準備中と言えどキリマンジャロ基地はエゥーゴの新型と【恐らく同形機】の働きだけで壊滅した。目を丸くするスミレは何でこうなったかを回想していた。
【月の女帝】
アナハイムの社長一族に嫁いだ女傑からの提供情報によると、今なら潜入系をやればキリマンジャロの陥落は決して不可能ではないとするのはわかるが、わざわざ実行要員にシオン達を名指しした理由は不明である。特にそこからの流れがきな臭く、捕虜であるペッシェがまるで潜入員のように呼び掛けされる通信が来て以降のクワトロとシオンの決断と実行は迅速そのものだった。
(・・・・シャア大佐だからわかるのかも。【マーサ】夫人はザビ家で言うと・・・・いえ、これは深入り厳禁ね)
小娘と呼ばれる思考の域を出ていないスミレの判断だが、これを迂闊に広めたらいけないとわかる理由はまだ理解していなかった。
そして、合流ポイントに来た二機のゼータから降りて来たペッシェとマチュは神妙な顔をしていた。内部からの一方的な戦闘に思うところがあったのだとしたが、ペッシェは憑き物が多少落ちた気分であった。
(あのコックピットは・・・・全然違う)
ペッシェはシオンの機体に乗ってキリマンジャロに入った迄で感じたが、エンゲージ・ゼロに使われたりオーガスタで体験したものと違ってパイロットや機体がどうとかの次元ではないものを想定している造りだとしている。内部から破壊した際になるべく被害は出さないやり方は甘いと言えば甘いがやり方が何となくわかっていた在り方は自分に何かを与えてくれた気がした。
そして、別行動を取るクワトロも報告を聞いて想像以上としていた。
「これが若さか・・・・」
「大尉、シオンに殴られた時とは違う声色ですよ」
ロベルトが言うのはシオンにクワトロが自分はシャアと打ち明けた時だろう、サイド3で育ったシオンが見てきたのはアクシズの戦争再開派、悪く言えばめでたい者達とは違う。シャアを見る目もダイクン派とされる者達とは真逆なのだ。
【ジオンの恥】
嘗て、ガルマ・ザビを謀殺した時。生き残った部下達からはガルマをむざむざ討たれて自分は逃げ出していた赤い彗星は逃げ足も3倍の速さと揶揄されたように、フィルターが掛かってない者ならではの視点がシオンにある予感はしていた。父の恥部を知って殴られ兼ねない覚悟迄してシャアは話したのだ。
まさか本当にやるとは思わなかったが、敢えて受けたシャアはシオンに益々大きな希望を見出だしたのだ。
「例えば、水源でも見つけてそこからなんて考えたりしたけど。一発で・・・・これは【月】でどう騒ぎになりますかね」
アポリーとロベルトもエゥーゴに合流以来にアナハイムとその関連の闇は知っている。それに関してはとんでもない提案が来てそれをスミレの元に暗号で送った。
「嫌ですっ!何が悲しくて【女装したままゼータに乗り続ける】なんてやらねばならないんですか、そんなバカな事は無い!」
「命令よ。それに、これも見せろと」
命令書にある一文には従わざるを得ない、自分が【声を聞かせてしまった】事からの因果である。このままゼータにはエゥーゴの新米少女が乗っているとするくらいは受け入れる。
【アネッサ】
データで集めた中に最適な戦災孤児の戸籍はあったので、後はなるようになるしかない。そもそもMSで戦争なんかやってるシオンは自分には恥も何も無いとした。そんなシオンに今後も協力してもらう気満々なマチュがフォローを入れた。
「まあまあ、私がフォローしてあげるからさ。元いた場でも背丈はあるのにバイトの配達で私がチャイム押してあげる有り様なのと付き合いある。それはそうと、何で携行食や保存食じゃなくて普通の家庭で使われる保存食や缶詰めにした調味料が来るのよ?」
対象が女性ばかりな場にしてもな補給品。何やら料理くらいはとされたからなのか否だ。ジト目で周りを見るマチュだが、その類いをやれる自信は無いとする者ばかりだったが?
「・・・・っ、わかった。文句言わないならな条件で作るから大人しくしてろ」
シオンがそう言って用意したのは?
【フライパンで作るグラタン】
野戦用な器材で作ったのに味はグラタン好きなマチュすら舌鼓を打つものだった。スミレが茶化すように良い笑顔で語りかけた。
「本当に美味しい。アネさん、良いお嫁さんになれるわよお?」
「背丈の事を根に持ってやがりますか」
「けど、何でわざわざグラタ・・・・っ?」
ペッシェがフォウに口塞がれた。マチュが揃っていたものでイメージした事に応えたのが明らかだが、まだ明け透けにしては駄目。まだ向こうに行かせられないとしていた。
そして、月都市の一角にある別荘では所有者と来訪者の会談が行われていた。
「地球圏に戻って来たばかりで痛み入るわ」
「いえ、私としても話のわかる御方と会えて光栄であります」
【マーサ・ビスト・カーバイン】
目に痛い類いな妖艶さを持つ妙齢な美女は開放的な服装で客人をもてなしていた。
【パプティマス・シロッコ】
輪っかのようなヘアバンドで髪を纏める男は木星に向かった船団の中で直径二千メートルに及ぶ巨大輸送艦の艦長である。事前に打ち合わせてマーサの元に単身赴いたが、目の前の女性が自分の考えるような【象徴】には程遠いが利害が一致しているのは確信した。
【女性中心の社会作り】
アナハイムを頂点とした月の権力者達がスポンサーを担うエゥーゴの成り立ちからジャブローでの歴史的失策。これは小躍りをすべき流れである。自分がその結末を変える機会が舞い込んだとしながら陰謀を巡らせるが、それはマーサとて同じであった。地球で戦う若者達にも及ぶ暗闘の火蓋が切って落とされたのだ。
混ぜるななんとやらな組み合わせにシロッコが来たな回でした。