限定商品。
それは人と精霊とを狂わせる魔性。特に欲しくはなかったけど今だけだしとりあえず買っておくかとか。数に限りがあるみたいだし買えるなら買っておこ、みたいなノリでついつい買ってしまうトラップカードの様な存在である。
そして『ティアラメンツ・シェイレーン』もまた、その誘惑に抗えないタイプの精霊だったりする。
「は、お化け屋敷?」
言いながらシェイレーンは、朝の散歩中によく出会う『マドルチェ・マジョレーヌ』の言葉にベンチの上で休んでいる『マドルチェ・プディンセス』を横目に首を傾げ問いかける。
「が、どうしたのよ?」
「なんかね、『ゴーストリック』の精霊達がそれをするらしいわよ? 私は又聞きしただけだし、それ聞いた時点ではまだそれっぽいイベント的なことがしたいって程度の話だったらしいから全くの別物になってるかもしれないけど」
「へぇー、でもなんで…あ、もしかしてハロウィンの時期だからとかそういう?」
「みたいね。人や精霊が存分にハロウィンを楽しめるようにって…まぁ実際はハロウィンだらからって好き勝手に動かれるとなにやらかすか分からないから『ゴーストリック』の精霊を一ヵ所に集めるためのものらしいけど」
「あー、なるほど」
そういう事ねと、頷きながら思い出すのは何時だったか出会った『ゴーストリックの魔女』の話。やらかすかどうかで言えば、多分やるだろうなと。人間に対しての加減というのがいまいちまだ掴めていないのだとしたら危険だろうし。そこまで考えたところで、気になったことを問いかける。
「で、なんでそんな話を貴女が? 友達に『ゴーストリック』の誰かが居るとか?」
「あー、別に友達に居るとかそういう訳じゃないのよ。むしろ私個人は『ゴーストリック』の精霊とは無関係よ、すれ違ったことがある程度ね」
「じゃあなんでよ?」
「関係があるのは私とは別の私…というか『マドルチェ』ね。なんでもさっき言ったイベント用の限定スイーツでも作れないかって話が来たらしいのよ。所謂コラボって奴かしらね」
「へぇ限定スイーツねぇ…詳しく」
「そんな詳しく話すような事はないわよ? ハロウィンにはお菓子が付き物だからってだけらしいし」
「それは確かにそうね、どんな感じのなの?」
「確か、パンプキンプリンを作る予定とか言ってたわよ」
「良いわね、それ凄く良い」
とても行きたい、そして食べたいとシェイレーンは思う。が、しかし予定というものがあるのでそう都合よくはできないのよねと思って。
「あぁ後、他にもスイーツ食べ放題とか無料スイーツ交換券とかも出す予定らしいわよ?」
「分かった、絶対行くわ」
断言するシェイレーン。誘惑があまりにも強力で、抗うという選択肢がそもそも無かった。
と、言うわけで。マスターの『稲田遊賀』と一緒にやってきました『ゴーストリック』主催のハロウィンイベント。その名も『ゴーストリックのびっくりスタンプラリー』である。
「…お化け屋敷、じゃないわね」
「いやまぁ内容的にお化け屋敷ではある、のか?」
と、お互いに首を傾げながらルールの書かれた冊子を覗き込む。内容はとても単純で、参加者に配られたカードにイベント会場内に設置されたスタンプを集める、それだけ。まぁ、道中『ゴーストリック』の精霊がこれでもかと悪戯したり驚かせたりする様だから簡単とは言えないかもしれない。
因みにスタンプを全部集めたカードはそのままスイーツ交換券になるらしい。というか会場に『マドルチェ』達の店まで用意してるの凄いなと遊賀は素直に思った。気合いが想像以上に入っているなと。なお、シェイレーンの目当ての限定パンプキンプリンはスタンプを全部集めた人達専用のものらしい。
さらに『マドルチェ』達の用意した特性スイーツ食べ放題に関しては謎解きまでしなければならない様で、それを知ったシェイレーンも同じくとても気合いを入れている。
まぁ別に食べ放題は出きれば程度のものなので良いとしてとふっと息を吐いてシェイレーンはわいわいと楽しげにイベントが始まるのを待っている人たちに紛れてこそこそとしている一人の精霊に視線を向けて。
「で、貴女はなんで居るのよプディンセス?」
「へぁ!? え、いやいえ、ひ、人違いもとい精霊違いでございますわよ? おほほ」
「いやあたしが知ってるなかでジャージ着込んでる『マドルチェ・プディンセス』は貴女以外知らないわよ」
