ある日の朝、散歩から帰ってきた『ティアラメンツ・シェイレーン』の眼前に星の瞬くウミが広がっていた。
「…は??」
いやなにこれと思いながら玄関を開けたまま軽く目を擦り改めてみる。
けど、やっぱりそこには美しいと言えるウミがあった。
「えぇ、これ…あぁー?」
彼女は混乱していたが、少なくともこれは間違いなく異常事態であることは分かった。ゆっくりとだが外に溢れてきているウミを玄関を閉めることによって止め、深呼吸しながらスッと直剣を取り出す。正直、マスターの事が心配でならないがだからこそ慎重に行動しなければ行けない。
いくら彼女が精霊とはいえ、こんな目の前が宇宙じみた星の輝くウミになってました、なんて事経験にない…事もないなとシェイレーンは気づいてしまった。
一度だけではあるが、同じようなことは前にもあったなと思いだした。同時に、それを引き起こした存在の事も。
「…あれこれ、もしかして来てる?」
と、独り言を溢しながら直剣片手に改めて玄関を開け、家の中へ。直後に水中に居るような、そんな慣れ親しんだ感覚が伝わってくる。別に水で満たされている訳でもないのに感じるそれに、すさまじい違和感を覚えながら状況の確認のためにマスターである遊賀の元へ向かう。
「マス…お、おぉう」
「あ、お帰り。今ココア淹れてるけど飲むか?…なんで剣出してるんだお前?」
「…そう、ね。寒くなってきたし貰うわ。後剣に関しては気にしないで」
「お、おう。そうか、分かった」
そんな会話をしながらシェイレーンの視界は部屋を満たしている星がやたらと煌めいているウミを。
そして遊賀の頭に引っ付いているクリオネを思わせる姿をした存在、『ゴーティスの妖精シフ』…と、同じ見た目をしているなにかをしっかりと捉えていた。
「えっと、マスター…頭の、そのそれは?」
「ん? あぁこいつか? お湯沸かしてたら窓にビタァって感じに張り付いてたんだよ。いやビックリしたよ。ほい、ココア」
「あ、うんありがとう」
差し出されたココアを受け取りつつ、いやびっくりしたで済ませて良い事じゃないでしょこの状況含めてと言おうとして、文字通り彼の目の前で小さな星がこれでもかと煌めいているのになんの反応も無い事に気が付く。
「ねぇマスター、それ眩しくないの?」
「まぶ…え? 何が? もしかして今シフが発光でもしてんの? ちょっと気になるんだけど」
反応を見てやっぱりと彼女は思う。どうやら彼には部屋を埋め尽くしているウミが見えていないようだ。彼の頭に引っ付いているシフが見えないようにしているのか、それとも単純に人間には知覚できないのか。どちらなのか、はたまたどちらでも無く別の物なのか、シェイレーンには分からないが。
なんて事を考えながら彼の言葉に反応したのか唐突に七色に発光し始めたシフから目を逸らしつつココアを飲む。
程よい甘さと温かさが身に染みる。やはりマスターの作るものは全て最高ね。なんて事思いながらチラリと横目でまた彼の頭に居るシフを見る。
何やら遊賀の頭をぺちぺちと軽く叩いていた。今光ってるから見ろとでも言いたいのだろうかとシェイレーンは軽く首を傾げ。遊賀もまた首を傾げながら。
「あ、お前もこれ飲む?」
と、言いながらすっと自分の分のココアを差し出した。
多分、差し出されたコップを見ているのだろうシフは少しの間動きを止めてからスッと彼の頭から離れながらヒレのような物で器用にコップを受け取り、パカッと開いた頭部に押し込んだ。
ゴキュゴキュと豪快な音を立てながらココアを飲むシフ。どういう原理なのか体がココア色に染まっていき、くるくると空中で回転しながら発光し始めた。
「…なんかすごい光ってるけど、これ気に入ったってことで良いのかな?」
「…良いんじゃないの? なんかご機嫌みたいだし」
言いながらまた勢い良く遊賀の頭に張り付くココア色に発光しているシフを見ながらシェイレーンもココアを飲み干してふっと一息。
