【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!! 作:そとみち
12月も下旬を迎え、終業まであと数日。
今日も元気に登校し、午前中の授業も終えて飯も食べ終えて昼休み。
A組のみんなで教室で駄弁っていた。
「あひゃひゃひゃひゃひゃ!! 爆豪のシーン1つしかねぇ!!」
「轟のコメントばっかり拾われてんのウケるー!!」
「ってか後ろにカットインする幾野にフォーカス当たってんじゃん何やってんだよカメラマン!!」
「使えやァああ……!!」
話題はちょっと前にインターンの帰り道の途中で突然発生したヴィラン事件を瞬殺で解決した轟と爆豪ちゃんのインタビューの件だ。
二人とも個性が目立つし、エンデヴァーの所にインターンに行くようになって連携も取れて来ており……まぁ事件は見事な解決を見せたという話で。
で、ちっと暗いニュースがあったのでこれを良いきっかけとテレビの取材が入り、寮の共用スペースでインタビューされてたのだが……爆豪ちゃんのセリフがだいぶカットされてた。
まぁ素の部分は改善されたとはいえまだ口調はクソ下水だからな。おおよそイケメンの轟のコメントばかりが拾われててそれがニュースになりアホ男子勢が爆笑してるというわけだ。
なお俺はソファに座る二人の後ろからチラッとカットインしてウインクする一般通過男子の役割をしてた。カメラが俺の方を向いてたのを見逃してないしやっぱり映像に乗ってた。てへぺろ♥
『ここ最近は頼もしい仮免ヒーローのニュースが続きますね。イグジストを筆頭に、次代のヒーローの卵たちは強く育っています』
『彼らには一刻も早くプロとして活動してほしいですね。泥花市の悲劇を繰り返さないためにも────』
「……ん」
「泥花市のニュースか。ここ最近続くよな……当たり前だけど」
そのまま朝のニュースをタブレットで見ていると、ニュースの話題は先日起きてしまった大きな事件……泥花市の悲劇の話に。
たった20人のヴィランの暴動が、約50分ほどで泥花市を壊滅に追い込んだ事件。
被害規模は神野以上。神野の時は建物被害はともかくとして、オールマイトが人的被害を極力減らしたが……泥花市では死傷者が出てしまっていた。
地方だったため被害に比べて数は抑えられたらしいが……それでもなぁ。いい気分にはならない。
ただ、その後の街の人たちの声に入ると、そこも少しずつ変化していた。
『泥花の英雄たちを責めるのは愚かしい。制度の緩和を議論していくべきです。仮免ヒーローだって活躍しているでしょう?』
『泥花のヒーローも責められないよー。ダマされたっていう要請の精査をしろって? 後だから言える事でしょ。飽和社会って言うけどヒーローの数が足りないんじゃないの』
『ヒーローもっと頑張ってほしー! 私達もガンバルからー! みたいな!? めっちゃ応援してますー!』
『以前ですとこういった「ヒーローがハメられた」事件に関してはヒーローへの非難一色だったわけですが、しかしまさに今時代の節目と言いましょうか……非難が叱咤激励へと変化しているのかもしれませんね』
ヒーローに対する見方が変わってきている。
こないだのエンデヴァーの脳無討伐事件以降、ヒーローを応援するような世論が広がっているらしい。
そこには俺───イグジストも含まれ、それに連なり仮免ヒーロー他、若い力にも注目は集まっていて。
新たなる象徴の個人を崇めるのではなく、チームアップして力を合わせて事件を解決するヒーローの在り方を受け入れ始めているというか……まぁそんな感じだ。
俺個人としては、以前の意見も今の意見もわかる所だ。
かつて……俺が中学に上がる前までは前の意見だった。ヒーローに対して、何で助けてくれないんだ、何やってんだ……って思っていた時期があったことは否定しない。
けど、ヒーローの在り方に触れて、峰田に助けてもらってからは……ヒーローという存在の在り方を尊く思うようになった。人を助けたいと思う心、それを持つ者がヒーローなのだ。
……朝から真面目なこと考えすぎて風邪ひきそうになってきた。
脳内の思考を更新するために近くにいる轟に雑に話しかける。
「そういや轟、ご家族の様子どう? 冷さん元気してるかな? 退院してから中々会いに行く機会がねぇからさ」
