【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
【side 冬美】
母さんの入院している病院に、私と夏は荷物を持って訪れた。
理由はいつものお見舞い……
「着替えと羽織るもの持ってきたよ。涼しくなってきたからね……来週からもっと冷え込むみたい」
「ありがとう冬美。でも寒いのは好きだから嬉しい」
「暑がりだもんねぇ俺ら」
外行きの服にお母さんが着替えるのを手伝いつつ、この部屋を出る準備や片付けを夏と一緒に進める。
今日は一時退院の日なのだ。
お母さんが、約10年ぶりに実家に帰ってこられる日。
ここ最近は本当に症状が落ち着いて、心も安定してて……私や夏、焦凍とは普段通りに、昔のお母さんのように優しく話すことができていた。
幾野くんも、焦凍や学校の友達なんかを連れて何回も見舞いに来てくれていて……きっと、私たち家族以外の刺激があったことがお母さんの回復を大きく促してくれたのだろう。
彼の、どこまでも明るい温かさに触れて……お母さんの症状が回復したことを、私たちは疑っていない。
「夏くんも元気そうね」
「大学入ってから全っ然帰って来ないのよ。ゼミで彼女できたんだって!」
「姉ちゃん!! 連絡入れてるからいいでしょ!?」
「ふふっ。男の子ね……どんな子なの? 優しい子?」
「恥ずかしいって! 後で紹介するからさ!」
「幾野くんに送られた自撮りを彼女に見られて誤解されてケンカしたらしいわよ?」
「あら! うふふ……! それは困ったでしょうね!」
「姉ちゃんそこまで言うことないでしょー!? いやマジで幾野くんアイツさぁ! 最悪のタイミングで送ってきてさぁ!!」
私たち家族だけの話題だけではない、自然と広がるのは幾野くんの話。
あの子が……焦凍の友達であるというだけではなく、私たち家族のことを気にかけてくれているというのは、わかる。
前に食事に来てくれた時に……話してくれたからだ。あの子の過去、悲しい個性事故の話を。
焦凍から家庭の事情を聞いちゃってるから、自分の話も聞いてほしいと切り出して。
その時にいた私とお父さんはその話を聞いている。
親を失い……それでも友達に助けられ、前を向き、光の道を歩み出した幾野くんを尊敬している、といってもいい。
私もあの子みたいに、強くなりたいとさえ願ったほどに。
「焦凍からメールが来るのよ、寮生活でいろんなことがあるらしくってねぇ。いっつも幾野くんが事件の中心になってるみたいなんだけど」
「女装大会だろー? 俺も見たよ、焦凍の女装爆笑しちまったよまったく! こないだスマホ解禁したもんねお母さん」
「あれはすごかったよねぇ……服のセンスもだし、他の子の化粧も随分上手で。女としてちょっと敗北感あるもん私」
「ふふ。今頃幾野くん、何してるかしらね。焦凍と仲良くしてくれてるかしら」
「……あー、お母さん。幾野くんなら昨日テレビに出てたぜ……親父と」
幾野くんの話題から、夏が昨日のビルボードチャート……ナンバーワンヒーローとなったお父さんと、その発表会のMCをしていた幾野くんの話題を広げる。
一時退院である今日、お母さんは家に帰ってくるが、その時にお父さんはいない。九州に急な出張が入ったと聞いている。
それがたまたまなのか、お母さんに会うのを恐れてなのかはわからなかったけれど……だからこそ夏も一時退院にNOと言わずに付き合ってる所もあると思う。
……本当は、お父さんも焦凍も一緒にいられればよかった。私はそう思ってる。
「夏。……お父さんは」
