【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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110 峰田くんのモテ期(前編)

 

 

【side 上鳴】

 

 

「モテてぇ……」

 

 何言ってんだコイツ。

 

 ……いや急に悪ぃ。ちょっとだけ説明させてくれ。

 今日は休みの日。A組の奴らもインターン行ったりチームアップミッション行ったりして全員揃ってるわけじゃねぇけど、まぁそれなりの人数が寮でのんびりしてたわけよ。

 で、共用スペースで俺もスマホなんて弄ってたら、机を挟んで対面に座ってる峰田が、机にだるーんと頬をつきながら零したのが冒頭のセリフってわけ。

 

 マジでコイツ何言ってんだ?

 お前死ぬほどモテてるじゃねーか。ケンカ売ってんのか? ブン殴っていいか?

 余りにも想像の埒外からの内容に俺も思わず真顔だよね。何も言えねぇよマジで。

 

 まずもってお前、梅雨ちゃんからあんなにアピールもらってんだろーがよ。

 文化祭前から梅雨ちゃんの恋する乙女アピールがあんなにあったのにコイツあろうことか全く気付いてねぇしよ。

 そういう所幾野もあったよな。アイツも女子に躊躇いなくエロ茶化しする癖に女子からの想いに全く気付いてねぇの。クソボケ共がよ。

 なんだ? お前ら中学時代にクソボケセンスまで磨いてきやがったのか? そこは努力してこなくたっていいんだぞ?

 そもそもヒーローとしてだってイグジストとグレープジュースで一緒にめっちゃ名前も売れてて世間でも知られてるし、幾野は葉隠以外にも八百万とか発目ちゃんとかハーレムの匂いまでさせてんのによ。

 

 ……まぁこの二人がモテる理由は分かるけどさ。何でモテるんだよとまでは言わねぇよ。お前らすげぇもん。

 幾野は言わずもがな、峰田だって実力は指折りだ。A組でも拘束力と閉所の機動力じゃあ誰も並ぶ奴がいねぇ。プロ顔負けの挙動でタイマンで峰田に勝てるやつはA組でも数えるほどか。

 普段エロ男子してるこいつが戦闘面でかっこいい姿を見せたらそりゃホレる女子だっているだろうよ。

 こいつらに自覚がないのだけがマジで憐れとしかいえねぇ。梅雨ちゃんおいたわしや……。

 

「モテてぇよぉ……ヒーロー科入りゃ彼女出来ると思ったのによォ! イクノだけが彼女出来てよー!! オイラはまだかよチクショウ!! 誰かオイラをあっためてくれよー!!!」

 

 今130万ボルトをぶっ放しても俺許されるよな?

 ほざきよるわこのクソブドウが。寮内だから放電を遠慮してやった俺の優しさに感謝しろよ。ここが訓練場だったらお前は殺したよ。

 マジでクソがよ……俺なんかまだ全然進展もしてねぇってのに。こないだ幾野に遊園地のペアチケ貰って気を遣ってもらってんのに耳郎を誘うことすらできてねぇヘタレだよどうせ俺は。

 この辺は幾野に相談したら絶対めんどくせぇことになるから相談も出来ねぇし。俺の春はまだ遠いわ。

 

 

 さて、ここまで無言で峰田を見下ろしていたが、しかしそんな峰田に温かい雫が降り注ぐ。

 机に顎を乗せた峰田の頭にかかるそれだが……対面に座ってる俺からはその水の出所がはっきり見えていた。

 

「なにこれ……あったけぇ……」

「……いや峰田。それ犬のションベンだぞ」

「ヴォエエエエエエエエ!?!? 犬!? 犬がなんでここにいんだよォ!?」

 

 流石にこれはちっとかわいそうだ。ばっちりションベンをかけられてしまった。

 ここに幾野がいなくてよかったな。アイツがここにいたら犬の命はなかったよ。

 アイツ峰田がバカにされてるの見るとキレるからな。重い女だよマジで。男だけど。

 ……まぁわかるけどさ。こいつらの過去は聞いたからよ。口に出して茶化しはしねぇよ。

 

