「本当なのか!?」
連邦のジドレ少佐は捕虜となって取り調べ室で何もかもを話していた。但し、周りに計算された上でにせよ本来の日和見軍人な彼とは遠くかけ離れていた。
「嘘じゃない、ここの司令官がやっていた!間も無くジャブローは地下の核で自爆する!」
「よくもそんなでっち上げを!」
巨漢のパイロットがジドレを締め上げた。信念の為に戦う者にとっては目にしてるような者は最も忌むべき対象だからだが、アポリーからしたら何処かおかしく見えていた・・・・日和見軍人の命惜しさにしては勝算があると確信した態度だ。
「やめろ!何やら自信がある態度だが、知ってる事を我々に聞かせられるのか?」
「聞かせられるさ!今回の件は私からしても情報を元にして推測する限り噂のガンダムMK―IIがルナ2付近で小規模だが核攻撃に匹敵する被害を連邦側に与えた件を利用した策略なのさ!【デラーズ紛争の真相】を知っているだろ、実際に目の当たりにした者からしたら、次に想像するのはコロニー落としかそれに匹敵する手段の番だ!君達はその流れにまんまと乗せられたのだよ!」
「そんな安直な・・・・」
「安直か、確かになっ!だが、1年戦争の方だけで出た被害を考えてみろ!一例としてオーストラリアの海抜上昇10メートルだぞ!それだけで過敏になりもする!それとも、ジオン残党の一派と噂されるような奴等は考えに入ってないか、10メートルだぞ!コロニーや月都市内でそれに匹敵する水責めが起きでもしなければ想像出来ないのか!?」
ジドレは待っていた一言に反応して一気に捲し立てた。曲がりなりにも少佐になっているワケではない、アポリーは踏みとどまったが、この場にあのエンツォ大佐やその支持派のような者達がいないで幸いだったと思った。確実に海抜上昇を軽いものだとする発言をする。そう、これがジドレを初めとした何名かに吹き込まれた【策】だったのだ。寄り合い所帯になっているが、ジオン関係無しに宇宙や月に住む者達は地球側への理解度が不足しているのは事実、それが原因でエゥーゴ内で内紛に発展しかねない危惧はあったからだ。
「成る程、地球に住む者側の意見は確かにだ。だが、今は核云々が先だ。降りる前にティターンズの防御が薄かったのは、コロニー落としを警戒して落とせるだろうコロニーを調査していたと言う事にする算段かね?」
クワトロが取り調べ室に入って来た。どうやら外は気にするまでもないとしたらしいが、集まっていたパイロット達は苦虫を噛み潰したような表情で事態を察していた。エゥーゴ内の事情も問題だが、今はデラーズ紛争絡みから核の方だ。隠蔽しているにせよ、コンペイトウ襲撃やコロニー落下の場面に居合わせた者も多い、確かに安易と言えばそれまでだが、地球側のトラウマになっているのは必然であり、ジドレの言い分とジャブローの核は真実とした。あのデラーズ紛争序盤では、ガンダム2号機が奪取された後にコンペイトウではなくジャブローに核攻撃される危惧迄あったらしく、心理上での問題を戦略に組み込まれたのはしてやられた。
「核の解除は出来るのか?」
「地下深くに埋まってるし、回線は既に遮断されているし掘り起こせる何かがあっても、それに反応する処理迄あるから無理だ」
「わかった。撤収だ!ジドレ少佐、捕虜を乗せる代わりにジャブローに潜入した工作員の行方を話して貰えるか?」
「奥のエリアだが、そこは司令室付近だ!その意味がわかるか?」
「・・・・っ、成る程・・・・MSで近付いたら我等が司令部を占拠して核を起動させたと見なされるか」
「そう言う事だっ!」
尤も君達は無事に出れて核絡みな汚名を晴らしても更なる地獄が待ち受けているがなと内心でほくそ笑みながらジドレは慌てるエゥーゴ兵達を見ていた。切り捨てられた者ならではな楽しみに集中し始めてしまったのだ。
「捕虜達を連れて行け、ジャブロー内のMSには事情を伝えて作戦中止命令!」
「大尉、工作員達は?」
「証言を聞き出してからなら、起動させに行ったワケで無いとは言えるが・・・・今からではな、近くに誰かいるか?」
「た、大尉・・・・シオン機が近くに、そこに新手が近づいているようです!」
最悪だとした。シオンを近づけたら相手の思うままになりかねないと思ってしまったが、まだ間に合うかと思った。そして、管制室からの反応から推測される状況で思わぬ可能性が思い付いて・・・・幾ら何でもとしたが?
