fate/ideal sword   作:霞露草

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怪物の証明

 

教会の門扉はあらゆる者の為に開かれている。

来るものを拒むことは無い。無いはずだった。

 

「貴様は」

 

僅かに開いた教会の扉の隙間から覗く何かとギルガメッシュの視線が交錯する。それは僅かな邂逅だった。けれど、鮮烈な過去を思い出すには、その僅かで充分だ。

 

「狂戦士......、いや、その残滓か」

 

第四次聖杯戦争の生き残りであるギルガメッシュは、この影の元となるサーヴァントを覚えていた。

真名をランスロット。湖の騎士として円卓に名を連ねた稀代の勇姿だ。狂化されてなお、洗練された技量は衰える事を知らず、ギルガメッシュを不快にさせた存在。その影が、ギルガメッシュと言峰綺礼の前に現れた。

 

「汚染された聖杯の泥が残滓を吸い取っていたか」

 

扉の隙間からギルガメッシュを凝視するランスロットの影はやがて闇に溶け込むように消えた。

 

「器が完成に近づき、この世全ての悪(アンリマユ)と同調し始めたようだな。だから言ったであろう。今のうちに死んでおけよ、と」

 

そう言い残して、ギルガメッシュは教会を後にした。

 

 

 

           ○

 

 

 

「くそッ───くそッ!くそッくそッ!!」

 

怒りのままに物を放る。

いつもの光景だ。

彼が3年前に真実を知ってから始まった、暗い感情を抑えるための代償行為だ。

そうでもしなければ、自分と、妹を赦す事ができない。

 

自分は他の人間とは違う。

間桐家は選ばれた一族だ。

選ばれた自分は特別なのだと誇りを持っていた。

 

その選ばれた家に、いつしか知らない子供が紛れ込んでいた。なんでも、その女の子は養女だと言う。

桜と言う名の少女は、その日から間桐家の一員になった。

 

間桐家である事に誇りを持っていた彼は、もちろん妹となった桜を毛嫌いした。

 

異分子なんて必要ない。

 

だが、日が経つにつれて彼は妹を容認していった。

 

桜と言う少女は凡庸だったから。

特別な自分が凡庸な妹を敵視するなんて、無駄でしかない。

 

 

 

"え─────────?"

 

 

 

見なければよかった。そんな後悔はもう遅かった。

偶然見つけた部屋で、彼は間の抜けた声を溢した。

 

その部屋には、彼に与えられなかった全てがあった。

 

部屋の中央にいる少女が、全てを与えられている事を、理解した。

 

それで、終わった。

これまでに彼を形成していたものが。誇りが踏み躙られていく。

 

特別だったのは自分ではなく妹。

隔離されていたのは妹ではなく自分。

哀れなのは──間桐慎二。

 

そこから彼の生活は一変した。

前以上に妹だけを扱うようになった父。

ただ俯くだけの妹。

居心地の悪さからか、言葉が吐露された。

 

"──ごめんなさい、兄さん"

 

かつて妹に向けていた感情を、彼は味わう事になった。

 

「は───はは、あははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

ただ、笑った。

ただ、可笑しかった。

ただ、全てを破壊したくなった。

 

そんな彼に見返すチャンスが訪れた。

聖杯戦争だ。

この儀式に生き残り、聖杯を手に入れれば見返せる。しかし、彼の希望はまたしても踏み躙られた。

 

「おい桜」

 

妹の部屋を荒々しく開け放つ。

この感情は、もう止められない。

 

「おまえは間桐の後継者なんだぞ。尊き間桐の後継者なんだぞ──!」

 

激情に駆られた口が回る。

 

「ああ、それなのにお前は謝るんだよな。ごめんなさい、ごめんなさいってさ。 じゃあさ、すまないと思うなら僕の言う事だけ聞けよ。

罪の意識?そんなもの知ったことかよ。間桐家の人間って自覚があるなら兄の言う事を聞くのは妹として当然の義務だろう!」

 

頭を掻きむしる。

 

「お前が、お前が取ったんだぞ衛宮」

 

人並みの感情を持たなかった妹は、衛宮士郎らとの出会いを機に、人並みの感情を取り戻していった。そして、妹は衛宮士郎に惹かれていった。

 

「見ていろ衛宮。桜の目の前で、お前を殺してやるよ」

 

奴のせいで桜が間桐家から離れていくならば。

 

「なぁ、サクラぁ」

 

キチキチと笑う慎二が桜に迫る。

 

「いや! やめて兄さん」

 

非力な桜が慎二を押し返せないのは道理だ。

蹂躙されていく。肉体が、兄に。

以前ならば抵抗しながらも受け入れていた。

 

「セン、パイ───、」

 

汚れた彼女が想い馳せるのは醜いだろうか。

けれど、想わずにはいられなかった。

 

「........え?」

 

桜の中の何かが弾けた。

そして、間桐慎二が死んだ。

 

「──あ、ァァ」

 

殺したのだと、理解した。

けれど彼女は兄を殺しても、罪悪感を覚えることはなかった。

 

そして、受け入れた。

 

自分が、怪物であることを。

 

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