 因みに今日は幾野はチームアップミッションで不在だ。

 ラーカーズからの依頼で緑谷と爆豪と一緒に出掛けてった。どこ行ってんだろ。

 

「こらこらー……あ! 峰田くんごめん! ホンマにやんちゃやなこの子!」

「ケロ。……おモチ。トイレは守りなさい……」

「キューン……!」

 

 さて、その犬を迎えに来た女子一同。だが流石に峰田にションベンひっかけてたのを見れば申し訳なさそうに謝る。

 梅雨ちゃんはちょっとキレてるな。そりゃそうだ。峰田に恥かかせちゃ乙女心は困っちまうってもんよ。

 おモチと呼ばれたワンちゃんも恐怖で震えている。カエルに睨まれた犬。大人しくしてねぇと幾野が帰ってきたら生皮剥がれるぞお前。生き延びろよおモチちゃん。

 

「で、その子どーしたのよ。誰かが拾って来たん?」

「雄英に迷い込んでたのよ。飼い主が見つかるまでA組で保護することにしたわ」

「名前はおモチ! 私が名付けたんよ」

「とりあえずトイレはしつけといてくれなマジで……そこかしこでションベンされたらイクノがキレるぞ」

「ごめんなさいね峰田ちゃん。口田ちゃんにもお願いしてしっかりしつけておくわ。シャワー浴びてきたら?」

「そうする」

「ここはわたくしたちで掃除しておきますので。災難でしたわね峰田さん……」

「ドンマイ」

 

 俺がおモチがいる経緯を聞いたらそんな感じだった。

 で、峰田は梅雨ちゃんが言う通りシャワーを浴びてくるようだ。

 女子からの心配の眼差しを受けながら雫が零れないようにしつつ風呂場に向かっていった。

 

 ……いや、こんだけ真摯に女子に心配されてんのにモテてぇとかほざくんだから心底クソボケだなあいつ。

 

 


 

 

【side 峰田】

 

 

「ったく……マジで災難だったぜ」

 

 服を水洗いしてから洗濯機に突っ込んで、シャワーを浴び終えて昼間だってのにタオル一枚で脱衣所にいるのが今日のオイラです。

 運勢もしかして大凶か? モテねぇってグチ呟いただけでここまでなるんだから哀しみの一日なのかもしれねェ。エロ巡りしてメンタル回復してた方がいいかもな。

 ごしごしと頭をバスタオルで拭いて、ドライヤーを起動する。なにげにこのイカしたもぎもぎヘアも日頃のケアが大変なんだ。イクノほどじゃねェけどよ。乾きにくいんよな。

 片手にドライヤーをON、もう片手に櫛を持とうとしたところで、しかし。

 

「ん。着信」

 

 そばに置いといたスマホが鳴動する。

 櫛を持たずにそれを手に取り、表示を見れば……見知った名前が表示されてた。

 

 ラブラバだ。

 

「……もしもーし。どしたんスか。イクノがまたなんかやらかしました?」

『そんな大した用じゃないわ、次の動画が完成したからチェックをお願いしたかっただけよ。あとで見ておいてくれる?』

「了解っす。この後ログインして確認しときます」

『よろしく。……ゴーゴー五月蠅いわね、何の音?』

 

 用件を聞けば動画のチェックの依頼だった。

 チームラーカーズで働いてるラブラバ……彼女の経緯はオイラもイクノから聞いている。元々ヴィランで、イクノと緑谷が捕まえた後に保護観察処分になってラーカーズでマウントレディの監督のもとに働くことになったと。

 まぁオイラは身長が近しいボイン年上ってだけで全然一緒に働く分にはオッケーだったけどな。向こうも身長が近いオイラのことは決して悪く扱ってない。最初に書類仕事教えたのもオイラだし。

 働きも流石その道のプロってところで、動画の編集技術なんかはオイラやイクノよりも全然すげェ。PC関係はラブラバに聞けば大体わかる。

 ただまぁ前科があるってことで彼女が作った動画はオイラやイクノ、マウントレディが一通り確認の上でアップロードすることになってるんだ。

 今日はイクノもマウントレディも確か出張でのチームアップだったからな。オイラに連絡が来たってわけね。

 