「大尉、ここはシオンに【ソレ】をやらせてみたらどうです?」
「ロベルト!そんな都合良くは・・・・第一、間に合うかどうかだけで危険が過ぎるぞ?」
「既に子供をガンダムなんかに乗せて戦争やらせてるでしょう、それとも?」
「お、おいロベルト。どうしたんだよお前?」
「下がってろよ【アンディ】」
「「・・・・っ!?」」
「それとも『それとも』」
『「それとも、NTに人殺しをさせるのは良くて、都合良く人を救わせるのは駄目って言うんですか・・・・大佐?」』
【大佐】
アクシズ時代からの呼び名や階級で呼んでしまう事にアポリーは周りに知らない側の誰か残ったりしていないか警戒したが、クワトロはそれどころではなかった・・・・途中から知っている声が重なっていたからだ。
「わかった。ロベルト、君が仮司令部からの指示に加えて念入りに伝達してると見せ掛けた上で【例の手段】で伝えてくれ・・・・【自分の感覚を信じろ】【すまん】この二つを必ず添えて、急いでくれ!」
「はっ!」
ロベルトに起きた事と自分の判断が常識から逸脱しているのは承知しているクワトロだが、今更なのではないかと指摘されたようなものなのだ。そうだ・・・・能力があるか仕上がりさえすれば子供を戦場に出す自分達にはと。
それに関しては後にクワトロが向き合った事に対する尤も残酷な結末を象ったような未来がある。
当面、ジャブローからの撤退の指揮を取り始めたシャアはロベルトに言われた事が頭から離れなかった。
【NTに人殺しをさせるのは良くて、都合良く人を救わせるのは駄目って言うんですか・・・・大佐?】
そもそもNTとは父が提唱した理念によれば建設的な事をするべきな存在だろう、だが今と言う時代では戦闘パイロットとして体よく使われるのが関の山だ。
それは現実で、時代はそう流れている。シャアがジオンにいた頃から、フラナガン機関はNTの研究に関してはララァより若いを通り越して幼い少年少女に薬物や催眠療法等から強化を繰り返し、それがやがては人工や強化が付くNTは愚か?
【遺伝子にすら手を出せる技術】
それを実現出来るかもしれない可能性まで聞かされていた。
【そして、既に先天的に遺伝子設計をされたタイプが量産されていたとは知る術は無かった】
シャリア・ブルの死後に自分が言ってしまった事ものし掛かっている。
【ニュータイプは万能ではない。戦争の生み出した、人類の哀しい変種かも知れんのだ!】
少なくとも現実ではある。そして、シオンと言う逸材を第二のアムロと見て、何よりもララァの影まで見た時から既に自分はララァから言われた事すら実感出来ていない事を自覚している・・・・ア・バオア・クーでミネバを脱出させる為に奮戦したが、ララァが言うように何かを守る為の戦いをやっているか以前に何を守ろうとしたのかまで不確かだ。
戦後、あの戦闘データを見た者達は自分がジオングではなく、その時のゲルググが間に合っていれば相討ちではない形でガンダムを倒せていたとまで言われていた。
マハラジャやアポリーやロベルト達のような者は例外として、1年戦争末期にアムロ・レイに成す術が無くなったシャアがアクシズで厚遇された理由はそれだろうとしている。頼るべき対象と改めて認知したからだと考えて、益々NTの本来あるべき姿の理念からは個人だけでは遠ざかった。
(だからか・・・・)
大切にしてはいるが、自分にはシオンを導いてはやれないのだとしていたが、それで良いのかシャア?と自分に問いかけていた。
―――――――。
エマ・シーンはMSを扱って以来、ルナ2の時の方がマシかもしれない苦戦を強いられていた。機体の旋回性の強化を始め、機体性能の総合力なら此方が完全に上だが、相手は別に苦にしていない・・・・それどころか、秒単位で相手の動きが良くなって来ている。攻撃や移動の正確さが接触した時とは別物になり続けているのだ。
「私が押され始めている・・・・どうしたの?此処は地球なのに、エゥーゴより有利なハズ!」
エマの弱音で出た部分が実は答えの一部だった。相手が宇宙移民なら地球上での戦闘は初めてのハズとして挑んで接触時は言った通りだったのだが、地球上での実戦が初めての状況だったシオンはエマと一対一で戦い始めてからも更に感覚を掴んでしまって急激に錬度が高まっていた。加えてシミュレーションでクワトロの百式と対戦してもいるので、多少の性能差等では驚きもしない。
エマは焦るが交戦中の白いMK―IIはいきなり思い切り良く後退した。ビームライフルのエネルギー切れと思ったが、先日のルナ2で敢えてそう見せる事からの不意討ちでバルゴラを圧倒した末に謎の爆発を起こさせた記録も見たので深入りは避けた。それが、エマの分岐点にもなった。
―――――――。
(・・・・何だって言うんだ?)