「く、動きやすさ重視でこの格好で来たのが間違いだった…」
悔しがるプディンセス。もっとも、シェイレーンが一目で判断でそう判断した理由は服装ではなく、体型があれだったからなのだが…流石に、言わないでおいてあげた。
「それで、ほんとになんで貴女ここに居るのよ?」
「いや、それはそのぉー」
「どうしたシェイレーン?」
「あ、マスター。ちょっと知り合い見つけただけよ」
「どうも『マドルチェ・プディンセス』です」
「これはどうも、『稲田遊賀』です。で、少し聞こえてたけど『マドルチェ』がここに居るのはそこまで可笑しな事ではないんじゃないか?」
「……は、確かに!?」
「いやその反応してる時点で駄目でしょ」
そう言われ、あっと声を溢すプディンセス。それから諦めたように肩を落とした。
「その、ね。スイーツ食べ放題がね、あるって聞いたから来ちゃったのよ」
「…マジョレーヌには言ってきたの?」
「ない! こっそり来た!」
「凄い堂々と言ってる」
「割と駄目な方向に向かってるわね」
というかこういう事普段からしてるから全然体重が減っていないのではないだろうか。またさらにマジョレーヌの蹴りのキレが増す事になるのだろうな、若干シェイレーンは呆れながら思っていると何となく辺りを見渡していた遊賀がなにかを見つけて声を溢す。
「あ、あれは…あー」
「どうしたのマスター? 誰か居た?」
「居たというか、まぁ…うん」
どうにも反応が悪い。一体誰が居たのかとシェイレーンも辺りを見渡して、すぐに見つけた。あの花の様な衣装を纏っているのは間違いなく『時花の賢者ーフルール・ド・サージュ』がそこに居た。
「シュー…フシュルルルゥー…ッ!」
かと思ったが多分違うなとシェイレーンは判断した。確かに彼女の知っているサージュは色んな意味で凄い精霊だがあそこまで化け物じみた存在ではなかった、いや食べる量自体は化け物のそれだが。なので、あれはきっと似てるだけの別精霊だ、きっと、多分。そうであって欲しい。
「あの人って、そうだよな?」
「多分違うと言いたい…」
「え、なになにどうしたの? あの、なんかこう…やばいの見て凄い表情浮かべてるけど。知り合い?」
「…まぁ、うん。知り合いと言えばそうね」
「正確には俺たちが働いてる店の常連客ですね」
「…あれが?」
「いや普段はあそこまでではない」
「そうね」
とは言っても、食べる量自体は毎回化け物じみているが…と、そこまで思ったところでふと思い出す。このイベントの目玉と呼べるもの、限定スイーツの他にもう一つ、食べ放題があったなと。
瞬間、遊賀とシェイレーンが思ったことは一つ。
『あ、これやばいわ』…で、あった。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『ティアラメンツ・シェイレーン』
詳しく調べて人間でも問題ないことを確認してから来た。マスターと一緒にイベントを楽しめる上に限定スイーツまで食べられるなんて最高ね! とか思ってたらとんでもねぇ化け物を見つけてしまった可愛そうな子。限定スイーツが食べられないかもしれないと若干落ち込んでる。
『稲田遊賀』
純粋にイベントを楽しもうと思ってたらやばい状態の精霊を見つけてしまった人。これはスイーツは諦めるしかないかもなと少し思っている。
帰ったらなにか作ってあげるかと考え中。
『マドルチェ・プディンセス』
全く痩せてない子。運動を続けていたが何故なのかと深夜にレアチーズケーキを食べながら首を傾げ、そして蹴られた。マジョレーヌの蹴りが鋭くなるのと同じように、気が付かれずにお菓子を食べるスキルが磨かれた。最近では気が付かれる事無く自販機でミルクティーを買えるようになったらしい。
『マドルチェ・マジョレーヌ』
気が付いてぶちギレてる。
『ゴーストリック』
頑張ってイベントの準備したり人間でも怪我させずにするにはどうすれば良いかと頭を悩ませていたりしてた。楽しんでくれるだろうかとワクワクソワソワしてる。頼んで作ってもらったお菓子が美味しそうだとはしゃいでる。
なお、それが全て一人の精霊によって消え失せるかも知れないことをまだ知らない。
『時花の賢者―フルール・ド・サージュ』
現在、とある理由からストレスが限界突破し暴走中。