 そこまで察して、しかしちょうどドライヤーを使ってたところだったのでその騒音が向こうにも聞こえちまったらしい。

 申し訳ねぇ。ドライヤーをオフにして改めてスマホに向き直る。

 

「ちとシャワー浴びた所だったんでドライヤー使ってたんス。悪かったっすね五月蠅くして」

『シャワー? この時間に? 午前中から優雅な事ね』

「いやそんなモンじゃないんスよ。聞いてくださいよオイラの身に起きた悲しい事件を」

『暇だから聞くくらいはしてやるわ』

 

 ちょうどいいんでオイラはラブラバに愚痴を聞いてもらった。

 クラスの女子はあの犬可愛がってるみてェだし愚痴なんて零せねーしな。ラブラバも動画作成も終わって仕事が暇だったのか聞いてくれる。あの人仕事が早いから結構ヒマしてることも多いんだよな。マウントレディもやることやってくれてるからその辺自由にさせてるけど。

 

「……ってわけッスよ。オイラ人生で初めて犬にションベンひっかけられましたよクソォ!」

『災難だったわね。私だったらその犬の息の根止めてそう』

「物騒な話はしないでもろて」

『ふん。平和な学生時代を満喫してるんだからそれくらいの痛い目は見なさいな。……で、飼い主が見つかるまで保護、ってことは貰い手が決まれば預けるつもり?』

「そりゃまァ多分。いつまでも飼うわけにはいかないッスからね、学生寮ですし」

『ふゥん……』

 

 でまぁ経過を説明して、ラブラバらしい返事が返ってきつつも……珍しく、向こうから話を広げてきた。

 なんだ? あんまり人の話を大人しく聞くタイプでもないように思ってたんだけどな。なんつったっけ、相方のジェントル? とかいう中年に心酔してるようでコイバナなんかしたら機嫌が悪くなるところがある。イクノは逆にそれで煽るけど。

 犬の話と聞いて奇妙な懸念があるようだ。なんだろ。

 

「……なんか気になることあります?」

『一つだけ。さっきヴィランの情報なんかをネットでまとめてた時に記事を見たのよね。ニュースで見てない? 飼い犬連続失踪事件のこと』

「いや初耳ッス。そんな事件あったんスね」

『ええ。ヴィランは複数人で犯行に及んでて、犬を盗んだり……業者を装って貰い主が決まったから預かると言ってそのまま奪ったりしてるらしいわ。引き取り主を探すサイトに登録した瞬間に連絡がくるみたい。まだヴィランの顔は公開されてないけど……気を付けた方がいいかもね』

「……なるほど。確かにそりゃ物騒スね。情報提供どもっす」

『まぁ雄英敷地内にわざわざ来るようなバカなヴィランはいないと思うけれど』

「だいぶブーメランじゃないっすかそれ?」

『五月蠅い。それだけの話よ……動画の件はよろしく、それじゃ』

「お疲れさんス」

 

 忠告を頂きつつブーメランな話題になり、機嫌を悪くして電話を切られてしまった。

 茶化すタイミングが難しいぜ。まぁ根っこから悪い人じゃねェとは思うんだけどな。マウントレディには態度丸くなってるし。

 仕事はしっかりやってくれてるし、なんかやらかさない限りはオイラも普通に付き合うさ。低身長の辛い所共感できる仲だしな。

 

「……しかし窃盗グループか。なんだかな」

 

 確かに、可愛い犬種の犬ってのは高く売れる。種類によっちゃ100万単位での売買もされる。

 犬を盗む手間って考えりゃそこまでじゃないし、組織的にやってりゃ儲かっちまうんだろうな。

 反吐が出るぜ。おモチにションベンひっかけられた身ではあるけど犬に罪はねェからな。まったく物騒な話だ。

 オイラはスマホを置いて、改めて素敵なもぎもぎヘアを乾かすためにドライヤーをかけるのだった。

 

