「いいじゃないか。サーヴァントってのはこうでなくちゃ」
結界の起点で、間桐慎二は勝ち誇るような笑みを浮かべていた。
「後で萎びた衛宮でも見にいってやるか」
傍に控えるのは彼のサーヴァント、ライダー。
面妖な出立ちの女は、何かに気づいた様子で武器を出現させて警戒態勢に入る。
「どうした? ライダー」
その言葉の直後、科学室の戸が勢いよく開けられる。
「は? おい、なんでだよ。 なんでお前動けて。
おい、来るな、来るなよ! 来るなって言ってんだろッ!!!!!」
慎二の言葉も聞かずにジリジリと距離を詰める襲撃者。
「ひぃッ、ら、ライダーぁ!」
必然的にサーヴァントに縋りついた慎二は怯えながら戦況を見守り、そして───。
○
階下へ向かう途中にソレは現れた。
「あれは、サーヴァント!。 マスターは下がってて」
大柄な女だった。目隠しをしている面妖な出立ちは一目で異質だと理解できる。
「いざ参る!」
刀を抜いた武蔵がライダーに迫る。
二刀が命への最短をなぞり、削り取る。
勝負は瞬きの間に決着した。
武蔵の刃がライダーの霊核を貫いた。
「──ッ! この手応え......」
貫かれたライダーからは、滴るはずの血が流れていない。 やがてその姿をフードを目深に被った女へと変貌させると、武蔵の顔を凝視し、笑みを浮かべて霧散した。
「今のは──。 まあいいわ。 行きましょうマスター」
不気味な邂逅に目を背け、慎二の元へ急ぐ。
階段を降りた先の廊下に慎二はいた。
何かに怯えているような、一目で正気ではないと判断できる状態だったが関係はない。
「テメェ、報いを受ける覚悟はできてンだろうな!」
剥き出しの刀身が慎二に突きつけられると、そこでようやく慎二は我に帰る。
「ち、違う!違う違う違う違う!僕じゃない僕じゃない僕じゃない!」
「とことん堕ちたみてえだな。 テメェの行為は畜生のソレと何ら変わんねえんだよッ!」
「だから違う、僕じゃない! 殺したのは......」
「ねえマスター」
「んだよ、今はそれどころじゃ」
「あそこ、見て」
武蔵に促され、教室の一角に視線を寄越す。
そこには壁に磔にされ、絶命したライダーの姿があった。首はだらしなく垂れ下がり、至る所が血に塗れている。やがて、ライダーの霊基は消失した。
「何者かの襲撃か」
先刻に接敵した女の姿が浮かぶ。恐らくはマスターも学校にいたのだろうことは容易に想像ができた。
「分かんねえことを深く考えても無駄なだけだ。今は──」
断罪の矛先を慎二へ──。
しかし再び視線を寄越した先に、慎二はいなかった。
「どうやら逃げられたようね。 追う?」
「いや、今は被害者達を廊下へ運ぼう」
生命力を吸われた生徒達は、まだ微かにだが息はある。このまま放置していれば死ぬのは確実。しかし、士郎達には生徒達を助ける術は無い。
「衛宮君?」
背後からの呼びかけに振り返る。
そこにいたのは遠坂凛。この学校ではちょっとした有名人だ。
「それに、サーヴァント」
遠坂は僅かに暝目すると、諦めたように溜息を吐く。
「戦っていたのは貴方達だったのね」
「何で結界内にいたのに意識がある。 テメェもマスターなのか?」
士郎の問いに遠坂はあっけらかんと答える。
「そうよ。 まあ私のサーヴァント、いなくなっちゃったんだけど。 ほら」
マスターであるならば当然所持している令呪が、遠坂凛にはなかった。それ即ち敗退を意味するのだが。
「戦いに負けた訳じゃない。急にいなくなったのよ。 まあ私の話はいいでしょう。改めて礼を言うわ。生徒達を助けてくれてありがとう。 後のことは私に任せて貴方達はもう帰りなさい」
気丈に振る舞う彼女には振り払えない翳りがあった。しかし、士郎には関係のないことだ。この問い如何によっては。
「お前さんのサーヴァントはアーチャーか?」
「ええ、そうよ。 私の言うことなんて全く聞かない大馬鹿野郎だったわ」
その言葉を聞いて、士郎は学校を後にした。
○
アーチャーの存在が揺らぐ。
「あまり時間はないようだな」
片腕を抑えながら月を見上げる。
何かを思い出しそうな酷く綺麗な月だった。昔の記憶はほとんど消えてしまったけれど、こびりついたように離れない、薄ぼやけた大事な記憶を振り払うようにアーチャーは歩く。
「過去に異変が生じれば未来が揺らぐのは必然。
だが、私はまだ消える訳にはいかない」
傷はやがて魔力で修復される。
けれど、存在力が修復される事はない。
「理想と言う名の妄執に取り憑かれた者が行き着く末路は虚無だ。何も成し得ず何者にもなれない。 ならば、そのような無様を私は殺そう」
進んで影の道を歩む。
月明かりは、今となっては眩しすぎるから。
だから、避けるように影に溶けた。