「ん……元気だよ。家では今の所問題なく過ごせてるってこないだラインで話した。お前が来なくて寂しいって言ってたよ」
「おん、そっか! 元気そうならよかった! 年末あたりまたお邪魔してもいいもんだろうか」
「お前ならアポなしでもいつ来ても構わねぇよ、みんなそう思ってる。今度また飯食いに来るか」
「ええね。またお邪魔させてもらうわ」
改めてだけど轟家の事情について。
俺がこないだ逃げ帰る様に轟家を後にしたのち、家族みんなでこれまでの事、そして今後の家の在り方について話したらしい。
過去は変えられない。けど、それぞれがどんな思いでそうしてしまったのかをお互い胸の内を曝け出して話し合い……夏雄さんも冷さんも、一先ずの納得を経たようだ。
ただそれは無条件に許すという話とは違う。お互いを尊重し、歩み寄るということだ。
で、冷さんは轟家の離れで生活。食事などで体調が良ければ一緒するような形になり、冬美さんとはよく食事したり一緒の部屋で寝たりしているらしい。
エンデヴァーが家に帰ってきたときにも結構顔を出しているとか。
夏雄さんは別に無理に付き合うこともしなくていい、自分の生き方で歩めばいい……という理解で落ち着いて、一人暮らしの大学生活を続けてて。
ただ、むしろ前よりも実家に顔を出す日は増えたという事だ。大学生で一人暮らしなんてどこの家庭でもある当たり前の話で、それを無理に実家に戻す必要もないわけで。その在り方で落ち着いているとのことだ。
年末とかお盆には家に集まる日を設けて、そこでお互いの話をして……と、どこにでもある一家庭の在り方になった。
うんうん。それでいいと思うよ俺も。
またインターン帰りで時間があれば夏雄さん所寄って行こ。夏雄さんの部屋なんかいいんだよね……大学生のお兄さんの部屋ってなんか……隠れ家的で。
まぁ前に彼女さんといい雰囲気だった時に俺が自撮りを送ってしまってめっちゃ彼女に問い詰められた件は申し訳ないと思ってるけど。また送ろ。
さてそんな感じで過ごしてたら、午後のヒーロー基礎学に入る前……教師陣が教室に入って来た。
しかも外部講師がお招きされている。来たのはなんと。
「みんなあんまり楽観しちゃ駄目よ! いい風向きに思えるけど裏を返せばそこに在るのは『危機』に対する切迫感!! ショービズ色が濃くなっていたヒーローに今! 真の意味が求められているわ!!」
なんかかっこいい事を言いながらマウントレディが教室にやって来た。
俺の目の前、教壇の上でお尻を向けてポーズをとっている。
ので。
「えいっ」
「あヒんッ!?」
条件反射でそのケツを引っぱたいてしまいました。
いや……なんか急に目の前にケツがきたので……。見慣れたケツが……。
俺のプリケツには負けるけどいい音しましたね。
「幾野くんアンタいっつもねぇぇ!!!」
「んべっし!!」
オート個性が発動しない絶妙な力加減で頭を引っぱたかれました。クラス爆笑。
マウントレディも力加減慣れてきたな。なんでやろ。
「マウントレディお久しぶりー!」
「先日のインターンではお世話になりましたわ」
「何してやがんだ幾野ォ……マウントレディに失礼だろうがァ!!」
「爆豪くんが珍しく正当な意見を!!」
「神野でマウントレディに世話になったらしいからな爆豪」
「親しい仲とは言えあまり失礼はするな幾野。今日はマウントレディを特別講師として招いている……幾野を筆頭にお前らも露出増えて来たしな。今日の授業は『メディア演習』だ」
「ビルボードチャート8位の現役美麗注目株の私がヒーローの立ち振る舞いを教授します!! アンタらだいたい見知った顔だけど講師はしっかりやるからね!!」
「「「おおー!!」」」
なんと今日はマウントレディによる授業になるらしい。
オイオイマジかよ激熱じゃん。メディア演習ともなれば一番露出の高い俺が筆頭となりみんなの見本にならねぇとなぁ!! マウントレディにもいい所見せてやりますよォォ!!
「────ってわけで『ヒーローインタビュー』の練習よ!!」
緩い。
だいぶゆるゆるの授業だったわ。
お立ち台が準備されて、背景のパネルもなんか用意されて……インタビューを受ける時の心構えとかそう言うのを教えてもらう様だ。
ええ……? インターンでもチームアップミッションでもインタビューよく受けてるけど……?