 


 

 

 その日の午後。

 

「みんな! おモチちゃんくんの貰い手が決まった!」

「え!? 早いね!?」

「うむ、今すぐ引き取りに来るそうだ! 一目見てどうしても引き取りたいと思ってとのことだ!」

「随分と熱心な方ですわね。でもそれだけ熱意のある方であれば可愛がってくれそうですわ」

 

 飯田が代表で受けた電話で、早速引き取り手が決まり、すぐに受け取りに来るって話をオイラは耳にした。

 ────匂う。

 いやオイラの頭が匂うとかいう話ではなく。

 さっき聞いたラブラバの話がオイラの脳裏によぎる。

 登録してすぐに引き取りに来る……雄英にまで来るか普通? いやでも逆にあるか?

 どうする? 疑ってかかるか……? 問い詰めて……いや、それで普通に受け取りに来た善良な市民だったら雄英A組の風評に傷がつく。

 時間はあまりない。どうする? どうすりゃいい?

 

 ……八百万に発信機を作ってもらっておモチにつけるか?

 いやダメだ。さっき自分でも調べたけど、犬ってのは飼い犬の場合はマイクロチップの装着が義務付けられてて、それがあるかどうかの検査を機械を通して確認するはずだ。

 機械を通してチップがついてなければ飼い犬ではないので、引き取り手に渡せて……チップがあればそれこそ元の飼い主がいるからそっちに連絡が入るようになってる。

 つまりここで引き取りにくるのがヴィラングループだとしたらその検査はするだろう。そん時に八百万の発信機が見つかっちまったら絶対警戒される。ヴィラングループが雲隠れしちまうかもしれない。

 林間合宿の時の様な作戦は使えない。

 

 だとすれば尾行するか? 預けた後……でもそれでもし本当に善良な受け取り人だったとしたら後で波風が立つ可能性はある。

 ヴィラングループの話を聞いて疑っていた……なんていう理由はあってもいい気持ちにはならないだろう。よくない。A組全体に迷惑が掛かるような手段はとれない。

 

 ならどうする?

 そこでオイラは妙案を思いついた。オイラにしかできない、かつもしバレても笑い話で済む様なそれを。

 

 ──────オイラ自身が犬になる事だ。

 

 今はみんな飯田の話に集中している。おモチがいるのは別室のキャリーケースの中。

 すぐさま動けばバレないだろう。オイラ自身が犬に扮装し、キャリーケースで運ばれて行くのだ。

 

 これの利点はオイラが独断で動いていることにある。

 もしこれでただの善良な業者が引き取りに来たとなれば、オイラが犬じゃなかったとバレても実は犬と触れ合うために扮装してキャリーケースに入ってたら寝ちまってたんですとでも言えば笑い話になる。

 怒られたって構わねぇわ。その後ちゃんとおモチを預けりゃいいんだからな。何の問題も無い。

 

 で、もし受け取りに来た奴らがヴィランだったらそれこそ話が早い。

 本拠地までオイラを持っていかれたらそこでオイラが潰せばいい。潰せないと判断すりゃ本拠地の場所だけ確認して逃げたっていい。何とでもなる。

 

 ここでイクノでもいりゃあもっと名案が浮かんだかもしれねぇけど、時間のない今オイラが思いつくのはこれくらいしかねぇ。

 みんなに相談する時間もねェな。やってやる。

 

「───ほれおモチ。悪ィけどそこどきな。オイラが入るぜ」

「キューン……」

 

 速攻で自室に戻り、イクノに『パジャマとして着よう? な? 似合うから着よう???』ってヤバい目で渡されてたワンちゃん着ぐるみに身を包み、おモチの元に走っておモチをキャリーケースから取り出してオイラが入った。

 サイズよし。体重もおモチとそこまで変わらねェ。

 尻向けて寝たふりしてりゃ何とかなるだろ。体が小せェのに感謝だぜ。

 スマホとかはさっき懸念した機械にひっかかったり万が一音が出たりしたらヤバいから部屋に置いてきた。ヴィラン捕まえてからそいつらの携帯使えばいいだろ。

 

