遊戯王マスターデュエル。通称『MD』
言わずと知れたデュエルモンスターズをより手軽に、より気軽に、そしてより幅広い世代の人々が楽しめるようにと生み出された今となっては世界の中心とも呼ばれるようになったコンテンツ。
その広がりにより人間たちとの生活に馴染みすぎと言える程馴染んだ精霊たちの中には主や同族たちと一緒に仕事に励む者たちが居ると言う。
これは一人のデュエリスト『稲田遊賀』がアルバイト先の精霊と一緒に仕事に勤しむ様子を描いた物語である。
デュエル喫茶。デュエルを行いながらコーヒーや紅茶に軽食を楽しむ事が出来る喫茶店。その歴史は長く、多くのデュエリストたちに親しまれてきたその場所は、MDの発展と共に徐々に廃れていった…何てことは無く変わらず愛され続けている。寧ろ、MD関係機器を取り入れ今まで以上に多くの人に利用されるようになっていた。
そして彼『稲田遊賀』もまたデュエル喫茶『ついばみ』で一人のデュエリストとして、ではなくアルバイトとしてデュエルに勤しんでいた。
「―――の効果を無効にする! そしてバトルフェイズ‼ 俺は『空牙団の英雄 ラファール』でダイレクトアタック‼」
「おいおい良いのか? 伏せカードあるのにそんな素直に攻撃しちゃってさぁ⁉」
「いや割らせたいってのが凄い分かりやすいし」
「あ、やっぱり?」
「で、伏せカードを発動は?」
「『やぶ蛇』だから無理なんだよねぇ‼ 受けま~す! そして負けまーす!」
負けましたーと大げさに仰け反って見せる対戦相手にふっと一息。かなり強かったな、正直露骨に伏せ札を割らせ様として居なければ普通に負けていたかもしれない。ある意味こうして対面してのデュエルだったからこそ勝てた感じだ。
「お待たせしましたー。コーヒーと卵サンドイッチです」
「おぉありがと! いややっぱデュエルは腹が減るわ」
もっと精進せねばと思っていると『宣告者の神巫』が料理をテーブルに並べる。これまたやったーと大げさに喜ぶデュエリストに対して彼は軽く頭を下げる。
「それじゃあ俺はこれで。ごゆっくりどうぞ」
「んぉー…ん、食べ終わった後またデュエル頼むよー」
「開いてればで良ければ」
「そりゃそうだ」
それじゃあと下がり、カウンターへと向かうと店の店主である『筑波』さんに迎えられる。
「お疲れ様、今回も良いデュエルだったね」
「普通に何回か負けそうになりましたけどね」
「勝てたから君にとって良いデュエルって事で良いじゃないの‼」
「個人的には楽しかったから良いデュエルって言いたいですかね」
「お、良いね。それ今度から私も使わせてもらおう」
「わりと恥ずかしいのでやめてくれません?」
「んー…やだ」
満面の笑みでそう言われた。彼の性格を知っているからそういわれるだろうなとは思っていた遊賀は思わずため息一つ。
「おや、ため息吐きすぎると幸せ逃げてっちゃうよ?」
貴方が吐かせてるんですよ、と言う言葉はため息と違って喉元で止まってくれた。
「よいしょっと、三番席の片づけ終わりましたー。あ、遊賀さん、デュエルお疲れ様です‼」
と、空になった皿やカップをカウンターまで持ってきた『宣告者の神巫』はそのまま遊賀に近づいてくる。
「ですけど何度か厳しい場面もありましたね」
「あぁ、相手も相当上手かったからな」
「成程成程、であるならば『宣告者』を信仰なさってはいかがですか⁉ そうすればより素晴らしいデュエリストになれると『崇高なる宣告者』さまもおっしゃっていますよ‼」
その言葉に、遊賀は無言でキッチンへと視線を向ける。するとニュッと顔を覗かせた『崇高なる宣告者』が腕で綺麗なバッテンを作った、言っていないらしい。
「いやぁディバイナーちゃんは相変わらず元気だねぇ」
「元気の方向性もう少し何とかしてほしいですけどね」
「これで良いと『宣告者』さまもおっしゃっておられますよ?」
キッチンから出来立てのナポリタン片手に出て来た『崇高なる宣告者』が小さい方の腕を動かしバッテンを作っている。言っていないらしい。
「―――――」
「あ、はい。六番席の方の注文ですね」
よいしょとナポリタンをお盆に載せて運んでいく『宣告者の神巫』の後姿を見ながら『宣告者』はやれやれと言った様子で手を腰…腰? と思われる部位に置き、ため息を這うような動作をしてからキッチンへと戻っていった。
「いややっぱり彼女が居ると賑やかで良いね」
「『宣告者の神巫』は騒がしいって感じな気もしますけど」
「よいしょと、わたしがどうかしましたか? あ、もしかして信仰したくなりましたか?」
「違うから。この押しの強さどうにかならないかなー…」
「無理じゃないかなー? 店に来た時も『宣告者』様の気配がします!って言いながら突撃してきた位だし。面白そうだし雇おうとしたら『崇高なる宣告者』に雇うの凄い反対されたなー」