「いいのよ冬美」
「……俺、さ。あいつのことやっぱり許せねぇんだよね。お母さんや焦凍たちの事……なかったかのようにふるまってる、ように見えてた。
「夏……」
夏の口から零れる、お父さんへの想い。
それは長年こびりついた忌避感と嫌悪感で、どす黒く固まってしまった心の澱みであったものだ。
私の中にも、それがないとは言わなかった。
家族みんなで仲良くしたいという想いに相反する、お父さんを恨む気持ちが、無いとは言わない。
けれど。
「でもさ……幾野くんが前ウチの近くで仕事した時に寄ってくれて、一緒にメシ食ったときに色々聞いたんだよね。ヒーロー活動ってメチャクチャ多忙で夜遅くまでやることも多いって。実際その時幾野くんが来たのも夜で泊まりなんだっつってた。まだ高校生なのにさ……で、親父とかトップレベルのヒーロー事務所なんかはそれこそ不夜城で働いてるって。親父が日本で一番事件解決数が多いなんてこと、幾野くんに聞いて初めて知ってさ。俺、何にも知らなかったなって」
「夏……」
「…………」
「……思い返せばさ。あいつ確かに普段から家に全然いなかったんだけど……入学式とか、授業参観とか……そういう行事には来たんだよな。嫌いだったから俺ずーっとそっぽ向いてたけど。……姉ちゃんもそうだろ?」
「……うん」
「俺の、ガキの頃の視点じゃ許せねぇって気持ちしかなかったんだけど……何ていうんだろな。家族じゃない第三者に冷静に言われて気付くことってあったんだよ。親父、家族を決して蔑ろにしてたわけじゃなかったんだな、って……幾野くんに言われて初めて気づいた」
夏が、自分の気持ちを。少しずつ視野が広がっている自分の想いを零す。
その夏の気持ちは……きっと、幾野くんの昔のことも聞いていたからなんだと思う。私も幾野くんの過去を知っているからわかる。
彼は小学校時代、ずっと父親と距離を取られていたと言っていた。学校行事にも仕事が忙しくて来たことなんて数えるくらいしかなかったって。
そこだけを聞くと……お父さんは、仕事に何としても都合をつけて、私たちの行事には顔を出してくれた。日本で一番忙しいヒーローなのに。そうできるように、サイドキックの人たちをいっぱい雇って。
「……でも、やっぱり許せないんだよな、どうしても。気持ちの整理がついたうえで、やっぱり親父は許せない……一緒に暮らしたり、仲良くメシ食ったりするってのができそうになくてさ。……どうしたらいいもんかな、俺」
「夏くん。…………きっと、それでいいと思うよ。私も……焦凍や幾野くんと話して、色々考えたの」
「お母さん……」
「……このお花、私が好きって言ったの。初めて会った頃、たった一度」
夏の話を受けて、お母さんもまた自分の中に生まれた考えを口から零す。
窓際に飾られた花を見て、それがお父さんからのものだと告げて。
「お父さん、来たの……!?」
「うん、何度か……
瞳を閉じて、静かに母さんが言葉を零す。
私も夏も、その言葉を聞き逃さぬよう……黙って聞き続ける。
「私が……夏が、冬美がそうしたいと思っているように……あの人も、変わろうとしている。向き合おうとしてる。だから……ね。私、思ったの。幾野くんを見て思ったのよ」
「……お母さん。それは、どんな?」
「私達ってクソ真面目過ぎたのよ」
「「お母さん!?」」
急にお母さんから信じられないような言葉が零れて私も夏も驚きで思わずツッコんでしまった。
どうしたの急に!? お母さん幾野くんからなんか変な影響受けてない!? 脳が回復じゃなくて破壊されてない!?