取り合えず、今の問題無しで良いのだろうかとシェイレーンは思う。態度から見て友好的…どころじゃない気もするが、少なくともあのシフが遊賀を害する積もりはないようで。と言っても気を抜けるかといえばそんなことは無い。
ちゃんと間近で見たからこそ分かる謎存在っぷり。根本的な常識が違いすぎてその気が無くてもやらかすかもと思うと一瞬たりとも気が抜けない…と言うか本当に何なんだろうこの、これとシェイレーンは思う。
あまりに謎過ぎて個人的に大嫌いだが間違いなくこれらに詳しいだろう某精霊の知恵を少しだけ、本当に少しだけだが借りたくなったシェイレーンは窓へと視線を向けて…目を逸らし思わず声が零れた。
「おぉ、もう」
見てる、めっちゃ見てる。普段空の上からそれとなくたまに視線を向けてくる程度だったそれらが窓から見える位置でガッツリ覗き込んできてる。
え、何、どう言うことなのか。送り込んだシフの様子でも確認しているのかとシェイレーンはそっと視線を向ける。と、丁度シフも窓から外を、正確にはそこから見える覗き込んでいる奴らの事へと頭を向けていて。
直後、見せつけるように自分の頭を遊賀の頭に押し付けた。
そしてシェイレーンは気づく。あ、これ送り込まれたとかじゃなくて勝手に来た奴だと。だって覗き込んできてる奴らからのシフに向けての圧が、巻き込まれている自分の胃から嫌な音がする位凄い事になってる。
これどうすれば良いのか。シェイレーンは考えた。その結果導き出した答えはズバリ。
「…なんか調子悪そうだけど朝御飯ど」
「食べるわ」
「即答したな。じゃあまぁ、食べるか」
どうしようもないのでこれ以上考えても仕方がないと言うものだった。なので、高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応すると言う…まぁ行き当たりばったりでどうにかする事にしたシェイレーンは、何も起こりませんようにとパッと頭に浮かんだ『崇高なる宣告者』に願うのであった。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『ティアラメンツ・シェイレーン』
結局その日の夜にシフが帰っていくまで剣を手放せなかった子。そういう意思がないのは何となく分かっては居たが相手が完全に自分の常識の外に居る存在だったせいで欠片も気を緩めることが出来なかった。
シフが遊賀に甘える毎に増していく圧に巻き込まれ、結果胃が楽器みたいになっていた一日だった。こんな何時もと違う一日過ごしたくなかったと、遊賀に頭を撫でて貰いながら語った。
『稲田遊賀』
シェイレーンの様子を見て何となくヤバイことになってるんだろうなと察しては居た人。今日が休日で良かったと思いながら遊びに来たシフと遊び、シェイレーンを労ったり、自分の魂のデッキである『ゴーティス』を使ってデュエルしたりして一日を過ごした。
その日の夕食は何時もよりシェイレーンの好物が多かったとか。
『ゴーティスの妖精シフ』
勝手に来た奴。
ちょくちょく窓から見える同類に煽るように遊賀に甘えて見せた性悪である。人間にとって精霊が外国人だとすればこの子達は宇宙人みたいなものなのでまじで常識が根本から違う可能性が高い。
彼、或いは彼女が来たことによって家がプチ最果てと化していたが、別にそうするつもりがあったわけではなく、来たからそうなっただけ。仮に後一日長く居た場合、部屋から溢れだしたウミによって町が最果て化してたので控えめに言ってやばかった。
『他の最果ての奴ら』
ギリィ…ッ!!!
『崇高なる宣告者』
なんか願われたことを察知し、なんか空に見える存在を確認し、あこれどうしようもないわと匙投げた。
『某精霊』
精霊界で実験中だった。事態を察知し全力で人間界に駆けつけたが到着する頃には時既に遅く、血涙を流しながら悔しがることになる。