バズり具合で言ったら言っちゃなんだけどそんじょそこらのヒーローよりも目立ってる自信あるけど。
まぁいいか。みんなのインタビューを見て突っ込む立ち回りにしよう。
「じゃあ早速さっきニュースで流れてた轟くんから! 貴方だけはまだチームアップしてないわね!」
「親父ん所にいるもので」
「今度呼ぶからぜひ来てね! さてじゃあ……『すごいご活躍でしたねショートさん!』
「何の話ですか?」
『なんか一仕事終えた感じで! はい!!』
「はい」
まず最初は轟からか。
アイツまず顔がいいからカメラ写りいいよな。俺といい勝負。
『ショートさんはどのようなヒーローを目指しているのでしょう!?』
「俺が来て……みんなが安心できるような……」
『素晴らしい! あなたみたいなイケメンが助けに来てくれたら私逆に心臓バクバクよ!』
「心臓悪いんですか……?」
『やだなにこの子天然!!』
「轟、マウントレディは更年期障害を若くして患ってるから……察してやれ」
「そうなのか……その、お大事になさってください」
『幾野くん今日はアンタ黙ってなさい!!』 ===◎「グワーッ!!」
轟がド天然で返したところで俺もついつい口が滑ってしまいマウントレディからマイクを投げられて顔に突き刺さった。
(*)になってしまった。緑谷状態。
『ふぅ……では気を取り直して。ショートさんはどのような必殺技をお持ちで?』
「……まず、穿天氷壁。広域制圧や足止め、足場作りなど幅広く使えます。もう少し手荒な膨冷熱波という技もあって……あとは炎。赫灼熱拳……エンデヴァーの技をいくつか
『キャー素敵! どっちの技も見た目も派手で威力もバッチリ!』
必殺技アピールの話になり、轟がインタビュー台からいったん降りて自分の必殺技を披露する。
氷を放つ穿天氷壁と、炎を放つ赫灼熱拳。どちらも今は轟の立派な武器だ。
親父さんとの軋轢もだいぶ解消され、父親の力を継ぐことへの忌避感も薄れ……己の力として扱えるように努力していた。
成長したよなマジで。油断してるとすぐ置いてかれちまうわ。俺ももっと強くならねぇと。
「……うん、いいインタビューだったわね!! あとはもっとみんなを安心させたいなら、笑顔を作れるといいかも!」
「笑顔……こう……ですか」
「うーん……ちょっと固いわね! 幾野くんを見習ってもっとふんわりと!」
「幾野……こうすか」
「メス顔スマイル!!」
最後に笑顔があるといいわねというマウントレディのアドバイスに轟がまず固い微笑みを見せた。
それを見たマウントレディのアドバイスに従って俺みたいな笑顔と言われ……轟がすっごいメスガキ風の笑顔を見せてマウントレディとミッドナイト先生と女子の脳が焼かれた。男子も幾人か焼かれた。
アイツ……やりよるわ!!
また女装させてみっかな。次はメスガキ風で行こう。そうしよう。
「技も披露するのか? インタビューでは……」
「あらら! ヤだわ常闇クン、みんながあなた達の事を知ってるワケじゃありません! 必殺技は己の象徴! 何ができるのかは技で知ってもらうの。即時チームアップ連携、ヴィラン犯罪への警鐘、命を委ねてもらうための信頼……ヒーローが技名を叫ぶのには大きな意味があるのよ」
「……含蓄の深い話だな」
「幾野のせいでギャグ風味のイメージついちゃったけど……やっぱビルボードチャート8位なだけあるなー」
「ケッ、たりめェだろうが! ただのショービズでチャート10位以内に行くわけがねェ……その辺マウントレディはちゃんと分かってんだ」
「ファンボーイの推しもすごい」
「でも確かにインターンでお邪魔させてもらった時もパトロールや事件の時は真面目だったもんなぁ。勉強になるぜ」
クラスのみんなもお世話になっているマウントレディの、現役ヒーローとしての真摯な言葉になるほどと理解を深めている様だ。
うんうん。わかる。俺も峰田も、マウントレディの一番好きな所がそこだ。
普段は気さくで茶化してもいい反応してくれる面白お姉さんなんだけど、ヒーロー活動の中ではガチになるところ。
これもまたギャップ萌えというやつなのだろうか。そういう所心から尊敬しています。
俺も見習わないとね。
さてでは引き続きインタビューが始まった。