「いえ、真剣な話よ。かつて……あの人は余りにも真面目にナンバーワンを目指して、私と出会った。私はあの人を真面目に支えようとして、自分を追い詰めた。でも、私たちの間に
「お母さん……」
「もっと雑でよかったのかなって。大変だったら大変だって言えばよかったし、嫌だったら逃げちゃえばよかった。実家に戻ったってよかったし、ビンタの一つでもすればよかった。泣いちゃえばよかった。でも、追い詰められて、心が壊れるまで我慢しちゃった……不器用だったのよ。私も、あの人も。だから……次にあの人に会ったら、まず私は心の内を全て伝えるつもり。言わないとわからないものね」
「……それ、前向きな話だって捉えていいやつ?」
「ええ。私なりの開き直りっていうのかしら……幾野くんを真似してみようかなって。あの子、とにかくなんでも行き当たりばったりでやって、笑顔を見せる所からやるんですって。それを聞いて、すっごい羨ましいなってなって……私もそうしてみるつもり」
「あー。幾野くんなら言いそう。……ヒーローだよなぁ、あいつ」
「うん。だから夏くんもそれでいいと思うの。父親と仲の悪い家庭なんていくらでもあるのだし。私や冬美や焦凍のことは嫌いじゃないんでしょう? だから会いたいときにだけ会えればいい。あの人に無理して付き合わなくてもいいのよ。それぞれが、それぞれの想いを知って……その上で、それぞれの道を歩ければ。…………なんて、全部幾野くんの受け売りだけどね」
「……幾野くん、本当にお節介を焼くのが好きよね」
「ヒーローの本質なんですって、それが」
お母さんの独白を聞いて、私はその内容に理解を深めた。
確かに、そう。私も含めて、私たち家族は不器用で、真面目過ぎた。
それぞれが余りにも真剣に問題を問題と認識して、重く考えていたのは間違いなくて。
だからこそ、すれ違いが埋まらなかった。
けど、焦凍が連れて来てくれた幾野くんが、それに気付いてくれて。
彼なりに私たち家族を心配してくれて……寄り添ってくれていた。
隣にいてくれた。
その結果、お父さんも少しずつ変わって……焦凍と一緒にソバなんて食べるようになって。
夏もお父さんへの見方が変わって……お母さんも、お父さんと向き合えるようになって。
私たち家族みんなが、勇気をもらってる。
……本当にこれで家族関係が回復して、みんなで食卓を囲めるようになったら……なんて、私も夢を見てしまう。
そうなれたら、幾野くんに御礼を言っても言い切れないくらいになりそうだ。
お父さんが勝手に盛り上がってたお見合いの件、本気にしちゃいそう。
「……ふふ。でもあの人ったら、今日はいないんでしょう? 私がこんなに覚悟を持って一時退院するのに逃げるなんて、男らしくないわね」
「あ、マジでそれな。意気地がねぇんだよアイツ。まったく、幾野くんの爪のアカでも煎じて飲めって話だよな!」
「仕方ないでしょ、お仕事なんだから! お母さんも久しぶりのお家だからまずは慣れないとね。今夜は一緒に寝る?」
「ん? ふふ、それじゃあお願いしようかしら……冬美も随分大きくなっちゃったから抱きしめるのも大変ね」
「太ってはないわよ?」
「嘘だぁ。姉ちゃんこないだの夏よりちょっと腰のあたり丸くなってんじゃん 夜食食べ過ぎ?」
「夏! マウントレディを茶化す幾野くんみたいなこと言わないの!!」
「ははは! ラーカーズの動画毎回面白くてさぁ! 俺授業中だけどリアルタイムであの生放送見たもんね!」
「あら……ちゃんと授業は受けなさいね夏くん?」
「耳がいてぇや」
「ふふっ」
改めて、真面目になり過ぎずに適当に肩の力を抜いて、私たち家族にとっては珍しい、笑顔の溢れる会話を交わして。
退院手続きを経て、私たちはお母さんと共に一時退院し、自宅に向けてタクシーを呼んだ。
「─────あら? 緊急速報……?」
【side 峰田】
オイラ達は寮の共用スペースにある大型テレビの前に集まっていた。
テレビを見つつも、それぞれがニュースサイトや動画生放送をノートPCやスマホで見ながら……全員が目にしてるのは、そのニュースに映る内容。生中継だ。
「やべぇぞ……!?」
「アイツ今あそこにいるんだろ!? エンデヴァーとホークスと一緒に!!」
