MD次元ではカードの精霊はありふれたもの   作:春山乃都

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お客の『焔聖騎士ーモージ』の悩み事

 今日も今日とてデュエル喫茶『ついばみ』は程々の賑わいを見せていた。

 

「―――ならモンスター効果を通す為に、ここで『無限泡影』」を使って」

「そのタイミングだと発動が無効にされますね」

「ってことは別カードで無効を使わせてってしないとか」

「いや『無限泡影』で無効を使わせるであってるかも知れんよ?」

「あ、あー。そうかここで使わせれば魔法カードでサーチが通る様になるから」

 

 なんて最初は何時も通り普通のデュエルをしていた筈なのにいつの間にか他の客も巻き込んであーでもないこーでもないと詰めデュエルに興じる自分のマスター『稲田遊賀』を見て、楽しそうなんて言葉を溢す。と、それに同意する精霊が一人。

 

「全くだ。主もそうだが、やはりデュエリストと言うものはデュエルを行っているときが一番輝いて見えるよ」

「まぁ、一理あるわね。っと、はいこれ、コーヒー」

「あぁ、ありがとう」

 

 と、礼を言いながらコーヒーを受けとる精霊『焔聖騎士-モージ』。コーヒーを飲みながらも視線は詰めデュエルで盛り上がるデュエリスト達を見ている。恐らくあの中の誰かが彼のマスターなのだろうなとなんとなく思いながら、彼女もまた眺める。

 

「それにしても、随分と苦戦してるわね」

「だな、それだけ難問ということだろう。まぁ主曰く、そういうものをあーでもないこーでもないと頭を悩ませるのが楽しいのだそうだ」

「あー、少し分かるかも」

 

 思い出すのはマスターがしていたからと言う理由で挑戦してみた時の事。普段しているデュエルとはなにもかも違うそれにシェイレーンは苦戦しまくったが、なんとか解けた時の達成感は他とはまた違ったものがあった。まぁ、最近やってないけど。難しすぎて頭痛くなるのだ、あれ。

 

「ま、問題に頭を悩ませるならまだ健全だ。単なる悩みごとに頭を痛くするよりかは何倍もな…いやほんとに」

「その言い方からしてなにかあったの?」

 

 問いかければ、あぁと短く返しコーヒーを一口。

 

「最近な、俺とローラン以外の『焔聖騎士』達が主の元に来たんだがな。その、なんだ…まだ人間界の常識というかマナーというかにだな、馴染んでないとでも言えば良いのかね」

 

 はぁ、とため息を吐くモージ。

 

「主が出掛けようとする度に完全武装して護衛しようとするもんだから色々と迷惑を…な」

「あー、成程」

 

 そういうことかとシェイレーンは深く頷いた。

 

「心配だものね」

「そう! いや分かるんだけどな!? 主の事めっちゃ心配なのすげー分かるんだけどな!?」

「分かるわ」

「同意しかない」

「過剰だって言うのは分かってるんだけどどうしてもねー」

 

 と、モージの言葉にこれでもかと賛同する店内の精霊たち。キッチンから顔を出した『崇高なる宣告者』とて頷いている。唯一どういう事なのか分かっていないマスターの居ない『宣告者の神巫』が首を傾げているが、無視である。

 

「まぁそんな訳でな。せめて好きなときに取り出せるんだから武器くらい普段は仕舞っててくれと言ってるんだがな。どうにも心配の方が勝ってしまうようで中々聞き入れてくれなくてな」

「それは…どうしようもないわね」

「そうなんだよ。結局あいつらが自分で大丈夫だって納得してくれないと解決出来ない問題だからな。だからそうなるまで唯頭が痛いだけって言うな」

 

 何度目かも分からないため息を吐くモージ。に、信仰心で濁りきった瞳を輝かせながらあれが急接近。

 

「ならば『宣告者』様を信仰すべきです!」

「ここぞと言うときに来たわね」

「正直この話したら来るだろうなとは思ってた」

「もしかしたら、或いはなにか起きたならと心配になる。えぇえぇ分かりますとも! この世には憂慮すべき事が多すぎます! そしてもしもの時に縋るべき存在のなんと少ない事か!」

