【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
エンデヴァーの勝利のスタンディング。
魅せつけた拳を、しかし戦闘の疲労やダメージもありいつまでも続けているわけにも当然行かず、大きく息をついてゆっくりとエンデヴァーが拳を下ろす。
俺も完全に灰になった脳無から離れて立ち上がる。まだ仕事は残ってるのだ。
ここから先は仮免試験の二次試験と同じ、バイスタンダーだ。
崩れたビルの崩壊に巻き込まれてる人がいないか視なければならない。
ホークスも駆け寄ってきたが……俺はまだまだ動ける。俺だけはダメージという意味ではほぼゼロだしな。
「オールマイトとポーズ同じじゃないですか」
「腕が違う、奴は左だ……!」
「知らんですよ! とにかく無事勝ってよかった……イグジストくんもナイスだったよ!」
「いや、途中甘えちまいましたよ。一発目で逃がさなけりゃこんな戦いになってねぇっす。エンデヴァー、脇腹大丈夫っすか?」
「大して深くもない……俺も油断した、再生能力を計算しきれていなかった。フン、酷いスタートを切ったもんだ」
未だ排熱しきれずに体から蒸気を上げるエンデヴァーにホークスが肩を貸す。
俺も……と思ったけど必要ないか。カメラに映るのはナンバーワンとナンバーツーがいい。俺が目立ちすぎてもな。
あとちょっとお義父さんの加齢臭すごいだろうし今。
後でいい香水をプレゼントしてあげよう。ヒーローはそういう所も気にしないとね。うん。
「それでもこの勝ちはデカイはずです……! 新しい象徴と、そして次代のヒーローの芽吹きも見せつけた! いい風吹きますよきっと!」
「フン……そうするためにもこの事件の被害を極限まで減らすぞ。まだ動けるなイグジスト、ここからは……」
「わかってます! 救助活動っすよね、得意ですよ! 仮免試験で91点でしたから」
エンデヴァーもまだ動けるため、ここからは救助活動だ。
ホークスはだいぶ羽根を使ってるようだけどそれでも飛ぶくらいはできるだろう。
俺が司令塔になる。
周囲に近隣のヒーローも集まってきてくれてるだろうし、仮免試験の時のように─────
「────ちょーっと待ってくれよ。色々想定外なんだが」
しかし、そんな俺らに声をかけて来た男がいた。
ああ、聞き覚えのある声色だ。
その声を聴くだけで反吐が出そうなほどの屈辱の記憶。
かつて俺を哀れんだ男が。
ヴィラン連合の幹部が。
荼毘が、俺達に迫っていた。
────────。
「まァとりあえず初めま」
捕えた。
「ガッ─────!!」
「っ!!!」
「!? イグジスト……!?」
俺の両手は荼毘の首にしっかりと絡みつき、その喉を圧迫していた。
一瞬だ。0.01秒もかけていない。
ミリオ兄さんのファントムメナスと同じ速度で接敵して必殺の首絞めを仕掛けている。
『距離』の『無視』。己の体をワープさせた。
赤の他人のコイツ相手には100mも飛べないが、しかしこの距離ならば一発限りで間合いを瞬時にゼロにできる。
かつての林間合宿の時とは違ぇんだよ。
なーに余裕ぶっこいて出て来てんだコイツ。バカ丸出しじゃねーか。
「……ッ、…………!!」
「久しぶりだな荼毘さんよォ……! どうしたよ、ワケ知り顔で出て来たじゃねーか。何か俺らに言いたいことあるんだろ? ほら、聞いてやるから言ってみろよ」
「ッ、……!! ……ギ……!!」
「ん? 俺に見惚れて照れちゃって声も出ないか? クソ野郎がよ」
俺の腕を掴もうと藻掻く荼毘。無論の事俺には触れられないのでそのままネックハンギングを継続する。
距離を離してればダイブワイヤーでの奇襲なら避けられるとでも思ったのだろうか。
そりゃ確かにな。20mも離れてればワイヤーでの奇襲は避けられるだろう。前にトガヒミコに避けられたこともある。
地面に潜り込んでの奇襲だって空飛べばいいしな。こいつも炎系だからエンデヴァーとか轟みてーに飛べるかもしれない。それで逃げられたかもしれない。
でも、だからこそ躊躇いなくワープして初動を潰してやった。
幹部が折角ホイホイ出て来てくれたんだから逃がす道理はねぇよな?
