燃える刀の群れを見て、アーチャーは驚愕に目を見開く。
「やはり貴様、混じり物だな。 正史の衛宮士郎では成し得ない芸当だ」
「別に隠すつもりもねえ。
「名工と謳われる刀鍛冶か。 いよいよ持って分からんな。 一体誰が、何のために貴様の肉体に英霊を降ろしたのだ」
アーチャーの問いに、燃え盛る景色がフラッシュバックする。
「そこまで答える義理はねえ」
士郎─村正は拒絶の意を示すように、刀を一振り出現させる。 今までと同じ、投影魔術。 けれど出現した刀は、今までのものとは訳が違う。
「こいつは儂が熱中して打った刀の一つだ。 ついつい熱中しすぎて妖刀紛いのもんになっちまったがな。 名を、"明神切村正"」
接した面の空気すら避けそうな、それ程までに研ぎ澄まされた妖刀は嬉々として振るわれるのを待っている。
「そんなのどーだっていいわよ。 貴方が士郎に憑いている。 その事実だけあれば、後の事はどうだっていいわ」
イリヤスフィールのサーヴァント、狂戦士が雄叫びを上げて士郎に肉薄する。
その膂力たるや、一撃の元に人間を肉塊にせしめるであろう。
大斧が、軽やかに踊る。
質量など感じさせないような、流麗で洗練された斧捌きに、士郎は力を受け流しつつ感嘆を漏らす。
「やるなテメェ。 狂化されながらも、染み付いた太刀筋が消えてねえ。 さぞや高名な戦士だったんだろうよ」
一撃一撃が命を消しうる破壊の嵐。一度気を抜こうものならば、悽愴たる末路が出迎えるだろう。
その只中にあって、士郎は冷静に"業の目"で全ての攻撃を躱す。
「返す太刀でいくら斬ったところで、薄肉を裂く程度だろうよ。 ならば一刀の元に斬り伏せるまでよ、、、っと。 テメェも大概野暮な奴だな」
狂戦士と対峙しながら、迫る赤光を纏う矢をなんとか払い落とす。
生じた隙を狂戦士が見過ごす筈もなく、神速の一撃が士郎を襲う。
「しゃらくせえッ!」
妖刀の出力を様物のスキルにより最大にし、斧を払い退け距離を取る。
「よく凌いだな。 だが、俺が放った赤原猟犬はまだ貴様の命を狙っているぞ」
言葉の機微に聡い訳ではなかったが、あからさまなアーチャーの態度に直感が働き身を捩る。
「──ぅぐッ」
致命傷は避けた。しかし、重傷は逃れえない。
脇腹を貫いた矢跡を押さえながら、アーチャーを睨む。
「そう睨まないでくれ、数の理と言う奴だよ。 赤原猟犬を撃つには少々時間がかかってね。 バーサーカーを壁に私は溜めに時間を割いてた訳だ」
「とことん狡い奴だなテメェ」
「そんな軽口を叩く暇があるなら防御に徹したらどうだ?」
膝をつく士郎は、影を見た。巨大な斧が今にも振り抜かれようとしている影を。
「──っがぁ!」
咄嗟に妖刀で受け止めてはみたものの、破壊の嵐に呑まれて吹き飛ぶ。
骨が軋む。肉がひしゃげる。あらゆる場所から血が滲む。
死の間際をここに、衛宮士郎はかつての景色を想起する。
炎を見た。
瓦礫の中から救ってくれた男の表情は今になっても忘れられない。衛宮士郎が衛宮士郎であった頃の、最後の記憶。
月を見た。
庭を見ながら語らいあった。男は、夢を継ぐと言った士郎─村正を見て、喜んでいた。 士郎─村正となった頃の、色褪せない記憶。
言葉の代わりに血が溢れる。
眼前に立つ巨躯は大斧を振り上げている。
死はここ確定した。
士郎─村正が、ただ一人だけならば。
「儂は、まだ死ぬ訳にはいかねえんだ!」
痣が熱を帯びて形を成す。
振り絞った声に呼応する様に、光が視界を埋め尽くす。 直後に生じた、甲高い金属音。
やがて視界が戻ると。
「これってもしや?」
赤と青を貴重とした和服に身を包む女剣士が士郎の前に出現した。風格や佇まいから只人でないのは火を見るよりも明らか。
女剣士は、士郎に視線を寄越すと驚いたように目を見開いた。
「もしかしてお爺ちゃん!?」
失礼の上に無礼を重ね、瀕死手前の士郎も流石に黙ってはいられない。
「失礼な小娘だな。 誰が爺だ。 だが、助けてくれたって認識でいいんだよな。 礼を言う」
「その手に持つ刀、私にくれた明神切村正。やっぱり村正のお爺ちゃんじゃない! 私よ、宮本武蔵よ!」
「テメェ、何で俺の名を知って......。 いや、その話は後でいい。 おい女。 テメェは敵なのか味方なのかどっちだ」
鬼気迫る士郎の問いに女剣士は曇りなき眼で士郎を見据えて笑みを溢す。
「そんなの決まってるじゃない。 私はお爺ちゃんの味方よ」
「そうか。 なら頼み事だ。 あの弓兵の足止めをしてくれねぇか。 その間に俺はあのデカブツを叩っ切るからよ」
「お安い御用! お爺ちゃんと共闘なんてワクワクするわね」
「だから誰が爺だ。」
一振りの刀により紡がれた縁。
この世界の士郎─村正は知る由もない一つの物語。
しかし女剣士は覚えている。
故に──。
「いざ参る!」
女剣士は全霊を持って士郎─村正の助けとなろう。