「ほら、おモチはちっと隠れてな。お前の為を思ってやってんだぜオイラ」

「キューン」

 

 おモチはちょっとだけ部屋の隅っこに隠れてな。そうそう……そうだ。ちゃんという事聞いてくれるじゃねェかコイツ。偉い。イクノと大違い。

 悪いな、ちゃんとした飼い主の所だったらまた呼びに来るからよ。

 

「────ごめんねおモチ~! もう貰い手決まっちゃったのー!」

「あれ……寝てるみたい」

「お別れで悲しむことがなかったと思いましょう。起こさないほうがいいですわね」

 

 オイラが作業を済ませてすぐに女子たちがキャリーケースを運びに来た。

 マジで早かったな貰い手が来るの。こんなに早いとやっぱり疑っちまうぜ。

 詐欺の典型的な手段だ。初回の連絡から手を下すまで迅速かつ急に話を進めることで疑わせない。

 急がなきゃ、という気持ちに被害者をさせてしまい、ことが終わった後に冷静になってやられた、となるやつだ。

 

 くせぇな……マジで。手慣れてやがる。推定有罪だなこりゃ。

 オイラだって多分ラブラバに注意喚起されてなかったら疑う余地もなかっただろう。犬を盗んでるヴィラングループのニュースも全然、大々的に流れてなかったしな。

 こないだのエンデヴァーのニュースやイクノ含むラーカーズのニュースで世間はまだまだ盛り上がってるし。

 

 まぁいい。受け取った相手もオイラが人間であることに気付かずにトラックまで運び込んだ。

 寝たふりを続けながら、オイラはトラックの揺れに身を任せつつ……トラックの中を見る。

 

 そこには、オイラ以外のケージに入った犬が多数。

 疑惑がどんどん深まっていく。ただの引き取り手ならこんなに犬がいるわけねェや。

 しばらくトラックが進み、どうやらアジトにたどり着いたみてぇだ。

 そこにも犬がいっぱいいた。こんなに盗みやがって……クソ共がよ。

 キャリーケースの中で、決定的な証拠をつかむためにオイラは耳を澄ませた。

 引き取り手……いや、ヴィラン共の話を盗み聞く。

 

「……へへ、引き取りたいって言ったらすぐに渡してくれてよォ、ガキはチョロかったぜ。こんなに高級な犬をタダでくれるんだからありがてェな」

「雄英っつってもガキはガキさ。盗む手間が省けたぜ。さてじゃんじゃん売って我らがリーダー、パピィミル様に喜んでもらうぞぉ!」

 

 はいヴィラン確定。

 

 

 ──────さて、やるか。

 

 


 

 

【side 梅雨】

 

 

「おモチ元気にしてるかなぁ」

「きっと大事にしてくれてるよー! 優しそうな人たちだったし!」

「ケロ。そうよ、きっとかわいがってもらってるわ」

 

 おモチとの別れもあって、ちょっとだけ女子たちの気分は落ち込んでたわ。

 普段から大変な鍛錬をする中で、あの子は確かに女子の癒しだったわ。ペットって気持ちが落ち着くもの。小さい生き物ってそういうメンタル効果を生むものだし。

 でも引き取り手が決まったなら仕方ないわ。きっと新しい飼い主の元で可愛がってもらっていることを願いましょう。

 

「……なぁ、峰田くんを見ていないか? 姿が見えないんだ」

「ケロ? 峰田ちゃんが?」

「え? 普通にさっきまではいたよね?」

「俺が部屋行ったらもぬけの殻だったんだよ。スマホも置きっぱなしだったしよ……風呂にもいねぇし」

 

