ルナ2は全幅180Kmにもなる菱形の巨大宇宙要塞。火星軌道で発見された小惑星を地球圏に運んでスペースコロニー建設用の資源衛星として使われていた物を軍事拠点にも転用した場である。元々はグリプス2にぶつけるよう移動させるノウハウはあったとすべきだったが、流石に直径が十分の一以下な改造中のコロニーにぶつけるにはスケールが違う。これには察知したティターンズも慌てるしかない。
「手順等はどうでも良いから艦艇に乗せられるものを乗せて出せるだけ出せ!」
バスク・オムの怒号が響く、ありったけの癇癪を爆発させる姿は推進装置を点火させたエフェメラの望んでいた姿だ。奪取されたMK―IIが管轄外の機体の兵装を破壊した時もそうだが、デラーズ紛争の古傷が鮮明に甦っていた。更にルナ2にはまだハマーンの置き土産があった。
「大佐、ルナ2から艦艇が出港しています!識別信号が全てエゥーゴから旧ジオンのものとなっているようです」
「何だと!?」
混乱するが一時的な撹乱とは知らない、ギガンティックからの二発目を内部に撃たない代わりに艦隊の識別信号を通常のではなく提示したものに変える条件を出したのだ。
【バスク相手にやるから意味がある】
そして、グワダン内ではハマーンの意識外の流れが動き出した。
「まあ、大変だったようだね。君達のような少女が・・・・」
ゲストルームでマチュとニャアンは紅茶と小さめなショートケーキでもてなされていた。疲れているので甘いものは有難いとした時に二人にしか聞こえない声が響いた。
「どうした。口に合わないか・・・・はは、まあ火星の向こうで合成品ばかり食べていた者の腕では自信が無いがね」
「い、いえ・・・・単にいきなりだっただけで、いただき・・・・ま、マチュ?」
「ねえ、このケーキ。先ず自分で食べてみてくれません。私達に出したやつから」
何を警戒しているかわかりやすい言い分だがケーキと紅茶を運んだ若い兵士【ミゲル】は普通にケーキを食べて紅茶を飲み干した。
「これで良いかな?」
「・・・・ニャアン、失礼な事を言うな!」
「え・・・・ちょっ、ひどいよマチュ!」
「はは、良いさ・・・・何故か毒でも入れてあるのかと疑ったようだが、当たりだからね」
そう言って、ミゲルが何かを床に投げたと思った瞬間にガスらしきものが吹き出したと理解した時に二人は軽い痺れを起こしていた。
「軽いものだから耐性がある私には聞かない、因みにケーキには毒は入れているが私は解毒剤を飲んでるし耐性をつけてるから聞かないのだよ。だが、そんなのを持ち出している者が言えるのかな?」
マチュがやろうとした手段はブレスレット型の銃だ。誰に渡されたかは知らないが、それなりの度胸があるとして取り上げられて銃を突き付けられた。
「君達のような人間は【普通】である内に死なせてやるのがせめてもの・・・・」
~~~~~~っ!
凄まじい轟音と破裂音、今度は煙に戸惑うが少しずつ身体が動くようになったマチュの元に知っている者と艦内の兵士らしき者達が駆け付けた。
「な、何が起きたのブライトおじさん?」
「わ、わからん。君が乗って来た機体がいきなり動き出してバルカンをこの辺りに撃った。それしか・・・・」
重力ブロックの機能が無くなった事もわかったマチュはニャアンを探すが、ミゲルに背後から絞め技を掛けられてる形に取り押さえられていた。淡々と状況を確認している表情は歴戦のブライトすら寒気を覚えたが人質が優先だとした時にニャアンの苦悶の表情が浮かんだ。そのまま絞め殺す気かと慌てるが、やはりミゲルは淡々としていた。
「本来なら、そこの艦長も消したい。だが一人だけでも・・・・っ」
「・・・・舐めんなよ、糞がっ!」
声色が変わったニャアンに足を踏み付けられたミゲルは僅かに身体を浮かせられた。そのまま多少後方に流されるが、その程度としていたが予想外な感触に見舞われた。
「ぐっ、ぎあああっ!」
壁ではなく破損したパイプが焼けただれていて背に当たった。その激痛に加えて我武者羅に振るった右肘が肝臓に命中してその隙に逃げ出したニャアンはマチュの腕に抱き寄せられた。取り押さえたミゲルは尚もマチュ達に目を向けていたままだったが、兵士に頭を撃ち抜かれていた。ブライトに目を塞がれた少女二名は何故撃たれたかを知る術は無いが、その間にマチュは動き出した。
ブライトとニャアンは何故か周りに広がる宇宙に声を出さずにいるのが精一杯である。
「こ、これだよね。このルートで行けば・・・・あれ、これって金庫?」
謎の声に導かれるまま時折身を隠しながら移動するマチュは立ちよった部屋で見つけた金庫のダイヤルを適当に弄ったつもりで何かに導かれていたのでダイヤルを開けられた。そこにあったのは必要そうなものと、何よりも【金塊】であった。
(・・・・お金、お金お金お金お金!そうよ。万が一の事態はコレ、グダクダ言うな!)