「絶好調だなこの子」

「そうね」

「ですがもう大丈夫なのです! そう! 『宣告者』さまが導き守護してくださります! 具体的に言えば心配ごとがあるならそれを効果無効破壊してくださると『崇高なる宣告者』さまが仰っています!」

 

 その言葉に、すっと視線が『崇高なる宣告者』へと向かう。そこには見事なバッテンマークを腕で描く彼の姿があった。やっぱり今日もそんなことは言っていないらしい。

 

 何時も通りであることを確認したモージはさてどうしたものかと考えて。

 

「…いや、これは個人的な問題だからな。『宣告者』に頼って解決するつもりは無いんだよ」

「なんと」

 

 そう彼が言うと『宣告者の神巫』はこれでもかと瞳を見開き。

 

「つまり、試練と言うことですね!?」

「あダメだった」

「えぇ、えぇ! ならば共に試練に挑みましょう! 同じ『宣告者』様を信仰するものとして!」

「なんか信者認定されてんだけど!?」

 

 助けてくれと視線を彷徨わせるモージ。精霊たちは一斉に視線を逸らした。今の状態の彼女を止めることはできないのだ。ある精霊以外は。

 

「さぁ! 行きましょう更なる信仰のたかみぃ!?」

 

 ガッとモージの腕を掴んだ『宣告者の神巫』の頭に『崇高なる宣告者』の拳骨が落ちる。言葉はないが、何が言いたいのかはすぐ分かった。客に迷惑かけるな、である。

 

 あぁ宣告者さまの叱咤が身に染みる、なんて若干嬉しそうな声を溢す彼女にため息を吐くように肩を落とす彼は、徐に持っていたチラシをモージに手渡す。

 

「え、あ、どうも…『人間界の常識講習会』?」

 

 そんな呟きに好奇心からシェイレーンもチラシを覗き込む。どうやら定期的に『ゴヨウ』と『S-Force』が共同で人間界に来たばかりの精霊たち向けに行っている事のようで。『崇高なる宣告者』はこれに連れていったらどうだと渡したようだ。

 

「…確かに、俺やローランが言って聞かせるよりかはどうにかなる、か? まぁ、なにもしないよりはマシか。よし、今度連れてって見るか。ありがとうございます」

 

 そうモージが礼を言うと、彼は『宣告者の神巫』を連れていきながらグッとサムズアップし、気にするなと言わんばかりに手を振った。

 

「なんと言うか、少し気分的に楽になった気がするわ」

「それってなんとかなりそうだから?」

 

 と、シェイレーンが問いかける。彼はそれもあるがと言葉にし。

 

 

「自分よりもっと酷い悩み抱えてそうな精霊見て自分はまだましだなって思っただけだな」

「あー…」

 

 

 そう言うことね、とシェイレーンは視線を『宣告者の神巫』に説教をする『崇高なる宣告者』を見る。恍惚とした表情を浮かべる彼女を見てやはり肩を落とす彼。

 

 確かに、彼の抱えてる悩みに比べれば…大抵の悩みはどうにか出来る範疇にありそうね、なんて思うシェイレーンだった。




めちゃ雑人物紹介こーなー

『ティアラメンツ・シェイレーン』

 何だかんだ人間界になれてきたがそれはそれとして何時もマスターが心配でならない子。道を歩くときはしれっと車道側を歩こうとする。最近武器を取り出すのに0,1秒掛からなくなった。訓練の賜物である。


『焔聖騎士ーモージ』

 割と苦労人。最近来た他の焔聖騎士たちを連れて講習会に参加。その結果ちょっとましになったが今だ警戒心の塊状態でまだまだ頭を悩ませる事となるだろう。


『宣告者の神巫』

 今日も信仰心が強すぎて淀んでる。宣告者さまからのありがたいお言葉にとても喜んでいる。


『崇高なる宣告者』

 一番の苦労人。分かっていたことだけど自分がなに言っても駄目だなと遠い目をした。
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