身を隠しながらジャブロー内のエゥーゴ側仮司令部からは作戦中止の命令が来て、詳細を見た。理由については?
【ミスター・ブシドー】
シオンが何故か残ってた記憶をおふざけに呟いたものが採用されたのだが、遠回しにエゥーゴ内においては緊急事態を伝える為に特S級と言うより従わなければ生き残っても銃殺すら厭わないし死んでも同情は出来ないと言うレベルの事項を伝える為の暗号、抱き着きを厳禁と戒めるシオンは採用されたのを感謝した。
交戦中にエマ機から聞こえた事を推測するに従うべきとしたが、自分用の【暗号通信】が来てくれた・・・・地形で自機を隠しながら敵に見られても解析しようがないレベルにおふざけまみれのものを読んだが、内容が問題だった。
【シオン、ジャブロー基地が自爆する前に近くにいる敵機体を奪って敵司令部に捕らわれた同士を救出しに行ってくれ!】
正気ですか?と言いたい!けど、発信して来たのがロベルト中尉だとして引っ掛かるものがあり、最後辺りを読んだ。
【君がジャブローで核を使ったと思わせない為にだ】
ピンと来た。やはりエマが言うように自分がそれでジャブロー毎焼き払った事にする作戦、だがエマには自分がそれをやる気だと吹き込まれた理由は一体何だ?と考えながら、ある理由が思い付いた辺りで最後の文を読んだ。
【すまん、自分の感覚を信じろ】
曖昧過ぎるじゃないか!大人ってのはこれだからと頭に過った時だった。
(人が死ぬんだよ?)
「っ!?」
(人がいっぱい死んじゃうんだよ!!大人がどうこう関係無いだろ!?)
(グ、グリプス出る時にロベルトさんの後ろに見えた人?)
(ボケッとしてないで身体と頭と機体をさっさと動かせ!お前の無駄一つで味方が何人か死ぬと思え!それが戦争なんだよ!)
(は、はいっ!)
『ヤヨイ・イガルダ』
アクシズに滞在した時にロベルトが出会った女性がシオンに発破を掛けて力を貸した理由は知りようも無いが、この世界が向かうべき方向に自分なりに抗ったのかもしれないとは肉体と言う牢獄から解放された本人にも自覚しようが無かった。
【自分の感覚を信じろ】
ヤヨイに促されたシオンは自分なりに見て感じた事を参考に信じられる事をやるべく、周りを警戒しながら自分なりの禁忌を破る決断をした。
「!?」
エマは不意に現れた白いMK―IIが自機に体当たりして来て後方の岩塊に押し付けられたのを理解した。パワーがほぼ同じな分、簡単には抜けられ無いのだが何かおかしいと考えた時。
『エマ中尉!聞こえますか?』
「この声、シオン君・・・・やっぱり貴方が、いえ何のつもり?」
『ジャブローが【地下に埋められた核で自爆】します!貴女は俺がやったと思わせる事のついでに貴女を死なせる謀略に巻き込まれたんですよ!ブライトさんの時と似たやり口です!』
「何です・・・・って?」
それが真実だった。エマがシオンに宛がわれたのはティターンズにとってはエマを死なせたいが為だろうとしているが、唐突に言われたくらいでは納得させるのは無理だ。だから、周りを感覚で探って行動に出る。
「信じろと言うの、貴方の言う事を・・・・」
「これでどうです?」
「っ!?」
正気かと問いたい!コックピットを開いて姿を見せたのだ。
「エマさん!ティターンズの理念を信じるなら今回の件を摘発させる流れに乗って下さい、司令部に囚われてる人達の顔や情報があればそれが証拠になります!」
「・・・・どうしろと?」
「貴女の機体を貸して下さい!俺ので近付いたらそれを証拠にされて他のコロニーが危ない事態になる!ジオンみたいに毒ガスを使うのを正当化される流れになる!」
唐突に【毒ガス】と言った事にエマは心当たりがある。何より自分次第で命が無いのに顔色一つ変えない少年に恐怖すら覚えたが、グリプスは勿論?
【バルゴラの武装が爆発した被害が出た後のルナ2で見たもの】
それ等はエマを大いに動揺させていた。そこでエマが出した結論は・・・・。
「わかったわ、但し。妙な動きをしたら、この白いガンダムで貴方を後ろからでも撃つ、それで良くて?」
「はい、ありがとうございます!」
まるで自分を疑っていないのに呆気に取られながら、機体を交換した。その流れで、仮にあの男・・・・確か【アルフ・カムラ】の言う事が事実ならばと・・・・複雑な期待をエマは持ってしまったが、それが情勢を良くする為の劇薬になるか否かは見透せなかった。
一見、超前向きルート行きな展開だが?然り気無く特大の皮肉や爆弾設置な回でした。