気絶させて捕まえて情報引き出してやろうぜ。最近情報話させる個性のヒーローとも知り合ったしな。あんま会いたくねぇヒーローだけど。
「………………ガ、ァァ!!」
首を絞められながらも荼毘が青い炎を吐き出し、周囲に巻き散らす。
だがちょうど今周囲には誰もいない。エンデヴァーが無事に着地し、脳無がいたことでホークスが人払いしていたからだ。
市民への被害はゼロ。当然俺に効くはずもなく。
エンデヴァーもホークスもまだ満身創痍というわけでもない、問題なくそれぞれ対処はできていた。
「よくやったぞイグジストォォ!! そのまま離すなよ、今度こそ生け捕りにする!!」
「ったく、マジで舐めすぎでしょイグジストくんのこと……!」
エンデヴァーも再び炎を纏って臨戦態勢に。
ホークスも少ない羽根から剣となるそれを生成し、距離を取って構えた。
……とはいえ、この二人にはできれば後詰めをお願いしたいところだ。
荼毘は炎系の個性。エンデヴァーの炎が万が一吸われて回復なんてことを出来るタイプの個性だと噛み合いが悪い。
ホークスならスピードで対処できるかもだが、羽根と炎はそもそも相性が悪い。折角俺がこうして必殺の態勢になってるのにあえて隙を生む理由がない。
任せてくれ。人間相手なら俺が世界で二番目に強い。一番はミリオ兄さん。
で、この掴んでる荼毘はランク外だ。締め堕としてやるよ。
「ッ、…………!! グ…………ァ……!!」
「結構粘るね。でも無駄だぜ、何があっても離してやらねぇからよ。罪の数数えながら墜ちやがれクソ野郎が」
「ミ゛……! ッ………ゥ……じ、こ、さ……!」
「……っ」
一切躊躇いなく首を、気管と頸動脈を同時に締めていたところで……荼毘が何やら呟いた。
その言葉の後……喉奥から何かせりあがってきた感覚を、ヤツの首を掴んでいる手が感じ取って。
なもんで、より強くぎゅっと気管を握りしめてやった。
ぴゅっ、と僅かに荼毘の口から臭いヘドロのような何かが漏れたが……しかし物理的に俺が気道を締めてるので僅かにしか放出されなかった。
きったね。
「ガヒ……!?」
「っ、うぉっ汚ねっ! くっせぇ泥……これがヘドロワープか。知ってるぜ、聞いたからなぁ!」
なるほどこれは見たことがある。聞いたことがある。
ヘドロのようなものが口から出て転移するタイプのワープだ。
その経験を聞き、口からくっせぇヘドロが出てきて最悪だったって言ってたが……その時の状況はバッチリ聞いている。
これ、
図らずも首絞めで完封できるじゃん。
「………ッッ…!!」
「頸動脈で落とすよりも逃がさねぇ方に全力したほうがいいなこれ。逃げようとしなけりゃ頸動脈シメて一瞬で気を失えたのに残念だったな荼毘さんよ。気道潰して地獄の苦しみで落ちることになったな」
極める位置を変更。頸動脈ダイレクトに締めるなら数秒で意識を落とせるが、その途中で泥が溢れちゃ逃げられる可能性がある。
なんで口から泥を出さない様に気道をふさぎ続けることにした。純粋に酸素が足りなくなって気を失うまで待つ。
両手には気道からせり上がろうとする泥の感覚があるが、この細腕でもそれを止める程度の握力は出せる。片手で70kgくらいは今は出るかな。最近ワイヤー移動関係で鍛えてましたから。
「そのままだイグジスト! 俺の炎では万が一荼毘を回復させる恐れもある、現状を守る!! そのまま締め堕とせ!」
「……ですね、俺の剛翼も炎に弱い。このまま……ってちょっと!?」
「────そのまま捕まえてろイグジストォ!!」
しかしそこで新たな闖入者が。
ダイブセンサーを展開してなかったんで気付けなかった。聞き覚えのある女性の声に振り返れば……ミルコがこっちに飛び跳ねて来ていた。
え、いつ来たんすかミルコさん。今は援護いらないっすよ!?
「──グ───ッッ!!!」
「ハハハ!! いいぞイグジスト!! 離すなよ!! 今からこいつサンドバッグにする!!」
「いやまぁ離さないですけど!! 首絞めてヘドロ吐かせないようにしてるんスから手加減してくださいね!?」
「む!! 神野でのアレか!! そうか分かった!! じゃあそのままお前やれ!!」
「やってんスよ今ァ!!」
そのままミルコが俺の背中から廻し蹴り……
思いっきり蹴りを腹に決められて更に顔色が悪くなる荼毘。が、俺もまたその衝撃で再びせり上がってきた泥を吐かせるほど油断はしていない。さっきの脳無戦で油断は出し切ったわ。
蹴りの衝撃で手が離れない様に、個性を上手く調整して喉奥に腕を押し込み、ヘドロが口から溢れるのを防いだ。
っぶねぇな。ミルコの猪突猛進な所はいい所でもあり悪い所でもあるな。
そう、油断はしてなかった。
首を絞める力は弱めず、外れないように注意もしていた。
だが、しいて言うならば……往生際の悪さを舐めていた、と言えるかもしれない。
「──ゲハッ!!!」
「っ、何だと!?」
「あぁん!? 自殺かァ!?」
荼毘が懐から小さなナイフを取り出した。
そんなモン俺に効くか……と、両腕の力を籠めながら見ていたら、荼毘は何とそのまま自分の右胸にナイフを突き立てたのだ。
相当深く突き刺している。噴水のように血が噴き出した。
だがトラウマは既に克服している。俺がそれでも腕を離さないでいると……しかし、その傷口からヘドロが噴き出した。
「しまったマジかよ!?」
「ッ、
「ガハァー───────!!!」
コイツ、口からヘドロを噴き出せないと見て、別の所から噴き出すことを狙ってやがった。
自分の肺に穴をあけて、そこからヘドロワープを発動させた。
マジかよ。下手しなくても死ぬだろコイツ!!
