fate/ideal sword   作:霞露草

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宿業両断

 

視界の片隅に映る、女剣士とアーチャーの戦闘。 狭撃の心配が無いことに安堵した士郎はボロボロの身体で明神切村正を狂戦士に振るう。

 

 

狂戦士は、その理性を狂化により汚染されながらも、眼前にて人の身で立ち向かう士郎に、先程から幾度も撃ち合っている刀に悪寒を感じていた。

得体の知れない気を放つ刀。幾度叩いても折れない人間。 その在り方は、刀鍛冶が目指す折れない刀そのもので。

 

「しぶといわよ混ざり物! 早く潰れちゃえ」

 

事を急くイリヤスフィールから膨大な魔力のアシストがバーサーカーに送られる。

 

「──くッ!」

 

真正面から受けては骨の髄まで粉々になる狂戦士の攻撃をいなす。力を逃し、反撃に転じようにも、重すぎる攻撃に傷口が疼き動きを鈍らせる。

十全にとはいかない。けれど折れてはならない、曲がるなどもってのほか。士郎は大きく息を吸い込むと、覚悟を決めた様に踏み込む。 この撃ち合いで、勝負は決まる。

 

 

血が滲む。骨が軋む。意識が明滅する。

依代の肉体が限界に近づいている。

だからこそ、一刀の元に斬り伏せる。

 

 

懐に入り、最後となる激しい打ち合いを繰り広げる。

人の身ではおよそ成しえない偉業を可能にしているのは、武器の能力を最大限に引き出す"様物"のスキルと、明神切村正の性能のおかげだ。それらがなければ、遥か前に、士郎は肉塊になっている。

 

重い攻撃を、いなす。

迅い連撃を、回避する。

攻撃動作の癖であるとか、攻撃の合間の呼吸であるとか、そういった小さな隙を探して、縫う様にいなして躱す。

集中力は加速度的に増し、凝縮した時間の中で士郎の動きは洗練されていく。終わりを迎える星が一際輝くような、そんな破滅的な刹那。

 

永劫にも思える一瞬に、ついに勝機を見出す。

士郎は、反撃の好機に全てを賭す。

空いた左手に剥き身の刀を出現させ、狂戦士の空いた胴に変速の二刀を繰り出す。

 

「──二天一流。 拝みやがれッ!」

 

間合いの異なる二刀の連撃を繰り出す。緩急も加わり、一度受ければ回避不可の超連撃は、縦横無尽に、さながら鳥のように自由に舞う。高ランクの宝具クラスである士郎の二刀を一身に受け続け、片膝を着く狂戦士。

その大きな隙を士郎は待っていた。

 

「バーサーカー、早く立って、なんだか嫌な予感がするわ!」

 

イリヤスフィールの声も、既に遅い。

士郎は妖刀・明神切村正を直上に構える。

 

──その刀、あらゆる業を断ち、払う絶剣。

              即ち、宿業両断──

 

「これでしまいだ!」

 

振り下ろす刀。

狂戦士の首筋から袈裟斬りに下ろされ、胴が分たれ絶命する。

 

「まだよ。 バーサーカーは一度殺したくらいじゃ死なないんだからッ!」

 

不安の入り混じる震えた声。

その声に狂戦士が呼応する気配は無く、その肉体が霧散する。

 

ヘラクレスの宝具、十二の試練。

それは生前に成した十二の偉業を具現化した祝福─呪い。 その真価は、十一の蘇生魔術を内包するものである。

しかし、ヘラクレスは再生しなかった。

その祝福─呪いを、宿業を、明神切村正に断ち斬られたのだ。

 

「バーサーカー、バーサーカーぁ。 なんで、なんでよ」

 

少女の呻き声を他所に、士郎はその場に力無く倒れる。

全てを"ほぼ"出し切り掴んだ勝利。それ故に、代償は大きかった。

 

 

 

 

 

 

 

無数の鋼が私の命を貫こうと迫る。

それは矢だった。

かつて戦の主流となり、他者の生命を奪う為に人間が操った武器。

弓の弦を流麗な所作で引き絞り、つがえた矢を撃ち放ち、私を貫き殺そうとする。

その死の群れを、瞬きの間に十五ほど。

放たれた矢は常識の埒外の速度と威力を伴って、私に迫る。

 