「兄・インゲニウムの意志を受け継ぎ駆けるものであります!!」
『誠実さが伝わるわね!』
「私の前では全てが0kgなのですっ!」
『和らげるのも一つの才よ!』
「闇を知らぬものに栄光は訪れぬ」
『良い~雰囲気いいわよー!』
「俺の後ろに血は流れねェ!」
『ああー兄貴ぃ!』
みんなそれぞれ上手くインタビューに応えられてるようだ。
この辺は主張の強いA組らしさが現れている。自分の強みを理解し、自信を持って話せる……ヒーローの才能の一つだな。
心配はいらなさそうだ。
さて続いて……百ちゃんの番になった。
『何でも創れる個性のクリエティさん! 必殺技はどのようなものを?』
「ええ、実はここ最近新しく必殺技を発明しまして……ご覧ください! 私の新たなる必殺技……『万理創造!!』」
必殺技アピールタイムで百ちゃんが最近新しく覚えた技を披露する。
先日、俺と体を重ねて愛を確かめ合ったのち……彼女もまた透ちゃんと同じように、新たな必殺技に目覚めていた。
俺のモノとなったので俺が個性を通せるようになったのももちろんあるのだが、その時の経験……俺が体に個性を通したときの感覚からコツを掴んで……
『……わぁ!? 何それ腕がメタリック!?』
「金属を創造して体の部位を置き換えましたの。B組の鉄哲さんと同じように動くことができますわ。他にも腕を追加で生やしたり……脚を筋力増強しましたり……とにかく自分の体も創造できるようになりましたの」
『出来る事すっごい増えたわねぇ!? え、でもそれ戻す時はどうするの?』
「もう一度私の元の肉体を創造して置き換えますわ。脱皮のようになりますが……こうして、腕を切り離して、こう……いかがでしょう?」
『腕が千切れるのちょっとグロいけど!! でも必殺技としてはバッチリね!! 増強系個性も変質系個性も使えちゃうなんて文字通り万能ね!!』
「お褒め頂き光栄ですわ」
創造を体の内側に通すことで……かつ、自分の体の部位すら創造することで、体そのものを作り替えることができるようになった。
これを使えば全身メタルにもなれるしムキムキにもなれるし、怪我したときもその怪我した部位を埋めるように自分の血肉を創造することで再生も可能だ。
また、人の体でもよほど劇的な挫滅創でもなければ傷跡を埋めるように体のパーツを作って埋めることで簡易的な治癒が出来る。ゴールドエクスペリエンスみたいなもん。
素晴らしい成長よ? 痛みを考慮しなければ怪我しても回復できるようになったわけだしね。
元の体に戻す時にちょっとグロいのと脂質の補給ミスると再生が大変になるのが欠点だが……やれることがめっちゃ増えた。
誇らしい気持ちがあります。俺が個性通した女の子ってみんな強くなるんやろか。明ちゃんもなんか成長してたりして。
『いいわねー……流石雄英。特に一年生の成長が凄まじい。インターンでみんなと縁作れてよかったわー。後でまたウチのチームにチームアップミッション来なさいね。じゃあまた続けるわよ!』
さて改めてインタビューは続く。
次は……爆豪ちゃんか。
「俺ァテキトーなこたァ言わねェ!! 黙ってついて来い!!」
『んー……一人だとまだマシね。今日のニュースのインタビューは轟くんとソリが合わなかったのかしら』
「ワリィ。俺がいたから殆どカットに……」
「思い上がんな!! テメーなんぞが俺に影響与えられるワケねェだろうが!!」
『口の悪さもキャラとしてはいいと思うわ。でも「黙って」とか相手に行動を強制するようなセリフが混ざるとチンピラ風味が出ちゃうから……そこを上手い感じに改善できない?』
「ん。───俺ァテキトーなこたァ言わねェ!! ヴィラン退治は俺に任せろォ!! ……みてーな感じでどうスか」
『いいじゃない!! それよそれ!! 唯我独尊を前に出して最強アピール!! あとは風味として真摯なヒーロー活動してれば絶対人気出るわよー!! ギャップ狙いなさい!!』
「ッス。ご指導あざッス」
「変わっちゃったよかっちゃん……!!」
マウントレディのアドバイスはまともに聞くんだな爆豪ちゃん。子犬が懐いてるみたいで個人的には面白い。
そしてまたそんな様子を見て緑谷が限界オタク反応出てた。
まったくもー。彼女が出来たのに過去の関係に重きを置いてると怒られるぞー?