「どこ!? 映像に見えない!! センちゃんどこぉ!?」
「嘘だろ……ビルが崩れてるぞ!?」
「っ……あのビル、もしかして……かっちゃん!」
「あァ……ホークスに連れてかれた料亭のビルで間違いねェ。ホークスと一緒にいるっつったか幾野は……クソ、狙われやがったな」
「あそこはホークスの地元だ。エンデヴァーもいるとなればヴィランが狙う理由も頷ける……!」
緊急速報で流れ出したLIVE映像には、九州のホークスの地元が映し出されて。
緑谷と爆豪と常闇が言うにはホークスの地元らしい。今崩れて……ホークスの羽根で緊急的に人々が避難させられて、エンデヴァーが炎の鞭を細かく繋いで崩れたビルの瓦礫を焼き切ってる映像が流れた。
あそこにイクノがいるってなりゃ、間違いなく戦闘に巻き込まれてるはずだ。
「親父……っ」
「轟さん……」
轟も食い入るように画面を見つめている。
爆豪と一緒にエンデヴァー事務所にインターンに行って……最近は親父さんとの関係も少しずつ改善されてるってイクノが言ってたもんな。そりゃ気になるか。
オイラとしちゃイクノが誰かを助けられないようなことがないかだけが心配だよ。
こんだけの広域災害になると、アイツ一人じゃ助けられねぇ。それこそエンデヴァーとホークス、ナンバーワンとナンバーツーがいてくれたからこそビルの崩落があっても全員救出できている。
油断すんなよ最後まで。お前が今できることは決して避難誘導じゃねェ。お前の強みを活かせ。
「わー!? エンデヴァーが崩落するビルを微塵切りにしとるよ!?」
「ヤベーなあれ!? とんでもねェ精密性だ!」
「流石はナンバーワンと言ったところか……!! ホークスも周辺被害を減らしている!」
「っ、幾野だ! 空飛ぶ脳無にとりついてやがる!!」
「ケロ……センちゃん、攻めに回るのね。脳無相手に……首絞めは効かないはず。どうするの……」
「センちゃん頑張って……!!」
「イクノさん……どうか無事で……!!」
「幾野くん……ッ!」
画面を見ながらクラスの奴らはひやっひやだ。まぁあんだけの破壊を見せられちゃぁな。オイラも市民に被害が行かない事だけはガチで祈ってる。
でもイクノの心配はオイラは特にしてねぇ。あいつとはオイラが一番よく話してんだ。朝練で一緒に走ってる時なんか、お互いに戦術論を練ったりしてる。
その中で、脳無と相対したらどうするかって話もしたことがある。
オイラは当然のもぎもぎネット投擲による捕縛。保須市じゃくっつけるだけしかできなかったけど今のオイラなら5発もぶつけりゃ完封できる。
アイツらの持ってる個性はランダムで、火を吐くようなやつ相手にゃちとキツいけど、それ以外だったら当てりゃ止められる。ある意味脳無特効かもなオイラ。
でもイクノは物理的に厳しい相手だ。ダイブワイヤーで電流を流しても通じない可能性もあり。じゃあどうするかって話をして……そこであいつは既に覚悟をしていた。
守るために鬼になる覚悟を。
「ッおォォ!? 脳無がなんかメチャクチャに飛び回ってんぞ!?」
「痛みに耐えかねてるかのような……叫んでいるようにも見えるな」
「画面が遠い……! なんだ!? 何をしてる幾野!?」
「……多分だけどよ。剥き出しの脳味噌に手ェ突っ込んでるんだと思うぜ。前にオイラそんな話をしたことがある。弱点曝け出してんのに狙わねぇ理由ねェよなってよ」
「なんと!? 確かに脳無の剥き出しの脳は明らかな弱点だが……それをやるのか幾野くん!?」
「脳無でも殺しちゃうんじゃないのそれー!? ヤバない!?」
「いや、ヒーロー協会の公式見解では脳無はヴィランとは別の改造人間の扱いだから殺しても罪には問われないんだ。保須市でも神野でも、脳無の息の根を止めたヒーローに何の罪もなかった。でも、幾野くんは……」
「ケッ!! 生け捕り狙えるレベルの相手じゃねェだろうが! 躊躇って下にいる市民が殺られたらそれこそおしめェだ! 行けやァ幾野ォ!! 脳ミソ抉りとれェェ!!」
「いや爆豪の言う通りではあるんだけどよ!? 大丈夫かアイツ……!?」
「大丈夫だ。イクノはそんなに弱くねぇよ……最後まで油断するんじゃねぇぞイクノ……!」
画面の向こう、オイラと話した通りに脳無の剥き出しの脳を狙うことにしたイクノが見えた。