私はそれを薙ぎ払う。

時には足捌きで躱したり、遮蔽物で凌いだり。

幾度目かの射撃を凌いで、短く息を吐く。

 

立ち合いの妙。刹那に命が融け合う感覚をまた味わえるなんて。未練なんてもうないと思ってたけれど、やっぱり私は生粋の剣客みたいね。

 

また飛来する矢を、刀で薙ぎ払う。

今度は二十。随分と多いが問題は無い。どれほど緻密な精度で私の心臓を狙おうと、警戒している私にその矢が届く事はない。

 

「セイバーのサーヴァントと見るが、残念だったな。 お前のマスターはじきに死ぬ。助けなくていいのか?」

 

全てを防ぎきったところで、色黒弓兵が口を開く。確かに、弓兵の言うことは正しい。けれど私は知っている。村正と言う刀鍛冶がどれだけ強いのかを。

錬鉄の精神は決して弛まず、叩かれる程により強大となる。

 

「生憎と我がマスターは死にはしないわ。 だって勝つもの。 それよりも、遠距離狙撃ばかりでは私の命に届かないわよ。 どう? 斬り結ばない?」

 

「セイバーのクラスと正面切って戦うほど私も馬鹿ではないよ」

 

挑発には乗ってこない。

足止めさえできればいいとマスターは言ったけど、それじゃ物足りない。見た所、この弓兵の練り上げられた闘気は歴戦の勇姿のそれだ。ならば斬り結びたいと思うのは必然。

 

「そう? なら私から仕掛けるわね」

 

アーチャーへ向けて踏み込む。

一直線に、最短距離で。 矢をつがえ、放たれた軌跡を最小限の動きで躱わす。確かに速い。しかし、胤舜殿の冴え渡る槍捌きに比べたらこんな矢を至近で躱すなど造作もない。

 

「いざ勝負!」

 

二刀で構えを取り、アーチャーとの距離を詰める。

矢のレンジから外れた事を悟ったアーチャーは獲物を近接の短刀へ切り替えた。それも二振り。私と同じ二刀使いなのかしら。

 

「──せやッ!!!!!」

 

刃が重なり合う。この一合は小手調べだ。弓兵が剣を携えるのはままあることだが、その大半は技量を持たぬ未熟者ばかり。故に、この弓兵はいかほどか。

 

互いに一度距離を取り、再び切り結ぶ。

小手調べとは言え私の剣戟についてくるとは中々にやる。だが剣術の底は知れた。私の敵ではない。

 

「ッ!」

 

変則の二刀が着実に命に迫る。

やがて剣閃への対応が追いつかず、斬り払われるのは明白。 いける!

 

「──ッぐ」

 

勝ちを確信した瞬間に、色黒の男が爆発した。厳密にはその武器が。

 

「自爆の推進力で回避するなんて。 中々に狂ってるわねアーチャー」

 

「だから言ったろう。 セイバーのクラスと正面からやり合うつもりはないと」

 

滴る赤い血が乾いた世界にポツリと落ちる。

片腕を抑えて、もはや満身創痍の相手。わたしの仕事はここまでかしら。足止めしろとしか言われてないしね。

 

仕事が片付きもう一つの戦況を横目に入れる。

あの巨体の戦士。一瞬視界に収めただけで理解した。傑物の類だと。並大抵の強者では太刀打ちできない怪物。 だけどまあ大丈夫でしょう。 お爺ちゃんもかなり強いんだし。

 

「──流石ね」

 

村正のお爺ちゃんが巨躯を斬り伏せていた。

化物の胴は分かたれ、サーヴァントを成す霊基が霧散していく。 

 

戦いの決着を告げるように、虚しく燃える刀の荒野がひび割れ壊れる。

お爺ちゃんが力を使い切り、倒れゆく。

 

「やるじゃん」

 

気づくと、私はお爺ちゃんを抱き止めて賞賛を口にしていた。

 

「おうよ。 けど、ちーっとばかし疲れた。 寝かせてくれ」

 

こうして私の初陣は幕を閉じた。

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