『じゃあ次、デクくん!! 活躍見ました!! すごかったですね!!』
「それは良かったです! みんなを助けられてよかったです!」
『あなたの技はオールマイトリスペクトが多いように思いましたが……やっぱり憧れてる?』
「はい!!!」
『声デカ』
「でもそれだけじゃダメだと思って……自分なりにオールマイトの技をカスタマイズしてみたりもしてます例えば『デラウェアスマッシュ』はオールマイトのレパートリーにはない州名から付けた技名で最近では訓練の一環をそのまま技にした『デラウェアスマッシュ・エアフォース……」
『ボソボソ長い!! インタビューはできれば簡潔簡素な一言で!!』
「はい……!」
続いて緑谷のインタビューの番になった。
アイツもまぁ……八斎會のデカい事件を解決した後はサーの元でしばらくインターンして、その後はラーカーズにも参加したり、チームアップミッションではかなりのチームアップ数、解決数を誇っているのでそれなりにインタビューも経験している。
まぁ大体俺が一緒にいる時に俺へのインタビューのついでって感じだけどな。峰田もだけど俺のまわりにいるとそういうインタビュー増えるから。強制的に慣らされて、変にアガることはなくなってきていた。
けどオールマイトオタクな部分と早口な部分はなかなか治らんな。もうあれキャラとして売ってもいいのかもね。
「ね。そういえば緑谷くん……例の『暴走』。進展があったって聞いたけど大丈夫なの?」
「ん、はい。……──────」
そこでミッドナイト先生から先日の緑谷の例の暴走。黒鞭についての話題が上がる。
あの後……緑谷は黒鞭の操作の訓練に集中していた。
その成果を見せるため、緑谷が瞳を閉じてすっと右手を前に出し……そして。
「──ふッ!! からの……こうッ!!」
『おお……わぁ!? すごいわね!?』
「まぁ! 使いこなせてるじゃない!!」
「おー緑谷やるなー!!」
「俺の指導も褒めてもらっていいんだぜ?」
「ケロ、私も頑張ったわ」
「*俺も褒めてもろて*」
「まだ顔治ってなかったんだセンちゃん」
「治してさしあげますわ」
「もごご」
顔にマイクを突き刺したまま俺は腕を組んでうんうんと後方母親面で頷いた。
緑谷が放った黒鞭がシュバッと地面に向けて放たれ、それを巻き取る様にワイヤーアクション……からのお立ち台の壁を掴んでスイング機動でぐるっと縦回転して戻ってくる。
かなり使いこなせるようになってきていた。勿論ワイヤーアクションの指導は瀬呂、梅雨ちゃん、俺のお墨付きだ。
マジでこれまで以上に機動力が上がったな。建物が密集する地形なら瀬呂と並んで超高速機動が出来るようになった。
「ただまだ完全じゃないです。細かい動きを連続してやると操作精度が落ちるので……ゆくゆくはこれを無意識に使いこなせるように鍛錬しています!!」
『ズルーい! 使い勝手のいい個性はズルいわね!! でも貴方が強くなるならそれは救える人が増えるという事!! 頑張りなさいねデクくん!』
「はい!!」
この成果にはマウントレディもミッドナイト先生もご満悦。
成長してるよなー……ただ、まだ第二の歴代個性の力は出現していない。
これから先さらに覚えることも増えていきそうだ。OFAが感じている『時』……それがいつの事なのかはわからないけれど。それに備えて緑谷をもっと鍛えとかないとな。
「さて……じゃあ最後に幾野くんね!! いらっしゃい!!」
「俺のインタビューで懸念点などあるのだろうか」
最後、俺がインタビューされることになった。
慣れてるところがあるので髪をはらりと整えてから壇上に上がる。
『イグジスト、今回の事件も見事な活躍でしたね!!』
「えへへ♥有難うございます♥チームアップしたみなさんのおかげです♥」
『声!!』
「ついいつものクセで。でも本当に、俺だけだと中々火力も出ませんからね。周りに頼れるヒーローがいつもいてくれるからですよ。特にマウントレディには本当にいつもお世話になってまして」
『えー? もーやだー! そーやっていつもお世辞言うんだから!!』
「いやここはマジモンの本心です。いつも甘えちゃうんですよね、信頼の表れというか」
『テレるからやめなさーい!!』
「罪深い」
「センちゃん……もう一人増えそうかな?」
「あれはまだ姉への甘えの様なものだと思いますわ。マウントレディも悪戯っ子の弟のような可愛がりといいますか」
どうしてもマウントレディが相手になると茶化しちゃうの!!