映像の上では遠目には高速で上下左右に飛び回る脳無の動きが激しく、背中に潜り込んだイグジストの姿は見えても具体的に何をしてるかは見えないだろう。あの速さをアップでカメラが追い切れてない。フードみてぇなもん被ってるから脳ミソも露出してねぇし。
引きの絵ではなんか知らんが脳無にダメージを与えてるように見える。これなら変な誹謗はねェかな。そう信じたい。
あとはエンデヴァーがきっちりトドメを刺してくれりゃあ解決だ。
今ちょうど、ビルを焼き切り救助活動を終えたエンデヴァーが再び脳無に近づいていく。
「エンデヴァーが援護に来たぞ!」
「時間稼ぎを幾野がしてたってのが正しいんじゃねぇか!?」
「エンデヴァーの火力なら脳無だろうと行けんじゃないの!? これなら……!」
「親父……とっとと仕留めろ!!」
しかしそこで脳無の体から白い塊が放たれようとして、その半分以上をエンデヴァーが焼いたが……いくつかは町に降り立ってしまった。
そちらにはホークスが向かったようだ。あの人速すぎてマジで映像に映らないわ。オイラのスクランブルといい勝負だぜ。場所次第だけど。
白脳無は弱い。ホークスがあんだけ動けりゃ問題はないだろうな。あとは黒脳無だけだ。
『ああ、今!! 見えますでしょうか!! イグジストが取りついているヴィランに向けてエンデヴァーが!! この距離でもまぶしいほどに激しく発火しております!!』
「あの光量……プロミネンスバーンだ!!」
「エンデヴァーの最大火力だ……アレで灼けなきゃ誰も灼けねェ。決めろやァエンデヴァー!!」
「センちゃん、頑張って……!!」
画面の向こうでエンデヴァーの体が輝き始めた。
プロミネンスバーン。最大火力で仕留めるつもりだ。
イクノがひっついて多分眼も潰してるから行けるか……行っちまえ。やってやれエンデヴァー!
『────────ッッ!!』
画面の向こうですさまじい熱線が脳無に向けて放たれた。
間違いなく焼き殺しただろうその威力に……しかし、オイラたちのうち何人かは気付いた。
「っ、今何か脳無が……首を飛ばした!? 幾野くん!?」
「自殺!? いや、退避したのか!? なんたる回避を!?」
「チッ、何やってやがる幾野ォ!!」
「親父、やってねぇ!! 油断するなっ─────」
「イクノ、止めろォォ!!」
脳無が咄嗟に何かをブチ投げたのが、見えた。
オイラの動きすら見えるレベルになってきた数人がそれに気付いた。今、明らかに脳無が自分の首をブチ切って熱線から回避させた。
すぐ近くにいるイクノたちには動きが見えてなかったか……オイラ達も引きの映像で、プロミネンスバーンの光が影を作り頭が吹っ飛んでるのが見えたからわかったほどの動きだ。
だがまずい。脳無の再生能力があればあそこから反撃が来るかもしれねェ───イクノ!!
「っ、センちゃん!!」
「んなッ!? あ……っぶねぇ!?」
「うわ、ギリギリー!? すごいよイクノー!!」
「今の触手マジでヤバかったな!? エンデヴァーの頭狙ってたぞ!?」
「よく止めましたわイクノさん……!!」
「っっ……っはぁ───……マジで流石だぜ幾野……」
瞬間、空中でイクノが飛ばしたワイヤーが最悪の事態を回避した。
ようした。マジでよくやったわイクノ! よく止めた!
多分全力で無視したなありゃ。一瞬でも躊躇ってたらエンデヴァーの頭が貫かれてるレベルだった。
ギリギリ脇腹かすった程度にズラせたぜ。ひやひやさせやがってよマジでよ!
流石の轟もこれにはほっと息をつくレベル。みんなも胸をなでおろしている。
「再び幾野くんが脳無に取りついたぞ!!」
「さっき頭を切られて逃げられたからもう逃がさないように頭に腕を埋めてる……!! 内側からやるつもりだ幾野くん!!」
「っしゃあ!! もういっちょ脳ミソブチまけろやァ幾野ォ!! 加減すんじゃねェぞ!!」
「マジでやっちまえ幾野!! エンデヴァーももう一丁!!」
イクノが再度脳無にとりついて、今度こそ逃がさぬように内側から責め立てる。
地上で大暴れする脳無だが周辺の避難は済んでるようだ。ホークスかな、流石だぜ。
エンデヴァーも軽傷を負ったが無事だ。
もう一撃、今度こそ逃がさねぇでくれよなエンデヴァー!
