【完結】峰田ァ!お前の前のオレオ取ってオレオ!!   作:そとみち

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ヴィジランテ8巻、9巻の内容が含まれます。




132 相澤消太:オリジン

 

【side 相澤】

 

 

「山田……もっとスピード出せないのか……!!」

「うるせーな、落ち着けよ……!」

 

 山田が運転する車に乗り、俺は緊急の呼び出しで雄英から離れていた。

 向かう先も、向かう理由も……余りにも救いがない所で。俺の中で暗くどす黒い何かが渦巻く。

 信じられない。いまだに信じたくはない。

 そんなことが、アイツにあっていいはずがない。

 

「USJで戦った時、そんな素振りは微塵も……趣味が悪いにも程がある」

「俺ぁ……塚内さんたちの勘違いに賭ける」

 

 ヒーローが道路交通法を破るわけにはいかない。

 山田の最大限急いだ運転で、そこにかかる橋を渡り……俺たちは()()()()()にたどり着いた。

 

 ここに、俺達の親友の亡骸がある。

 呪われた体へと改造された、俺たちの親友が。

 

 


 

 

「─────二人も知っている通り、脳無は人の手によって身体を改造され、複数の個性に耐えられるようになった人間だ。ただし生きた人間じゃない……脳味噌から心臓に至るまでめちゃくちゃにされている。脳無とはまさしく『人形』。意志を持たぬ操り人形……の、ハズだった───」

「──グラントリノさん。こっちは授業トばして来てるんです……簡潔にお願いします……」

「相澤」

 

 塚内警部とグラントリノに迎えられ、その独房に向かう途中に説明を受ける……が、その説明すら俺の逆鱗に触れてしまう。

 怒りだ。俺の頭を、怒りが満たしている。

 その怒りは誰への物か……俺の親友の体を弄繰り回したAFOに対しての物か。

 それとも、かつて親友を救えなかった俺自身への……いや、否。違う。

 体があの頃に近づいている分、俺の怒りは極めて新鮮に、当時の感情を思い出してしまう。

 絶望と、後悔と、己自身への怒りを。

 

 そんな俺を、同じく怒りに震える手で山田が肩を掴んで止めてくれた。

 コイツだって沸騰寸前だ。

 

「……必要な話だよ。順を追おう。気持ちの整理をつけるためにも……」

「ガキじゃないんだ!! そんな悠長な事……!」

「イレイザーヘッド。……頭に血が上るのは分かる。分かるからこそ落ち着け。話を聞け……」

「相澤……!!」

「………………すみません」

「いい。……こいつは黒霧。ヴィラン連合の中核の男……」

 

 その感情を抑えきれない。

 若返ったこの体に、今の怒りの感情を抑える器はないかのような。

 もっと歳を食った体なら耐えられたのだろうか。いや……それでもきっと無理だ。こんな感情は、他の誰にも。

 塚内警部とグラントリノの説明が続く中で……その男が待つ面会室の扉が開く。

 面会室に入り、その男の前に座った。

 

 お互いを区切るガラス窓に、未熟な俺が映っている。

 アイツに守られてしまった、アイツを守れなかった───未熟なクソガキの顔が。

 

「─────黒霧の個性のベースになった因子……かつて雄英高校で君たちと苦楽を共にし、若くしてその命を落としたとされている男。()()()のものと極めて近いことが分かった」

 

 白雲(おぼろ)

 俺と山田の親友が、死体を改造されてそこに在った。

 

 


 

 

 白雲は俺と同じインターン先で亡くなった。

 3人で事務所を建てよう……そう言ってくれた矢先の出来事だった。

 

 個性を奪う大型ヴィランとの戦いで、白雲は建物の崩落に巻き込まれそうになった子供をかばって……己が巻き込まれた。

 死を迎えようとする中で、大型ヴィランに立ち向かった俺に死に際に心が折れぬように声援をかけ続けて……かけ続けて、かけ続けて……そのまま帰らぬ人となった。

 俺はあいつの声を聴いて、安心してた。あいつが死に際だなんて考えもせずに。

 大型ヴィランを倒した後に、やったぞ白雲、なんて叫んで。その時お前はもう死んでしまっていたのに。

 

 お前が応援してくれるから、なんでもできるって。

 俺たち三人なら何でも解決できるって、本気でそう思ってたんだ。

 