 でもそこで飯田ちゃんが峰田ちゃんがいなくなったという話を聞いて、私は首を傾げたわ。

 お昼にシャワーを浴びた後は普段通り共有スペースでくつろいでいたはずで……でも、確かに見渡しても見当たらないわ。

 そういえばさっきおモチを渡す時から見てないかしら? 失態ね、峰田ちゃんから目を離すなんて。

 上鳴ちゃんが峰田ちゃんの部屋から持ってきた彼のスマホを手に持ってて……峰田ちゃんが部屋の鍵もかけずに、スマホを置いていく? あり得ないわ。

 事件の匂い。

 私たちは意識を切り替えて立ち上がる……と、そこに。

 

「ワン! ワンワン!」

「……えっ!? おモチ!?」

「なんで!? 引き取られたはず!?」

 

 さきほど引き取られたはずのおモチが部屋に駆け込んできたの。

 それで私は完全に察したわ。

 峰田ちゃん……もしかしなくても、おモチと入れ替わって持っていかれたのね。

 じゃあなんでそんなことを……いえ、そういえば午後は峰田ちゃん、スマホをよく見ていたわ。

 もしかしたら何か調べていたのかも。それが理由?

 

「上鳴ちゃん。峰田ちゃんのスマホ貸してくれる?」

「おォ? 構わねぇけど……でもパスワードでロック掛かってるから開けないぜ」

「大丈夫」

 

 私は上鳴ちゃんの手から舌を伸ばしてスマホを奪い取り、峰田ちゃんのスマホの電源ボタンを押す。

 四桁のパスワードを求められたけれど……私は彼が使いそうな暗証番号を知っている。

 1、0、0、0。……外れ。流石にここまでシンプルにはしないわね。

 1、0、0、8。……外れ。峰田ちゃんの誕生日でも無し。

 0、2、1、2。……外れ。流石に自意識過剰だったわね。

 じゃあやっぱり…………うん、開いたわ。

 センちゃんの誕生日。

 多分センちゃんのスマホのパスワードは1008ね、この様子だと。

 

 さて、そして開いた峰田ちゃんのスマホの検索履歴を追ってみれば。

 

「……事情が見えたわ。このニュースを調べてたのね峰田ちゃん」

「ん? ……え!? 飼い犬連続失踪事件!?」

「えっ、そんなのあったん!?」

「さきほど引き取りに来た人たちがそれだと疑って……それで峰田くんがおモチちゃんくんと入れ替わって潜入捜査のために潜り込んだということか?」

「峰田ちゃんがここにいない以上そうとしか考えられないわ。飯田ちゃん、さっきの人たちにもう一度電話してみてくれる?」

「ああ! もし善良な引き取り手であれば事情を説明するし、そうでなければ……」

 

 これで流れははっきりしたわ。

 峰田ちゃん、おモチちゃんが飼い犬連続失踪事件のヴィランに捕まらないように策を練ったようね。

 私に一言相談してくれればよかったのに……いや、その時間もなかったという事かしら。

 確かに、今更だけれど思ってみればあの引き取り主、来るのが余りにも急だったわ。まるで考える時間を与えたくないかのような急ぎよう。キャリーケースの中を見ようとさえしなかったのだもの。

 私達も確認しなかったのは落ち度だけれど……いえ、今はそんな事考えてる場合じゃないわ。

 もしさっき来た人たちがヴィランだとしたら、峰田ちゃんは今一人でヴィラングループの本拠地にいるはず。

 ……無茶ばっかりして!

 

「……くっ! ダメだ、コールすらならない! 現在使われていない番号などと……あり得ない話だ!」

「じゃあさっきのヴィラングループだったん!? クソー!」

「峰田一人で潜入してるってことか!! でもどうやって追う!? アイツ何にも持ってないぜ!?」

「センちゃんがいれば距離を無視してテレパシーするかワープもできたかもしれないのにー!」

「……B組の宍田さんをお呼びしましょう! あの方なら匂いで追えるはずですわ!」

「素晴らしい発案だ八百万くん!! 僕がすぐに呼んでくる! レシプロ……」

 