ホントに甘えたがりなんだよなぁ。なんもかんもマウントレディがお姉さんなのが悪いんや。全幅の信頼を置いているとも言えます。
『ま、普段からこういうキャラで売ってるからこれはこれで……じゃあ必殺技ね。イグジストの必殺技について教えてください!』
「…………ッスゥー……そっすね……とりあえずウォールハック、ですかね。周りに見えるものを無視して透視が出来ます。ヴィランの位置をいつでも把握できますし、センシティブな所は覗かないように調整が出来ますね」
『うんうん、イグジストの一番便利な技よね。連携にバッチリ。他には? 攻撃系の何か、ホラ』
「……ンーンン……改めて思ったんすけど……必殺技に名前つけてねぇっすね俺ね!!」
『実は今日はそこつっつきに来たまであるのよね! ウォールハック以外に必殺技の名前叫んだりしないじゃない。私ならキャニオンカノンやタイタンクリフ、相棒の峰田くんなら跳峰田スクランブルやグレープラッシュ各種……葉隠ちゃんなら透明伝達クリアリングや無音暗殺ネックストーン。貴方のまわりはみんな必殺技の名前つけてるのに……あなたは技名を叫ばないわ!! ヒーローとしてどうなのよ!?』
「苦しい立場に追い詰められたようですね」
必殺技紹介の段になり……そういえば俺って必殺技を叫んで使ったりすることがほとんどない事に気付いた。
緑谷だって爆豪ちゃんだって轟だって飯田だって、峰田だって透ちゃんだって、百ちゃんだって最近は必殺技名をつけて叫ぶようになってるのに。俺は特にそう言うのなかったなって。
ええ……? 改めて思うけどなんでやろ……何でもできるぶん、一つの技にコレ! っていう必殺技ってパッと思いつかないんだよなぁ。
「確かに……幾野って出来る事クソ多いけどどれが必殺技かっていうと……」
「……首絞め?」
「でもあれシンプルに首絞めるかチョークスリーパーしてるだけだぜ?」
「個性で相手の体に潜って逃げられないようにするのは必殺技じゃない?」
『なんかないのー? ダイブワイヤーもダイブセンサーもそりゃ必殺技みたいなもんだけどあくまでアイテムだし……個性使っての技に名前つけなさいよー名前。一緒にインターンやってる中でもアンタだけよ技名叫ばないの』
「ぐぬぬ! えー……相手の体に潜って逃がさない束縛技!! んー……ダイブセンサーで検索……『神話』『逃がさない』……これだ。名付けて……『ライラプスダイブ』!!」
『私の体に腕を埋め込みながら名前探さないでくれる!?』
いやマジでピンと思いつかないんすもんね!! 必殺技って!!
とりあえずその場の流れが俺の必殺技名決める流れになり、ウォールハックのほかに神話モチーフで暫定で以下の物が決まった。
相手の体に埋まって逃がさず束縛する『ライラプスダイブ』。
ガード不可の腕で、首を絞めて堕とす『ブリーシンガメン』。
ダイブワイヤーを埋め込んで電撃流す『トールライジング』。
対象との距離を無視するワープの移動『オーディンワープ』。
うんうん。
絶対明日には忘れてるわこの技名。
常闇がそれぞれの名前にソワッ……って喜んでたけどゴメンもう俺半分以上忘れてる。
技名叫びながら戦うタイプじゃないんだよなぁ俺。
実はヒーローのそういう必殺技アタック!! みたいなところにあんまり憧れてなかったのかも。ごめんな。
「さて……幾野くんの必殺技名という課題は残ったけれど、でもみんなインタビュー慣れって言う点ではまずまず! 今後メディア露出も増えるだろうし、失言には気を付けて自分をアピールしていきなさいね!!」
「ソースみたいなアレですかね失言って」
「ウエスト2cm増」
『やかましいわよ二人とも!!』===◎「「グワーッ!!」」
俺と峰田が再び顔にマイクを埋めて、楽しい授業は終わりを迎えたのだった。