「いえそのような事はありません! 来るのをずっと待っていたとおっしゃっていましたよ‼」
すごい勢いでキッチンから出て来た『崇高なる宣告者』がビシッとバッテンを作る。言っていないらしい。
「『宣告者』様は恥ずかしがり屋ですね‼」
彼女は無敵なのかもしれない。
「あ、そういえば遊賀さん。気になっていたんですがシェイレーンさんはどうしたんですか? 何時もは一緒に居るのに今日は居ませんけど」
「あぁー、ちょっと出勤途中に面倒くさい奴に絡まれたからそれの対処してくれてるんだよ」
「それはもしや迷惑客では⁉ 効果無効破壊をしませんと‼」
「いや流石に駄目だろそれ」
「ですが『崇高なる宣告者』様は迷惑客は効果無効破壊しても良いとおっしゃっていましたよ?」
二人の視線が『崇高なる宣告者』へと向かう、彼は少し考えるようなしぐさをしてから視線から逃れる様にキッチンへと向かった。どうやらこれは言った事があるらしい。
「しかし君が面倒とまで言う人物か。幾らシェイレーンちゃんが精霊とはいえ一人で大丈夫なのかい?」
「まぁ相手も精霊ですし俺が対応するよりはましだったんで」
「面倒な精霊ですか? 一体どのような方なのですか?」
「ん? あぁあいつは――――」
「マスター、無事⁉」
力強く扉が開かれると同時に聞こえる声。何事かと店内に居たデュエル中で無い客のほぼ全員がそちらへと視線を向ける。そこには肩で息をする『ティアラメンツ・シェイレーン』の姿。彼女は己のマスターを見つけると勢いよく近づいた。
「良かった無事ね?!」
「いや確かに無事だけど。どうしたんだよ?」
「どうしたもこうしたもあの女がマスターの所に行くってあたしを置いてどっか行ったから!」
「いやそもそもあいつは俺がここに居るの知らないだろう」
「そうそう、だから貴女にこうして案内してもらわなきゃいけなかったのよ?」
妙に甘ったるい声が店内に響き、鳥肌が立つ。開きっぱなしだった扉からするりとその声を発した人物、いや精霊が入ってくる。小説みたいな尾行が出来て楽しかったわありがとう何て言いながら。
「へぇー、良い雰囲気のお店ね。『稲田遊賀』と『ティアラメンツ・シェイレーン』とは関係なしに今度お邪魔しようかしら?」
まぁとりあえずと、彼女は店長である筑波さんを見て。
「コーヒーを一杯頂けないかしら? とーっても濃くて黒いコーヒーを」
彼女は、『夢幻崩界イヴリース』は微笑みながらそう言った。
めちゃ雑人物紹介こーなー
『宣告者の神巫』
割と色んなデッキで姿を目にする子。信仰心暴走中、多分これからずっと暴走を続けていく。でも仕事はしっかりこなすタイプなのでしっかり配膳と片付けを熟す。コーヒーにはたっぷりの砂糖とミルクが入っていないと飲めない。
『筑波さん』
デュエル喫茶ついばみの店長。本名『筑波仙斗』。天使族デッキの使い手。結構強いが妖怪みたいなご老人にボコボコにされて以来デュエルは程々に楽しむタイプになった。彼の入れるコーヒーはとても美味しいと評判。コーヒーはブラックが好きかな。
実は『宣告者の神巫』の主ではない、彼女は飽くまで『崇高なる宣告者』を主としているのである。
『崇高なる宣告者』
言わずと知れたミスターMD。最近あまり見なくなったがMDプレイヤーは誰も貴方の事を忘れない、忘れられない、忘れるか畜生雑に無効してきやがって。デュエル喫茶ついばみの店長筑波と共に在る精霊であり、最近使ってもらう機会が減ったがまぁそれはそれでいいかと思っている。喫茶店のコックさん、彼の作るナポリタンが旨い。実はコーヒーより紅茶派、でもマスターの入れるコーヒーはとても美味しい、好き。
突如現れた『宣告者の神巫』に全力で帰れと言った、全く伝わらなかった。お前本当に声聞く気ある?
『稲田遊賀』
今日も元気にアルバイト中。仕事内容自体は同僚の『宣告者の神巫』と同じだがそれに客とのデュエルが入っている。最近では珍しい対面デュエルだが、結構気に入っている。相手を直接見て見られてと言う状況で行われるデュエルは読み合いがとても楽しいのである。今回出勤途中で面倒な奴に絡まれ、そして店に突撃されて頭に痛みを感じている。コーヒーは角砂糖一個入れると丁度いいと思っている。
『遊賀と戦っていたデュエリスト』
実は普通に遊賀より強かった人。なのだが何が何でも『やぶ蛇』を発動させようとし、またそれがとても分かり易い所為で対面デュエルでの勝率はとても低い。MDでのランクは『ダイアモンド』である。
コーヒーはブラックで飲むと気合入るよな、あとで腹痛くなるけど。
『ティアラメンツ・シェイレーン』
今回、面倒な奴に利用された可哀そうな子。現在殺意を漲らせている。
コーヒーは飲めないけどマスターと一緒に楽しみたいから頑張ってチャレンジ中。
『夢幻崩界イヴリース』
うわ出た。
コーヒーはブラックが良いわ、泥みたいに濃くて黒い目の覚める様な。