けない。これ包丁とかナイフで無いと駄目だな」

「ならお願いしていい?」

「あぁー朝ごはんの後だけどな…っとそうだシェイレーン、パンとごはんあるけどどっちが良い?」

 

「勿論、マスターと同じのよ」

 

 

 これが何時もとちょっと違った散歩の後の何時もの朝、変わらぬ日常、こうして『ティアラメンツ・シェイレーン』の一日は始まるのである。

 

 

 

「うわなんだこれ中の果実もめっちゃもちもちしてる、そして甘⁉」

「これもう蜜柑じゃないわね、蜜柑味の餅ね」




めちゃ雑人物紹介こーなー


『ティアラメンツ・シェイレーン』

 朝から濃い出来事に出くわした精霊。何故か無性に疲れた気もするが、気分はとても良いので良い一日になる事だろう。まぁ餅の様な蜜柑、或いは蜜柑の様な餅の皮の汁が目に直撃して悶絶する羽目になったからそうでもないかもしれないが。


『灰流うらら』

 お前の事は好きだが大嫌いだ、な手札誘発の筆頭。必要な時に居なくて相手の方には居るのは何故だと嘆いたデュエリストたちは数知れない。墓穴からの指名率はトップクラス。あと増殖するGは主食ではない。


『共振虫』

 うららに捕まった。サーチできないねぇ‼


『No.4 猛毒刺胞ステルス・クラーゲン』

 みんな大好き偉大なる先輩。こいつ出されただけで積んだデュエリストは割と居る。モンスターを破壊した上でダメージまで与えるのは流石の一言。


『餅カエル』

 お前は許されてはいけない枠。某炭酸のやべぇやつの所為一線を越えて無事監獄入りしたやつ。なお精霊は別に直接ゲームに参加したりしないので放し飼いである。噴水に飛び込んだから底に沈んでた枝が刺さってしまったちょっと可哀そうな奴、体がもちもち過ぎたのが悪い。


『白銀の城のラビュリンス』

 自分の仕掛けた激流葬に流されて海まで行っていたお姫様。序だから釣りするかと言うには格好があまりにもガチすぎた。実は今回の釣りでの一番の大物である白闘気白鯨を持ち帰りたかったがあまりに大物過ぎた為に仕方なく断念していた…お前は本当にどこで釣りをしてきたんだ?


『鰤っ子姫』

 完全なる被害者、いや被害魚。帰宅後、貰った秋刀魚を豪快に頭から齧り付き完食。その様子を見たデッドリーフは目の前の魚が鰤なのか鮫なのか分からなくなった。


『稲田遊賀』

 一般デュエリスト。散歩に出かけただけの筈のシェイレーンが帰って来たら大量の荷物を持っていて滅茶苦茶驚いた、が結果的に食費が浮いたのでとても嬉しい。
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