「……昔はよ……『A組の3バカ』なんて呼ばれもしたよ……意味がわかんねェよッッ!!」

「そこにはAFOの悪意があるだけだ。意味なんて求めちゃいけねぇよマイク……」

「……わかんねェよ……!」

 

 今は眠らされている黒霧の前でマイクが叫ぶ。

 俺は声すら出なかった。かつてUSJで一度敵対した黒霧……こいつが白雲だなんて。想像すらしたことはなかった。

 俺たちを呼んだ理由を、グラントリノは奇跡を可能性にすると表現した。脳無は生前の人格を残している可能性があると。

 

「……残念だが俺は雄英で一戦交えてます。口調も違ったし、俺に対して何の反応も示さなかった」

()()()()()()()()な。だが、()()姿()なら……可能性はゼロではないと考えている」

「……チッ」

 

 塚内警部のあくまでも冷静な指摘に、俺にしては珍しく不機嫌をあらわにして舌を鳴らした。

 それはそうだろう。若返ったこの顔が……生徒やエリちゃんに尻拭いさせた俺の未熟の証明であるこの顔が、親友を助けるきっかけになるかもしれない、などと言われれば。

 この顔を毎朝鏡で見るたびに、能天気な頃の自分を思い出して鏡を叩き割りたくなるというのに。

 

「……重ねて言うが。こいつが口を割れば大きな進展につながる。プレゼントマイク、イレイザーヘッド……白雲朧の執着を呼び覚ましてほしい」

 

 その一言を境にして、俺と山田がガラスの向こうの黒霧と3人きりにされ、他は全員退室し。

 そして眠りから覚まされた黒霧と、向かい合い……対話が始まった。

 

 


 

 

「ふわぁ……おや? 雄英襲撃以来……ですよね? イレイザーヘッド……随分と縮みましたね。面白い事もあるものだ」

 

 目覚めた黒霧が俺の顔を見てその変化に僅かに驚いたようだ。

 だが……その会話の端には単純な興味しか浮かばない。若い頃の俺の顔を見ても、当然だがコイツは揺らいでいない。

 白雲は見えない。

 

 ……先ほどから『抹消』を発動させて黒霧を見ているが、モヤは晴れることはない。

 体そのものがもうこういう作りになってるんだ。異形型個性のように。

 ……これが白雲の体だなんて、まだ信じられない。

 

「やっぱ間違えてんじゃねぇのか!? こいつと白雲に共通点なんざ────」

「───死柄木弔は元気ですか? 捕まったりしてませんか?」

「知っらねーよ!!」

「そう……残念です」

 

 山田が俺と同じ思いでコイツが白雲であることを否定しようとしたところで、黒霧からは死柄木の話が出てきた。

 会話のとっかかりを逃すわけにはいかない。不本意ながらヤツの話に乗る。

 

「……死柄木が気になるのか」

「ええ。彼の世話が私の使命」

「クソみてーな使命だな! あんな陰気くせーガキンチョの面倒見るのが使命だなん、て……ッ……!」

 

 黒霧の言葉で。それに続く山田の言葉で、俺たちはとっかかりを掴んでしまった。

 

「苦ではありませんよ……()()()()()()()性質(たち)なんでね」

 

 白雲が。

 かつて、俺の様な陰気臭いガキの面倒を見てくれた白雲が……野良猫を放っておけないようなやつが言いそうなセリフを、黒霧が吐いた。

 

 ……お前なのか。

 ()()は、()()なのか。

 

「フー…………俺が……」

「ん?」

「……俺が拾えないと……やりすごした子猫を、迷わず拾ってくるようなやつだった」

 

 俺の心の中はもうぐちゃぐちゃで。

 あの時の俺の未熟さがお前を殺したことを忘れられなくて。

 強くなるために合理的な手段を求めて。ただ前を向いて。闇に生きて。

 そんな俺が……一時たりとも忘れたことがない、お前の事を。

 自然と零してしまっていた。

 

「話が見えませんね。何をされにここへ?」

「あの子猫は、ミッドナイト……香山先輩が飼うことになったんだよな。覚えてるか、屋上での事。山田の案のからあげと、お前の案のお寿司のどっちを名前にするか話して……香山先輩の鶴の一声で、おすしって名前になったんだ」

「……懐かしいぜ。からあげもよかったと思ったんだけどなァ。香山先輩にあん時ゃ逆らえなかったからなぁ俺たち」

「思い出話を? 何故私に?」

「今も香山先輩がおすしの面倒見てるよ。一人暮らしで猫を飼うと婚期が遅れるなんて言って……結局その通りになっちまった。だいぶ歳食っちまったけどまだ元気にしてる……」

