──灼熱を突き抜け、神に迫る
......ああ。
ああ、楽しい旅だった。
下総で最期を迎えたのに、
もう一度、こんな風に機会を貰えて。
誰の仕業か知らないけれど、そっちにもありがとう。
ああ、でも。
人理ってもののお陰ならお礼は取り消し。
私、人理につまはじきにされたはぐれ雲だし。
一度消えれば二度と召喚されない。
いもしない剪定事象の武蔵だし。
この記憶を何処かに預けられたらいいんだけど、
それもまた難しかろうし。
............まあ、いいわ。 いいわよね。
私は、あるがままの私で此処まで来られた。
だから満足!
さようなら───。
私はできなかったどころか.......
考えもしなかったけれど。
君は。 君の世界、きっと取り戻してね。
「さあて! 別れの挨拶、是にて終了!
いざ、一振りの剣とならん!
我が天眼、この一戦の為にあり
有象無象の万華鏡。
世に生まれ、育ち、増え続けた万象よ
あらゆる道を切断し、あらゆる枝を裁断し、
そのまことにある虚を抜く」
──身体が焦げる
「極限まで削ぎ落とし、
残ったものをなお削ぎ落とし、
究極の一となるもの、即ち天元。
されど我が夢、なお足らず。
天元の壁を打ち破り、その先にある座を睨む。
カタチ無きもの、空なるもの。
「 」の姿を断ってこそ、因果を断つ仏の剣」
──命が燃える
「南無、天満大自在天神。
今こそ、武蔵の全てを使う!」
──魂が削れる
「カオス神!
是よりは刃の一閃にて、御無礼仕る」
──何を成し、何を残せたのか私には分からない。 けれど、これだけは胸を張って言える。
私、出会いにだけは恵まれていたわ
「手前勝手の旅の果て!
私の刃、私の剣、今やあなたに切っ先が届く!
カオス神!
宇宙の巨大な裂け目、間隙、すなわち虚空なれば! 虚空を斬るは我が定め!」
(だからこそ、一刀の元に神を沈めん)
「伊舎那天にお納め奉る!
此処に、虚空を斬りて、真に!
零の先に私は至る!」
(一世一代の大舞台。派手に飾って散りましょう)
刃、一閃。
その煌めきが如何にして宇宙の間隙、時間と空間の彼方にある混沌へ到ったのかは言葉にできない。だから、今はただ、このように結果だけを伝えよう。
その刃、確かにソラを切り裂いて。
虚空神、驚愕の声もなく時空の彼方へと消える。
すなわちは、
是にて。
破神、一斬。
「えへへ、見てたかなみんな!
さっすが私、やればできたじゃーん!!
発生した時空断層、宇宙の間隙は、宮本武蔵の偉業により閉じられた。
セイバー・宮本武蔵の霊基はすべてを燃やし尽くし、完全に消滅した。
もう、カルデアと縁が結ばれる事は無いだろう。
○
衛宮士郎は剣戟を見ていた。
赤い外套を身に纏う男がふるう双剣と、青い装衣に身を包む男の槍が重なり、甲高い音が夜の校庭に響き渡る。
「随分とまあ物騒じゃねえか」
衛宮士郎はその常軌を逸した光景を前に、音を立てぬよう観察に徹していた。
およそ一般人の肉眼では追うことすらできないであろう剣戟を、衛宮士郎はその"業の目"で追っている。これは、彼に憑依した存在の力だ。
「双剣の男は、、、ありゃ贋作だな。 だが青い槍兵の持つ獲物、ありゃあ究極の一だ」
双剣の男は獲物が壊れる度に絶えず魔術により武器を錬成して槍兵の神速の突きを往なし続けていた。
「こりゃ時間の問題だな」
衛宮士郎の読み通り、獲物の押し合いに負けた双剣の男が片膝を地に着く。このままジリジリと押し切られ、決着がつくのは誰の目から見ても明白だろう。 しかし。
「っ! テメェ、武器を爆発させるなんざ、それでも英雄の端くれか」
「悪いが俺に英雄としての矜持を求めるのはお門違いだよランサー。 いや、アイルランドの光の御子と言った方がいいかな?」
確定的で致命的な言葉の後、槍兵の纏う殺気が段飛ばしに濃く重くなる。 遠くから見ていた衛宮士郎ですら大瀑布に撃たれるような重圧を感じる程だ。
「あ? まじかよマスター! まぁ命令には従うがよぉ。 命拾いしたな双剣の! 我がマスターの判断に感謝するんだな」
それまでの殺気が嘘のようになりを潜め苛立たしげにそう言うと、槍兵の男は蜃気楼のように霧散しこの場から姿を消した。
残された双剣の男は手に持つ獲物を消すと、弓を出現させて射抜く構えを取る。
「アーチャー? もう敵は去ったわよ?」
「聖杯戦争の一端を一般人が垣間見たんだ。 生かす道理はなかろう!」
張り詰められた弦から、凄烈な一射が放たれる。
そのあまりに美しい射型に一瞬見惚れる衛宮士郎だったが、すぐさま思考を切り替え剥き出しの刀を手元に出現させると、矢を薙ぎ払った。
「ちぃーとばかし物騒じゃねえの。
斬り払われた一射を見て目を見開く大男と、その傍にいる女のマスター。
「どう言う事だ。 何故今の貴様が、その段階に至っている」
アーチャーと呼ばれる大男は酷く狼狽した様子で衛宮士郎を睨みつけている。
「ごちゃごちゃと小うるさい奴だなテメェ。喧嘩を売ったのはテメェだろうが。 ならやる事は一つしかねえだろ」
衛宮士郎の歪に変化した魔術回路が脈動する。
生前数多もの剣を打ち、曰く「斬味凄絶無比」とまで称された名工の果て、その在り方が英霊として昇華された存在。
互いの意識が融合し、新しい人格となって久しい衛宮士郎は、再びその手に抜き身の刀を出現させて無作法に構えを取る。
「令呪を以って命じる。 アーチャー、引きなさい!」
「ッ! 何を馬鹿な。 君は令呪の必要性を理解していないのか」
「そんなもの百も承知よ! アンタがやたら無闇に一般人を殺そうとするから令呪を使う羽目になったんでしょうが。 あーもう! どうするのよ。 まだ序盤も序盤なのに残りの令呪が一画しかないんですけど......」
遠くで揉めている二人を他所に、衛宮士郎は毒気を抜かれたのか構えを解くと、付き合ってられないと言わんばかりに魔術で強化された脚力でその場を後にした。
「凛。 葛藤するのは別にかまわんが、奴はこの場から去ったぞ。 いいのか? 目撃者だが」
「え? 嘘。 なんで引き止めないのよアーチャー」
「君が命じたのだろう。 手を出すなと」
「......。 そうだったわね。 はぁ、仕方ないか。 この件は後で綺礼に伝えるわ」
月下の幕開けは凄烈に、そして異常を孕んで加速していく。