『見えますでしょうか! 突如として現れた一人のヴィランが町を蹂躙しています!! はっきりとは確認できませんが『脳無』とも思われるような姿で、現在ヒーローたちが交戦・避難誘導中です!! いち早く応戦したエンデヴァー氏、およびイグジストが奮戦しています!! ホークスも散らばった脳無を撃退しています!!』
「被害を最小限に食い留めてるぜ! 幾野が掴めば逃げられねぇんだよ!!」
「センくんのアレ相変らず流石やな!」
「最後まで油断しちゃダメよセンちゃん……」
「お願い、勝って……!! 無事に……!!」
「大丈夫ですわ葉隠さん、イクノさんならきっと……!」
「エンデヴァーもすぐには撃たねぇな……?」
「多分熱が籠っちまってる。親父の体質……でももう一発くらい気合でぶちかませクソ親父!!」
「轟……」
「っ、脳無が、幾野が浮いたぞ!? なんだ!?」
「ホークスの剛翼に相違ない……既に相当の羽根を使っているだろうに、流石だ」
イクノと脳無が再び空に舞い上がった。常闇曰くホークスの羽根の力らしいな。やれること多いなホークス。
ここまでくりゃ心配はいらねぇか。一度やらかした分、もう二度とミスりはしねぇさイクノは。エンデヴァーだってきっと。
やっちまえ、今度こそ!
『象徴の不在が謳われた今!! 再びの悪夢の再来を阻止せんとヒーローたちが戦っています!! 再び空に飛びあがるイグジストと、それを追うようにエンデヴァーが!!』
『エンデヴァー!! エンデヴァー!!』
『イグジスト!! イグジスト!!』
『聞こえますでしょうか!! 人々の祈りが、願いが声になっています!! この声に応えるようにエンデヴァーが再び光を纏って!!』
「行けー!! 幾野ー!!」
「エンデヴァー、やっちゃえー!!」
「行けェェェ!!」
「行ける……行けっ!! 勝てっ!!」
「センちゃん……頑張って!!」
「イクノ……!!」
「親父────見てるぞ!!!」
人々の、オイラ達の、轟の声に応えるように……エンデヴァーが再びプロミネンスバーンを放つ。
先程よりも強く激しく輝いた熱線は、今度こそ脳無を逃がさなかったイクノごと全てを吞み込んで。
灼熱の奔流が空高く放たれ、その後に残るは……灰になった脳無と、無傷の
無敵のアイツが、勝利を確信して微笑みを浮かべた。
そしてホークスの羽根を失い、自由落下していく。同じく落ちていくエンデヴァー。
途中で、オイラにだけギリわかるくらいにイクノがエンデヴァーを気にした様子を見せたが、エンデヴァーがそれを固辞したか。
男の、ナンバーワンの意地だねどうも。
『──立っていますッ!! 最後までヴィランを拘束し続けたイグジストと、灼熱の咆哮を「轟」かせたエンデヴァーが!! 高々とこぶしを突き上げてスタンディング!! エンデヴァーーーーーー!!! 勝利の!! いえっ、始まりのスタンディングですっ!!!』
「「「ウオオオオオオオオオ!!!」」」
寮内大絶叫。
多分どこの寮も、どの町も同じことになってるぜ。
高々と上を向いてこぶしを突き上げるエンデヴァーに、次なる象徴を見たからな。
かっけぇぜマジでよ。人々を守り巨悪を討った。
さっすがナンバーワンって所。
でもま、それを支援したイクノだってよくやったわ。
えらい。帰ってきたらこないだ見つけたお勧めのエロ動画をシェアしてやんねーとな。
お疲れさん。
「…………ッはぁーーーーーーー………!!」
「よかったね、轟くん!」
「センちゃんのおかげだねー!! 私の彼氏えらい!」
「イクノさんも本当に、よく最後まで粘り続けて……エンデヴァーもお見事でございました」
「ケッ! 一発目に油断したの忘れてねェからなァ……帰ってきたらつっつき殺したるわ!!」
「ちっと器が小せェぞ爆豪それ」
立ちながらテレビを見てた轟がとうとうへたり込んじまった。
まぁそりゃ心配だったろうよ。親友と親父さんがとんでもねぇヴィランと戦ってたんだからさ。
でももう大丈夫だ。完璧に脳無はやったし……あとは人々の避難、救助だな。
今度こそイクノがしっかり輝く場だわ。しっかりやれな、無理しねぇ程度によ。
「……!? ちょっと待って、アイツ……!?」
────だが。
テレビを見ていた耳郎の息を呑むような声に、安堵の空気が広がった寮内に再び緊張が走った。