「……退屈な話です。ここを教会かなにかと勘違いなされている」

「──────インターンの事、覚えてるか」

「……?」

「俺たちはさ……すぐに行き先が決まった山田と違って中々行き先が決まらなかった。そん時にまた香山先輩が声かけてくれて……『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』って言ってくれたんだ。あん時は驚いたよな……思えば、幾野が同じことをしてるんだな。……俺もお前も、先輩に引っ張ってもらってた」

「っ……幾野? あの無視の個性を持つ……? 何の話、を……」

「でも……インターンに行ってもやっぱ俺は中途半端でさ。目が大切だってのに煙幕で目がやられちまって……覚えてるか? このゴーグルはお前に貰ったんだよ白雲。目を守りながら戦えるようにって……覚えてないか? なぁ……白雲!!」

「…………?」

 

 想い出は……口から零せば零すほどに、溢れてきて。

 この十数年間、誰にも零せなかった言葉だからこそ……俺と山田の想い出はどうしたって溢れてくる。

 ガラスの向こうの黒霧(白雲)を見る、あの頃の俺の顔がガラスに映って。

 

「お前はいつも明るくて、前だけ見てた……! 後先なんて考えず……!! 死んじまったら全部終わりだってのに……!!!」

「………………」

 

 黒霧の揺らぎが大きくなってきた。

 俺の想いは心の器を溢れ出し、涙と共に流れ落ちていく。

 

「俺……山田と、香山先輩と一緒に先生やってるよ。生徒に厳しく当たったこともあった……生徒に助けられることもあった! 未熟な先生で……!!」

「ギ……グ……!」

「お前に……お前の様な誰かを引っ張っていけるヒーローになってほしいから!! 長く生きてほしいから……!! 今俺が受け持ってるクラスにそんな奴がいるんだ!! 白雲、お前みたいに前を向いて!! みんなの隣にいられるようなやつがいて……そいつにクラスみんなが引っ張られてる!! 俺が求めるヒーローになれるようなやつが……!! あの頃のお前のようなやつが……!!」

 

 耐えられない。

 俺の想いを零すことに心が耐えきれず、思わず椅子に座っていた姿勢から前かがみになり……立ち上がる。

 捕縛布を投げ捨て、俺は今日この話を聞いたときに思わず手に取った……写真を、懐から取り出す。

 俺たち3人の、(ふる)い写真を。

 それをガラスにダン! と音が鳴るほどに突き付けて、その写真を撮ったころと同じ顔の俺がお前(白雲)を見た。

 

「俺が先生としてやりたいことがやれそうなんだ!! だから白雲!! それが終わって、お前がまだそこにいるのなら────なろうぜ、ヒーローに!! 3人で!!」

 

 俺の魂の叫びは────────通じた、ようだ。

 黒霧の影が大きく、強く暴れるように歪んでいる。

 

 あの時の俺の顔を。あの時の写真を。

 あの時の想い出を。あの時の誓いを。

 

 あの時の記憶が……コイツには、あるんだ。

 

『脳波、波形に異常あり! 動揺している! 脳無の製造元と死柄木の居場所を聞き出してくれイレイザーヘッド!!』

 

 うるせぇ。

 今はもう少しだけ語らせてくれ。

 俺がかつて亡くした親友の想い出を。

 

「白雲!! お前の決断の速さはヒーローに褒められるほどだった!! 雲の個性も万能で便利で……ヒーロー名を覚えてるか!!」

「ガッ……ク、ラ……!!」

「お前のヒーロー名はイカしてたぜェ!! ラウドクラウド!! 韻も踏んでて最ッ高にクールな名前だった!! 人気が出ただろうぜ!! そのクセ相澤は自分のヒーロー名も決められないくらい根暗でよォ!! 俺が決めてやったんだよなァ!!」

「俺たちが行ったインターン先……!! ハイネス・パープルにも言われたよな! 俺の顔が暗いってよ……!! あの後俺も努力した!! 今じゃ笑顔一つで生徒たちが爆笑するくらいになったんだよ!! 生徒にも……ああ! 慕われるようになった!! 今のA組が俺の全てだと胸を張れるくらいになった!! こんな顔になっちまってても、俺は成長できたんだ!! 全部っ……全部お前のお陰なんだよ、白雲!!」

「ガッ……さっ、さっきかラ 何を!! 仰っている のか」

 

 黒霧(白雲)の動揺が激しくなってく。

 モヤは大きく揺らぎ、それは次第に形を成して……ガラスに貼られた写真の中にある、アイツの面影を映し出した。

 お前が……お前が白雲なら!! 俺たちは何度でも呼び掛けてやる!!