 事態は動き出した。

 恐らく峰田ちゃんはスマホを持ち込むことで相手に察知されるのを恐れたのね。その判断が正しかったかは分からないけれど……追う手段がないの。

 一人でやろうとして、出来る力もあるのかもしれないけれど……心配する側の気持ちにもなってほしいわ。

 百ちゃんの発案で、峰田ちゃんの匂いで追える今なら宍田ちゃんにお願いすれば、という話になって、飯田ちゃんがB組の寮に呼びに行こうとしたところで────不意に。

 

「ケロケロっ」

「ん、梅雨ちゃんどしたん?」

「いえ、着信が……っ、知らない番号からだわ」

「……このタイミングでか?」

 

 スマホに表示されるのは知らない携帯番号。

 普段なら迷惑電話かどうか確認してから出るのだけれど……私はある種の確信を得て、その電話に応じたわ。

 

「……もしもし?」

『おー梅雨ちゃん! 悪い! スマホ無しで覚えてる番号がイクノと梅雨ちゃんしかなくてよー!』

「ケロ、峰田ちゃん!? 今どこにいるの!! 心配したのよ……!?」

『ごめんな何も相談しなくて! 時間なかったんだわ! いやーイクノに電話したらアイツよっぽど山奥にいるのか電波通じなくてさぁ……』

 

 峰田ちゃんからの電話だった。

 ヴィランの携帯を使ったのかしら……もしくはどこかで逃げて、誰か人に借りて電話しているとか?

 とにかく無事でよかった……!

 

 私はスマホのスピーカー機能をオンにして、周りにも聞こえるようにしてから話を続ける。

 

「今はセンちゃんのことはいいから……どこにいるの? やっぱりさっきの人たちは窃盗団ヴィランだったの?」

『あ、事情分かってくれてる? ニュース見たん? やっぱあいつら窃盗団ヴィランだったよ。オイラがおモチと入れ替わって忍び込んで……で、今本拠地にいる』

「ッ、無事なの!?」

『もう終わったから大丈夫だ! 全員オイラのもぎもぎで捕縛して動けなくしてるしめっちゃ捕まってた犬もバッチリ逃がしてないぜ! ってわけで応援お願いしたくてよー。警察にはもう連絡したし場所も伝えてる。保須市の近くだから面構署長が出てびっくりしたぜオイラ』

「む、面構署長……懐かしいな。あの人ならば誰よりも犬たちを心配されたことだろう……分かった!! 雄英からも連絡を入れてすぐに向かう!! 油断するなよ峰田くん!!」

『おォよ。念入りに固めてるんで大丈夫だと思うけど。待ってるぜー。そんじゃー』

「ちょっ、峰田ちゃん……」

 

 峰田ちゃんのその言葉で向こうから通話が切られてしまったわ。

 ……心配ばっかりかけて! もう!!

 ふんす! と怒りの鼻息を一つ零してから、でも峰田ちゃんに言われたとおりに……A組のみんなですぐに動いたわ。

 飯田ちゃんも顔見知りだという保須市の面構署長に連絡。流石に峰田ちゃんが確保しているという報告もあるならば必要な人材を雄英A組から派遣。

 山奥でも動ける私、犬たちをコントロールできる口田ちゃんは確定。

 面構署長曰く犬を運ぶためのオリの数がそれなりにあるので、それを運べるパワータイプ……と言っても緑谷ちゃんもセンちゃんもいないから、男子から何人かと麗日ちゃん。

 このメンバーで保須市で警察と合流し、準備されたオリを持って急いで峰田ちゃんの元へ向かったわ。

 

 ──────絶対に一言言ってやるんだから。

 

 





左右LR様よりファンアートを頂いたので紹介させていただきます!

①エリちゃんと髪型御揃いにして姉妹コーデで撮影するセンちゃん

【挿絵表示】

エリちゃんと休日を過ごすセンちゃんを描いてもらいました。
エリチャンカワイイヤッター!!
長い髪のケアの仕方、弄り方を教えるイグジストお姉さん概念助かる。理解度高いです。エリちゃんもイグジストお姉さんに可愛い髪型とか服とか色々聞いてそう。
哀しい過去を持つ二人がともに今笑えている奇跡。尊さの塊です。
ファンアート心より感謝申し上げます。有難うございました!
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