それに虚をつかれたミルコが一瞬遅れて踵落としを繰り出す。
俺も腕だけではなく全身を荼毘に潜り込ませて、ワンチャンこのワープに相乗りすることを画策する。
もし一緒にワープ出来たら言うことはない。どうせ俺は無敵なんだ。
敵の本拠地に撤退したらその瞬間にダイブセンサーですべての情報引きずり出してデータ送ってやる。ついでにヴィランも捕まえてやれる。
一縷の望みを託した瞬発的な行動は──────しかし。
「……チッ、逃げられたか!!」
「クソ!! 甘かった!!」
空を切ったミルコの脚と、ワープについて行けず取り残された俺という結果に終わった。
クソ。俺の手落ちだ。肺に穴を開けるような自傷をできないくらいに全身を固めてれば……いや、拘束するにせよ片手は使っちまうからもう片手で気道を絞るには腕力が足りなかったかも。っていうか自傷そのものが想像の枠外。
ダイブワイヤーの電撃も試せばよかった。どうしても首を絞めて気道をふさいでワープさせまいという気持ちが焦っちまった。
まさか自分の胸に穴を開けるとは……いや、でも相当の重傷になったはずだ。大きく穴を開けないと泥を放出できなかったはずだしな。
ヴィラン連合に回復系の個性がいるかは知らねえけど……ダメージは与えた。
「…………なんかアタシ……やっちまったか?」
「いや、俺の油断っす。むしろミルコがブン殴って気絶させた方がよかったかも」
「逃がしたか……いや、やむを得ん。報告によればあのヘドロ、対象の移動は本人の意志で行われない。気絶させても発動された可能性もある。イグジストの落ち度ではない……気に病むな。よく撃退した」
「神野の様子見てると一回起動させたら連発はできなさそうでしたしね、黒霧のワープを使いだしたAFOの様子見ても。……今は俺の剛翼の感知でも周辺にはヴィランはいない。油断はできないけど……とりあえずは一件落着って感じかな」
ミルコが珍しく耳をへにょっと絞ってワビを入れて来たけど別に彼女のせいじゃない。俺の油断である。
重ねてエンデヴァーとホークスがフォローしてくれたけどまたしても反省事項が増えてしまった。
ここで荼毘を捕まえてりゃ情報いくらでも取れただろうに。クソ、悔しい。
まぁでも一先ず過ぎちまったことはしょうがねぇ。ベストじゃないがベターは出せた。何もさせずに撤退させたんだからな。
ホークスが剛翼で感知してくれてる通り、俺もダイブセンサーを起動して周囲の敵影と避難状況を確認。
バイタルがイエロー以上の人影無し。人的被害はこれだけの大破壊にしては相当抑えられたと言っていいだろう。
取りこぼしはしなかった。次はもっとうまくやって見せる。
『危機は……去りました! イグジストの活躍で荼毘は退き、敵は消えました!! 私の声は彼らに届いておりません……しかし!! 言わせてください!! エンデヴァー!! そしてホークス!! イグジスト!! 守ってくれました!! 勝ってくれました!! ありがとう!! そこにいるヒーローたちに伝えたい!! ありがとうと!!』
ダイブセンサーを起動して確認した上空からのライブ映像、今現在ニュースになっている音を拾う。
なんか……俺の名前まで二人に並んで入ってない?
いや確かに頑張ったんだけどさ。でもエンデヴァーが一番頑張って次にホークスなんだからその二人だけでいいよマジで。
俺は避難活動なんも出来てなかったし。ビル崩落で被害が極限まで減らせたの二人のお陰だし。
象徴になるつもりも特にないんで。
もしインタビュー受けてもお二人を推しとこ。
こうして俺の、九州でのチームアップミッションは一先ずの解決を迎えた。
ホークスめっちゃ困ってたと思う。