 

「白雲!! 誰がお前を変えた!? どこで脳味噌弄られた!? お前をそんな風にしたクソ野郎は────どこにいるッ!?」

「わたっ、私は───黒霧。死柄木弔を守る者───」

「お前は雄英高校2年A組!!」

「俺たちとヒーローを志した─────」

 

「「白雲朧だ!!!」」

 

 俺と山田の魂の叫びで────モヤが生み出した白雲の顔が、ふっ、と微笑んだように見えた。

 

「……し、シヨ─────ショー……タ…………ひ……ざし………!」

 

 白雲の口から零れたのは……俺と山田の名。

 あの頃、お前は俺たちをそう呼んでいた。

 

「そうだ!! ショータだ……あの頃と同じ顔の俺だ!! 頑張れ、白雲っ……!! 頑張れ!!」

「朧ォ!! 目を覚ませェェェ!!!」

「ガ……お、す……し…………か、やま……っ……!!」

 

 白雲が自我を取り戻そうとしている。

 俺も山田も、その姿を見て涙が止まらない。

 頑張れ……俺たち3人なら頑張れる!

 3人いれば誰かがミスってもカバーできるって言ったのはお前だろ、白雲!!

 俺たち二人が必ずお前を助け出す……だから!!

 

 

「─────蛇

              腔

   そう        

                  ご 

         病     

                        」

 

 

 その言葉を最後に、モヤが溢れ───電源が落ちるかのようにかくんと落ちて。

 

 白雲は晴れ、黒霧が満ちた。

 

 


 

 

 

「凄まじい成果が出たな……蛇腔総合病院。個性に根差した地域医療をうたう、設立後から慈善事業に精を出している病院だ。全国各地に児童養護施設や介護施設などを設立し、地域にも根差している人道的な病院だが……」

「隠れ蓑にはうってつけってことか。勿論これから総合病院を中心に地方全ての施設を秘密裏に精査する必要はあるが……大きな進展だ」

「……調査はどう進むんスか」

「まずは裏から手を回す。確たる証拠が見つかった時点で……隠密調査に秀でたヒーローに声をかけることになるだろう」

 

 あの後、目の渇き()が収まるまでしばらくかかり……黒霧もショートしたかのように意識を落とし、それ以上の話はできなかった。

 あの時確かに見た白雲の顔……黒霧の体が白雲の物であるという確たる証拠と共に、アイツの意識がまだ残っていることを、俺たちは確認()()()()()()

 白雲の口から出た病院……そこを塚内警部とグラントリノは調査を進めるようだ。

 しかしヴィラン連合の脳無の製造となれば相当大掛かりなものと思われる。

 ……いずれウチのクラスの()()()にも話が来るかもな。その時は必ず俺が付き添おう。

 

「黒霧は……脳無ってのは何なんですかね、グラントリノ。何のためにあんなものを……」

「わからない。……ただ、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかない」

 

 何の意味もない空しい言葉を並べる。

 もう起きてしまったことなんだ。白雲の遺体はAFOに奪われ、改造され、黒霧として造られてしまった。

 もうその過去をやり直すことはできない。

 

 けれどもしエリちゃんの個性

 やめろ。それ以上は考えてはいけない。

 

 

「……進展、期待してます」

 

 その言葉を最後に、俺と山田はタルタロスを後にした。

 

 






※白雲朧

 ヴィジランテ8巻にて高校時代が描かれている。
 教室に入り、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は中々のインパクト。
 相澤、山田と共に三バカと呼ばれ、行き先が決まらなかったインターンでは一学年先輩の香山(現:ミッドナイト)からプロヒーローを紹介され、相澤とコンビを組んで活躍する。
 大型ヴィランとの戦闘で幼稚園児を咄嗟に守った際に建物の崩壊に巻き込まれ、重傷を負いながらも一人ヴィランと戦う相澤へ鼓舞する言葉をかけ続け、相澤がヴィランに勝利した後に死亡。
 白雲が死んでいたことを相澤は気付かずに、勝利の喜びを分かち合うために友の名を叫んでいた。
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