そうして、学校用カバンに詰めるだけ詰めて戸惑い混じりになった声に導かれるまま移動をした。いつの間にか応急の片腕が付けられたゼータの前に来たが流石に憲兵達に呼び止められたが、再度ゼータが一発ずつバルカンを撃って威嚇した。
「はははは、ざまぁないぜ!・・・・って。なんか凄いストレートね。幾ら私だってそこまではやらないわよ!」
自分を省みずにマチュは声の元とわかるゼータに無事乗り込んだ。このまま地球に行けば良い、何故かやれるとわかったので管制室に呼び掛けた。
「ハッチ開けろ、私はこの艦から飛び出していく!」
クルーが慌てふためくが、一応サーベルもあるし例の【獅子の斧】も持っているので内部で暴れられては堪らないとしてハッチが開いた。もう縛るものは無いとして発進したゼータは横からのビームがシールドに命中した。ハマーンのキュベレイが戻って来たのだ。
『小娘がっ、妙なプレッシャーが気になって来たが。何の真似か言え!』
「うるさい、私はコレでシュウジのところに行くんだ!」
『嫌いだね、そんなの・・・・はっ!?』
色狂いのようになったマチュを見下していたハマーンはゼータに知らないハズなのに知っている気配を感じた。それは全てを否定する冷たさと焼き付くすような熱が同居していた。急上昇したゼータを迎え撃つべくファンネルを射出したが、次の瞬間には飛行機のような形態に変形して急加速で明後日の方向に飛んでいった。追撃を掛けようとする瞬間に思わず機体を横に剃らした次の瞬間にビームガンと言える攻撃が通過した。位置的に背面撃ちと言える形であろうと理解したが、その隙が勝負を分けた。
「スピードが完全に違う。これでは追い付けないな・・・・いや、その方が良いのか?」
手に余る暴走だが、通信によりニャアンがグワダンに残っているとわかって判断に窮した。三人でそれなりに過ごしていたハズがとしたがハマーンは鳥肌が立った。踏み行ってはいけないのだとして目論見通りルナ2がグリプスを破壊した光が見えるまで宇宙を見据えていた。
そして、マチュは凄まじいスピードからの負荷に耐えながら地球迄のルートが何となくわかった。何故か上手く行くとしたが、前方に何かの光点が光ったと思ったら地球軌道におけるパトロール艦であった。そこから発進したと思われる機体が複数来たので何とかしようと操縦桿を弄ったら変形が解除されて人型に戻った。
『此方はティターンズ所属の者だ。その機体、何処の所属だ!』
赤い機体、データバンクにマラサイと出ている機体であるが、シュウジのとは違うし最近は赤い量産機が複数あるらしいとはマチュも聞いている。しかし、どう切り抜けるべきかとして何故か妙案が浮かんだ。
「邪魔するなあっ!」
サーベルで斬り掛かったが、回避されてしまう、マラサイのパイロットである【アドル】は上官であるヤザンとの模擬戦で揉まれたので機体をコントロールしきれないし間合いも何もない攻撃程度では何という事はなかった。その際に周りにいたハイザックも駆けつけて来たので機体を振り回したが、接近されてキックを胴体に受けてしまい後方に飛ばされた時にマチュは笑みを浮かべた。
「・・・・勝った!」
そのまま変形をして地球の方面に飛んだ。虚を突かれたアドルは追おうとするが、その時にはゼータの背面撃ちビームガンが飛んできて機体の右肩を抉られてしまう。艦もMSも対処が遅れて振り切られてしまう、まだ無駄な殺生をする気は無いマチュなりな最適解であるが、暫くはスピードの負荷に耐えなければと暗い気分であった。
――――――。
「マチュめ・・・・戻って来たら修正してやる!」
グワダンでは理解出来ない現実に誰も彼も戸惑うしかないが、ブライトはニャアンを置いて行く事はないだろうとする怒りを出していた。殺害され掛けたのは事実な事とハマーンがアーガマを乗っ取った真意を質さねばならない事もだが、友達をこんな扱いは良くないとするのが精々だったのが自分の限界と知る術は無い、ゼータからの声はマチュとニャアンにしか届かなかったのだ。
(私、未来を見た。ああすれば助かるのもマチュがシュウちゃんの次でも私を気にしてくれているのも知れた・・・・けど、やっぱりひどいよ。私もシュウちゃんのとこに連れてって欲しかったよ、連れてって・・・・連れてってよっ!)
暗い感情に呼応するように目を光らせるが、この場では遅すぎた思考であった。
――――――。
「怖いのが・・・・来ます」
地球のアフリカにおいて次の作戦に向けて準備をするアウドムラのブリッジではシオンが唐突に発言していた。何かを感知したのだと理解はしたが、エマから見ても違和感がある。ゼータに乗ってから何かがおかしくなったとはわかっている。そこにいるのに此処とは違う何処かに行ってしまいそうだとまでわかる。
「じゃあ、逃げちゃえば?」
「ペッシェ・モンターニュ・・・・君は不用意な発言を許される立場じゃないだろう」
「その子が【怖い】なんて言うからには相当でしょう、らしくないですね。付き合いが短いからですか?」
ペッシェが言うのはアムロを知っている者達らしくないとする意味だが、それでも理解の範疇を越えている。それを言うならクワトロから届いた提案内容も相当だが。カイは結局は【五番目】について聞けなかった事がどう転ぶかで茶化す余裕が無かった。
スミレがゼータを運んできた輸送機に大破したエンゲージ・ゼロと白いMK―IIを積んで指定された場に運ぶ。念の為にシオンには慣熟訓練を兼ねてゼータで後方支援。何故かペッシェとフォウも輸送機に同乗なのでシオンとしてはやらざるを得ない。
「じゃあシオン君、ちゃんと護衛お願いね。男らしくお姉さん達を守って頂戴」
「いや、声掛ける対象はもう一人いるでしょ。ポ~としてるようで俺よりマシそうなのが」
「え・・・・?」
スミレは背の事で失礼な事を言われた毒を笑顔で漏らすスがシオンの返しに顔を青くしてしまった。時間が来たので操縦席に向かわざるを得なかったが不吉な予感に身を震わせていた。
目標確認とオカルトパワーな回。もう誰もマチュを止められない、つか何見えてんのよ!?と聞くのが怖いスミレさんでした。